心と体、本当に繋がってる?


   02:心


 コポポ、と音を立ててコーヒーが入るのを、キラの大きな目が見つめていた。
「意外、ですか」
紙コップを持って振り返ると同時にキラは言った。フラガはそれを真正面から受け止めて頷いた。ズ…と先に入れたコーヒーをすすりながら、キラが子供らしくフーフーと冷ましているのを見る。一口飲んで熱かったのか、キラが一瞬顔をしかめた。
「僕とディアッカが付き合っているのが」
 ウン、と大きく再度頷くとフラガの目がキラを見た。
「意外だぜ〜、あっちの坊主が何訊いたか覚えてんだろ?」
キラはコーヒーを冷ますのを諦めてフラガと向き合った。こっくりと頷く仕草は可愛らしくて一見すると女の子のように見えた。

『ストライクに乗ってたの、誰?』

 さりげなく吐き出されたディアッカの一言の意味は多岐にわたり、それを瞬時に理解できた者の数は少なかっただろう。誰かがキラだと不用意に答え、何か起きるかと身構えたフラガにディアッカはふぅんと気のない返事をして見せただけだった。
その後しばらくして、フラガはディアッカがキラと付き合っていると、ディアッカ本人から聞かされて、えらく驚いたものだ。
 「そんなこと訊くって事はさ、浅からぬ因縁があるって言ってるも同然だろ」
人気のない食堂にフラガの声がこだました。
キラはそれに黙って肯定の意を示すと、フーフーと吹いてからコーヒーに口をつけた。
「だと、思いますよ僕も」
「なのに付き合ってんのか、お前ら」
「ええ」
思わず顔をしかめるフラガにキラが微笑いかけた。
「だって、最高の状態じゃないですか」
 人形じみた整った顔が優雅にフラガに微笑みかける。大きな紫水晶の目が煌めいてフラガの姿を映し出した。
「ディアッカの髪も目も、体も、想いすら僕の方を向いている」
微笑むキラに浮かんでいるのは愉悦の表情で、フラガは何故だか焦った声を上げた。
「それが憎しみ、とかでもか」
キラの紅い唇が弓なりに反った。

「憎しみこそ、一番強い想いだと思いませんか?」

 キラの手がもうひとつコーヒーを用意する。
「これからデートか、青少年」
わざとらしくおどけて言うと、ハイとまともに返された。
「フラガさん」
キラの目が強い力を帯びて輝きだす。
 「ディアッカの全てが今、僕に向いてる。最高の状態なんです。邪魔、しないでくださいね」
判ってると思いますけど、とキラに付け足されてはぐうの音もでない。
「じゃオッサンは退散しま〜す…」
飲みさしのコーヒーを持ってフラガは食堂を出た。

「あ、オッサン」

食堂を出て少ししたと思ったら今度はディアッカに会った。
最も考えてみれば当然のことで、驚きかけた自分に拍子抜けした。
 「オッサンはやめなさいって、オッサンは」
冷めたコーヒーをくいっと飲むとディアッカが眉をひそめた。
「それ、コーヒーだろ? 酒みたく呑むなよオッサンくせーなぁ」
「言ってくれるね、坊主」
そう云ってすれ違おうとするディアッカの腕を掴んだ。
掴まれるままに振り向くディアッカの目がなんだと訊いている。
「なんであんなこと訊いた?」

『ストライクに乗ってたの、誰?』

「なんであんたに言わなきゃなんないワケ」
膨れたような仕草は年相応。それでもフラガは腕を放さず黙って待った。
 その様子にディアッカがため息をついてフラガをみる。それをフラガは黙って真っ直ぐ見返した。
一呼吸おいて、ディアッカの口をついてでたのは低い声。
「ブリッツがやられたからに決まってんだろ」
そう云って見上げる目はフラガを思い切り睨みつけていた。
 「やっぱり?」
「判ってンなら訊く事ないんじゃない」
苛立たしげに言ってディアッカが腕を振り解こうとする。その勢いに任せてフラガは腕を放した。わざとらしく掴まれた場所をさするディアッカにフラガは苦笑した。
「じゃ、ついでにもうひとつ。なんで付き合ってんだ」
 チラとディアッカの目が動いた。わずかに見上げる紫水晶はキラと同じ色のはずなのに、全く違った輝きを見せる。その目が、煌めいた。

「復讐したいから…って言ってほしい?」

試すようなその紫水晶はキラと全く同じでフラガは思わず息を呑んだ。
 「そこら辺はプライバシーだぜ、オッサン」
動けなくなったフラガを哂うように手を振って、ディアッカが食堂の方へ消えていった。
「…マジかよ」
思わず呟いて飲み干したコーヒーは酷く苦かった。


 「ディアッカ!」
食堂に入った途端に嬉しそうなキラの声が出迎える。
手渡されたコーヒーは丁度良くぬるまっていてディアッカはサンキュ、といった。
話すのはなんでもない事。プライバシーなどない艦内では体の交わりなど早々出来ない。
「ねぇ、ディアッカ」
キラの大きな目が潤んだように煌めいた。

「僕の事、一番に想ってる?」

ディアッカの唇が弓なりに反って微笑をかたちどった。

「もちろん」

ディアッカの長身が傾ぎ、キラが上を向く。

二人の唇が冷たく溶け合った。


《了》

こんなキラディアどうでしょうか…!(ドキドキ)   11/05/2004UP

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