泣くな…

作り笑顔は辞めてくれ

お前は、お前のまま


何時ものように…


勝ち気に笑っていて欲しい…


親愛なる…


〜柚子/蜂蜜のち飴…〜




吹き荒ぶ、砂嵐が舞う夜…


決まって、テマリは自室に隠り、視界の遮られた窓を眺める。テマリは心が落ち着くんだと言っていた。



だが、それはアイツの虚心にすぎない事はわかっていた。
テマリは昔から、星空を眺めるのが好きだと言っていた。
窓から入る陽の光を浴びたサボテンに水をやりながら、眺める姿は、母の面影すら感じるような暖かい眼差しをしていた。



「…テマリは、今日もあの調子か?」

「あぁ…でも、このままにもしとけないじゃん?」

「…そうだな」



テマリの笑顔が消えた日、家の中から光が消えた。部屋の中は静まり返り、いつか見てきた光景が甦り、思考を振り払うように頭を振る。


誰も、あの頃に戻りたいと思っている訳じゃない、その証拠にテマリは、俺達と顔を合わせる時は、必ず笑顔を作り、元気な様子を演じる。
俺達じゃなきゃ分からないぐらい完璧に…

だから、俺達はテマリに合わせて笑顔を作る、テマリみたいに、上手くは演じきれないけど


そんな姿も、そんな俺達もなんだか遣る瀬無い気持ちでいっぱいだ。
はたから見れば、酷く滑稽な姿に見えるだろう。

まだ、声を上げて泣いてくれた方が、八つ当たりの一つでもぶつけてきてくれた方がどれ程気が楽か、計り知れない。


「我愛羅…」

淡い翠色の瞳に俺の視線を合わせると


「わかっている…此方でも、準備はしている…お前こそ大丈夫なのか?」


と、何時ものテマリのように好戦的に瞳を光らせた。

こんなとき、やっぱり姉弟だなと、マンセルを組んでいた時のことを懐かしく思う


「抜かりないじゃん…」

頼もしい弟を持って、良かったじゃん、敵じゃなく、兄弟として生まれてきてくれた事に感謝じゃん…



俺達も、何時までも姉の変化を感じ取れない程子供じゃない



数ヶ月前、テマリは上層部とこの里の悪しき風習の犠牲に成ることを強いられた。

木の葉と同盟を組み直してから、両国の交流も増え、輸出入などの面に置いても、国は活気付き、相乗効果をもたらしていた。

しかし、その事をあまり良く思っていなかった上役達は、両国の交流で増えてきていた国境を越えての交際に目をつけ、抑制するため、どこから漏れたのか、テマリと奈良の関係を逆手にとり、木の葉が風影の長女を政略結婚に利用しようとしていると罵り、民の見せしめにしたのだ。


当時は、そうするしかなかった。我愛羅の風影就任が議決中の大事なときに、上役を敵に回すわけにはいかない…

仕方なく、テマリは里の総意を一人で背負う事になってしまったのだ。

何もしてやれなかった自分がもどかしい…




砂漠に咲き誇る一輪の花

いつも、強く健気に咲き誇っていた。


俺達は、テマリの笑顔に何度助けられて来ただろう…

『大丈夫だ』

と勝ち気に笑う姿に、心を休め

『お帰り』

と微笑む姿に母の面影を描いていた。



何時も小さな身体に全てを背負って、俺達を雨風から守ってくれてた。

小さい頃からずっと…

俺達、ずっと甘えてばっかで御免…

次は、俺等の番じゃん

俺達はもう、声を潜め部屋で啜り泣くテマリの涙をすくってやれない程子供じゃないじゃん…




俺は、暗号化することも忘れ、殴り書きにされた紙切れを伝書鷹に括り付け、窓から放った。

自室を背にして俺は、何時ものように、ノックもせず扉を開ける

「テマリ?ゆず茶持ってきたじゃん」


「…いつも、ノックしろと言っているだろ?」

「めんどくせぇじゃん」


うかつだった、無意識とはいえ彼奴の口癖を言葉にしてしまうなんて

一瞬ピクリと跳ねた肩に、心が締め付けられる。

さっきまで泣いていたのであろう、赤くなった目元が痛々しい


それでもテマリは何時ものように、笑みを浮かべる。

「本当に、何時までたっても餓鬼だな」

「お茶目って言って欲しいじゃん」

手に持ったマグカップを手渡し、テマリの座っているベッドへと腰掛ける。

「フッ…似合わない」

「今夜は冷えるから、ちゃんと暖かくしてねろよ?」

「わかったよ…」


テマリは、ゆっくりとマグカップの中身をかき混ぜると、一口啜った。

「んっ?蜂蜜入れた?」

「最近、咳き込んでたから」

「有り難う…美味しい」


微笑みながら、ゆず茶を啜るテマリに呟いた


「…テマリ?」

「何だ?」

「もうちょっと、待っててくれねぇか?」

「…」

俺は、テマリの丸みを帯びた下腹部へと手を重ねる。

「お前と、その子は俺等が守ってやるじゃん…」

「カンクロウ…」

「俺達も、守ってもらってばっかじゃいられないじゃん?」

大きな翠色の瞳に溢れそうなぐらい涙を貯めたテマリの頭をクシャリと撫でる


「涙は嬉しい時に流すもんじゃん?」

「…お前達…本当に馬鹿なんだから…」

「ヘッ…ひでぇ言われようじゃん?馬鹿は今に始まった事じゃないじゃん」

「…」


頭は俺の掌に収まってしまうサイズで、片腕で収まってしまいそうな程小さな身体、等の昔に逆転してしまった体格



テマリ…ありがとじゃん



「だから…泣くのはもうちょっと先じゃん?」


俺は、テマリに微笑みかけると、テマリの部屋を出て後ろ手に扉を閉めた



「風影様…立ち聞きとは、人が悪いじゃん?」

「フン…泣かせてどうする」
大方、部屋に入ろうとしたら声が漏れていたので、入りづらかったのだろう。
今更、そんなこと気にする仲でもないけど、自分自身が一番上手く言葉で伝えきれない事を知っているから、我愛羅はこう言うときは大抵傍で見守っている。

「これは、感動の涙じゃん?姉弟愛じゃん?」

「…くだらん」


本当は、テマリの事が心配で飛んで帰ってきたくせに、よく言うじゃん?

そっぽ向いて膨らした頬に、珍しく汗なんか垂らして…

仏頂面に姉さん大好きって書いてあるじゃん


「最悪、テマリ嫁にいっちまうかもな?」

「それとこれとは、話が別だ」



本当は、そんなこと言いながら、心の中では許してるんだろ?
だって、誰よりも一番に俺達はテマリの幸せを願ってきたじゃん?



アイツの事も認めてるんだろ?何だかんだと目の敵にしているけど、本当は普通の家族のように、悪い虫から娘を守る父親を演じてみたいだけなんだろ?


気が付いてないみたいだけどバキと手を組んで、奈良を虐めるお前の顔、いつも楽しそうにしてるじゃん



親父…お袋…出来の悪い息子でごめんじゃん…


今から、2人の顔に泥を塗ることになるかもしれない、でも、そんなプライドなんかよりも大事なもんが出来ちまった。

生まれてくる甥っ子に、俺達と同じ想いはさせたくないじゃん…


だから、そんな俺達を許してくれるなら、見守っていていて欲しい、里を守って死んだ親父と、弟を守って死んだお袋みたいに


俺達はただ…大事な家族を守りたいじゃん…


「いくぞ、カンクロウ…」

「いつでも、いけるじゃん?」


上層部からの反感を買うのは俺だけで良いと思ってたのに、いつの間にか風影のくせに、我愛羅まで…これじゃ職権乱用じゃん?


奈良…今頃手紙に目を通してる頃じゃん?

俺達は、お前を信用してこの戦いに挑んでいる、一筋の希望を託して…


お前が、まだテマリを好いているなら、取り戻したいと願うなら…

お前の頭を貸して欲しい、残念ながら、俺達じゃ、両国を配慮しながら戦う余力がないじゃん…


いや…方法ならあるが、テマリの願う未来を紡ぐ手助けしか出来ないじゃん


本当にテマリを大切に想うなら、フルに頭を使え…お前は諦め癖が有るのが欠点だ。

そして導き出せ、テマリが笑顔でいれる未来を…


ただ…


結婚を許すかどうかは別問題じゃん?


バキも含めて、娘の結婚を反対する父親や生まれてくる子の取り合いや、誰がバージンロードを歩くかで揉めたり…


そんな、当たり前の幸せの光景をテマリにプレゼントしてやりたいじゃん


今まで、俺達の母親を努めてきてくれたテマリに、家族として、最後に出来る娘に戻れるプレゼント…


今度は俺達が親父になるじゃん…




泣いても良い


笑ってくれれば、もっと良い

陽の光のように暖かなお前の笑顔は、俺達を包み込み、優しく照らしてくれる。

3つ並んだ歯ブラシを眺めながら、近い未来もう1つ増えるであろう小さな歯ブラシを想像すると笑みが零れた。

お前はお前らしく

折れそうな時はここにくればいい

いつも、ここには居場所があるから


数日後、テマリの硝子玉のような瞳からこぼれ落ちた雫は幸せの味を転がした…


親愛なる家族より…


end





 


        
風に乗って〜桜草〜』のあや様から、30000hit記念に
またもやこーんな素敵な小説を頂いてしまいました〜〜!
私の大好物・砂3姉弟のお話です。ちょっと切ない雰囲気もありつつ、
『やっぱりキョウダイっていいなぁ』としみじみ思う心あたたまる物語。
普段強気でちょっとやそっとじゃ凹まない、
姉と言うかむしろ母のような力強い優しさを持ち合わせているテマリ。
そんなテマリが心に傷を負って弱っている時、
そっとそばに寄って『俺達が守る』としっかり結束した弟ふたり。
何があっても姉の幸せを願う…今までの恩返しがしたい。
花嫁姿のテマリを想像したら何だか涙が出てきそうです。
ま・一番号泣するのは間違いなくバキ先生でしょうね(ニッコリ)。
あやさん本当にありがとうございました!!
ちなみにこちらの作品、あやさんのサイトの作品
『夢の中で』『夢の続き』と繋げて読んでも楽しめます♪
気になる方は以下からGO!!↓


ポップで可愛い小説&イラストサイト様です☆









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