一時ではなく、永久を
すきです
「兄さん、どうしてそこまでこだわるのさ」
ロロは携帯についたロケットをいじりながらすねたように呟いた。気付いたルルーシュが目線だけをあげて先を促す。
「藤堂だよ。奇跡の藤堂。どうしてあんなにこだわるの。彼の言う事なら何でもききそうだよね」
ルルーシュは優雅に紅茶をすすりながら目を上げようとしないロロの様子を窺っていた。
黒の騎士団内においてルルーシュは頂点に君臨し、藤堂もそれに異議を唱えなかった。後から加わる運びとなったロロに至ってはルルーシュさえ一緒にいてくれるなら、と周りを気にしない。偽りとはいえ兄弟を名乗っていたロロの瞳はその証のように紫苑色をしている。ルルーシュは紫水晶の瞳をきらめかせて微笑した。
「贔屓しているつもりはないがな…ロロ、俺は藤堂を手に入れたいのさ」
ロロは目を瞬かせてルルーシュを見た。不思議そうに小首を傾げて見せる様子は庇護欲をそそる小動物のそれだ。ルルーシュより年少のロロは体躯もまだ子供じみた丸みが残っている。
「なんで能力を使わないの。兄さんの力なら一発じゃないか。それとも僕が協力しようか」
ルルーシュはクックッと笑ってカップをソーサーに戻した。陶器の触れ合う気配だけで音はしない。そのあたりは高貴な生まれらしく厳しくしつけられていた。
「ロロ、俺は藤堂を『手に入れたい』んだよ、遊びたいんじゃない」
「どう違うの。彼、いろんな奴から狙われているよ。あのキズ眼鏡だけじゃない。報道機関にいたっていう男もだし。体格的には兄さんが一番不利だよ、年齢だってそう。ガキのお遊び、なんてあしらわれたらどうするのさ。本気にしてもらえないかも」
ルルーシュはその細く長い指で優雅に虚空を撫でた。濡れ羽色の黒髪がさらりと揺れて陶器のような白い皮膚の額が一瞬、あらわになる。
「だからさ、ロロ。遊びたいならとっくに降伏させている。ギアスを使うまでもない、手段の枚挙に暇がないくらいだ。だがそれは本意ではない。言ったろう。『手に入れたい』のだと。遊びたいんじゃない」
ロロはますます判らないと言いたげに細い眉を寄せた。
「あいつの体だって価値はあるが十分ではない、あいつの思考、精神、全てを支配して初めて手に入れたといえる…その点では俺はまだスザクや朝比奈に劣っていると言わざるを得ないな、遺憾だが。だからこそ」
ルルーシュの目がきらきらと輝きを増す。
「あの男の隅々までを埋め尽くす、誰にもなしえない事を俺はしたいんだよ。新雪に足跡をつけたがる子供の心理が今なら判る。藤堂が片時も俺を忘れる事のないような状況にして初めて俺の希みはかなう…」
細い指がぐっとこぶしを握り虚空の何かをつかんだ。挑むように笑う瞳は嵌め込まれた宝玉のように部屋の明かりを乱反射した。
「手に入りがたいものほどほしくなるというのは本当だな。現時点では朝比奈とスザクに遅れをとってはいるが…必ず挽回し略奪してみせる」
ロロはすねたようにそっぽを向いた。
「兄さんはいつだって先を見ているんだね」
ロロのすねた様子にルルーシュは微笑しながら首をかしげた。
「なんだ、ロロ」
「別に。もう諦めたからいいよ、僕は兄さんの全てを好きになるって決めたんだから」
恋焦がれるあなたを好く
その対象が私じゃなくても
《了》