浅ましくも求め続ける


   49:気にを手に入れた代償

 廊下にしかれた絨毯が足音を吸収する。自室で本を読むのに飽いた一之瀬はバウント達が集まる部屋へと足を向けていた。彼らとは絶対的に違う存在だというのに。
それでも幾日か行動を共にするうちに仲間意識のようなものは芽生えた。
彼らのリーダーである狩矢には敬愛や崇拝の念すら感じている。
 ガチャリと扉を開くとそこにいたのは宇田川一人だった。一之瀬は一瞬、此処に来たことを後悔した。彼とは気が合わない。彼のドールである蛇のフリードが鎌首もたげて一之瀬を見ていた。
「お一人ですか、これは珍しいですね」
一息ついていたらしく、テーブルの上には茶式が一式出ていた。宇田川の手がカップを取り、一息に飲み下す。トポポ、と新たに紅茶を注ぐ音が響く。宇田川がフッと笑って手をひらめかせた。
 「座ったらどうです、別にご一緒しろなんていいませんよ」
言われた通りまさか入り口に陣取るわけにも踵を返して自室へ戻ることも躊躇われた一之瀬は警戒しながら宇田川の向かいのソファへ腰を下ろした。
「いかがですか?」
揶揄うように問われて一之瀬は眉根を寄せる。
「…結構です」
逡巡した結果の言葉に宇田川は気を悪くした様子もなく肩をすくめるだけだった。
 宇田川の手が胸元から小瓶を取り出す。それを新たに入れた紅茶の中へその中身を注ぐ。
「面白いものが手に入りましてね」
警戒心むき出しの一之瀬は答えない。宇田川の口元が面白そうに笑っていた。
「一度、貴方で試してみたかった」
「…何を」
問いは空中に消え、宇田川は答えずに紅茶を口に付ける。
 その動作を何とはなしに見ていた隙をつかれた。
テーブルを乗り越えて宇田川の体が動き、気付けば口付けられていた。
同時に驚き開いた歯列の隙間から熱いものがドッと流れ込んでくる。それが先刻、宇田川が口に含んだ紅茶だと気付くのに数瞬かかった。さらに深く口付けてくる宇田川に、一之瀬はその液体を飲み下すしかなかった。熱い物が喉の奥へと落ちていく。
「…ッは!」
ようやく離れた宇田川に一之瀬は大きく息をついた。肺が酸素を取り込もうと大きく動く。
 「…何を飲ませた…!」
「言ったでしょう、面白い物が手に入ったと。それを貴方で試したいとも」

どくん、と心臓が脈打った。

「…ッ、う、ぅ…?」
体の内部が燃えるように熱くなってくる。その熱源がどこなのかは語るまでもなかった。
思わず一之瀬の腕が自身の体を抱きしめる。わずかな動きが、衣擦れでさえもが官能的な刺激となって一之瀬を襲った。体の奥が熱くて熱くて身もだえしたくなる。
 「宇田川、何を…!」
「効いてきたようですね、貴方に飲ませたもの、なんだか知りたいですか?」
宇田川は足を組んでソファに身を沈めた。尊大な態度すら気にかからないほど一之瀬は恐慌をきたしていた。
「教えてあげれば…その方が面白いよ」
宇田川の肩に緩く巻きついていたフリードが舌をちろちろ覗かせて言った。
「仕方ないですね、教えてあげましょう」
猫のように背を丸めて与える一之瀬の様子を宇田川が楽しそうに見ながら口を開いた。
「媚薬ですよ、体の奥が熱いでしょう。体の奥に欲しいでしょう?」
いやらしく言われて一之瀬が目を見開いた。怒りのままにその手が斬魄刀に伸びる。
「宇田川!」
「フリード!」
 立ち上がり斬魄刀を抜こうとした一之瀬の足元、袴の裾からフリードが滑り込んだ。
「ひぁあぁ…ッ!」
死覇装の奥で蛇が体を這いずる感触は、媚薬で過敏になっていた一之瀬にとっては衝撃にも等しいダメージを与えた。
「ふ、く、ぅう…ッ」
内部を這いずり回るフリードの動きに斬魄刀に手をかけるどころか必死に耐えるしかなかった。胸の上を滑ってフリードが襟の合わせ目から顔を覗かせた。紅い舌がちろちろと覗き、揶揄うように鎌首をもたげた。
 「へぇ…結構可愛い顔してるんじゃん…」
フリードが動くたびに一之瀬の体がびくびくと跳ねる。
一之瀬の意思を無視して体はその刺激を喜んでいた。次第に下肢に熱が集まりだすのが判る。一之瀬はそれでも最後の力を振り絞って宇田川を睨みつけた。
「宇田川…貴様…ッ!」
「フリードの動きにすら感じている貴方はいいですねぇ。手に入れた甲斐があるというものですよ」
席を立ちゆっくりと歩み寄ってくる。一之瀬はそれを睨みつけるのが精一杯だった。
 「下衆が…」
「失礼ですね、一之瀬さん…口が過ぎると、こうですよ」
ガバリとはだけた襟の奥、白いフードつきのシャツをたくしあげられ胸の突起をつねるようにつままれる。
「や…ッ!」
ビクリと一之瀬の体が跳ねる。
 一之瀬の体も熱も、今や宇田川の思うままに動いた。間接的ななぶりにそれでも耐えようとする一之瀬の目に涙が浮かんだ。
「私は屈しない…ッ」

お前などに屈しない
お前が私に何をしようとも

この心だけは決して

「お前にはやらない…!」
「泣き顔で言われても可愛いだけですよ」
一之瀬の抵抗がやんだ。猫のように背を丸めて耐えていた体が開かれる。
「…好きにすればいい」
閉じた一之瀬の目蓋の端から、涙が盛り上がってその頬を濡らした。
「私はお前に、心までやったりはしない…!」

この心まではやらぬ
体が屈しようとも
心までは屈せぬ

 「貴方という人は…、全く」
手に入らない。体は手に入ったというのにこの虚無感は。

貴方を手に入れるためなら何でも
それが今こうして手に入ったというのに

その代償が心を失うことだとは!

 宇田川の手が一之瀬の頬を撫でる。
女のように柔らかな肌。フリードが窺うように宇田川を見た。
「貴方を手に入れるためなら何だってしようというのに」
一之瀬は目を閉じて動かない。抜け殻のように体の熱の赴くがまま。

君の体を手に入れた、その代償はあまりに大きい
まさか君の心を失うことだとは

「抱きたければ抱けばいい」
私の心は狩矢様と共に。
宇田川は歯噛みした。あぁ手に入らない?
 「じゃあ抱いてあげましょう、貴方の思うままにね」
宇田川の手が腰紐に伸びる。乱暴に解き袴を脱がせる、その衣擦れにすら一之瀬はピクリと動いた。

君を手に入れるためなら何を失おうとも

宇田川は一之瀬の体をかき抱いた。


《了》

久々の宇田川です。別人です(ダメだろ)
楽しんでいただけたでしょうか…?    12/22/2006UP

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