かけがえのない 03
出会い 〜孝介視点〜
あー、毎日が詰まらねぇ。
親は勉強、勉強うるせぇし。
先こーは進路、進路うるせぇし。
やっぱ、喧嘩してる方が気楽でいいわ。
俺、清水孝介が埜口綺羅の事を知ったのは、不良に絡まれていたあいつを助けた事がきっかけだった。
金曜の昼。俺は、授業に出るのが馬鹿らしくて屋上に行った。
屋上に行ったのはよかったが、そこには先客がいた。
「…っチ、先客かよ。邪魔くせー」
俺は思った事をそのまま口にした。
別に相手がどう思おうが俺の知った事ではないし、寝ているようだから、まぁ、聞こえてないだろう。
「誰が邪魔だ、誰が!」
「…お前が」
先客はどうやら寝ていなかったようで、俺の呟きに食って掛かってきた。
まぁ、俺は即答したけど。
事実、邪魔だし。
「……あ〜そうかい。でもここはお前だけの場所じゃないから、人がいたって何も可笑しくないだろ」
「邪魔なものは邪魔だ。出てけ」
先客の言う事は正論だが、邪魔だし、そんな事は俺の知った事では無いので、わざと相手を怒らせる言葉を言い、出ていかせる事にする。
「何だと?!いい加減にしろよ、お前!」
「うるせーな。喚くな」
どうやら先客は短気らしい。
簡単に罠に嵌まってくれた。
多分、今時こんな単純な奴はいないだろうな。
「あ〜、くそ!もういい!」
思惑通り、先客は苛々しながら出ていった。
これで落ち着いて寝れる。
俺は仰向けに寝転び空を見上げ、それから数分後、眠りについた。
それから数日後、俺は家にいるのも面倒だったので、外をぶらぶらしていた。
どっかに、いい喧嘩相手でもいねぇかな。
暇だ…。
そんな事を思っていると、不良に追われている奴を見つけた。
これはもしかしたら遊べるかもしれねぇな。
俺は、不良に追われている奴を助ける…、何か違うな…。利用する事にした。
これだ、しっくりくる。
「…おい、こっちだ」
そう言った後、俺は走り出す。
どうやら相手も付いてきているようだ。
そしてそのまま人気のない所まで行き、走るのを止める。
俺は後ろを振り返り、追われていた奴を見る。
相手も同じタイミングで俺の事を見た。
「お前、屋上の時のムカつく奴!」
「あぁ?…誰だ、てめぇ」
俺を見て数秒後、かも(と、呼ぶ事にする)はそう言った。
が、俺は全く覚えていないので逆に聞く。
つーか、どっかで会ったか?
屋上?……あー、無理だ、思い出せねぇ。
「覚えてねぇのかよ?!」
にしても、こいつ短気だな。
すぐ怒鳴りやがる。うるせー。
ん?短気?…どっかで同じような事を思ったような…?
…駄目だ。やっぱ思い出せねぇ。
「見つけたぜ!」
「…へ?」
と、そんなやり取りをしている間に、不良共が追いついた。
俺は暫くの間、かもと不良のやり取りを見守る事にする。
「だ、だから俺は清水孝介じゃなくて、埜口綺羅だって!」
「嘘ついてんじゃねぇ!」
「そいつが言ってる事は事実だぜ。北高の早瀬」
暫くやり取りを見守っていたが、不良のリーダーの名前を思い出したし、このままじゃ埒があかないと思ったので割り込む事にした。
「あ?誰だよ、てめぇ」
「お前達が捜してる清水孝介だよ」
どうやら早瀬は俺の事を覚えていないようだ。
頭の出来が悪いな。あんなに何回も喧嘩相手になってやったのに。
とか思いながら、かも…じゃねぇや、埜口の方を見ると、一人で百面相していた。
頭、狂ったか?
とりあえず、声をかけてみる事にしよう。
「…お前、何1人で百面相してるんだ?」
「うるせー!お前のせいで、俺は殴られるとこだったんだぞ!」
声をかけたはいいが、いきなり怒鳴られた。
どうやら埜口は怒っているらしい。
が、悪いのは俺じゃない。
「だから、助けてやっただろうが。大体、悪いのは俺じゃなくて、人の顔も覚えられない、あいつ等出来損ないの脳みそだろ」
俺が悪い。みたいな言い方をされるのは癪なので、不良共の頭の悪さが原因だという事にした。
まぁ、事実だし。
埜口もそう思っているようなの
で、よしとする。
「だ、誰が出来損ないだぁ?!」
「だから、子分含めお前等」
どうやら不良共は、自分の頭の悪さに気付いていないらしい。
頭良かったら、これが挑発だと気付くだろうしな。
「てめぇ…!…殺す!」
「そうこねぇとな。丁度暇してたんだ、相手になってやるよ。……おい、下がってろ」
「お、おう」
やっぱり頭が悪いようだ。
不良共は簡単に挑発にのってくれた。
喧嘩が始まる前に、埜口に下がっているように言う。
巻き込まれるのが嫌なのか、埜口は即座に離れた。
いたらいたで邪魔だから離れてくれてよかったぜ。
それから暫く相手をしていたが、弱すぎて直ぐに終わっちまった。
仕方ないので、埜口の所に行く。
「よぉ、平気か。百面相」
「誰が百面相だ!」
挨拶代わりにそう言ったら、また怒鳴られた。
「あ?喚くなよ。うるせーな」
「……俺は、埜口綺羅だ!名前くらい覚えろ!」
は?名前?
何言ってんだ、こいつ。
「は?覚える必要ねぇだろ。てめぇとは、もう会わねぇだろうし」
「お前、ふざけんじゃ……って、怪我してんじゃん!」
埜口はまた怒鳴ろうとしていたが、どうやら俺の怪我に気付いて怒鳴るのをやめたようだ。
「あ?……かすり傷だろ。ほっときゃ治る」
「馬鹿言うな。俺の家近いから来い。消毒してやる」
「な、おい、離せ!余計な事すんじゃねぇ!」
そう言うやいなや、埜口は俺の腕を掴み、歩き出した。
しかも、俺の言葉は全部無視かよ。
……仕方ねぇ。抵抗すんのも面倒だし、大人しくしておくか。
家に着くと、埜口は親から救急箱を受け取り、2階に上がり部屋に入る。
「適当に座ってくれ」
「……」
俺は言われた通り、適当に座る。
「うし。動くなよ」
それをいい事に、埜口は消毒を始めた。
「完了。いいぞー」
「…………ありがとよ」
「………………へ?」
俺は、礼を言うか否か迷ったが、消毒してもらった(埜口が勝手にやった事だとしても、人としての礼儀はある)ので、顔を背けながらだが礼を言う。
埜口の奴、信じられないものを見るような目で俺の事見やがった。
くそ!礼なんて言うんじゃなかった!
「どう致しまして。…にしてもお前、可愛いとこあるんだなぁ」
……今、こいつ何て言った?
可愛い、と、言ったか?
いやいやいや、ありえない。
絶対にありえない!
そんな事があって良い筈がない!
「………はぁ?!な、何馬鹿な事言ってやがる!」
「うん、やっぱりお前可愛いわ」
………聞き間違いじゃなかった。
こいつ、可愛いって言いやがった。
俺にむかって可愛いって言いやがった!
ふざけるな!くそ!
「〜〜っ!帰る!」
俺は埜口の「可愛い」発言にこれ以上耐えられそうになかったので、家に帰った。
親に見つからないように(見つかったら面倒だ)自分の部屋に行き、そのままベットに突っ伏し、今日の出来事を忘れるために眠った。
「孝介〜〜!」
「何だ、綺羅」
それから半年後、綺羅の猛烈アタックに負けて今では親友と呼ばれるまでになった。
こんな筈じゃなかったんだがな…。
だが、綺羅と一緒にいると色々と楽しむ事が出来るから、今では満足している。
最初は本当にうざかった…。
「俺、生徒会長になるつもりだからお前、副会長になれ!」
「却下」
とか考えていたら、綺羅がいきなりそう言うので、嫌がらせついでに即答してやった。
「な、何でだよ〜〜!(泣)」
「冗談だ。…お前が会長になったら、仕事が溜まる一方なんだろうな」
予想通り綺羅は半泣き状態になったので、俺は冗談だと教えてやる事にした。
本当にからかいがいがあるな、綺羅は。
「お前の尻拭いを出来るのは、俺だけだろ?なら、俺が副会長になるしかないじゃないか」
俺はクスクスと笑いながらそう言い、綺羅の頭を撫でた。
そして俺達は、永富高等学校の会長・副会長になったのだ。
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後書
孝介視点、難しかった…。
まだ、次の話の構想が練れてない…。
お盆までには出来上がったらいいな…。