君のことが好き

   15:愛しい人


 「天城!」
突然かけられた声に辺りを見回す。人ごみの中そこだけ浮き上がったように見えた。
黒髪に黒ずくめの服装。理知的な光を湛えた目がじっとこちらを見つめていた。
「不破…?」
名前を呼べばゆっくりと歩み寄ってくる。少し小柄な背丈に目線が意識せず下を向く。
それを不愉快とも思ってないのか少し上目遣いに天城を見上げてくる。
 「…珍しいトコで会うな」
「そうだな」
天城の言葉に不破が素直に頷く。互いに小脇に抱えた荷物に視線を走らせる。
「どこか――」
「何か――」
互いの声がかぶって同時に黙る。不意におりた沈黙に天城は居心地悪げに頭を掻いた。
二人ともが同時にフッと口元を緩めた。
 「なんだ?」
訊ねる天城に不破が少し逡巡してから答えた。
「――なんでもない。選抜の方はどうだ?」
上手くいっているのかと訊かれ天城はコクリと頷いた。
「まぁ上手くいってる…特に問題なんかはない。相変わらずだ」
そこからひとしきり共通の友人のことに話が及ぶ。
風祭は選抜の中でも相変わらず素直に頑張っているとか。
 不破の顔がフワリと微笑んだ。
あまり見たことのない不破の柔らかい表情に天城は思わず見とれた。
キョロリとした目が眇められ、口角がつり上がって顔全体に広がる笑みに目を瞬く。

「上手くいっているならいい」

言葉の意味を一瞬失念して、見とれたことに気付いた天城の顔がカァッと赤くなる。
 その様子に今度は不破が目を瞬いた。
「どうした」
「…別になんでも…」
間近から覗き込まれてさらにつのる羞恥に見る見る赤くなるのをとめられない。
 水面下で慌てふためく天城を知ってか知らずか、不破が天城の手を取った。
そのままぐいぐいと引っ張られて天城が慌てる。
「不破? どこに…」
不破は振り向かずに答えた。
「近くに公園があった。往来で話し続けるわけにもいかん」
その答えに言葉の出ない天城は言われるがままに引っ張られる。
 ついた公園は時間帯の所為か誰もいなかった。
「これでしばらく話せる」
そう言う不破が何故だかひどく満足げで天城は首を傾げた。
「選抜では上手くいっているのだな?」
確かめるような言葉に首を傾げつつも「あぁ」と答える。
火照ってしまった顔をどうにかしようとパタパタと手で扇ぐ。
 「お前がいないのが少し残念だけどな。さびしい気もする」
苦笑しながら言うと不破がむ、と唸った。
「遺憾だが仕方ない。落ちるときは落ちる…時に天城」
改まった言い方に天城が扇ぐのをやめた。不破の目がじっと天城にすえられて動かない。

「俺がいないと寂しいか」

念を押す言い方に天城は本当に首を傾げた。不破はじっと答えを待って動かない。
「まぁいた方が良いとは思うが…急にどうした?」
次の瞬間不破はなんともない顔で言い放った。

「お前は俺が好きなのか」

天城の目が見開かれ、白い肌に見る見る朱が上る。耳まで真っ赤になった天城がぱくぱくと口を動かすが声がでてこない。天城の反応をよそに不破は腕を組んで話し出した。
「いないと寂しいのは好意を持っているからだろう、それもある一定以上の好意がその対象となる。稀に腐れ縁というのもあるが今回の事例には当てはまらん。よってお前は俺が好きなのかと…」
「ちょ、ま、待て…ッ」
あまりの羞恥に目に涙すら滲ませて、天城が淡々と説明する不破を止めた。
 「なんでそんな…ッ」
言葉もあまり出てこない天城の様子に不破の口角がつり上がって笑いをかたちどる。
そっと伸びた不破の手が天城の両頬を捕まえる。そのままグイと引き寄せ唇を重ねた。
びくりと震える天城の様子に笑った不破が再度口付けた。柔らかな唇をくぐりぬけ歯列を舌でなぞると天城の体が震える。

「問題ない。俺もお前が好きだ」

 クラリと傾ぐ天城がその場にしゃがみこんだ。言い放った本人は実にすっきりした顔で満足げに腕など組んでいる。
「どうした、何か不備でもあったか」
しゃがみこんで動けなくなっている天城に不思議そうに不破が言った。
 膝を抱えて動けなくなってしまった天城の頭を不破の手がぽふぽふと撫でた。
「天城。言わなければ判らない。何かあったのか?」
元凶がしれっと言い放つ。天城はようやっとか細い声で答えた。

「なんでもない…」


そんな君が好きです


《了》

まだまだリハビリ中…でも不天てなんて楽しいんだろ…! 書いてて楽しかった(笑)  08/26/2005UP

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