どうしようもなく好きなんだよ


   君はいつだってそうなんだから

 「あぁ、藤堂さん見てくださいよあれー」
朝比奈の浮かれた声が街路に響く。黒の騎士団だと崇高な理念を謳ってもその構成は人間であり生活に必要な様々なものがあり、外から得るしかないものも数多にある。藤堂と朝比奈もその一環でこうして商店が連なる街路を一般人の顔をして買い出しに来ているのだ。密やかな活動の所為かこういった外部との接触は思いのほか少なく、そのぶん所用や手荷物が増える。藤堂と朝比奈は二人で分担して何とか荷物をさばいていた。
 ついてくるといった四聖剣の紅一点である千葉を押し留めたのは藤堂だ。いざというときは逃走すら考えられるうえに女性である千葉を荷物持ちに駆り出すほど藤堂は合理的ではない。人出が多いといざという時が厄介だからと千葉を説得した。藤堂は女子供を守ろうとする傾向がある。そんな藤堂が女傑とはいえ女性である千葉を荷物持ちに駆り出すわけもなかった。
 朝比奈は眉の上から走る傷さえ除けば凡庸な顔立ちで今まで何度も潜入任務に就いている。一般人になりきるにはうってつけで怪しまれない。そこへ責任感の強い藤堂が自らも力になりたいと買いだしと荷物持ちを買ってでた。男二人などある意味で悪目立ちしそうなのだがあいにく手の空いた者がおらず、この二人で繰り出すこととなった。悔しそうに見送ったディートハルトに向かって朝比奈が舌を出したのは言うまでもない。
 「福引ですよー懐かしーなー…特賞のペアチケット当たったら一緒に行きましょうね」
名前は何と言うのか知らないが多角形型をして取っ手の付いた物体が設えられた机の上にいくつか鎮座している。取っ手を持って表記された方向へ回せば小指の先ほどの小さな玉が一つ転がり出る仕組みだ。その色によって特賞からハズレまで様々な商品が用意されている。無邪気な子供がやりたいとせがむ光景がちらほら見えた。
「…まず当たらないと思うが。それになぜ私となんだ? 千葉と行けばいいだろう」
朝比奈が途端に何とも言えない顔をした。藤堂は何故だか千葉と朝比奈の仲を誤解している。朝比奈が藤堂に働く不埒な行いに千葉が腹を立てて追いまわすのを、どこをどうしたのか仲が良いからだと藤堂は了承している。
「…藤堂さんのそういうとぼけたところも嫌いじゃないですけどね」
朝比奈がふぅッと嘆息してたそがれるのを藤堂は不思議そうに眺めている。
 「やってきたらどうだ?」
「へ?」
藤堂はごそごそと隠しから引換券や補助券を取り出した。
「あそこで福引をやっているからだったんだな。行く先々でもらった。何回か出来るのではないか?」
朝比奈も自身の隠しを探って券を取り出す。数えてみれば何回か挑戦できそうだ。
「オレがやっていいんですか?」
「年少の者の方が良く当たると聞いた気がする。邪気がない、のだそうだ」
邪気など藤堂以上に有り余る朝比奈だがこの申し出を素直に受けた。福引が懐かしくもあったし、特賞とまではいかずとも何かしら当たれば藤堂に贈ることができるかもしれない。朝比奈は街路の端に寄った藤堂の足元へ荷物を置いた。
「じゃ、じゃあやってきます! 絶対何か当ててきますから!」
意気込んで駆けていく朝比奈を微笑で見送った藤堂は店の間に立つ柱へ背を預けた。
 こういった喧騒に身を置くのも久しぶりだ。秘密行動の多い騎士団では針の落とした音すら響きそうな静けさの中で就く任務が普通なせいか、かえって新鮮だ。その場の雰囲気すら楽しみながら福引の列に並ぶ朝比奈の背を視界でとらえながら藤堂は荷物をおろした。
「藤堂さん!」
かけられた朗らかな声はいまだ少年期の甲高さを残している。顔を向ければゴーグルにも似たサングラスをかけた少年がいた。服装は適度に流行を取り入れた、至って標準的な格好だ。その指先がひょいとサングラスを外した。くるくると元気良く巻いた赤褐色の髪と碧色の瞳。
「スザクくん…!」
藤堂は懐古や嬉しさの念を抱くと同時に緊張した。スザクは今では名誉ブリタニア人としてブリタニア軍に籍を置く。黒の騎士団とは明確な敵対関係にあると言ってもいい。スザクは秘密を話すときのように人差し指を唇の前で立てて見せた。
 「買い出しですか? 実は俺もお忍びのお付きなんです」
「お忍び?」
不思議に思う藤堂をおいてスザクの後ろから彼の連れらしい二人組が姿を見せた。くすみのない金髪とサングラスの男、それに淡く藤色に色付いた緩い巻き毛に穏やかそうなフレームをした眼鏡の男。彼らは意味ありげに視線を交わしてから口元だけで笑った。
「シュナイゼルです」
男はあっさりと正体を明かす。サングラスをとれば勿忘草色をした瞳が穏やかに藤堂を映していた。
「シュナイゼル…!」
藤堂が息を呑む。皇位継承権も上位にあり、重要な任務もこなし切れ者だと噂の皇子だ。
「どーもー、ロイドでぇす。君がスザクくんの言ってたネコぉ?」
「ロイドさん」
へらっと笑って挨拶するロイドをスザクがたしなめる。気心の知れあったようなそんな仕草に藤堂はスザクと隔たっていた月日を感じた。幼いころ藤堂を一心に見つめ師事していた瞳はこんなにも視野を広げているのだ。
 「当たりました! 特賞とまではいかなかったけど結構綺麗な…」
無心に駆けてきた朝比奈がギョッとして立ち止まる。敵方の役者が勢ぞろいもしていれば驚きもする。藤堂はどうしたらいいかも判らず朝比奈へ視線を転じた。小さな包みを抱えた朝比奈が疑い深げにサングラスを外したシュナイゼルとロイドを睥睨する。シュナイゼルは時折民衆の前へ顔を出す。その所為か名前と顔が知れている。だからこそサングラスをしているのだろう。それでも天上人がこんなありふれた商店街にいるわけがないという常識じみた確信がシュナイゼルを埋没させていた。通りを行きすぎる親子連れやカップルはシュナイゼルに気づきもしない。
 「なんだ、チビも一緒なのか」
その言いようにスザクが不快げに顔を歪めた。
「いい加減チビなんて言うな。幾つのときの話だよ」
「お前よりオレは年上だけどな、チビ。藤堂さんが絶対である以上お前のチビさ加減も絶対さ」
諍いを起こすスザクと朝比奈をよそにロイドはじろじろと藤堂を眺めた。ぶしつけなその視線はいっそ潔いほど露骨で怒る気も起きない。
「スザクくんが年上好みだとは知らなかったなぁ…ねぇ、君、具合は結構いいの?」
「具合?」
藤堂が問い返すと同時にスザクがばっと振り返った。
 「ロイドさん! 訊くまでもないこと訊かないでください! 藤堂さんの具合の良さは天下一品ですよ!」
「当たり前だろ! 藤堂さん以上の男なんているもんか」
朝比奈が素早く反応する。要領を得ているらしい返答にスザクは頷くが、藤堂の方は全く意味が判らない。ロイドは疑わしげに小首を傾げた。飄然とした雰囲気の中のそれは自然な動作だった。
「僕の知ってるネコの方がいいと思いますけどねぇ。かーわいいよぅ、黒と水色の対比が綺麗でさぁ」
「藤堂さんだっていいですよ! 天然の鳶色の髪にこの瞳!」
スザクがびしっと指を差し朝比奈が頷いている。藤堂は鳶色の髪と灰蒼という複雑な色合いの瞳の持ち主だ。灰色とも蒼色ともつかない中間色の瞳が一行を不思議そうに眺めている。髪色だって特に染めたり手入れをしたりなどしていない。ただ必要最低限の手入れをしているだけで藤堂自身、自分が洒落っ気を持つなどとは思ってもいない。衣服だって実用性を重視する構わなさだ。時折見かねた朝比奈やディートハルトが組み合わせを指示する。それでもロイドは疑わしげだ。意外と頑固な性質なのかもしれないと藤堂はぼんやり思った。
 「だって、僕が知ってるネコは感度だっていいし」
「整えられたそれらを崩すのが楽しいのだよ」
不満げなロイドの後を取ってシュナイゼルが気苦労を知らない貴族らしい鷹揚さで言った。
「いくら二人でも、藤堂さんを貶めるのは俺が許さない!」
「藤堂さん以上の奴なんて知らないな、いるわけもない」
スザクと朝比奈が藤堂を擁護しているらしいことは判ったが何を基準に議論しているのかを藤堂はいまいち掴みきれていない。そこへ荷物を抱えた一人の青年が顔を出した。
「あぁ、ここにいらしたのですね!」
「ギルフォード卿…!」
藤堂にとっては驚きの連続だ。ギルフォードは皇女であるコーネリアの騎士として時折ニュース放映の片隅に映っていたりする。それでも後ろに控える人物である所為か、街路を行き交う人々はこの面子の凄さに気づきもしない。
 「あ、と、藤堂…!」
奇跡の藤堂の名はブリタニア軍に知れ渡っている。調子づいたブリタニア軍に足払いをかけるように煮え湯を飲ませたのが藤堂だ。軍属のものならその名くらいは知っている。
一瞬二人の間に緊張が走ったが、シュナイゼルがそれを鷹揚に収めた。
「二人とも仲良くしてほしいな。ここは往来なんだよ」
「…はい」
ギルフォードは荷物の陰で呟いた。藤堂が改めてギルフォードを見てみれば、あちらも買いだしだったのかギルフォードの両腕に余るほど荷物を抱えている。スザクが言っていたお忍びとはこれかと藤堂は嘆息した。
 「ほらぁ、この黒髪! 綺麗でしょ? 真っ黒なんじゃなくて黒褐色っていうのかなぁ、ちょっと違う黒でさ。目の青さだっていいじゃない。薄い色。髪と瞳の色彩関係の遺伝情報は実に興味深いよ。こんな組み合わせ見たことないもの」
ロイドが大仰な仕草で口上を並び立てる。シュナイゼルもくすくすと笑いながらそれに応じる。
「それにね、普段小奇麗にしているものを壊す愉しみというものもあるのだよ」
「藤堂さんだって高潔ですよ!」
「動かないそれをオレが動かすことに喜びを感じるね」
 とたんにスザクと朝比奈が応戦する。
「朝比奈! お前まだ藤堂さんのこと」
「お前みたいなチビにお前呼ばわりされる覚えはないね、チビ。藤堂さんとオレはつながってるんだよ、お前なんか想像もつかないような深部でさ」
犬が威嚇するときのようにスザクが低く唸った。それを見てシュナイゼルは嘆息交じりに苦笑した。
「仲間割れかな?」
「殿下ぁ、僕だって独り占めしたいんですけどぉ」
「おや、予算だけではなく猫を愛でる権利まで奪うのかい」
ロイドとシュナイゼルの方でも微妙な諍いが発生した。
 取りあえず会話に取り残されている藤堂とギルフォードは顔を見合わせた。微妙に主語を省いた今までの会話は不可思議なだけで藤堂とギルフォードは興味もわかなかった。荷物を気にしながら藤堂は終わりの見えない諍いに飽いていた。ギルフォードがすっと何か差し出す。
「なんだ」
「いえ、あそこの懸賞で当たったもので、一緒にどうかと。…終わりそうに、ないので」
言葉の後半は朝比奈やスザク、ロイドやシュナイゼルの諍いを示しているのだろう、控えめだ。確かに終わりの見えないそれに飽いていた藤堂はその申し出を受ける気になった。所用はあらかた済んでいるし、荷物を紛失したりしなければ咎めも少ないだろう。何より藤堂は会話についていけない不服を感じてもいた。彼らは意図的に主語をぼかして会話している。
 示されたのは喫茶店の割引券だ。割引の度合いは高く、人数も無制限と大盤振る舞いだ。少しお茶をするくらいの無作法は許されるだろう。具合良くその店はこの近くだ。藤堂は朝比奈の分まで荷物を抱えなおした。ギルフォードも荷物を抱えなおし、二人で喫茶店へ向かう。諍いを繰り返す彼らは聞く耳を持たず、それを承知して二人はあえて行き先を告げなかった。
 喫茶店の中は空調も効いていて快適だ。案内された席へ着くと同時に荷物を下ろすと開放感を感じる。二人とも大荷物を抱えて奇妙な二人組に見えるだろう。ギルフォードが割引券を示して適当に注文をつける。藤堂は黙って窓の外を見ていた。ちょうど良く、言い争う朝比奈達が見えた。彼らは藤堂とギルフォードが姿をくらましたことにも気付かず諍いを続けているようだ。朝比奈はよく回る口で応戦し、ロイドはそのひょろりとした長い手脚で身振りたっぷりに主張する。スザクはその若さゆえの勢いで話し、シュナイゼルは豊富な経験に基づいて応じる。多少の諍いや言い争いなど呑み込んでしまう寛容さが商店街にはある。街路を行き交う人々は面倒事にかかわるのを嫌って無視する。
 「そちらはなんで…って、訊かない方がいいのだろうな」
ギルフォードが苦笑しながら藤堂の抱えていた荷物を見る。藤堂も微苦笑を浮かべてギルフォードの荷物を見た。高価なものばかり取り扱う店のロゴが入った箱や袋だ。財布の中身が違えば買い物の中身もおのずと違ってくる。
「そうだな。訊けばお前も説明を要する」
何かを得ることは何かを代償に支払うことを意味している。藤堂の買い物の理由を問えば、ギルフォードも荷物の由来を問われても仕方がない状況になる。二人はそれを想って微笑した。
 「何を話しているんだろうな…二人とも何か通じ合うらしくて私を良く揶揄するんだ」
ギルフォードが困ったように苦笑しながら言う。
「朝比奈とスザクくんも昔はよく張り合っていた。…何かを争っていたようなんだがそれが何か判らなくてな」
取り残された者同士で笑いあう。荷物を持つ時間が長かったのか、腕は解放を喜び、この休息時間が続けばいいのにとさえ思わせる。
 「あの、ギルフォード卿、ですよね?」
二人のテーブルへ一人の少年が歩み寄っていた。年若いゆえの無謀さを承知している聡明な瞳は紫苑色。髪はギルフォードの黒褐色とは違う純粋な濡れ羽色だ。艶やかな黒髪が店の明かりを反射して天使の輪と女性が呼ぶ艶を見せる。美貌の少年は大胆だが控えめに二人を見た。
「実はギルフォード卿のお顔をニュースで見て覚えていたんです。お二人の邪魔にならなければご一緒してもかまいませんか? こんな機会滅多にない。学校でみんなに自慢できます」
少年はスザクと年頃はそう違わないだろう。手脚がむやみに長い、成長の過渡期にある体躯をしている。上品に整えられた短い黒髪。
「僕はルルーシュ・ランペルージと言います。この後もお付き合いできれば幸いです」
ルルーシュは年少な者ゆえの強引さで椅子を引き寄せ、ウエイトレスに注文をした。ウエイトレスは教育が行き届いているらしく速やかに注文を受諾する。
 「ルルーシュ…!」
ギルフォードの息を呑む音が聞こえたが藤堂も同じ思いだった。ルルーシュと言えばスザクといい友達になってくれたブリタニアの皇子だ。皇位継承権は低位なものの、皇子であることに相違なく間違いなくブリタニアに属するものだろう。
「あなたは?」
穏やかに微笑した美貌に問われて藤堂は躊躇しながら名乗った。二つ名がどこまで知れ渡っているものか知れないが、ルルーシュの中にそれがないことを願った。
「…藤堂だ」
「藤堂、さん。改めまして。ルルーシュ・ランペルージです、よろしくお願いします」
握手を求めるように差し出された手に促されて藤堂は手を出した。握手を交わすとルルーシュは藤堂が無二の親友であるかのように華やいだ笑顔を見せた。
「テレビで放映されるような有名な人とご一緒できるなんて嬉しいです。ブリタニア国に幸いあれ」
その時ウエイトレスが注文をまとめて持ってきた。それぞれの前へ珈琲や紅茶を並べる。藤堂自身は日本茶が飲みたい気分だったが他人の割引券を使う手前わがままは控えていた。それを読み取ったかのようにルルーシュは微笑した。
「美味しい和菓子を出す店を知っているんです。これから行きませんか? もちろん、お二人のご都合がよろしければで、構いませんが」
ギルフォードは躊躇するかのように運ばれた珈琲をすすった。無駄な音をさせないその所作は彼が高貴な生まれであることを窺わせた。ルルーシュは紅茶の中へ砂糖とミルクを少々入れてかき混ぜる。陶器が触れ合う音すらさせないしつけの良さは彼の生まれを暗示してもいる。
 「…私は、和菓子には詳しくないんだ。なにが美味いのか不味いのかも判らない。そんな稚拙な舌しかないのだけれど」
ギルフォードが藤堂の方を窺うように見た。仔犬のようなその目に藤堂は屈した。聡明で無垢で、熱心な瞳。捨てられていた犬を拾ってしまう子供の気持ちが判るような気がした。
「藤堂さんは?」
問いかけるルルーシュに他意などないかのようだ。窓の外を見やれば朝比奈達は飽くこともなく諍いを続けていた。むしろそれは発展しているかのようだ。朝比奈まで身ぶり手ぶりを交えて議論している。置いてけぼりを食った分、彼らをないがしろにしてもいいだろうと藤堂は折り合いをつけた。
「…じゃあ、その和菓子が美味しい店を教えてもらおうか。三人で行こう」
ルルーシュの顔が見た目に判るほどに華やいだ。美貌なだけのその変化は顕著で美しい。
「じゃあ、今から行きませんか? 今なら季節ものの寒天寄せとか餡のものとかがあると思うんです」
高価な品をそろえる店ほど季節感を大事にする。たまに早熟ものを扱う店を見かけるがそれはほんの一握りだ。
 ルルーシュが一息に紅茶を飲みきってしまうのを見て藤堂は慌てて珈琲に口をつけた。熱いそれが舌先でびりっと弾ける。顔をしかめる様子にルルーシュが笑んだ。
「猫舌ですか?」
「…熱い茶はよく飲むと、思うんだが」
珈琲の苦味と熱さがびりびりと響いていた。熱い番茶などたしなむくせに珈琲となると勝手が違うらしい。ギルフォードまで微笑してその様子を見ている。
「日本茶とは違うでしょう。無理して飲まなくてもかまいませんよ」
日本茶は概して淹れるのが難しい。熱い湯では良くなく、程よく温んだ湯であるほど良いとされ、良質の茶葉であるほど沸点を超えてから温んだ湯で淹れると美味いという。珈琲などと違って淹れる手順など紅茶並みの面倒さだ。藤堂は日本がブリタニアに奪われた当初からそうした正式な手続きを踏んだ日本茶をたしなむことを諦めていた。珈琲で満足する人々が日本茶を淹れる面倒さを受け入れるとは思えなかった。
 「気にしなくてもよさそうですよ、終わりそうもない、ほら」
ギルフォードが窓の外を示せばルルーシュが興味を覚えたのか覗きこむように身を乗り出す。街路では朝比奈とスザク、ロイドとシュナイゼルが議論を戦わせている。その主題は微妙にぼかされて藤堂とギルフォードには知らされないままだ。蚊帳の外へ追いやられた鬱憤晴らしにここにいる。
「本当に終わりそうにないな」
嘆息する藤堂の様子にルルーシュが笑った。無邪気な笑い声に藤堂は在りし日を思い出して微笑する。スザクもこんな無邪気な笑い声を立てて笑ったものだった。
「だったら、こっちが置いてけぼりを食わすって言うのはどうですか? やられっぱなしなんて嫌でしょう?」
「違いない」
藤堂は微笑すると苦い珈琲を今度こそ一息に嚥下した。やはり日本茶の方が好みにあっているなと思いながら荷物を抱えて席を立つ。ギルフォードも藤堂といい勝負な荷物の量だ。ルルーシュが二人の荷物を少量ながら等分に受け持った。
 「悪いな」
「気にしないでください。買い物の量が多い男性なんて珍しいですね」
藤堂は機密主義から、ギルフォードは単に答える言葉もなく、二人は黙りこんだ。藤堂はテロリストの物資調達であり、ギルフォードは皇子のお忍びの買い物だ。二人とも声を大にして言える買い物とは言えない。黙りこむ二人にルルーシュは困ったように微笑した。
「訊いちゃいけなかったですか? ごめんなさい。でもこれからご案内するお店は折り紙つきですよ。季節ものが美味しいんです。ブリタニアに占領されても残るものは残るんですね。和菓子を好むイレヴンの感覚は繊細ですね」
見知ったかのように言うルルーシュはその年代に特有の傲慢さを併せ持っていた。
 「行こう。この商店街にあるのかな? それともどこか、別の」
「この商店街です。そう遠くもない。それに目立つ看板も出してないから静かだしリラックスできると思います」
ルルーシュは見てきたかのように請け負い語る。藤堂は二人分の荷物をさばきながらルルーシュの案内に応じた。ギルフォードもどっこいどっこいだ。お忍びの買い物は際限を知らないらしくギルフォードの手に余るほどの量になっていた。
「大丈夫か」
「あなたこそ。福引を当てた彼の分まで持っているんでしょう。大丈夫ですか?」
そういえば朝比奈が福引で何を引き当てたのか聞いていない。綺麗な、という言葉がつくからには何か確固たる物体なのだろう。それでも藤堂はその疑問を無視してルルーシュに従った。朝比奈は藤堂の存在など忘れたかのように身ぶりを交えた熱弁をふるっている。話題が尽きれば自然と藤堂を探すだろうし、いないとなれば騎士団へ帰るだろうと踏んで、藤堂は朝比奈にあえて行く先を告げなかった。また朝比奈も場所を移動する藤堂の様子に気づいたふうもない。

 「二匹のネコ。どう料理してやろうか。二人とも食っていいってことなんだろうな、これ」

ルルーシュが虚空に向かって何か呟いた。何だと問う藤堂にルルーシュはなんでもありませんと微笑で応えた。もとよりギルフォードはそんなやり取りに気づいてもいない。
「まずは、餌づけかな」
 ルルーシュは口元だけ歪めて呟いた。大荷物を抱えた二人のネコは互いを気遣いあいながらルルーシュの後を従順についてくる。気真面目で清冽な二人をたった一人である自身が乱してやるのだと思えば心が躍る。ルルーシュは満面の笑みで二人が追い付くのを待っていた。


《了》

な、長い…! だいぶ前のリクエストなのでお忘れかもしれませんが一応アップです!
藤堂受けとギル受けの議論に取り残される藤堂とギルのお話です(身も蓋もない)
誤字脱字ないといいな…(チェックしているのにあるのはなんでだろう)
神那様のみお持ち帰り可能です          07/13/2008UP

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