| 紅魔館の地下に存在する、フランドールの部屋。 当主の妹という身分に相応しい調度で飾られたそこで、フランドールは魔理沙の手首を掴み、自身のベッドへと押し倒していた。倒した時に落ちたのか、傍らには二人の帽子が転がっている。 「……あー、フランドール・スカーレット君?」 「何かしら? 霧雨魔理沙さん」 「なんで私はこんなことになっているんだ?」 大人が数人で横になれる大きさのベッド。そこへ組み敷かれた形で魔理沙が問う。いろんな意味で危うい状況でありながら、その飄々としたペースを崩すことなく。 「おねーさんが言ったの。魔理沙の事、好きにしていいって」 対するフランドールも、非日常的な状況でありながら自らのペースを乱さずに答えた。その顔に楽しそうな笑みを宿して。 「おねーさん? レミリアか?」 「ううん。あいつじゃないおねーさん」 さらに問い掛ける魔理沙にフランドールは首を左右に振って答えた。 「誰だ、それ?」 「私も知らない。確か赤い髪がきれいなおねーさんだったと思うんだけど……って、そんなことはどうでもいいよ」 会話を打ち切って顔を寄せる。 吐息が触れる距離まで近づいたフランドールに、魔理沙は目を逸らさない。 「こういうの、慣れてるの?」 「取り乱さない程度には場慣れしてる」 ふぅん、と短く言って、フランドールは魔理沙の唇を奪った。重ねるだけの柔らかい口付け。 「ん……」 目を閉じた魔理沙が息を漏らす。触れた唇から伝わる魔理沙の存在はフランドールを興奮させた。 離れ、極まったようにため息をつくフランドール。背筋にぞわぞわした感覚が宿り、身震いした。次は舌を出し、それで魔理沙の唇へと触れて、舐める。ちろちろと小さな舌でくすぐり、フランドールは再び唇を重ねた。 「ふ、ぅん……」 隙間から舌を侵入させ、口中へ潜り込む。他者の入ってくる感覚に魔理沙が身を震わせた。 赤い髪のおねーさんに手解きされた術で以ってフランドールは魔理沙を感じていく。見えない口腔を舌で探り、さらに奥へと押し入った。魔理沙の舌を見つけ、自身のそれで絡めとる。 「んっ……!」 魔理沙が見せた反応にフランドールは気を良くした。開いていた瞳を閉じて、触れ合う舌へと意識を集中。魔理沙を感じる。欲するままに唇を押し付け、望むままに舌を動かす。息苦しくなるまで堪能して、口を離した。混じり合った唾液が二人を繋いで糸を引く。こくりと喉を鳴らしてそれを飲み込み、「はあ……」と息をつく。 「……痛かったぜ」 「う」 目を開き、ぼんやりとした表情での、しかし刺さる指摘。 経験値不足で稚拙な口付けは、痛覚への刺激で魔理沙の表情を時折歪ませていた。生憎とフランドールは目を閉じていて気づかなかったが。 「へたっぴ」 「うう」 続く言葉にフランドールが沈む。そのまま突っ伏して魔理沙の横へ顔を埋めた。 しかし、シーツの上で燻っているようなフランドールではない。 落ちたと見せて横合いから奇襲を掛ける。 「ひあッ!?」 ずじゅるっ、と音を立てて、フランドールの舌が魔理沙の耳へ入り込んだ。 「あっ、ああぁァ!」 不意打ちで舌を差し入れ、前後させる。唾液でぬめった舌の立てる音が魔理沙の聴覚を犯し、背筋をざわつかせた。びくんと魔法使いの身体が跳ね、強張って震える。 フランドールは一気に攻勢に出た。耳のつくりを舌でなぞり、首筋へ唇を落とす。触れて、一舐めして、強く吸う。 「ふあ、あっ」 痕のつくまで吸い、その上をぺろ、と舐める。 そして、赤くマーキングした其処へ、フランドールは牙を突きたてた。 「イッ!?」 ぷつりと音を立てて皮を破り、肉を貫いて牙を埋め、そこから湧き出す赤を食んで啜る。 「うあ、ちょ、……待っ……」 ――吸血行為。吸血鬼として存在するフランドールが思い出したように行う存在意義。 自身の存在を脅かすフランドールの行動に魔理沙が身じろぎするが、両手を掴んで組み伏された状態な上に吸血鬼相手では抵抗らしい抵抗にもならない。 そうする間にも魔理沙の首から赤が零れ、フランドールに飲み下されていく。 「あぁ、ああぁ……」 喪失していく血液。その代わりとばかりに入ってくる快楽と僅かな呪縛。人外のもたらす心地に心身が蕩けていく。 儚い抵抗がゆるゆると動きを止め、魔理沙の身体から力が抜ける。 フランドールは牙を抜き、傷から零れる血を吸い上げて、身を起こした。荒い息に蕩けた瞳の魔理沙を見下ろして、頬に唇を当てる。 「んぅ……」 眼を閉じての小さな身動ぎ。 血を得て昂ぶったフランドールは両手を離すと黒白の襟元に掛け、一気に引き裂いた。 布地が破け、ボタンが弾け飛ぶ。耳障りな音と共に魔理沙の肌が外へ曝される。 隠すべき場所を露わにされた魔理沙だったが、それを隠そうとはしない。フランドールの注いだ快楽と呪縛が、魔理沙を自失の状態へと落とし込んでいた。 「魔理沙ぁ……」 素肌の胸に顔を埋める。 頬に触れる魔理沙の体温、鼻をくすぐる魔理沙の匂い。それらはフランドールを一層高揚させた。 魔理沙をさらに暴き、自身も上を脱ぎ捨てて身体を重ねる。そして、その背中へ手を回して抱き締めた。 「あったかい……」 密着した胸から伝わる鼓動が、フランドールを心地よく満たしていく。 ――しかし、その一方で物足りなさを覚える。 「ん……」 身体を離し、横に座って魔理沙を見下ろす。 首から薄い胸、鳩尾から小さな臍までは露わになっていたが、そこから先は未だに服の下にあった。 (足りないの、これかなぁ……) そう思うとそんな気がしてきた。さらにおねーさんからの“ささやかな贈り物”の事を思い出すとそれは確信に変わる。 きゅ、と右手を握ると同時に、魔理沙の服が全て破壊された。手荒に破かれたベストとブラウスから無傷だったスカートにドロワーズ、それこそ靴下に至るまで。 フランドールの力――ありとあらゆるものを破壊する程度の能力――によるものだ。 ベッドに転がる帽子を除いて衣服を全て失ったが、それでも魔理沙は熱に浮かされたような自失から帰って来ない。 フランドールはその裸体に手を伸ばして触れる。 全体的に肉付きが薄く子供のような肢体は、それでもフランドールよりは大人びていて、そこかしこに成長の影が見てとれた。 くびれの出来始めた腰をなぞり、腿から脚へそっと手を滑らせていく。触れた場所が広がる毎に、フランドールは魔理沙を手中に収めていくように感じた。 「ん……ぅ……」 指先に脚をくすぐられ、魔理沙が鼻に掛かった声を上げる。 もっと魔理沙に触れたい。その声を聞きたい。――それには手が足りない。 じゃあ増やそう。 足りない手を増やすべくフランドールは魔法を使った。 「呼んだ? 私」 「呼ばれた気がしたよ、私」 「何か用? 私」 三人のフランドールがフランドールの背後から姦しく現れる。 ――禁忌『フォーオブアカインド』。フランドールが持つ質量のある分身の術。 「うん、呼んだよ私」 本体とでも言うべきフランドールは、自身と同じく上半身を露わにした分身へ笑いかけた。 「「「んひひー♪」」」 分身達は『分かってるよ』とばかりの笑みで答え、四人のフランドールはそれぞれ魔理沙の四肢にとりついた。 |