※猫化パラレルです、ご注意
 大丈夫な方のみどうぞ


 赦してね?
 だって君にしか


   君の仕事

 ゼロはマントの裾さばきも軽やかに歩を進めた。料理のたっぷり乗った盆を両手いっぱいに持っているがそれなりの重さをもっているという苦しさとは無縁の足運びだ。団体の統率者として与えられた部屋の前でたたずんでいた少女がその姿を見て立ち上がる。ぱたぱたとほこりを払い、不遜に笑んだ。
「首尾はどうだ?」
「上々だ」
盆のひとつを手渡されて顔をしかめるがゼロが施錠を解くと素早く部屋に入りこんだ。ゼロもはやる気持ちを押さえて部屋に入ると施錠を確かめる。机の上に盆をおいて仮面を取るとすっきりした目鼻立ちの少年へと変化する。
「C.C.」
盆を置いたC.C.は寝台をまじまじと眺めている。体を起こしてくふんと笑う。その目が悪戯っぽく煌めいた。
「成功したようだな」
「見ての通りだ」
ルルーシュが手を差し伸べるそこには毛布にくるまった卜部が眠っていた。ぴくぴくと猫耳を震わせ、長い尻尾をパタパタ言わせて。
 「起きろ猫」
ルルーシュがびしっと額をはじくと眠たげに目蓋が開く。のそりと体を起こして寝台に胡坐をかく。腰のあたりにちょうど良く毛布が絡まった。くぁ、と欠伸をして目の前のC.C.とルルーシュの姿に固まる。
「ねこ? ていうか、なんで二人…」
「見事だな。どうやって飲ませた?」
「口移しで直接だ。オレが飲まないようにするのが大変だったぞ」
ピクンピクンと向きを自在に変える耳と敷布を打つ尻尾。卜部が長い尻尾を茫然と見てから腰に手を当てて感触を確かめ、頭を抱えた。頭にも猫耳が鎮座している。
「しかも三毛猫か! 三毛猫の牡とはな。ふふふ、希少種だ。たっぷりと可愛がってやる」
白地に茶と黒のまだらが不規則に散っている。
「なんッ、――あんたなぁ!」
いきり立つ卜部の感情を反映して尻尾がぶわっと毛を膨らませてまっすぐ立つ。立ち上がりかけた卜部はC.C.の存在と全裸の己の姿に思い至って何とかこらえた。腰の毛布を用心深く引きよせた。
 ルルーシュとC.C.は愉しげだ。口元がにやにや笑って締まりがない。
「手のかかる用事はないし、ふふ、お愉しみの時間が続くな。食事は定期的に持ってくる。お前はここで暮らせばいい」
「…いつ、まで」
卜部は恐る恐る聞いたがすぐに聞いたことを後悔した。
「ラクシャータは効用期間の限界に挑むとか言っていたぞ。見当もつかんな」
「用足しはオレの宛がわれたスペースもあるし食事も出る。不自由はないだろう」
「俺の人権はどこ行きやがった」
「反政府勢力が人権とかぬかすか。そのくらいの不自由は納得済みだろう」
ぐうの音も出ない。尻尾だけが苛立たしげにパタパタ揺れた。
 「ほら、じゃれろ、ネコ」
C.C.が卜部の目の前でふんわりした猫じゃらしを振って止めを刺した。


 ゼロは必要な用事を済ませるとそそくさと自室へ引っ込むのが多くなった。呼び出しも火急的なものや必要性のあるもの以外はすげないものだ。入れ替わるように付き合いの長いC.C.が出てくるが何故だか不満げであったりつまらんと言った顔であったりする。藤堂は小首をかしげながら立ち去ろうとするゼロに声をかけた。
「ゼロ」
「藤堂? なんだ」
ゼロは立ち去りたげだが藤堂の姿に何とか足を止めた。藤堂はこの団体でも重要な位置にいるもので無下には扱えない。そのことは藤堂自身も承知していて、それを鼻にかけたりはしないのだが少し事情が違った。
 「卜部を知らないか。君からの呼び出しの後から部屋にも戻って」
「専用の仕事をさせている」
躊躇した藤堂にゼロはさらりと答えた。藤堂が怪訝そうだ。卜部は藤堂と直接的な上下関係にあり、それらは良好だった。卜部が何も言わずに任につくとは考えづらかった。必要とあれば口をつぐむだけの覚悟はあるがそれにしたって突然だった。
「専用?」
「三毛猫の牡さ」
ゼロが仮面の奥でくふふふと笑った。藤堂は必死に考えを巡らせる。
「…それは珍しいものを飼っているのだな…だが…世話をさせているのか?」
「前置きなく借りた無礼は詫びるが今しばらく借りるぞ。なかなか懐いてくれなくて困っている」
「卜部はあれで動物は苦手ではない性質だしな」
何をどう納得したのか藤堂の表情から読んだゼロはあえて訂正はしなかった。あながち嘘も言っていない。
「なに、しばらく留守にしているのに連絡もないからどうしたのかと思っていたんだが…居場所が判ればいい。君の所にいるのだな」
「あぁ、そうだ」
ゼロが頷くと藤堂は納得したように判ったと頷いた。遠くで朝比奈の藤堂を呼ぶ声がした。彼は何かというと藤堂を探して張り付くきらいがある。藤堂はありがとうと礼を言ってそちらへ足早に駆けて行った。
 ルルーシュは背後を確認してから仮面を取ると浮かれた気分のまま部屋に足を踏み入れた。
「ただいま!」
機械音声ではない高い少年の声が響く。飛来した枕がばふっとルルーシュの顔面と衝突した。ルルーシュが不満げに落ちた枕を拾って寝台の方へ歩み寄る。
「何が不満だ?」
「投げられるならこの寝台ごと投げてェよ」
「ルルーシュ、この猫はさっきからご機嫌ナナメだぞ」
C.C.はびよびよと妙な音を鳴らして紐の先にぶら下がったネズミを振った。
「食事が不味かったか?」
「あぁ、そう言えば魚がなかったな」
「違ェよ。いい加減にしろあんたら」
ぱたんぱたんと尻尾がせわしなく寝台を打つ。卜部は衣服も与えられず毛布にくるまっている。もっとも室温は適温に保たれ空調もきいている。卜部だってそれなりに戦闘参加など非常事態も潜り抜けてきただけの耐久力もある。だがこのふつふつとわいてくる不機嫌の理由はそう言うところにはないのだ。
 「C.C.、お前卜部をちゃんと寝かせてやっているか? 睡眠不足は苛立ちを招く」
「失礼な魔王だ。ちゃんと相手してやっているし眠たそうなときはおとなしくしているぞ」
見当違いの論争を始める魔王と魔女に卜部は毛布にくるまったまま寝台の隅へ移動した。何もかも忘れて眠れたらどんなにかいいだろうとぼんやり逃避する。
「どうした、ねこ。眠いか?」
「猫は一日の大半を眠って過ごすんだぞ、お前やっぱり卜部の睡眠不足を」
「起床時間が限られているならその取り分を平等に分けろ。お前ばかり相手しているじゃないか」
「オレの猫だ」
卜部はがっくり脱力した。つんつん、と毛布を引っ張られて振り向いた刹那に口に指を突っ込まれた。反射的に歯を立てずにいるのが精一杯でその意図するところにまで考えは及ばなかった。噛んだりしたら後々何をされるか知れたものではない。
 「やはり舌がざらざらしている。猫だな」
舌先をたっぷりもてあそんで指を引き抜くルルーシュに卜部は噛みついてやるべきだったかもしれないと思った。
「私にも触らせろ」
C.C.まで指を突っ込んでくる。うぐぅ、と唸って逃れようとする卜部の体がバランスを崩して押し倒された。C.C.の方は遠慮などなくのしかかってくる。卜部の脚がじたばたもがいた。
「C.C.! オレの猫だと言っている! 何しているッ」
「なんだ、押し倒したら悪いのか? 本当だ、舌が面白いな…」
「んむぅ、うぅ…ー!」
限度を知らないC.C.の指先が奥に入りこみ過ぎて吐き気すら呼んでいる。卜部は必死に指を吐きだすと顔を背けた。はぁはぁと肩で息をするのをC.C.はふふんと笑った。茶水晶が潤んで不安げにC.C.とルルーシュの間を行き交う。
「そそる猫だ」
「そうだろう。…ってお前! 何さりげなく陣取っている! どけッ!」
ルルーシュは自慢げに頷いたがはっと我に返った。C.C.の方は気にしたふうでもなく長い髪を慣れた仕草で後ろへ流す。C.C.の指先が長い髪を持って、ほれほれ、と毛先を振る。猫の習性まで現れているのか目線が追ってしまう。ますます不機嫌になるルルーシュに卜部はどさりと寝台に体を投げ出した。発達した聴覚が息遣いすら聞こえさせる。妙に間延びした空間の静音は眠気を呼んだ。とろとろとしたそれに卜部は身を任せる。泥濘にゆったりと沈むようなそれを愉しみながら放置した。


《了》

いきなり誤字脱字発見してへこんだ。(ウワァバカァ)
もうありませんように…! 妙にすらすらいった話でした。
楽しかった! 藤堂さんの口調忘れて焦ったとかいうのは内緒の話(バカァ)       04/16/2009UP

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