貴方のためになんだって
06:命だってあげる
「恋次」
名前を呼ばれたと思った瞬間に強い力で引かれ、倒れ込むように部屋に転がり込んだ。
ホコリだらけの床で膝を打ち思わず痛みに顔をしかめた。
「恋次」
後ろで仕切りの閉められる音。声の主はいつも強引だ。
「…隊長」
振り向く視線の先にいる人物はしれっとして恋次の名を呼んだ。
「恋次」
座り込んでいる恋次の元へかがみ込んだ白哉の手が恋次の頬に触れる。
指先は唇をなぞっていたかと思うと大胆にも襟の合わせ目から滑り込んできた。
「隊長!」
そのまま襟を乱す動きに恋次の手が反射的に、その手を掴んだ。その隙に近づいた白哉の唇が口付けを落としていく。
ゆっくりと、だが確実に重心を預けられて恋次は床に押し倒された。
死覇装の襟を開き現れた胸の上を白哉の舌が這う。刺青の上をなぞると恋次の体がピクリと震えた。
「…隊長、こんな」
その言葉に答えるかのように白哉の手が腰紐に伸びた。袴をあっさり脱がされ下帯までもが取り去られる。
「恋次、お前は」
不意に止まった白哉の手。その手の震えに気がついて、恋次は抵抗をやめた。
「お前は私に何を与える」
貴族であり隊長であり。
富も地位も力ですら手に入れた、私に
きょとんとして白哉の言葉を聞いていた恋次の顔に笑みが浮かんだ。
「俺が隊長にあげられるものなんてこの命くらいっすよ」
自信ありげに言い放つ恋次に白哉の目が驚きに見開かれた。
恋次の指先が白哉の艶やかな黒髪に絡む。サラサラと流れる黒髪を恋次の指が梳く。
この体一つ、命一つで生きてきた
他に持つものなどなかった
だから俺があげられるのは
「この体や命くらいっすよ」
足りないでしょうけど、と笑って付け足す恋次の頬にはかすかに朱が上っていた。
「恋次」
――あぁ、なんて
驚きに彩られていた表情がフッと緩んだ。そして組み敷いた恋次の唇に触れた。
――いとおしい
「お前は愛い奴だな」
そう言う白哉の目が潤んでいるような気がして恋次は離れた唇を追って再度キスをした。
「…隊長」
恋次の手が白哉の体を抱き寄せる。黙って抱きしめられるままになっていた白哉がそっと目を閉じた。
「お前はかわいい奴だな」
微笑まじりに言われた恋次が微妙な表情をする。気付かない白哉の指先が戯れに恋次の胸の刺青をなぞった。
「…馬鹿にしてんすか」
恋次の言葉に白哉がフッと吐息まじりに笑った。
――命さえくれると
あぁいとおしい
「私は本気だ」
白哉の目蓋が再度、閉じられた。
《了》