※ゼロバレ、流血表現、少しあり
 卜部生存設定


 もっとひどい痛みを、知ってる


   甘い暴力

 ひちゃ、と水たまりに靴先が浸った。路地裏は世界が圧縮されるたびに密度と危険度と真っ当性とを高め、また失くしていく。書類上の登記に意味はなく幌のような布で屋根をつくる露店の顔触れは日替わりで変わった。使い古された油や塵が流しこまれる水路は悪臭を放ち、その無精さは人々の暮らしにさえ影響した。空き家がいつの間にか店になり民家はいつしか空き家になる。玄関の三和土へ腰を下ろした男の双眸は虚ろで意識の有無さえ危うい。だがここで変な仏心を出しては路地裏で暮らしていけない。卜部は豹変して脚に絡みついてくる男を殴打して蹴り飛ばした。廃墟となった店舗の看板だけが煌々と通路を照らし、覆いは破れて中の電球がさらされている。電力の供給が途絶えるまで瞬くようにそれはどこか胡乱とした明かりだった。
 指定された場所は路地裏でも奥深く、方向をひとたび見失えば出られなくなる。だからこそそこで何をするかは暗黙の了解ができている。空いていれば誰かが使うし、ふさがっていれば誰も気にもしない。卜部はトンと湿ったコンクリートを蹴って壁の縁を歩く。長身の卜部の視界がますます高く開けた。夜闇の中で盛んに明るく照らされて商売声も高い健全な街とく錆びた明かりに瞬く路地裏との対比は面白い。運河が近い所為か路地裏の水路は街から流されてくる水を汚してから海へ注ぎこまれていく。卜部は塀の上を、長い手脚を器用に繰ってひょいひょい歩く。まるで猫のようだと揶揄される。事実卜部は己を動物にするなら猫だろうなぁと思っている。猫は情に薄いといわれるが懐くときは懐く。卜部という野良猫は今は藤堂鏡志朗という飼い主を得ている。
 その藤堂のさらに上に位置する者からのダイレクトな要望に応えるために卜部は藤堂を裏切るようにこうして路地裏を歩いている。その上位者はつい最近復活したばかりで、その救出作戦には卜部も参加し、瀕死の重傷を負った。それでもまァ何とか四肢五体満足に動くし後遺症もない。
「この辺かァ」
ひょいと壁から降りて進むと栗色の短髪の少年が待っていた。手脚も体もまだ華奢で性別の変更さえ可能に思えるほど中性的で不安定だ。くりくりとした双眸は硝子玉の煌めきを有する。それでいながらこの路地裏に怯みもせず独りで卜部を待っていたらしい豪胆さは彼がただの可愛いだけの男の子ではないことを示す。
「卜部巧雪?」
頷くと少年が先に立ってさらに奥へ階段を下りていく。後ろを振り返りもしない。
「来るのが遅いね。イレヴンは時間にうるさいって聞いていたけどそうでもないのかな」
「イレヴンじゃねぇ日本人だ」
「その変化や違いは、僕には興味ないね。僕が大切なのはゼロなんだから」
地下室へ向かっているらしく二人分の靴音がかんかんと響いた。手抜き工事らしくいつ崩れるともしれない。犯されたまま生き埋めになって掘り出されんなァやだなァと茫然と思った。
「ゼロが指定した場所だから大丈夫だよ。崩れたりしない。あんた読みやすいね」
むっとした卜部が返事をせずにいると少年はふんと口元だけを吊り上げて笑った。
「だから死にそうになんかなるんだ」
どういう意味だと問い詰めようとした時少年が扉の前で手続きを踏んだ。開く。簡素な部屋だ。大きなサイズの寝台と応接のように小卓と椅子がある。長椅子まで用意されていて長時間とどまるにも最適だ。
 寝台の上に座っている少年を知っている。黒絹の様なさらりとした髪、すんなりと苦労もなく伸びた手脚。指先や関節部を見ればその人がどの程度の階級に属しているか判る。水仕事などしたこともないだろう白い手の少年は、ゼロという仮面で世界をにぎわす少年で、その名をルルーシュという。ルルーシュという名前がファーストネームなのかファミリーネームなのか、洋名に疎い卜部には判らない。ただこの名前をゼロという仮面を取った素顔を明かされた時、藤堂にも言わずにいろといわれて卜部はそれに従っている。もともと卜部自体が不真面目なクチであるから口を拭うくらいなんでもない。必要なことを言わずにおいて後になって同僚である四聖剣の面々や藤堂から叱責されたことも少なくない。
 「巧雪、そこの子供、どう思う?」
卜部はこれから閨をおっぱじめようという二人の部屋から退出しない少年の存在に気付いた。アァつまり加わるってこと。卜部は何の感慨もなく少年を上から下まで目線を移ろわせる。肉桂のようなどこかまだ甘い香りを漂わせながら少年は真っ直ぐ立っている。空色のパーカーを着て中のシャツは勿忘草色。オリーヴグリーンのハーフパンツからは膝が覗き、丸い膝蓋骨が窺える。
「お前が殺し損ねて、お前を殺し損ねた操縦士だぞ」
「名前はロロ。それ以上のことには応えないから。僕はお前なんか本当はどうだっていいんだもの」
「ロロって、お前じゃあ最近ゼロの肝いりで参加した新入りってなァテメェか」
「さぁ始めよう巧雪。今日はロロもいる。ゲストさまもいらっしゃるぞ喜べ」
ロロがドンと卜部を突き飛ばす。不意打ちであったことと同時にルルーシュが卜部の襟を掴んで引いて、卜部は寝台の上に転がった。ルルーシュが上からのしかかる。右手を抑えられて嫌な予感がする。直後、ドスッと思い音がこもって寝台に詰められていた綿が飛散した。ルルーシュは卜部の右手をナイフを貫通させて固定した。
「が…ッぐ、ぅ…」
卜部も軍属として多少の痛みに関しては免疫がある。大量の出血を見ても驚かないし骨折程度なら堪えられる。ルルーシュはふんと冷たく見下ろす。容貌が整っている分、それは怜悧に美しい。
「だからお前は可愛くない。痛い苦しい嫌だと見苦しく泣いて喚いてくれれば面白いと思ったんだが」
「サド野郎」
卜部の左手が隠しへ滑り込む。戦闘訓練を受けたうえで必要であったのは利き手を限定しないことだ。卜部は右も左も同様の速度で反応できる。だが気付いた時隠しにしまってあった小型拳銃はルルーシュの手にあり、卜部の額に照準を合わせていた。
「な、」
左手が空の隠しを探る。
 「理解するのは難しいか。気にしなくていい。お前は、普通なんだから。そこが可愛らしくもある」
ルルーシュは卜部の脚の間を陣取り体を傾けてくる。白くて滑らかな指先が冷や汗の伝う卜部の頬を撫でた。
「弱者を愛でるのは強者の特権だ。あぁほら怯えるな、オレはオレが好きなやつには優しいぞ?」
ひょうとしなった左手がルルーシュの頬を直撃した。仰け反るルルーシュの背後からロロが迫る、そこまでが卜部の意識で、次の瞬間には、ルルーシュが突きつけていたはずの小型拳銃をロロが手にしていた。しかも卜部のこめかみへゴリゴリと押しつけてくる。いつ発砲するともしれない高ぶりを見せて甲高い声でわめく。
「余計なまねはするな! お前は脚を開いて抱かれていればいいだけなんだよッ!」
意識が断続的に途切れ、気づいた時には環境が変わっている。ルルーシュの救出の際のナイトメア戦を思い出させる。取った、と思った直後に敵の戦闘機は卜部の背後にいた。
「あンときの戦闘機乗りかよ…」
ったく、こんなガキに。悪態をつけばごりっと容赦なく銃口がめり込んだ。
「ロロ、おとなしくしていろと言ったはずだぞ」
弟を諫めるような口調で頬の腫れを確かめているルルーシュが言った。途端にロロがしゅんとしょげて銃も下ろされた。
「だって…綺麗な顔を殴ったりするから、こいつが。身の程知らずだと思ったんだもん」
ルルーシュはペッと血の混じった唾を吐いてから卜部に平手を炸裂させた。
 「まったく、お前に必要なのは愛撫ではなく調教か? しつけが必要なら藤堂に代わってオレがしつけてやる。オレのしつけは厳しいからな、覚悟しておけ」
ルルーシュの手がきゅうと卜部の脚の間を握りこむ。それだけで優先権はルルーシュへ移行する。
「ロロも協力してくれるとさ。さぁ、可愛いお前を見せてくれ」
ぎしり、と寝台が軋んだ。


 「ん、むぅふ…ッン、ンぅ…ッ」
一回りも年齢の違いそうな幼い少年の抜き身を口いっぱいに咥えこむ。
「ぁんッ」
可愛いような声がして卜部の喉奥までどっと奔流が流れ込む。噎せながら嚥下した卜部の体がどさりと寝台に転がった。度重なる結合と放出、高揚は卜部の自制を振り切って、卜部の体の主導権はもはやルルーシュとロロが握っているといってよかった。体中に白濁を浴びて卜部はとろりと濡れた目を開く。口の端からはこぽぽ、と呑みきれなかったロロの白濁が溢れた。ぐん、と髪を掴まれて引き起こされる。縹藍の髪は短いから引っ張られると痛い。
「…ッ、ん…」
「意識はあるか、よかったよかった」
卜部は速く便所へ行きたかった。胎内の白濁をかきだしたかったし、何より嚥下を強制された白濁が腹の中で重く溜まって残っているのだ。藤堂と同じことをしてもこうはならない。藤堂の熱や体液はまるで循環するように卜部の体に吸収されてしまって、藤堂の方で気分は悪くないかなどと問うてくるほどだ。
 血まみれのナイフが転がっている。右手はすでに自由だが、薬でも塗ってあったか、卜部の体力が落ちているからか、機敏には動かない。少年たちは卜部の体を好き放題に扱った。ひっくり返され裡を晒され卜部の羞恥などかまいもしない。膕を抑えられて脚の間を丹念にいじり回された時には泣きだしたいような恥ずかしさだった。
「卜部、腹の中を綺麗にしてやるよ? お前がどうされたいか、オレには判る。オレはお前が大好きなんだから」
ごぶ、と音をさせて散々にひきつらせられた裏の門が破られ、胎内の白濁がかきだされる。ルルーシュとロロのそれが混じり合い量も多かった。卜部は口元を引き結んで羞恥に耐えた。自分より一回りも小さいような少年に体を好きにされている。だが卜部の抵抗はことごとく不発に終わる。隠しナイフも小型拳銃も手に取った時点で、次の瞬間にはルルーシュかロロが持っている。出来るのは瞬発的な殴打だけだが右手は怪我で痺れて動きが鈍い。左では距離が長くて防がれる率が高い。加えて抵抗した分、その仕返しは閨で行われ、そこに倫理や良心は微塵もない。
 「ッふぁッ…や、ぁぁあ……」
ルルーシュの指が動くたびにびくびくと卜部の体が跳ねた。ロロがくすりと笑って卜部の抜き身へ口を近づける。
「もう反応してる。やっぱりゼロの相手は上等な雌じゃないとね…可愛い雌猫だね、ゼロ」
ロロがぱくんと卜部の抜き身を口に含んだ。すぐに追い上げる愛撫で卜部の抜き身は追い上げられていく。
「…――ひぁぁあぁあッも、ひぃい無理、無理…ッやぁああ…」
薄い水がロロの口内ではじけ、ロロは苦もなく嚥下した。
「可愛い雌猫だろう、ロロ。オレはどうも手放せない」
「飼ってやればいいよ、ゼロ。ゼロは至上の存在なんだから誰に遠慮することもない。誰の猫でもいいから奪っちゃえばいいんだ」
ロロはくるんと寝台の上で身を翻す。息が上がって喘いでいる卜部に罪のない笑顔で訊いた。
「ゼロ以外にも抱かれてるんだよね? 誰に抱かれてるの? そいつをぶっ殺してゼロ専用の猫にしてあげる」
ロロの表情はあくまで無垢で純粋で愛しいものだ。
「殺せンのかよ…」
ニィイと卜部の口が裂けるように笑む。ロロがむっとした顔をする。紅く火照ったように艶を帯びる唇がすぼめられる。
「藤堂鏡志朗だぜ」
この名前を出すのは卜部にとって賭けだった。卜部がどう思おうが藤堂が卜部をどうするか確約はない。これでルルーシュが藤堂に打診して藤堂が卜部を要らぬと言ったならそれまでだ。だがそれならそれが俺の価値だと卜部には諦めも感じている。ロロの表情がびしっと強張る。線の細い子供でも藤堂の戦闘力は判るらしい。
「…に、ゼロ。藤堂は不味いよ。藤堂を失くすことはできない」
「そうだな。藤堂をなくせない。巧雪、藤堂とオレとどちらかを選べとはオレはあえて問わぬことにしておこう。これで懸念は保留になったかな?」
ルルーシュは己に抱かれながらなお、藤堂との関係を継続させろと言っている。
「下種野郎」
がんっと硬質な音がして卜部はこめかみに疼く痛みを覚えた。ロロが持っていた小型拳銃の尻で卜部を殴ったのだ。目の奥でちかちかと星が散った。
「ゼロの侮辱は赦さない!」
ロロはふんと笑う。
「話は聞いてるよ。藤堂鏡志朗の処刑寸前の奪還だったんだって? だったらお前たちみんなゼロに額づくべきなんだ! ゼロの靴に唇を寄せて忠誠を誓うべきなんだ!」
「ロロ、構うな。オレはそこまで求めん」
「ゼロ、」
「オレはそんなに浅ましくないぞ。たった一度の奪還で『奇跡の藤堂』を物に出来るチャンスだったからな。だからロロ、こいつらの言動は気にするな」
ルルーシュに言われてロロはおとなしく、うん、と頷いた。
 「シャワーくらい、貸せ…」
のそりと動く卜部にルルーシュは綺麗な笑顔を向けた。なみなみと水を張ったバケツを掴む。まさか。卜部が懸念した刹那。ばっしゃあんとバケツの水が卜部に向かってぶちまけられた。
「シャワーの代わりだ。お前にはしてほしい仕事がある」
ぽとぽとと水の滴を滴らせる前髪をがっと上げて卜部は、はんと笑った。裸に剥かれていた卜部の衣服は幸い無事だ。卜部はひらひらと水を切りながら衣服を身につける。
「作業ポイントD-30958で作業FTK-01947。これだけ言えばお前には判るはずだ」
「ヘイヘイ、了解しましたよって」
卜部は飄々としたものだ。ロロが怪訝そうに見る。
「僕が行く?」
「卜部の方が慣れているから気にするな。お前は可愛い猫と同時に役立つ工作員だよ」
卜部はふわりと振り向きざまに笑んだ。洋服を身につけながらの半裸の状態のそれはひどく扇情的で艶めかしかった。すっきりとしたうなじや規則正しく並ぶ脊椎。くぼみを生みながらピタリとはまる肩甲骨に美しい曲線を描く背骨。衣服の奥底へ隠れてしまう骨格の美しさを卜部はもっている。
「綺麗だろう?」
ルルーシュは卜部の艶めかしい体を眺めながらうっとりとそう呟いた。


後日、反体制勢力の中で反黒の騎士団の団体の主要基地が連続爆破でその機能をほぼ失った。


《了》

途中で入力できなくなって焦った!
誤字脱字ノーチェック!(しろ)                     2011年9月11日UP

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