キミのトナリで。
05:眠り
トサ、と寄りかかられて初めて意識した。
ソファの隣に座っていたはずの旧友はいつの間にか眠りこけていて、その体が傾いでイザークの肩に当たったのだった。たまには優しくしてやるかと仏心を出して文献に目を戻す。
ようやっとで手に入れた民俗学に関する文献だ、読みたくて仕方がない、はずだった。
「チッ…」
寄りかかる体温が気になって集中できない。気付けば同じ文面を何度も読み返していて、思い切り舌打ちしたくなった。イザークの鋭い眼差しがその元凶をギッと睨みつける。
褐色の皮膚。今は閉じた目蓋の奥に眠るのは煌めく紫水晶だと知っている。いつも皮肉気に笑う唇が実は常態なのだとも知っている。案外長い睫毛は髪と同じ芥子色だった。
「おい、起きろディアッカ!」
耳に程近い位置で叫んでも呻くだけで起きる気配がない。
イザークの銀髪がさらんと流れてディアッカの頬を撫でる。
「起きろ、ディアッカ」
その耳元で囁くように話す。
耳元にかかる吐息がくすぐったいのか、ディアッカは時折振り払うような仕草をする。
その手をとり指を絡めて持つときゅうと手を握り締めてくる。
それだけなはずなのに、それにどきりとしてイザークの動きが止まる。
ミリ単位で切りそろえられた銀髪がサラッと揺れた。
どきりとして思わず体を引いた。
その拍子にズ、ル、とディアッカの頭がゆっくりとずれていく。
ズ、ズ、ズ、とディアッカの体が傾いでいく。
イザークは黙ってそれを見ているしか術がなかった。
トサ、と落ち着いた先はイザークの膝の上。
「な、ディ、ディアッ…」
しどろもどろのイザークを無視してディアッカはスゥスゥと寝息を立てている。
深呼吸をして落ち着こうとするイザークの様子にどこからかくすりと笑いが漏れた。
「ディアッカ」
落ち着きをようやく取り戻したイザークがディアッカの耳元へかがんで告げた。
「次はお前が膝枕をしろよ」
今回だけだ! と意気込んで言うイザークの頬は何故だか赤らんでいて、ディアッカはそれを察してクスリと笑った。
「起きているなら起きろ!」
「嫌。も少し寝かせてよ」
笑いに気付いたイザークがけたたましい剣幕で怒鳴ったがディアッカはイザークの膝にしがみついて離れない。
「お前の隣が一番イイんだよ」
イザークはディアッカの言葉にそれっきり何も言わず頬を赤らめた。
《了》