それは、恋ゆえの
13:恋ゆえの罪
消えかけた焚き火がぱちりと爆ぜた。少し離れた位置で眠るハクロウの元へそっと屈みこむ。足音を殺して近づいたライセがそっと上体を倒した。唇がフワリと重なる。
わずかに開いた歯列をなぞり舌を絡めるとハクロウの紅い目がライセを見つめていた。
抵抗する様子のないハクロウにライセはわだかまりを感じながらもシャツの合わせ目へ手を滑らせた。
絡めた舌を吸い上げ胸をいじるとそれでもピクリと反応が返る。
「…っふ」
合わさっていた唇が離れ、銀糸が舌先を繋ぐ。ぷつりと切れるそれを何とはなしに目が追った。シャツの合わせ目を一気にくつろげ、ベルトに手を伸ばしてもハクロウは何も言わなかった。カシャンとバックルが冷たく音を響かせた。
「ライセ」
ハクロウの声が響く。ライセは手を止めずに腹を撫で上げた。
腹を撫で胸の粒をいじる段になってライセの手が鈍る。
――思い出す
白銀の髪。灰色の目。全てを判ったような薄笑い。紅い唇。
忘れられるわけなんてなかった。
――やっぱり、忘れることなんで出来ない
止まった手にハクロウの目が煌めいた。圧し掛かったまま止まるライセにハクロウの紅い目が据えられたままだ。ルビーのような煌めきで、ハクロウの目がライセを見つめる。
「…シコウ」
思わず呟いた次の瞬間、衝撃がライセを襲った。
ガツンと鈍い音を響かせて体が吹き飛びそうになる。直接衝撃を受けた頬はみるみる腫れあがった。
「バカにするんじゃねぇ!」
鋭い叫びにライセの良心がわずかに痛んだ。痛みはわずかな余韻を残して消えていく。
体を起こしたハクロウの目が燃えるように輝いて見えた。
ハクロウの顔が。
――泣きそうだ
逆に押し倒されながらライセは思った。
顔のすぐ横を拳が走りぬける。ガヅッと鈍い音を響かせて拳が地面へめり込む。
――泣き、そうな
顔を歪めたハクロウがギリッと歯を軋ませた。
「ちくしょう…!」
歯の隙間から零れるように溢れた言葉にライセの目が見開かれていく。
「ハクロウ」
「黙れ!」
鋭い声。けれど顔が泣き出しそうに歪んだままで。ライセは縋るように手を伸ばした。
「…悪い」
「黙れ」
声が泣き出しそうに震えていた。
――罪
恋ゆえの罪
知らないふりは出来なかった。
顔をそむけることも知らないふりも出来なかった。
「ハクロウ」
ライセの声が夜闇に響く。ハクロウの息づかいだけが静かにこだました。
「ごめん」
ギリッとハクロウの歯が軋る音がした。
振り上げられた拳が。
顔の横にめり込むのを気配だけで感じていた。
「ちくしょう…!」
ライセの目が冷静にハクロウを映し出す。
知らないふりは恋ゆえの罪
ライセはそっと体を起こした。
目蓋の裏で、白銀の髪と灰色の目をしたシコウが哂っているような気がした。
《了》