無防備? それは
試してみるまで 判らない
01:無防備
「ディアッカ?」
先に部屋へ戻るといって戻って行った相方の名前を呼んでも返事がない。
首を傾げながらパスを打ち込むと、シュンと扉が開く。覗き込んだ部屋の様子に一瞬、イザークが固まった。
脱ぎ捨てられた靴とそのままの姿勢で倒れこんでいたのはイザークのベッド。
膝を抱えるように丸まって、規則正しい寝息を立てて眠るのは相方と自他共に認めるディアッカだ。
「…馬鹿が」
眠るディアッカに覆いかぶさると殊更にゆっくり襟を外してやる。
ぱちり、と金属音が空間を裂くと微動だにしなかったディアッカの目蓋がピクリと揺れた。
思わず手を止めたイザークを知ってか知らずか、ディアッカは一言呻くと元の体勢に戻った。
その拍子に緩んだ襟から覗く褐色にドキリと胸が高鳴る。
それとは裏腹にイザークの手は慌てるでもなくゆっくり静かに上着の留め金を外していく。
全て外し終えても起きないディアッカにある意味尊敬の念すら抱きながら、イザークは手を伸ばした。払いのけた上着が微かな音を立てる。ベルトを解きインナーを引きずり上げると引き締まった腹部が晒された。ゆっくりと体を屈め、へその下にキスをする。
「…イザークって、寝込み襲う趣味?」
前触れなくかけられた声にイザークの口元がフッと笑った。
「目を覚ましていたくせに、よく言う」
向き直った体をインナーの上から撫で回すとディアッカの眉がピクリと震えた。
「バレてた?」
インナーを引き上げ現れた胸にキスをしてイザークは体を起こした。
「そのまま眠ってればいいものを」
「ヘェ」
起き上がったディアッカの目がじっとイザークを追う。
襟や上着の留め金を外す仕草や、細くて白い指が動くさまをじっと目で追う。
己の動き全てがディアッカの紫苑色をした目に映っているのかと思うだけでゾクゾクする。
褐色の肌にくすんだ金髪、紫苑の目。
どこかエキゾチックな容姿は白皙の美が多いコーディネイターでは珍しい。
イザークの薄氷の目が振り向けば、カチリと一瞬だけ目を合わせ、それから何事もないように目を逸らす。
切りそろえた髪を揺らして振り向くイザークに、ディアッカはチロリと視線を投げるだけだ。
「お前はオレを試してるのか」
イザークのベッドに座ったままのディアッカの元へ歩み寄る。
元々の身長はディアッカの方が高く、そんなディアッカの上目遣いはある意味新鮮だった。
トンと軽く肩を押すだけで体が傾いでトサ、と音を立てて倒れ込む。
乱された着衣もそのままに横たわるディアッカの口の端がつり上がって笑いをかたちどる。
「試してるように見える?」
真っ直ぐ伸ばした手は神へ捧げ物でもするように。
真っ直ぐ伸ばした手の、丁度その位置にイザークの顔が見えてディアッカはクスリと笑った。
その手を掴んで起こそうとする、イザークの手を逆に掴んで引き倒す。
ベッドが大きく軋みを立ててシーツが波打った。
「試すってのはこういうことじゃない?」
呟いたディアッカの唇が短く動く。
『ヤる?』
その言葉にイザークの目が見開かれ、跳ね起きようとするのをディアッカの腕が許さない。
「ディアッカ、貴様…ッ」
雪のように白い肌を赤らめて怒鳴るイザークの様子にディアッカは堪えきれず、声を上げて笑った。その拍子に力が緩み、イザークの体がバネ仕掛けのように跳ね上がった。
そのまま言葉も出ないイザークに、ディアッカは腹を抱えて笑ってからようやく笑いを収めた。ディアッカの喉が余韻にクックッと震える。
「性質の悪い奴だ…」
それでもイザークの体がゆっくりと傾いで、フワリと唇が重なる。
赤らんだ余韻を残すイザークの唇は火照って熱かった。
無防備な体がそこから融けだして
《了》