※筆者ゲーム未プレイです、ご注意ご容赦ください


 甘くとけるもの


   寒い夜に欲しいもの

 冬の訪いは唐突だ。吐き出す息が白く凝ると思った途端に雪が降る。暖房器具のスイッチを入れる時間と外出準備の時間がかかるようになる。汗ばみさえした外套ではすでに心細くなり襟巻きを念入りに巻きつける。旅装では荷物になる防寒着はその都度ごとに処分と購入を繰り返す。アルヴィンの装備では外套があるからギリギリまで堪えるつもりだった。下がりものであってもアルヴィンはこの外套を気に入っている。それでもこらえきれなくなってついに襟巻きを巻いた。スカーフの上から巻くからぽってりと口元や鼻先まで覆う。襟巻きの口元が吐き出す息の水分で湿る。鬱陶しくなって口や鼻を出しては寒さに凍る前に戻すのを繰り返す。露店もそろそろ店の種類が減る。冬は通れなくなる街道や川が増えるから運送が滞る。実りも直前の秋に出しきってしまったように無愛想だ。保存食は基本的に冬に備えてのものだ。寒さがにじり寄るのと比例して価格が釣り上がる。徐々に高くなっていくその変化には気づかないふりをする。軽食も飲み物や氷菓子から温かいスープや蒸し物に変わっていく。
 アルヴィンたち一行もしばらくこの街で足止めを食っている。何が何でもという火急の用事はないから案外ゆったりしたものだ。
「アルヴィン!」
まだ高い声がして振り向くとジュードが駆け寄ってくるところだ。墨染めの黒髪を綺麗に整えていて額も項も出さない。襟巻きと外套が厚手のものに変わっている。見かけたことがないからこの街で買ったものかも知れなかった。最近急激に冷え込んだ。見据えるように眺めるアルヴィンの目線にジュードが頬を染める。似合わないかな? 古着屋で買ったんだけど。ジュードが年齢より年上に見えるのは装飾や形状の所為だ。アルヴィンは目線だけで笑うといいんじゃねぇの、と応える。どうせ口元は襟巻きでよく見えていないだろう。
 「寒くなってきたね」
「そうだな」
「今日の夕飯なんだけどさ、僕とアルヴィンは外で食べてきて欲しいって。…その、予約空きの人数が合わないって言われて。あと二人分は取れないって言われたんだ。ミラがすごくその食事を食べたそうだったから僕とアルヴィンは違うところで食べるって言っちゃったんだけど…やだった?」
寒さで薔薇色の頬を覗かせるように下から見上げられる。アルヴィンが苦笑してため息をついた。新しい外套と襟巻きはジュードがちゃっかりせしめた報酬だ。
「いいよ。女がいると酒が飲めないもんな」
それじゃあ俺達で献立決められるな。肉食いたいな。ピーチパイ食いたいな。甘いモノを肴にして酒を飲む人って聞いたことないけど。案外いけるぞ。アルヴィンはポケットに突っ込んでいた手を出してジュードの腕に絡めた。ジュードの胡桃色の目が見開かれる。白く凝る息が何度も瞬いた。
「嫌か?」
「…嫌じゃない。嫌じゃないよ!」
ジュードの冷たい頬が寄せられて体に抱きつかれる。なんか俺子守してるみたいじゃない? なにか言った? ナンデモナイ。ジュードがグイグイとアルヴィンを引っ張って行く。
「ねぇあれ! あれが食べたい!」
「おたくも案外変わってんなぁ」
アルヴィンは店先で宣伝される献立を眺めながら酒の有無を確認する。果実酒か。案外侮れないんだよな、果実酒って。見た目が子供の好む色合いであるくせに酒精の度合いは案外高いものもある。口当たりの良い物に当たると景気良く飲み明かしたつけは相当なものになる。半日は便所から出られない。ジュードが熱心に献立を読んでいる。まぁ、いいかな。聞き分けの良いジュードの華やぎはめったに見れない。財布の中身と相談する。
「アルヴィン、この店、ピーチパイがあるんだね」
ジュードを引っ張りこんだ。


 景気よく飲み食いした満足感に頬が緩む。素材や料理の値段の高低が判るような上等さは持ち合わせない。果実酒の出来もなかなかだった。ふたりともかなり腹に詰め込んだ。そも夏が旬の桃を使った献立がある事自体幸運だった。ピーチパイは美味かった。いくつかの料理を持ち帰り用に包んでもらって支払いを済ませた。ジュードの手には料理が、アルヴィンの手には酒瓶が提げられた。
「美味かった…」
「本当に美味しそうに食べてたよ」
暖房の効いた店内から外へ出るととたんに身を切る寒空が夜に落ちている。アルヴィンが仲間と逗留する宿は部屋ごとにストーブがあった。雑貨屋を見つけたアルヴィンが寄って行こうというのをジュードもおとなしくついてくる。
 旅人が珍しくないから雑貨屋であっても軽食や食材を取り扱う。ジュードがアルヴィンの後をついてくる。
「チョコレートと牛乳? まだ食べるの」
「食べないって。飲むんだよ」
「飲む?」
「寒いからさ」
「外套を厚手にしたら」
ジュードの言葉を無視してアルヴィンが気軽く店員の女性に声をかける。この店揃えがいいね、この洋酒を少し垂らすのがいいんだよな。お作りになるんですか? 精算をする女性店員と言葉をかわす。…お連れ様? だからかしら。冷えるものね。俺も甘いの嫌いじゃないんだ。簡単にできる粉末のものもあるけど。時間はあるんだ。まだしばらくこの街から発てそうにないしな。雪が降ればなおさらだわ。ジュードだけが後ろで不思議そうに黙りこむ。店員の手前であるから子供っぽい不満は言わない。物言いたげな紅い唇を流し見てアルヴィンがニヤニヤ笑った。
 宿へ着くなりストーブを暖めておくようジュードに言いつける。ついでにミラたちの様子を訊く。豪勢なコース料理を振る舞われたらしくみんな、それぞれの部屋へ引き取っているという。調理場から借りたいものがあるんだけどいいかな。係の者を呼んでまいります。ダメならダメでいいんだ。このくらいの片手鍋がほしい。ほら、今夜は冷えるから。アルヴィンが指で輪を作るとフロントが引っ込み、しばらくしてから片手鍋を携えてきた。明日には返すよ。手荷物と鍋を持って部屋の扉を開ける。部屋は温まっていてジュードが早くも寝台を整えている。連泊はしても無駄遣いが出来ない財政状態だ。
 アルヴィンが片手鍋をふうと拭いてから牛乳を開ける。空瓶を放り出すのをジュードが甲斐甲斐しく拾って片す。まめだな。アルヴィンが気にしなさすぎるんだよ。牛乳があたたまる間に小卓の上でチョコレートを刻む。調理にあてがうナイフを使った。手際の良さにジュードがじっと手元を眺めている。
「食べるんだと思ってた」
「ただのホットチョコレートだよ。寒い時って寝付けないだろ?」
刻んだチョコレートを鍋に落としてふつふつと煮込む。ストーブの火力などたかが知れているから焦げ付きはしないだろう。チョコレートが溶ける頃合いを見計らって洋酒を垂らす。コーヒーとかに酒を入れるだろ? 体が温まるんだよな。酔っ払わないの? さぁ。そいつの体質しだいだろ。無責任にうそぶくアルヴィンにジュードが嘆息した。エリーゼにやったら怒るよ。おいおいあんな子供に酒を飲ませるほど鬼畜じゃないぜ、俺。その後で意地悪く付け足す。子供に飲ませる時って大概、手っ取り早く眠らせたい時なんだよな。半眼で見据えるジュードの視線を物ともしない。量を飲みたいときは炭酸割りとか。慣れないうちはロックってキツイよな。洋酒なんか特に。なんでそんなに詳しいのさ。経験かな。しれっと返事をするのをジュードがむっと唇をとがらせる。ジュードは常々アルヴィンより年下であるのを僻む。関わりたくない時には年齢の話を匂わせてジュードの気持ちを逆撫ですれば覿面だ。
 鍋のそばへついて匙でかき回す。甘い匂いが漂う頃にジュードの目線から棘が消える。
「マグをよこせよ。俺のもよろしく」
ジュードが慌てて荷物からマグを取り出した。底が深めで大振りのカップは時折惣菜の受け皿にもなる。重量のない金属製である。陶器は壊れやすい上に高価い。ぽんと放られるのをアルヴィンが片手で上手く受け取る。器用に鍋の中身を二つのカップへ注ぐ。かき混ぜに使った匙を咥えている行儀の悪さをジュードも咎めない。なんだかアルヴィンが可愛いな。匙のせいで返事ができない。鍋をストープから下ろす。要らぬものを噛ませて卓へ置くとようやく匙をその中へ放った。
「かわいいってなんだよ」
「スプーン咥えちゃってカワイイの」
「要らないんだな?」
カップを引っ込めようとするところへジュードが組み付く。いるよ。熱いから気をつけろよ。ジュードは把手を掴んで中身を吹いて冷ましている。チョコレートと牛乳の混じった濃密な香りが満ちる。マシュマロを浮かべると美味いぜ。溶けるんじゃないの。それがいいんだろ。
 アルヴィンがドサリと寝台に腰を下ろしながらカップを傾ける。熱いチョコレートが喉奥へ落ちていく。ちびちび飲むジュードのカップの揺れを眺める。時間かかりそうだな。熱いんだよ。不満を言いながら舌を焼いて飛び上がったりはしない。アルヴィンはカップの中へさらに酒を足した。
「僕にも欲しいな」
「子供はよしとけ」
取り合わないアルヴィンがあっさり酒瓶をジュードの遠くへ押しやる。ジュードの白い手が空中で泳ぐ。諦めて手を引っ込める。ジュードが一気にカップを呷った。甘い香りが吸い込まれる。ジュードの白い喉がごくごくと動くのが生々しい。そのまま唇が重なった。ジュードの体はいつの間にかアルヴィンの寝台へ乗り上げて、しかもアルヴィンの脚の間にある。尖った膝をジュードのやわい手のひらが撫でる。近づいた唇が重なった。アルヴィンはそっと枕辺の小卓へカップを置いた。
「アルヴィン」
返事はしない。ジュードの火照った皮膚がアルヴィンの肌へ吸い付く。裾から襟から割り込むその熱がひどく気を弛ませた。装備を解いたジュードは軽装だ。拳闘するから手首までがちりと固めて動かない。その手首が年齢にふさわしい柔軟さと強靭さを魅せつける。
 スカーフが解かれる。襟巻きや外套がとりどりに床や寝台を彩り散らす。碧瑠璃に凝った網目模様を施してあるのはジュードがしていた襟巻きだ。アルヴィンは灰蒼の細目編みを巻いていた。編み方次第のそれは機械編みにはないゆとりがある。ふんわりと空気を含ませることが出来るのは手作業によるものだ。それを保ちながら毛糸を毛羽立たせない。ジュードの冷たい手が触れて思考が中断した。温もる部屋の中でジュードの体は心地よい低温だ。刺すような刺激はなく氷が溶ける過程のような芯へ響く冷たさだ。ふやけた皮膚や肉と一線を画す芯を持つ。仰臥するアルヴィンの上へジュードが覆いかぶさる。丈も目方もアルヴィンのほうがあるのに威圧感が違う。鳶色の髪を梳かれて目が見据えられる。紅褐色と榛がぶつかり合って燐を放つ。ジュードの紅い唇が弛んだ。
「アルヴィン、可愛いね」
うっとりと耳朶でささやかれて反論できなかった。そのまま肌を合わせた。背をしならせ喉を反らせて嬌声が響いた。


《了》

あんまりエロくない      2013年12月15日UP

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