サクリファイスと戦闘機という関係がある。
それは主従のような究極の友情のような恋愛感情のような。
二人はひとつ。二人でひとつ。


   05:約束


 アタシ達は強く繋がっている。でも繋がってない。
理由は簡単。無痛の特徴を持つゼロシリーズだから。
あり得ない事象を可能にするゼロシリーズだから。
唯一無二で、そのくせ入れ替え可能なゼロシリーズだから。
二律背反。だからこんなにも不安で不安で。

『足手まといになるなら交換するわよ』

アタシ達の神はこんなに残酷なことを何でもないように言い放つ。
そして神がアタシ達に教えた呪文の効果は絶対だった。


我妻草灯をリンチしたときも、渚先生という名の神の前で報告をしたときも。
江夜がゲロ吐いてる時も、もう一組のゼロと戦ったときも。
予兆は次第に確信を増していく。

 じわじわと侵す何かに耐え切れず倭は手をついた。
 なんでアタシだけゼロでいられないの?

ビラブドとラブレスと戦った

 そして名前が消えた

あぁアタシはゼロですらいられない。
大人しくって暗くって、感情表現も少なくて無愛想で。
でもアタシの全てを投げ打ったって後悔しないほどに好きな江夜。

『それは戦闘機としての死を』

我妻草灯の声がこだました。あの男が言うことは正しすぎて倭は口も利けなかった。
でも江夜は躊躇わず返事をした。倭が怖れながらも望んだ言葉で。

『はい』

倭の俯いた顔が江夜の方を見る。驚きに見開かれる目に江夜は穏やかに微笑して見せた。
草灯と立夏の気配が消えた頃、ほとばしるように倭が叫んだ。
「ごめんッ、アタシの所為で」
 江夜の足手まといになるくらいなら死んでやる。渚先生に言った言葉は少なくとも倭の中では真実だった。
「別に…ごめんね」
そっけない言葉に色がつく。それは悔恨といった自責の色。
「違うッアタシの所為なの…! 名前が消えちゃって…ッ」
戦闘機としての江夜をアタシは殺してしまった。

 ごめんねごめんねごめんねごめんね

ふわんと辺りの空気が動いた。

気付けば江夜の細い腕にぎゅうっと抱きしめられていた。
「いいの、いいのよ…あたしだって」

 あんた以外のサクリファイスなんて要らなかった
 あんた以外のサクリファイスなんて吐き気がする
 
 だから

「あたしのサクリファイスはあんただけだから」
壊した携帯、震える手。絶対の神に告げた死の事実に体中が震えた。
突き立ったカッターナイフはまるで墓標のように

 互いの手の震えを笑いながらキスをする。
 互いに抱き寄せた体は華奢で、そんな当たり前が酷く楽しく。
 嬉しかった。

「あーぁ、ったく針なんて使ってくれちゃってさ…コウヤ、見てよこれ」
振り切るように振り払うように明るく倭が制服を見せた。
 フワリと結われたリボンは無数の穴でしぼんで、それはまるでしおれた蝶の翅に見えた。
体中を襲った針の名残に倭が苦笑する。
「うーん、もうダメっぽい?」
突き立った針の上を滑った電撃は穴を焦がし、くっきりとした跡を残した。
靴下、ルーズにしなくて良かったよと唇を尖らせる倭に江夜は平坦な声で返事をする。
「ルーズ、馬鹿っぽいって」
 「あッそれヒドッ。嫌味そーなのが言いそうなことだよね〜」
何もかも終えた解放感に二人は他愛無い言葉を寄せて喋る。
「コウヤはアタシでイイんだ?ルーズ履くような馬鹿っぽくて」
倭の声がトーンダウンする。
「――ゼロでもない」
 眼鏡の奥からそれを眺める江夜は嘆息した。ごろりと寝そべった草原は草の鼻をつく匂いがした。抱き合って寝そべって微動だにしない。
「それでも、一緒にいてくれる?」
言葉とは裏腹に挑戦的な倭の目に江夜は微笑いかえす。
「当たり前じゃない」
 江夜の目が悪戯っぽく笑った。

「指きりでもする?」

 笑いながら絡めた指は細くて消えそうで、それでも。
 確固たる何かに突き上げられて二人は頬を寄せ合い、微笑った。


《了》

訳判らん度MAXな話ですいません
ちなみに本編ではどうなってるんでしょ…(単行本派)   08/12/2004UP

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