ただ厭われた我を神は愛でた
01:黒き世界への邂逅
薄闇と格子窓から射す日差しの位置で時の移りを知る。用足しの場所と寝室は同じで出入り口は狭く格子戸になっている。全面格子のそこに潜り戸が嵌められているのだ。普段は格子と同化して見分けがつかないが、食事を運ぶものがわずかに戸を開く際にのみ、それは独立する。たったったと軽い足音がする。今日は懇意にしている人物が食事を持ってきてくれたらしい。ちょっとした差異が日常に彩りを添えた。
「鏡志朗さん!」
丸い形の眼鏡をかけた青年が盆を抱えて顔を出した。何か戦でもあったのか、ある時期を境に彼の顔には眉の上から走る傷跡が走っていた。それでも目が閉じたままになることもなく、痕跡だけを残して治癒しているらしい。
「朝比奈」
名を呼べば朝比奈は嬉しそうに笑った。食事の盆以外にも学習用の冊子を抱えていた。年少のもの向けなのだろうそれは彩りも鮮やかで気分を高揚させる。難しい漢字には読み仮名がふってあり、難しい比喩も言い回しもない。朝比奈だけは、鏡志朗に食事を運ぶ際に細々した物を持ってきてくれる。それは絵本であったり嗜好品であったりした。
「鏡志朗さん、今日の食事です。あと、学習雑誌があったから失敬してきちゃいました。これくらいなら読めるでしょ? 鏡志朗さん、頭いいですもんね」
朝比奈は楽しげに話しながら扉の鍵を開き、自身もそこへ入ってくる。座敷牢と呼ばれる、そこへ。
鏡志朗はさっそく朝比奈に渡された冊子を開いていた。朝比奈はくすっと笑ってからごそごそと荷物をさらに出して見せた。鋏と手鏡、櫛が並ぶのを鏡志朗は小首を傾げて見た。
「髪、伸びてる。だから切ってあげますよ。大丈夫です、美男子にしてあげますから」
気づけば肩へつくほどに伸びていたそれに鏡志朗は初めて気づいたように指でつまんだ。前髪をすべて上げて額をあらわにしている所為か、髪の伸びを忘れがちだ。
「ありがとう」
刹那、朝比奈が泣きだしそうな顔をした。ぽろぽろと涙がこぼれる。唐突に泣きだした朝比奈の様子に鏡志朗は困ったように微笑した。
「綺麗にしてあげます…オレが来れるの、これが最後なんです…あなたに会えるのも、あなたがここにいられるのも今日、までなんです…」
涙に濡れた暗緑色の瞳を鏡志朗は不思議そうに見返した。朝比奈はきりっと引き締めた顔で鏡志朗を見た。
「あなたを神に捧げる日が決まりました」
「…私は、どこかへ行くのか」
「ごめんなさい、オレたちの、オレたち住民のためにあなたは…! あなたは神へ捧げられるんです! 人身御供という名の生贄です、オレたちが、自分たちの利益ばっかり優先したから! ごめんなさい、ごめん…!」
鏡志朗の単衣にしわが寄る。ぶるぶると震える朝比奈の手と肩を、藤堂は困ったように見た。そして微笑する。
「ひとみごくうとは、なんだ? 私は、どこへ行くんだ? いけにえとは、いったいなんだ?」
朝比奈はすべてに首を振ってから鏡志朗の髪へ鋏を入れた。じょきじょきと切り揃えられて整っていく鳶色の髪を朝比奈は泣きながら撫でた。しばらく鋏を入れる音だけが響いた。朝比奈は懸命に何かをこらえていて、鏡志朗はそれを感じながら言い表す語彙をもたなかった。
気づけば格子越しに何人もの人間が鏡志朗を見ていた。
「時間だ」
朝比奈は名残惜しげに髪を整え終えてから離れた。その白い頬を涙が濡らして、薄日に煌めいた。それはいつか絵本で見た真珠というものに似ていると鏡志朗はぼんやり思った。何人かの男が入ってきて鏡志朗の衣服を着替えさせ身なりを整える。そのまま後ろ手に縛られて鏡志朗は物心ついてから始めて格子の外へ、出た。暗い廊下の奥にはなにやら駕籠が待っていて鏡志朗はそこへ乱暴に押し込まれた。異議を唱える間もなく赦しもなかった。駕籠の窓から外を見たそれは魅惑的で鏡志朗の気持ちを沸き立たせたが、鏡志朗を見る人々の目は哀悼の意に染まっていた。やがて人通りも減り、森の奥深く入口に張られたそれが注連縄だと知らない鏡志朗をそこへ降ろした。いくらかの干し肉と皮袋を渡される。皮袋の栓を抜けばそれは水だった。
「このずっとずっと奥へお行き。そうすればこれと同じものが張ってある場所へすぐにつく。その奥へと行くんだよ。間違っても戻ってきてはいけない。戻ってきたら、お前を打ち殺すよ」
駕籠を抱えてそれだけ告げると男たちは駆けるように立ち去り、鏡志朗はとにかくもう元のあそこへ戻ることはないのだとそれだけを知った。言われるままに草木をかき分けて歩く。萌える新緑の香りは爽快だった。歩き続けるうちに鏡志朗は腹が減れば干し肉を食い水を呑んだ。何度かそれを繰り返し、夜が黒く染まるのを何度か繰り返してから、駕籠を降ろされたのと同じ注連縄が張ってある洞窟へ出た。そこには一人の少年が待っていた。
年のころは朝比奈と変わらないか年少だ。赤褐色の毛先がくるくると元気よく跳ねた短髪で、碧色の瞳をしている。腰に携えた剣が妙に似合うと鏡志朗は思った。
「あなたが新しい贄か。…綺麗な人だ」
彼は鏡志朗にも解る程度の言葉で話した。座敷牢で日々を送っていた鏡志朗は時にその寡黙さを責められたが、話し相手自体が存在しないのだから仕方がない。それでも少年は嫌な顔もせず鏡志朗を誘った。
「あなたの、名前は? 俺は枢木スザクと言います」
「な、ま、え? きょうしろう。鏡志朗、だ。鏡と志と、月の方の朗だ」
スザクはくすりと笑んだ。明るく悪戯っぽいそれは朝比奈を思い出させる。
「綺麗な名前だ。似合ってます」
スザクにつれられるままに歩きながら鏡志朗は周りを見た。スザクが不意に立ち止まる。行きどまりのそこへ腰の剣を掲げ何事か唱えると魔法のように扉が観音開きに開いた。ただ驚く鏡志朗の手を取る。
「さぁ、こちらへ。それがあなたの運命だ」
「うん、めい? うんめいとは、なんだ?」
一瞬スザクの眉根が寄り、鏡志朗はびくりと体をすくませた。食事を運ぶ者へ何事か問えば、その相手が朝比奈でない場合、返ってくるのは罵声と暴力のみだった。それを思い出して防衛の体勢に入るのをスザクは哀しげに見た。微苦笑を浮かべて鏡志朗を誘う。
「決められたこと、です。あなたが科せられたことを決めるものに会いに行くんです。大丈夫、恐いことなんて、ないから」
鏡志朗はその手をとった。暖かいそれは朝比奈のそれに似ていると思った。鏡志朗の世界はあの狭い一間に終わり、外界は朝比奈のみだった。扉の奥へ飲みこまれるように鏡志朗は歩を進めた。
「新しい贄を連れてきました」
スザクが跪き、鏡志朗も慌てて膝をついた。スザクの動作を真似ただけであり、わたわたとした感が拭えない。それにクックッと喉を震わせて、彼は哂った。のっぺりとした平面に部屋が映っていた。鏡のようなそれを鏡志朗は口を開けたままぽかんと見入った。それは絵本や食事を運ぶ者共と違い、眉や瞳や鼻はおろか口さえもなかった。細い指先がそれを覆うように添えられ、少々の摩擦音をさせてそれを取って初めてそれが仮面であると知る。偉く整った顔立ちの少年が年にあわない不遜さで椅子に腰かけていた。仮面を放り捨て、スザクがそれを拾う。一連のそれらを鏡志朗は茫然と見ていた。
「なるほど、灰蒼の瞳か。それ故に贄に選ばれたか…不運だったな、美し人よ」
「…君は?」
「俺か。俺はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア…貴様らが崇め奉る神と呼ばれるものさ。いろいろと便利だからこの姿を取っているが、化け物がよければそれ相応に変えてやる。どうする? このままでいいか?」
鏡志朗はこくこくと頷いた。年の頃は朝比奈とそう変わらないだろうに傲岸不遜さは天地の差だ。ルルーシュと名乗った彼を鏡志朗はまじまじと見た。夜の闇のように黒い髪と美しい紫苑の瞳。その瞳はいつか朝比奈の持ち込んだ宝石図鑑の紫水晶のようだと思った。その片目だけが妙な文様を浮かび上がらせ紅く光っている。
「あぁ、これか。大丈夫だ。お前にギアスは使わない…必要が、なければな。お前が臆して逃げるようなら使うぞ。どうする? 俺を恐れて逃げるか、帰る場所など疾うにないというのに」
鏡志朗は黙って続きを待った。鏡志朗の生において待つことが常であり、発することなど許されなかった。ルルーシュは焦れたのかいくらか言葉じりも乱暴に言いつのった。
「お前の名を聞いていなかったな。名前は」
「鏡志朗。鏡に志に月の方の朗だ。彼は似合うと言ってくれた」
スザクを指し示せばルルーシュは楽しげに呵々大笑した。
「なるほど。それで、名字はなんだ? 和名なら名字がいるだろう、そこのスザクでいえば枢木のようにな」
「みょう、じ? 知らない…考えた、事もない」
ルルーシュは静かに豪奢な椅子から立ち上がった。つかつかとスザクを通り過ぎて鏡志朗の方へ歩み寄ってくる。鏡志朗は恐慌をきたした。自身の何かが彼の癇に障ったのだと思い、体を強張らせた。人が歩み寄った後の行為は暴力でしかなかった。カタカタと震える鏡志朗にルルーシュはそっと手を差し伸べた。柔らかな手の平が鏡志朗の頬に触れる。
「怯えるな、大丈夫だ、お前を傷つけはしないから。お前は俺のものだ。俺は俺のものを壊すような馬鹿じゃない」
ぺたりと座り込む鏡志朗の頬を撫で、首筋へ手の平を滑らせる。
「皮膚の色は焼けた色をしているな…だがそれがまた美しさを増している。その瞳とよく似合っている、この刺青は俺のものであるという証だ。逃げることなどできはしない…」
鏡志朗の全身には幾何学模様の刺青が入っている。蒼いそれは内股や脇の下など普段隠れる場所ほど鮮烈に鮮やかにと彫られ、痛みもひとしおだった。頬にまで及ぶそこにルルーシュは舌を這わせた。
「実に美しいじゃないか…お前の灰蒼の瞳とよく合う色だ。蒼が影響し合っている。お前、閨房の術はどの程度だ?」
「け、いぼう?」
小首を傾げる鏡志朗にルルーシュはこらえきれないと言った風に吹きだして笑い、スザクも微笑した。
「寝床の話だよ。お前、色は使うのか?」
「いろ? 私は、何も知らなくて。言葉も、あまり…人と、話すのも少なくて。朝比奈が教えてくれること以外は、全然」
「俺の前で違う男を口に出すな!」
がんとはね付けるそれに鏡志朗が怯えた。長い脛もあらわに裾を乱して体を丸めて防衛の体勢を取る。鏡志朗にとって相手の激昂は即暴力へつながった。いつ拳や脚が腹へ食い込み頬を打つか判らない。抵抗は許されず鏡志朗ができるのは享受することのみだった。
「ルルーシュ!」
気づいたスザクに言われてルルーシュは鏡志朗の怯えに気づいた。ふゥッと息をついてから鏡志朗の前へ屈みこむ。麗しいルルーシュの顔が眼前に見えて鏡志朗は見惚れた。
「悪かった…お前を怯えさせるつもりはない。だが、俺の前で俺以外の男の名を口にするな、スザクを除いて、な。お前が世話になったやつか? その朝比奈とやらは」
鏡志朗はただ黙って頷いた。ルルーシュはにっこりと笑んだ。
「そうか、お前には名字もないのか。母親にすら捨てられたか…よくその歳まで生きながらえたものだ。俺に捧げることを前提として村の連中が養っていたか…呪われた灰蒼の瞳だ、人身御供以外に使い道などないだろうに」
ルルーシュは美しく笑んだ。絵本のようなそれに鏡志朗は見惚れ、恐怖も忘れた。ルルーシュが笑えばそれですべてがいいのだという気さえした。
「ゼ、ロ…様」
ようやく動いた鏡志朗の頭は崇められている神の名を紡いだ。ルルーシュとスザクは苦笑しあってそれを訂正した。
「それは、俺が民衆の前へ姿をさらすときの通り名だ。真名はルルーシュ。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ。よく覚えておけ、名字も無き鏡志朗よ…どうだ、お前に名字を贈ってやろう」
鏡志朗は小首を傾げてから頷いた。鏡志朗は物心ついてから拒否を示すことも感じさせることも許されなかった。ただ施されるそれらをすべて受け入れるのみを望まれていた。
ルルーシュの目が部屋の隅へ房を垂らす植物へ向いた。
「あれはな、藤という花だ。…藤堂、にしよう。藤堂鏡志朗。美しいじゃないか」
「と、う、ど、う」
「そうだ、藤堂だ。お前は藤堂鏡志朗だ。藤の花は俺の瞳と似た色をつけた花を咲かせる…藤堂なんて、俺に仕えるものらしい名だ。似合うぞ、藤堂」
「とうどう!」
鏡志朗はにっこりと微笑んだ。蠱惑的なそれにそばで見ていたスザクすら心拍数をあげた。灰蒼と評された瞳が鋭さを失くして無邪気に微笑む。年長者であるのに幼子のようなその無垢さにルルーシュは息を呑んだ。座敷牢で育まれたであろう生による無垢さが発露していた。外的な要因を一切取り除いた無垢で剥きだしの好意のみがそこにある。
「私は、藤堂鏡志朗! 藤堂、鏡志朗だ!」
「あぁそうだ。藤堂。お前を藤堂と呼ぶぞ。お前は俺に仕えるんだ、いいな?」
「つかえる?」
小首をかしげる様子すら微笑ましい。
「俺の言うことは何でも聞くということだ。いいな、鏡志朗…藤堂鏡志朗よ」
「判った」
こくんと頷いて了承の意を示す彼は年嵩であるのに無垢な幼子の魅力を有していた。真っ白で純粋に周りを信じ疑うことを知らない、頃。スザクも苦笑している。これほど素直は贄はルルーシュにとっても初めてだった。大抵の贄は口減らしを兼ねていて生意気なガキか年老いたものであった。彼らに無垢さや素直さを求めるのは難しく、ルルーシュの逆鱗に触れて屠られていくのが常だった。その関門をあっさりと通り抜けた藤堂鏡志朗にスザクは嘆息した。色素の濃い人種族の中で薄い色素は呪われたものとして忌み嫌われる。鏡志朗は肌も浅黒く髪も鳶色をしているが、瞳だけが灰蒼という複雑で薄い色合いだ。それゆえに人身御供として囚われこれまでを過ごしてきたのだろう。名字すら自覚していないということは母親も喜んで彼を手放したのだ。産みの親にすら厭われた彼が初めて受ける好意は人身御供に捧げられた先だった。
「藤堂! 私は、藤堂、鏡志朗!」
ぱぁっと花が綻ぶように笑みを見せる藤堂にルルーシュははにかむように微笑んだ。
「俺たちの名は覚えているか?」
「ルルーシュ…ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア…と、くる、くるる…枢木スザク…」
「なるほど馬鹿ではないらしいな。それだけ一度に覚えればいい方だ。お前が馬鹿でなくて良かったよ」
ルルーシュが挑むようにスザクを見た。
「お前の名まで覚えるとはな。優秀なのか、お前が仕込んだのか」
「俺は何も。彼の…鏡志朗の素質でしょう」
「ならいい。どちらにしろ鏡志朗は、俺のものだ。いいか藤堂、貴様は俺のものだ。俺の言うことが絶対であり反逆は許さない。異議を唱えることも逃げ出すことも許さない。この束縛を嫌うなら今ここで死んでみろ」
「…私は、常にだれかのものであった…それが、誰になろうと変わらない…ルルーシュのものだと言うなら、私はルルーシュのものになるだけだ」
ルルーシュは声をあげて笑った。求めていたものが手に入ったような、それでいて物足りないような何かがルルーシュを侵食した。
「俺のことはルルーシュと呼べ。ゼロでもなく、様付けも要らない。ただ、ルルーシュと呼び捨てろ。命令だ。聞けるな?」
「イエス・ユア・マジェスティ」
藤堂は聞きかじっただけの誓いの言葉を口にした。その重みも意味も知らず、ただふさわしかろうとそれだけの意味で口にした。ルルーシュは言質を取って大笑した。
「なるほど、よく出来た贄だ! これならお前よりのちの贄は贄は要らない。お前がいれば、それでいい。この意味が判るか、藤堂鏡志朗」
灰蒼の瞳が理知的に煌めいた。ただその能力は抑え込まれていただけで解放されれば、その素質をいかんなく発揮した。一を知りて十を知るがごとくに藤堂はルルーシュの言葉を解した。
「私のすべてがルルーシュの、ものになる」
「そのとおりだ! さぁ永劫の契りを交わそう、我が為に捧げられた贄よ! お前は俺と契ることにより不老不死を得て永劫俺に仕えるのだ!」
「ふろーふし?」
かッくんと小首を傾げて藤堂が問うた。その様すら愛おしい。秀でた額から彼は聡明な性質であることが知れる。言葉の意味をいちいち問うことからも窺える。凛とした煌めきを放つ灰蒼の目は民衆には呪われた色として流布している。髪の色素が濃ければ瞳の色素も濃いのが普通であり、大抵の子は髪と同じ色の瞳をして生まれてくる。鏡志朗の場合にはどう作用したのか、その法則が当てはまらず瞳のみが灰蒼という薄い色合いで生まれてきた。当然、藤堂自身のみならず母親も迫害を受けただろうことが窺える。それを逃れるために母親は藤堂を贄の候補として差し出した結果、藤堂は座敷牢で世間知らずに育まれたというわけだ。
「さぁ、おいで鏡志朗。お前にいいことを教えてあげよう。天国が見れるぞ」
スザクは黙って控えている。藤堂はおろおろとルルーシュとスザクを見比べている。どちらに従うべきが迷っているらしい。そんな実直さがまた愛しかった。
「おいで。お前は俺のものだ。その刺青が彫られたその瞬間から、お前は俺のものになると決まったのだよ。だからほら、怖がらないで、おいで」
藤堂は恐る恐るルルーシュの手をとった。あぁその刹那に運命はきまった。
「天国を見せてあげよう。俺は嘘はつかないよ…色事のいの字も知らない体だ…食うのが楽しみさ。一から仕込める機会なんてそうそうない…俺のすべてをお前に刻んでやる。俺好みに仕込んでやるから…色事に長けた女も生娘もすれた少年も食い飽きた。お前のようなものを俺は求めていたんだ…お前こそ理想。お前こそが我が欲望だ。だから、さぁ…おいで」
藤堂はその手をとった。豪華に設えられた寝台が見える。ルルーシュはそこへ藤堂を誘い、絶頂を見せた。
《了》