それはそう、ほんの些細な
04:指
「お前さん、指、キレイだな」
突然振ってきた言葉にディアッカが顔を上げると、フラガがバスターのハッチに手をかけてそこにいた。見下ろされていることと気配に気付けなかったことにディアッカの眉間にしわが寄る。
「何、突然」
引っ張り出したキーボードを滑らかな手つきで操りながらディアッカが問い返す。
問いに返事はなく辺りをカチャカチャとキーを叩く音だけが支配する。
「…見たままなんだけど」
ボトル入りの飲料をあおってからフラガが言う。
「口説くんなら相手、違うんじゃない」
目線すらディスプレイに向けたままで、ディアッカが冷たくあしらう。
「最近の子は冷たいね」
クスン、とわざとらしく鼻を鳴らす様子にため息をついて、ディアッカは手を出した。
「何、その手」
「それ、よこせって言ってんの。口説くんなら飲物くらい用意するのがセオリーなんじゃない?」
苦笑しながら、かなわないね、とフラガが呟く。
「ほら」
手渡されたボトルの飲み口を加えて思い切り吸い上げた。
ゴクリと喉仏が動くのを見てフラガがにやりと笑う。
「間接キス」
「今時誰が言うんだか」
ディアッカは肩をすくめて返事をして手元の作業を続ける。
長身に見合った長い指がキーボードの上を自由自在に動き回る。
その速度はさすがと思わせるもので、彼がコーディネイターであると教えてくれる。
「終わり」
短く呟いてディアッカがキーボードを跳ね上げる。
「さすが、早いな」
思わず言ったフラガにディアッカはフンと哂って返事をした。
「見世物になる気もないからね」
その言葉にフラガの顔もさすがに歪む。その様子にディアッカがプッと噴出して笑った。
フラガが渡した飲料を持ってハッチを出るディアッカをそっと追う。
「お前さんなぁ…」
思わず小言を垂れようとしたフラガの唇がフワリとふさがれる。
「せっかく口説きに乗ったんだけど? ココで振る?」
そう言うディアッカの仕草が妙に官能的でフラガは黙るしかなかった。
細い指先が黙り込むフラガの唇をなぞる。
キツく閉まった唇がフッと緩んだと思うとフラガの両手がサッと上がった。
「振るわけないだろ? せっかく乗せたんだ」
フラガの手がディアッカの下顎をサッと捕まえキスをする。
あわせた隙間から入り込む舌を許容して、離れていく下唇を甘く噛んで仕返しをする。
「…で? 口説いた理由は?」
「口説いた口説いた言うなよお前さんも…見たままだって、言ったろ?」
苦笑しながらフラガはそっとディアッカの手を取る。
少年らしい丸みをまだ残しながらも骨ばった手の指は長く、指先まで手入れされているとすぐ判った。
「キレイな指だ」
スッと手を持ち上げ、姫君にするように口付けた。
ちょっとした仕草ですら魅せる指先はそこまで神経が行き渡っているのかと思わせるほど魅力的で目が離せなくなる。このきれいな指先が、先刻自分の唇に触れたのだと思い出すだけでゾクゾクした。
「そりゃ、どうも」
クスリと笑ったディアッカの手がフラガの頬を撫で、唇へ流れるように動いた。
その指をフラガはそっと咥えた。
「日舞で鍛えた甲斐があったよ」
紅い舌先がディアッカの褐色の肌の上を滑る。
指の股を舌先でちろちろとくすぐられてディアッカはクスクス笑いながら身をよじった。
軽く吸い上げられるとそこがまるで別の器官のようにゾクゾクする。
「くすぐったいよ」
クックッとディアッカの喉が震えて降参という。
終いになぞるように舐め上げられながら、ディアッカはようやく指を取り戻した。
透明な銀糸がフラガの紅い舌先と、ディアッカの爪先とを繋いで切れた。
「その先まで付き合ってくれるかな?」
褐色の姫君、と膝をついてお伺いを立てる。クスリと笑ったディアッカは恭しく礼をした。
「もちろん」
《了》