※ゲームED後 ネタバレ有、ご注意


 当たり前のこと、訊くなよ


   君を守るよ

 特区発足に伴う小競り合いをライとスザクは二人で鎮圧してきた。無論、二人きりの軍隊ではないからときに指揮官となり、時に最前線を任されと臨機応変に戦闘をこなしてきた。学園祭で縮んだ二人の距離がまた少しずつ開いて行く。二人ともが強力な戦力であるから割合裂かれがちなのだ。お前はあっちお前はこっちと力あるものが孤独になっていくのは必然の様でもあった。それでももともとは反政府組織であった戦闘力の投入などにより二人は少しずつ顔を合わせることも増えた。大がかりな作戦になれば二人一緒にいられる。
 ライは久しぶりのスザクとの邂逅を全身で愉しんだ。スザクはライのよき理解者であり親友であり戦友だ。失くした記憶を取り戻すという発端から付き合ってくれ、協力も惜しまず動いてくれた。ライが記憶を失くした時、初めて信じてみようと思ったのがスザクだった。近寄りがたかったという評判の自分に気さくに話しかけてくれた。素性を調べるつてさえも作ってくれ、結果としてスザクはライを救ってくれた。スザクは「僕も助けてもらったことがあるから」とあっさり言ってのけるがライにとってはそれ以上のものを与えられたに違いない。控室の簡易ベンチに腰を下ろしたライはパイロットスーツを脱いだ。機密性の高いそれは時折体の音と調節や発汗機能を阻害する。精密な戦闘機を動かすための負荷だと了解はするが多少厄介であることに変わりはない。ライは腰のあたりまで脱いだところで伸びをした。胸部を覆うように白いサポーターをつけている。
「そう言えばさ、セシルさんが新しい料理を覚えたから振舞いたいって」
びしっとスザクが硬直した。スザクもまた腰のあたりまでパイロットスーツを脱いでいる。腰骨が覗くあたりで自然としわが寄って衣服が絡まるようにわだかまる。
 「おにぎりのレパートリーが増えたらしいよ。あと、オスシもちょっと載せる具材を変えたって。生クリームを多めにして桜桃を…」
「待ってくれ、いいよ。ライ、僕はもういい」
「そうかい? 結構面白そうだけど。チラシズシも覚えたって」
何が散らされた寿司になるかは想像を絶するがライの方に違和感はない。もともとライには料理についての愛国心もこだわりもないから、どんなに奇天烈な料理でも美味ければ食う。スザクは日本人と言う自覚と経験があるからセシルのアレンジした日本食には少々食傷気味らしい。スザクいわく、日本人ならやらないよ、だそうである。スザクは事あるごとに振る舞われるセシルの料理を平らげるライに本当に一度本来の日本食を味わってくれと言う。
「だったらスザクが作ってくれればいいじゃないか」
「僕の料理の腕前なんて限られちゃうよ。…まあ、おにぎりくらいは作れるけど。ちらし寿司とか」
「ユーフェミア皇女殿下にはもう腕をふるったのかい」
瞬間、スザクの顔がぼんと爆発したように真っ赤になった。爆弾を落とした自覚のないライはさらに、ねェどうだった、美味しいって言われたかい、と追い詰めていく。
 「ユフィはそんなじゃないよ! だいたい、騎士と主君の間柄をライはちょっと誤解しているよ。ギルフォード卿なんかが聞いたら切り捨てられそうだよ」
「一度言われたよ。コーネリア総督は美人でいいですねって言ったらものすごく怒られて切り捨てねばならなかったところだった、とか言われて」
「ライ、君は本当におとなしいのか大胆なのか判らないな…」
ライはきょとんとしたままだ。群青の瞳が透き通って薄氷へ色を変える。それは採光窓が自動的に動く角度に比例して色が変わっていく。薄茶に見えた髪は亜麻色に透けてぴんぴん跳ねた毛先へ行くに従って蜜色になり透けて行く。ライはそれでも疑い深くスザクを見上げる。下から見上げてくる大きな瞳はぱっちりとして綺麗な二重だ。
 スザクがくるくると癖っ毛の紅茶の短髪をかき混ぜるように頭を掻いてううんと唸る。鶯色の双眸が困り切った色で潤んだように瞬く。はっきりとした目鼻立ちで頑固な性質のように眉筋も太い。少年から男へと羽化しつつあるものがそこに合った。典型的な日本人と言うには鼻が高く鼻梁がすんなり通っている。それでも唇は桜色に色づき恥ずかしげにためらう言葉を吐いた。
「ユフィは本当に違うんだ。恋愛感情と一緒にしたらいけないと思うんだ、今の騎士と主君の関係である以上は。それに、その」
言い淀むスザクをライがわくわくとみている。くっきりと山形をかたち退く唇が堪えきれない笑みに薄く広がり、真っ赤な紅でも指したかのようである。ライは白皙の美貌であるから血色の好さがよく判る。
「それに、その…僕が」

「僕が恋人として好きなのは、ライ! 君なんだ!」

ずずっとスザクがいざりより、ライは驚きのあまりぽかんとしている。スザクは色のついた皮膚でありながら頬を赤らめて言い募る。本当なんだよ、僕は君も守りたいし君に傷ついてほしくないし君に笑っていてほしいんだ。これって、恋じゃないかな愛じゃないかな?
「…ぼ、く? スザク、でも僕は君に話した通り、罪人だ。殺戮者なんだ。そんな人並みの幸せをもらっちゃいけないんだよ」
スザクの手ががしっとライの両手を取った。おそらくは眠りにつく前、血まみれであったろう両手を。ライが身じろいだ。退こうとする。それを遮るスザクの手は熱くてとても力強かった。
「人を殺したという十字架なら僕だってもってる。処刑人になりかけたことだってある。戦闘の規模に比例する死傷者数は僕たちの戦績だけど、それは僕たちがどれだけ殺したってことであることも判ってる」
だから僕も一緒だよ。僕だって罪人さ。咎人だ。
「それに前に言っただろう? 君は、僕は過去と決別する時が来たのかもしれないって言った。僕はそれに賛成するよ。僕はユフィの立ちあげたこの特区を、君と二人で護っていきたいと思っている。ユフィに聞いたってそう言うよ。逆に僕が叱られる。どうしてライの手を放してしまったのですか、ってね」
「スザク」
吐息が触れる。二人ともひたひたと湿った皮膚に触れあう。スザクがそっと唇を重ねた。

「あっはー、いちゃいちゃしてるゥ」

ばちんと弾かれたように二人がそっぽを向いた。異物者は平然とした顔で二人の方へ同時にファイルを差し出す。
「新しいパーツのデータだから目を通しておいてねー。試作段階だからレポートもよろしく! 二人の対戦方式でやってもいいよー、んっふふっふっふ」
意味ありげに特徴的な笑いを含ませるのはロイドの癖だ。スザクとライはファイルを受け取ると軽く目を通す。その間にもスーツを着用し直した。喉仏まであるインナーの留め具を上げてバルブをひねって空気を抜いて布地を密着させる。
「いーい? 君達二人はボクの大事な大事なデヴァイサーなんだから欠けたら駄目なの! 色恋沙汰でもめて顔合わせたくないから辞めますって理由は認めないからねー。んふッ、そんな忠告、もういらないかな?」
にやにや笑いが常態であるロイドに言われると今まで二人で諍いあっていたのが馬鹿馬鹿しくなる。その分、寸止めを喰らった口付けが惜しい。吐息の湿りや熱が伝わってくるほどの距離だった。
 「ロイドさんは本当に厄介ですね」
倦んだような諦めさえにじませたスザクにロイドはくすくす笑った。揶揄の笑いである。スザクも判っているから深追いしない。ロイドのようなタイプは相手を自陣へ引き込んでぶちのめす性質だ。ロイドのペースに嵌まったら負けである。スザクは長い付き合いから、ライはそのスザクから伝え聞いていて心構えがあった。
「あぁそうそう、大幅に遅れない程度にだったらいつシュミレーションを始めてくれてもいいからねー二人で極めてね。青少年の恋っていいねぇくっふふふふ」
二人が何をしようとしていたか明らかに知っている。ライは嘆息してスザクを見るとスザクも同様であった。ファイルでばしんと頭を一発はたいてから立ち上がる。スザクは気持ちの切り替えが早い。
 ライもそれに倣った。ファイルにもう一度目を通してから暗唱する。スザクよりライの方が学術的なことの理解は速い。もっともそれを使いこなす順応性は双方共どもに常人ではあり得ないスピードなのだが。
「やりましょう。ライ、いいかな?」
「構わないよ。面白い装備だね、これ」
ロイドの後について行きながらスザクがすすっと近寄る。頬をすり合わせるように絡みつくのはスザクらしくない。シュミレータに乗る事前準備を眺めているライの頬へちゅっと温かい感触が触れた。目をぱちくりと瞬かせて思わすあてがう手は何の痕跡も感じ取らない。ただぬるくやわい感触があったのが判るだけだ。
「すざ」
「シーッ。ばれちゃう」
ライはむぅと唸ったが黙り込む。ほっとするスザクの両頬をばちんと挟むように押さえてから唇を思い切り吸った。
「仕返し」
ぺろりと篝火のようにちろちろ紅く燃える舌が艶めく朱唇に呑みこまれていく。それをスザクは茫然と眺めていた。手出しはおろか揶揄さえ出ないほどに、綺麗で美しくて艶めかしくて。
「ライ、決めたよ。僕は何があっても君を守る。これは騎士としてではなく僕個人の決意としてだけど」
ふわりとライは笑んだ。それはどこか妖艶でそれでいて保護者を得たことの出来た安堵の笑みの様でもあった。

「僕が僕であるために僕は君を守り抜くよ」

スザクの指先がグイとライの頬を拭う。
「泣かないで」
「…泣かせるようなこと言ったくせに。…ありがとう」

僕も君を守るよ。
君が守りたいもの全て、僕も守って見せるから。

「ありがとう、スザク」
ライが乱暴に濡れた目元を拭うとばっちんと両頬を挟み打った。じんじんと沁みれる痛みが脳を動かす。
 この国はまだ安定したわけではないのだ。特区日本を守るために君が働くというなら僕もそうする。僕がそうすると言ったときに君はとてもうれしそうにしてくれたから。だからね、要するに。

大好きって、事なんだよ。


《了》

なんかやっつけ仕事っぽいよね…いやライ好きです、ライ。       2012年3月10日UP

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