※本編の時間軸やあらすじを全く無視しています。
 それでもよろしい方のみどうぞ。


 こんな別離はもう嫌だと、想っていたのに


   かなわぬ願い

 前線が惰性のように退いていく。引っ張られるようにしてルルーシュも機体を後退させた。ブリタニア側も攻める気はないらしく退いていく。茫然と見開いた瞳がディスプレイを見つめる。まるく球体の範囲がすべて消滅していた。境界線は異様にはっきりとしていてその切れ目を熟れた柘榴の割れ目のようにさらした。電子音を立てて入る通信を音声のみで受ける。いつも通りのそれに不自由も不自然さもなく、異様な状況で麻痺した脳には心地よかった。
『ゼロ』
「藤堂か」
『一度撤退するべきではないか。…戻ったら、話がある』
スザクの放った一撃の破壊力は敵味方の区別なくあたり一帯を消滅させた。被害状況と戦力の減少を思うだけで頭が痛かった。
「判った…。一時撤退する。全軍を退け、ブリタニアにも攻めてくる気配がない。…人目につかずに私の部屋にこい」
『承知』
藤堂との通信は常に用件のみで終わる。戦闘中に無駄話などできないし、藤堂は無駄口を利く性質ではなかった。
 目の前で消えたそれは通常機体の大破を示すロストの表示すら間に合わず消えた。中央にそびえていたはずの建物には、ナナリー、が。ルルーシュの手がぎりっと拳を握った。何かがくすぶる。それは火事場でくすぶり続ける種火にも似た。ふつふつとした何かがルルーシュを苛む。嫌な予感。こんな時ばかり勘は当たる。遠くへ消えていくスザクの機体を見ながらルルーシュは崩壊した戦線から離脱した。


 足音高く自室へ引き取るとルルーシュは仮面を投げ捨てた。記憶を失って傲岸さをなくしたC.C.がびくりと体をすくめた。ルルーシュは備え付けの装置を操ってコンタクトを取り出すとギアスの能力が野放しの瞳へ嵌めた。これで無差別にギアスがかかることは防げるはずだ。
 「…あぁ、悪い。すまないが、ちょっと奥の部屋へ引っ込んでいてくれ。来客があるんだ」
膝をついて幼子に言い聞かせるようにルルーシュは表情を緩ませた。ルルーシュのこの笑みに女性陣は弱く、クラスどころか学校中の女生徒がルルーシュに夢中になった。C.C.はこくこくと素早く頷くと機械とキィボードやディスプレイで埋め尽くされた部屋へ引っ込んだ。ルルーシュが壁のキィを操作して部屋を区切る。こうすれば奥の間は完全にこの部屋からシャットダウンできる。記憶をなくしたC.C.は人の怒鳴り声や激昂に敏感でよく怯えた。ルルーシュを坊やと呼んで不遜に笑んだ気性は完全に消えている。C.C.の位置が微妙なものでさらにこの複雑な変化を予備知識のない黒の騎士団が受け入れるとは思えず、ルルーシュは体調不良だと言い訳してC.C.を部屋へこもらせ隠していた。
 ほどなくして来訪を告げる呼び出し音が鳴る。誰何すれば同時に画面に藤堂の姿が映った。着替えてきたらしくパイロットスーツではなく団服を着用している。ルルーシュは了承した旨を告げて施錠をキィ操作で解いた。藤堂は足音を立てずに歩く、まるで猫化の獣だ。油断すればとびかかり、絶対に服従などしない。現に藤堂はゼロに従うと言ったものの油断すればいつでも手に噛みつくと言わんばかりの態度だ。それはけして横柄な態度に現れることはない。奥深く密やかに、しかし確実に。ルルーシュが隙を見せれば藤堂はゼロを見限るだろうことは想像がついた。
 「…座れよ。何だ、話とは」
掘り炬燵のように一段深く掘り下げて足置き場を作っている応接セットを勧めるが藤堂は立ったままだ。
「その態度は俺に座らせてほしいと言うことか? 戦場に出た高ぶりが治まらないのか、藤堂」
藤堂はゼロがルルーシュであると知ってなお周りにそれを告げるでもなく追随してくれている。ルルーシュのきわどい揶揄や下品な行いにも慣れたように対応した。それはまるですべてを包んでくれる聖母のようだとルルーシュは思ったことがある。

 「ルルーシュ…いや、ゼロ。私はこの戦局から離脱したい」

ルルーシュの差し伸べられた手が強張った。指先が震える。戦局からの離脱は永劫の別れを意味している。強張り動けないルルーシュをよそに藤堂はなんでもないことのように淡々と言葉を紡いだ。
「この私、藤堂鏡志朗および四聖剣は黒の騎士団から離脱する。千葉の身の処し方は彼女自身に決めさせてやってほしい。彼女がここへ残るならそれでもいい。だが、私は離脱させてもらう」
ルルーシュの脳内が真っ白になった。
 聡明な頭脳は事の重大さに気づいて、それゆえ混乱をきたし恐慌に至っていた。震える紅い唇はわななくようにして言葉を絞り出した。
「…理由、は――理由を! 藤堂、それが聞けないうちはお前を手のうちから出してやることなどできない!」
「理由か。それを私に問うのか、ゼロ」
ルルーシュは音をたてて床を蹴り、藤堂のもとへ詰め寄った。小柄で華奢な体躯は怒りに震えていた。藤堂の胸倉を掴みあげる手がぶるぶると震えていた。
 怒りに燃える瞳に藤堂は冷徹なまでに静けさを保っていた。けれどその灰蒼の瞳が激情に濡れた刹那、ルルーシュの華奢な体躯がぐんと床から胸倉を掴まれ持ち上げられていた。
「黒の騎士団に入って、四聖剣は崩壊した。卜部は君を助けて逝った。仙波は作戦中に逝った。そして朝比奈、まで――省悟の行方すら私は、つかめていない!」
睨みつける藤堂の目が涙に濡れているようでルルーシュは言葉を紡げなかった。卜部が逝く時、ルルーシュはそこにいた。仙波が逝く時、藤堂はそこにいた。そして朝比奈は――
「…私はこれ以上、集ってくれたものを、慕ってくれたものを、失いたくはないッ!」
刹那、ルルーシュの腕がしなって藤堂に平手を炸裂させた。強靭な筋力とは無縁だが一人の男の平手だ、それなりの痕跡を藤堂の頬に残した。紅く腫れていく頬に藤堂は舌打ちしてルルーシュの体を打ち捨てた。
 「いいか、よく聞け藤堂! 大切なものを失っているのはな、貴様だけではないッ! 私だって…俺だってな、失っているんだ! ナナリーを――ギルフォードを! 貴様に判るか、目の前で大切なものが自分の代わりに消えていくさまを見ていなければならなかった俺の気持ちが! 俺の、俺の目の前でギルフォードは、消えたんだ! その存在すらなかったかのように跡形もなくな!」
ギルフォードは最期までルルーシュをコーネリアと信じて逝った。

「姫様は、どうか、生きて」

その言葉が。
ディスプレイに映し出された通信映像を最後に消えたギルフォード。
微笑してルルーシュを突き飛ばした。
その、笑顔が。

どうか、生きて

ギルフォードはそう言ってルルーシュの機体を爆発範囲外へと押し出した。自身が逃げることもせず、避けることもせずただルルーシュの機体を守らんとせんがために。その所為で自身が爆発から逃れられないと判って、なお。
 「いないんだよ! ナナリーもギルフォードも! ここへ連れて来い、それがゼロとしての命令だ! ナナリーと、ナナリーと…ギルフォードを! 二人をここへ連れて来い、貴様にできるかそれが! 貴様が卜部と仙波と朝比奈を失ったようにな、オレは最愛の妹と、大切な人を――なくしたんだ…ッ!」
激昂して怒鳴り叫ぶ声が勢いをなくし、ルルーシュはずるずるとその場へ座り込んだ。
「そうか、あの機体はギルフォード卿か」
「貴様に判ると言うのか…この喪失感が。ナナリーも、ギルフォードも…」
潤んだ眦や目頭から涙が溢れた。壊れたように笑ってルルーシュは両手を広げた。ここにいない、愛しいものを集めるかのように、導くかのようにルルーシュの細い指先が差し伸べられる。
「ギルフォードはな、母方の血統から疎まれていた俺に一人寄り添ってくれんだ…この紫苑の瞳を見てあいつはなんて言ったと思う? 「紫水晶のようにお綺麗ですよ」、とそう言ったんだよ! 兄君やその他の兄弟とは違って綺麗だと、皇族一族ではなく俺を、俺を見てくれたんだ、あの水色の綺麗な瞳は…そんなやつを目の前で、自分の代わりに失う気持ちが貴様に判るのか、藤堂!」
 壊れたように笑いながらルルーシュは泣いていた。それを悼むように見た藤堂が目を眇める。それでもほとばしる激情のままに藤堂は右手を振り上げて平手を命中させた。ルルーシュと違って軍属する者の一撃は手加減されていても威力がある。明確な手加減がルルーシュをさらに落ち込ませた。
「ならば問おう、ゼロよ! 君には判るのか、長い年月命を捧げてくれたものを失った痛みが! 目の前で集い慕ってくれたものが散っていくさまや手の届かない場所で散っていく痛みを、君は判ると言うのか! 朝比奈は君の何かを確かめようとしていた、そして結果がこれだ! 私のためを想い行動したが故に命を落とした! この罪の重さが君は判るとでも言うのかッ!」

君がために散ります、そのためなら後悔なんてない
そう言ってはくれるけど、遺された私はどうすればいいんだ?
君の絶命の原因たる私は君への罪をどう贖えばいいと
贖いは永劫に、君に触れることすら叶わず残された罪だけがその身を苛み

「私は四聖剣に対して責任がある。残った千葉を、これ以上危険にさらすわけにはいかない」
紅く腫れた頬のまま、藤堂は冷徹に言った。
 藤堂の平手の勢いのままに倒れ伏した体をふらりとルルーシュは起こした。壊れた操り人形のように四肢がぶらりと下がる。美貌と言っていいだろう顔立ちは頬を紅紫に腫らして見るものの哀れを誘った。一撃の効果は非常に高く、ルルーシュの平手などとは比べ物にならない。
「俺はお前も大切なものだと思っている…お前を亡くし、たくない。俺の手の届かない場所へ行ってしまうなんて――赦せるわけがないだろうがぁッ!」
テーブルへ飛びついたルルーシュの手が拳銃を手に取り藤堂へ向けた。同時に藤堂の手も腰元へ伸びて忍ばせていた自動拳銃をルルーシュへ向ける。互いの照準がひたりと互いにあわされる。
「ゼロはそのカリスマ性とリーダーシップにおいてのみ認められている…君が撃てば私も撃とう。だがな、ゼロ…否、ルルーシュ」
藤堂はぴったりと照準を合わせている。その狙いが揺らぐことは、無い。ルルーシュは指先が震えるのを感じた。かつてスザクとこのように相対した時、発射が遅れてスザクに対して不覚をとった迷いが、ルルーシュの指先を震わせた。信じ愛おしく想うものへ向ける銃口。それがルルーシュの素早さを奪った。
 「屠るものはいつか屠られる。嘘をついた子供が嘘をつき続けなければ真実を隠せないようにな」
震える横隔膜にルルーシュは喘いだ。ルルーシュの濡れ羽色の黒髪が乱れて額を隠す。ギルフォードが紫水晶と称した紫苑の瞳は傷つき涙をあふれさせていた。
「君は最初の頃に言っていただろう。『撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ』と。私もそれに深く同感する。相手を殺すときは殺される覚悟で臨むべきだと、想っている」
「じゃあ、お前は…戦闘に出るたびに? 殺されてもいいと思い戦局へその身を投げていたと言うのか?」
茫然としたルルーシュに藤堂は頷いた。
「殺すとき、殺される覚悟で戦闘には臨んでいる」
敵を散らすその刃、自身が散っても構わないと言う覚悟のうえに成り立つそれ。
 藤堂が初めて淡く微笑した。
「君は、大切なものを持ちすぎだ。戦場において大切なものは不利益を生じさせる原因だぞ」
「お前こそ、四聖剣を背負っているじゃないか」
笑いながらルルーシュは泣いた。手ががくがくと震えた。照準を示す赤い光線は藤堂の頭部から胴部までを常に満遍なく行き来した。藤堂の拳銃の照準はルルーシュの頭部に据えられたまま揺らがない。
「俺は、お前を亡くしたくないんだ…重ねた肌も顔もこんなにも覚えている。そんなお前までなくしたら、俺は」
「君がギルフォード卿をどんなすべで嵌めたかは知らないが。彼の想いに君は応えたのか」
「ギルフォードには過酷な定めを背負わせたよ――俺の業だ。その罪俺は泣いて傷ついて生きていかなければいけないんだろうな」
ギルフォードはルルーシュをコーネリアと認識するギアスの中で逝った。忠義をつくすべき姫様を守ったと信じて彼は逝った。その満足げな微笑はこれからもルルーシュを苛むだろう。
 「…朝比奈は、私の行く末を思って君の何かを確かめようとしていた。私が従う価値が在るのかこの目で確かめると朝比奈は爆心地へ近づいて逝ったよ…」
ゼロはルルーシュであり神聖ブリタニア国皇子であるが故に秘密主義に徹さるを得なかった。その秘密を探ろうとした朝比奈は巻き添えの形でスザクの放ったフレイヤの爆発に巻き込まれて逝った。
「朝比奈は、誰よりも、私を想ってくれていた。そんな想いに応えてやれず先立たれた私は一体どうすればいいと」
藤堂の灰蒼の瞳が潤んだ。藤堂もまた大切な人を亡くして泣いていた。それは卜部であったり仙波であったり朝比奈であったりした。
 省悟、と下の名を呼び捨てるほどに親密だったのだろう関係。肌を重ねるのも一度や二度ではなかっただろう。それほどまでに情を交わした相手を亡くす痛みが、あぁ誰に解ろうか。
「お前は朝比奈を亡くした…だが、俺はギルフォードを亡くしたんだ…ギルフォードは笑って、逝ったよ。穏やかに微笑して、俺を守りきれたと、信じて、あぁ――…俺、は俺は!」
銃を振り捨ててルルーシュは濡れ羽色の髪をかきむしった。君にかけたギアスはそのままに。偽りの忠誠によって生き延びた我が身を我は許せずにいる。あの時ともに消えてしまえたなら、何も考えずに逝けたなら。
 あぁ罪が我が身を灼く。君の絶命のもとにあるわが命は。君がいなければ意味などないと、言うのに――
「…とうど、う。俺を殺すか。俺を殺して黒の騎士団も捨てて出奔するか?」
跪いて首を垂れるルルーシュの頭部に照準はあわされたままだ。藤堂は油断なくルルーシュを窺っている。朝比奈を亡くした激情にその身を灼かれてなお、軍人たる気質が冷静さを養っていた。
「俺は、きっと、お前になら殺されてもいい――お前は俺を殺す権利がある。お前の大切な四聖剣を…朝比奈を、卜部を、駒に使った罪がある…」
ルルーシュはこれ以上ないほど美しく笑んだ。その双眸から溢れる涙は尽きることを知らず。
「それに――好きだと思うものに殺されたらそれは永遠だ…これ以上の幸せなどない」
 藤堂の指先が震えた。この引き金を引けば、黒の騎士団を率いたゼロを殺せる。卜部や、仙波や朝比奈の仇がとれる。けれど藤堂はその引き金にひっかけた指を引けずにいた。自分が傷ついているのと同等に傷ついている少年でしかないゼロを討つことに躊躇する。彼もまた罪を背負って、生かされているのだと。
「――わ、たしは…!」
振り切るように振りあげられた腕が拳銃を床にたたきつけた。ばぁんと砕ける音がしたが、安全装置が働いたのか暴発もせず拳銃がからからと滑った。
 「…私は、朝比奈を亡くした!」
大切な人がいない。その喪失感はこんなにも大きくて苦しくて泣きたくて。けれどそのはけ口はここにはない。藤堂の鋭い眦から雫が滑り落ちた。潤みきった瞳は飽和量を迎えて決壊した。あふれる涙を流れるままに藤堂は叫んだ。
「大切なものを守るための戦いで、大切な人を失うなんて――!」
藤堂は踵を返して部屋を出た。あふれる涙を拭いながら藤堂は冷静さを取り戻そうと必死だった。朝比奈が最期に言ったゼロは信用できないと言う言葉すら応えてやれずにいる自身が不甲斐なかった。あぁ、君は。君がために。けれどその罪の根源たる彼の傷つくさまを見て藤堂は冷徹な殺人者にはなれなかった。
 藤堂はたまらず通路へしゃがみこんだ。膝を抱えて丸まる。そうすると自身の拍動が聞こえる。朝比奈は藤堂の胸に耳を寄せてよく言っていた。藤堂さんは鼓動すら愛しいです。君が好んだこの拍動を今、一人で聞いている。
「しょ、うご…しょうご――」
体裁も外聞もなく藤堂は涙した。朝比奈の手向けになれば自身の体裁など簡単に捨てられた。朝比奈、君にこの涙は見えているか、この声は届いているか――
「しょ、うご…」
オレのいる場所は藤堂さんがいる場所ですから。そういった君は今、いない。君の居場所たる私だけが生き延びて君を亡くす。こんな辛いことは他にあろうか。解放を言祝いでくれた君も肌を重ねた君もこんな穢れた体を喜んで抱いてくれた君も。あぁ愛しい君はここにいない。その命あらず。それがこんなにもつらい。
 「あさひな、しょうご――」
藤堂は膝を抱いて泣いた。


 「罪、か」
ルルーシュは自嘲するように藤堂のたたきつけて壊れた拳銃をとった。
「俺は、お前が好きだ…ギルフォードと同じくらいにはお前を、想って」
だってこんなにも、重ねた肌や唇や、抱いた体の感触が残っている。その熱すら愛しく感じる。互いになくしたものを埋め合わせるだけのつもりだった。藤堂はゲンブに抱かれて熱をあげるすべを覚えてしまった体躯をもてあまし、ルルーシュはゼロとしてではなくルルーシュとして彼を見てくれるものを求めていた。その利害が一致した時、藤堂とルルーシュは肌を合わせた。互いに本命がいると知っていた。火遊びのつもりだった。本気なんかじゃなかった?
「鏡志朗…お前、まで俺の前から消えるのか」
ギルフォードの喪失が突然だったように。藤堂の喪失もまた突然だった。
 「俺が好いた人は皆、いなくなるんだな…」
それは幼いころ心を共有しあったスザクであったり慰めてくれたギルフォードであったりルルーシュを認めてくれた藤堂であったりした。そんな悲しいジンクス。ルルーシュの内部に生まれた。『好きになった人は近々消える』。震える喉。あふれる涙。誰がために泣かんとする。その涙は誰のために。ルルーシュの紫苑の瞳は涙に濡れて白目の部分は充血していた。目を真っ赤にして泣いたルルーシュを最愛の妹とともに慰めてくれたスザクは敵となり、一人涙するルルーシュを抱きしめてくれたギルフォードはすでに逝き、ルルーシュ自身を見てついてきてくれた藤堂は離反せんとする。
「呪われた皇子か…は、ははは…まったく、その通りだよ…!」
ルルーシュは顔を覆った。拳銃が二丁、カシャンと乾いた音をたてて床へ落ちた。
 好いた人はすがった人は、その元を離れていく。何という呪いだろうか。
「…殺せ。誰か俺を殺せ…!」
そのためならどんな芝居も打ってやる。裏切りも離反も造反も厭わない。愛しい人に拒絶されて生きるすべさえ消えた。そのくらいには、藤堂お前を。
「あは、は、はは――…ぁ、あぁう、ぅう…」
消える直前のギルフォードの微笑が藤堂の泣きだす直前のような表情と重なった。二人ともルルーシュだけを見てその結果の表情であることが共通項だ。笑い、泣き、他者へこんなにも影響できるのだとルルーシュを安堵させる。
「藤堂、お前が、俺は」
笑い眇められた紫苑の瞳は潤みきっていた。あふれる涙をぬぐおうともしない。あふれるままに頬を濡らすそれの感触はめったに味わえない開放感を伴った。
「俺はお前が好きだった――」
ギルフォードも藤堂も。ただ報われない想いを胸に抱き俺は死んでいく。それがきっと俺の贖いと罪。
「あ、あぁッ、あぅうぁ、あぁ――」
ルルーシュは泣いた。朝比奈を想って泣くだろう藤堂を想って。コーネリアを想って笑ったギルフォードを想って。
「お前たちだけだった、んだ…俺を、俺を見てくれて抱きしめてくれたのは――」
偽りであってもよかった。代わりでもよかった。ただ君のその真摯なる眼差しだけが俺を救いあげた。
「うッ、うわ、うわぁ――…」

君が、好きでした
君のために世界を
造ろうとしたその罪と贖いと

好きな人のために世界をつくるのはそんなに罪なことですか?

「ギルフォード、藤堂…――ッ!」
たまらない身を灼くこの感情が。君がために。君のために世界をつくる。君が平和に暮らせる世界を作らんとして我は働かんとする。それなのに君はわが目の前から消えていく。
「あぁ、あッ――…!」
ルルーシュは慟哭した。

君が、好きでした。
君を、好きです。


《了》

なっが、長い…! 書き始めた当初は短くなるかなとか心配してたのに無用だった…!
とりあえず二人とも泣いているだけ小説。(身も蓋もない)
様々なカップリングが盛り込まれています(いっそ開き直り)
あとはもう誤字脱字ですね、それさえなければ…!(やっぱり行き着くのはそこ)
ギアス見た衝撃のままに書いたで見苦しいかも(いつもそうだろ☆)
神那様のみお持ち帰り可能です             08/18/2008UP

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