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「龍 第22話 (まぶらほ+リアルバウト)」太刀 (2004.12.16 22:42/2004.12.17 06:24)
白と呼ばれる色から純度の高い部分のみ集め創ったかのような純白の刃、鍔本には太陽の陽光が結晶化したと見紛う程、黄金色の輝きを放つ宝珠。
柄本から柄頭先の間には精緻な呪的紋様が刻まれ、この剣が唯の剣でないと物語っており、ある種の風格すら醸し出している
剣から受ける印象は、神剣が放つ神々しさでもなく、魔剣が放つ禍々しさでもなく、妖刀が発する背筋が凍るおぞましい感じでもない。
唯、圧倒的な力を秘めているのは、闘いを知らない一般市民でも一目で解る。

その不思議な剣を握り持っている少年が居る。年の頃なら十代の前半の東洋人。
しかし、見る人によっては少年が純粋なアジア系でないと思うだろう。
実際、少年の先祖は世界各地に住む様々な人種が数えられる。外見が東洋人に見えるのは少年の実家である一族の血による効果だ。





少年の実家は表・裏、両方の世界でも極僅かな人にしか知られていない。世間一般に広く知られているのは四家ある分家の内の三家だ。
政界に不動の影響力を持つ陽之森。
日本だけでなく世界経済すら動かす月森。
闘いにおいて魔法旅団の戦闘力を上回り、ありとあらゆる戦場で戦果を挙げる星森。
最後の一家は裏の世界において、恐怖の代名詞と恐れられる影森。

どの家も由緒ある歴史と、維持する力を保持している。
800年の歴史を持つ神城や最近、財政界に影響力を持つようになった風椿など、四家の前では産まれたばかり乳飲み子ほどの力しか持ち得ない。
魔法の名家である宮間家の精霊魔法の魔導技術は数世紀まえに到達、通過している。

一家、一家が巨大な権威を有し、その分野において隋を許さない雷名の四家が同じ一族。それも分家に収まっているのは、宗家である式森が分家全部を合わせたよりも遥かに高い能力を持ち合わせているからだ。
それに、四家が持つ特殊魔法。太陽、月、星、影の聖痕の所有者、『防森』のみが扱える『提供』、『増幅』、『維持』、『放出』の四大魔法を受け入れ扱えるのは宗家の人間のみであり、なにより宗家が持つ最大の特徴は外部から(婚姻を交わした)取り入れた血の力を己のモノにする事だ。外観が変わらないのは融合ではなく、あくまで吸収・昇華だからだ。



棟の箇所で肩を軽く叩く少年は、宗家の嫡男であり本来なら中世の王侯貴族すら上回る一族当主の座を継承される立場の人間だった。
だが、少年は次期当主を選ぶ儀式を放棄した。幼馴染の少女を救う為に・・・・・・
少女と少年は仲が良かった。少年の妹である式森沙夜が頬を膨らませて羨む程の関係であった。



式森沙夜と少年は血の繋がりはあるが、実の兄妹ではない。沙夜の実の父親は少年の父親である式森蒼雲の双子の弟で、影森家の女性と愛し合い宗家を離れた。
時は流れ、沙夜が4歳になったばかりの頃に不慮の事故で両親を一度に失った。
沙夜は泣いた。身体の中の水分が尽きる勢いで、その時はじめて沙夜は少年と出会った。
色々と事情が重なり、沙夜は父親の兄のもとに養子として引き取られた。

沙夜と少年は実の兄妹以上に仲むつまじかった。沙夜は一度、親友である山瀬神代に兄である少年を想う気持ちを話した。
神代は当初、自分が姉である山瀬千早を思う気持ちと同じと判断したが、聞いている内にこめかみに特大の汗を一筋ながした。

募う気持ちもあったが、沙夜は現状に概ね満足していた。たまに少年が幼馴染とデ−トに出掛ける時などついていって、デート相手である金髪少女と舌戦する日々も其れなりに楽しかった。
兄である少年は中間管理職のサラリ−マン並に、疲れ引き攣った笑みを浮かべていたが・・・・

そんな時、天地を引っくり返すに匹敵する事件が起きた。
少年が何をトチ狂ったのか一族最重要である継承の儀式をエスケ−プしたのだ。各家の当主、相談役の長老達は激怒した。
無理もない、一族の者なら誰しも儀式の重要性を理解しているからだ。
四家の中で唯一、少年の弁護に廻ったのは月森家当主の月森雄一だけだった。
4人居る次期防森の中で陽之森陽子、月森香倶耶、星森星華、も現れなかった前代未聞の継承の儀式は、沙夜が次期森一族当主に決まり幕を下ろした。






沙夜が知る少年は優しかった。とことん人畜無害で底抜けのお人好しに見える位に優しかった。確かに少年の本質を覗けば優しいと云う言葉が的確だろう。
だが、沙夜は知らなかった。少年が人間凶器と呼ばれる老人達の弟子であり確実に人を撲殺できる強靭な精神力を、その身に秘め。命を賭けた時など優しさと勘違いされる『甘い』感情を一切見せず。なにより、少年は闘いに必要な牙を持ち合わせていた。










「まだ、生きている・・・・・・」

少年、式森和樹は片腕を切断され血の海に横たわる龍を冷たい光を宿した眼で眺め、赤い世界に剣を突き立て確認するように呟いた。
暴竜殺から剣風刃に繋げ最後に飛天閃光断で対する障害を滅する剣舞奥義 <殺劇舞荒剣> 破壊力に冠しては中級神魔族クラスの相手でも消滅(ロスト)に追い遣れる威力を感じさせる。

「丈夫な剣だ」

呼吸を整える為に手から離し突き立てた剣に視線を移す。少年は以前、同じ技を柳生拵の大刀「籠ツルベ」で斬り払いをした際、太刀が技の威力に耐え切れず原型を留めぬ位、砕け散った。
少年は無手でも充分に強いが、本来の得物であり牙である剣を手にした時、真価が発揮される。
超人的な剣技、そしてリミット・ブレイクにより身体能力を限界以上まで使い切る胆力は、常人の想像を遥かに凌駕するものであった。
銃が通用しない妖魔相手に、剣や斧などの刃、棍棒や戦槌の打撃武器を用いて戦いに望む退魔士、魔法旅団、軍人としては、国家の一軍にあっては間違いなく武神の名をほしいままにするだけの域に到達している。
一対一であるなら、和樹に打ち負かせぬ相手はそうはいないと、龍との超絶な戦いを目にすれば否応なく確信する。

不意に和樹は崩れるように両膝を突いた。
フルマラソンを全力疾走できる人外な心肺機能を持ち合わせているが、流石に必殺技の3連撃は肉体に疲労の色を落とす。
活力を蘇らせるひと呼吸を大きく吸い込む。

「まだだ・・・・・・・・息の根を止めなければ・・・・・・」

酷使した身体が休息を求める。このまま横になれば深い眠りに数秒もなくつける過労が溜まっている。
和樹は剣を掴み、一気に引き抜く。
虫の息の龍の基にゆっくりとだが、力強い足取りで向かう。

「魔法まで使わせやがって、オマエは此処で死ね」

和樹にとって魔法を使用すると云う事は、命を削り取るに値する行為だ。
剣を握る手に力が篭る。デタラメな再生能力を持つ龍でも逆鱗がある箇所から首を叩き落し、内部から紅龍弾で焼き尽せば蘇生は不可能だ。
以前、傭兵ギルドの依頼を受け竜の亜種族であるBクラス魔獣ヒドラを同じ方法で倒した経験上の勘だ。燃やす為に使用したのはナパ−ム弾だったが・・・・・

剣を高々と振り上げる。龍鱗に護られているとはいえ木刀で斬鉄ができる尋常でない腕前の和樹が真剣。それも最上位級の剣を扱うのだ。反撃してこない的など物の数ではない

「いけないよ−和樹君−!!!」

いま、まさに剣を振り下ろそうとした瞬間、斜め横から小さなレディ−がアメフトばりのタックルで突っ込んできた。

「舞穂?何の真似だ?」

腰にしがみつく栗丘舞穂に何故、邪魔をする?と問う。

「和樹君!龍さんはもう闘う気はないよ!それに和樹君おかしいよ!なんでそんなに恐い目をしてるの!?何時もの和樹君じゃないよ!!!」

ポロポロと大粒の涙を零しながら訴える舞穂。
龍からは先程まで感じられた荒々しさはない。舞穂の言った通り戦闘意思はないのかもしれないが、血を見ずに凶気と呼ばれる感情の刃を理性の鞘に納めるには昂りが強すぎた。
舞穂が顔を上げ見上げてくる。
普段の和樹なら此処で頭でも撫でて落ち着かせるのだが、今の和樹は冷めた目で舞穂を観察していた。

オレの地龍爪牙陣と水龍結晶障壁はどうした?
アレはM9 ガ−ンズバックのボフォ−スASG96−b57ミリ滑走砲を至近距離で打ち込まれてもカスリ傷一つ付けられない耐久力がある。
生身の人間がアレを壊そうと考えようものなら南雲慶一郎なみの戦闘力が必要だ。
首を動かし結界を張った場所に視線を移した。

「なるほど・・・・・イレイザ−(消し去る者)の能力を過小評価していたなオレは」

苦笑した。衣服を虫食いされたように、結界の一部が歪に消されている。舞穂の右手には首に着けていた魔力封じのチョ−カ−が鈍い輝きを放っている。そして皮肉にも左手には護符代わりに手渡したミスリルのハ−モニカが舞穂の魔力を何倍にもブ−ストさせる増幅器の変わりになっていた。

「離れていろ舞穂。コイツは殺す。オレがそう決めた」

淡々と決定事項を事務的な口調で話すと、腰にしがみついている舞穂の肩を掴み引き離した。

「にゃ〜ぁぁぁ・・・・・」

舞穂は軽く尻餅をついた。

「さて・・・・」

再び剣を振り上げる。純白の刃から魔力の燐光が煌き軌道の跡を照らす。
収獲の時はきた。命と呼ばれる果実、それも神獣王とさえ称えられるドラゴン・オブ・ドラゴン。龍の御霊だ。極上の美酒を飲んだかのような酩酊感が身体全身を駆け巡る。

「・・・・・・さよならだ」

閃光が疾る。生命たるロウソクの灯火を消し去る、死の風が冷たく吹く。

「ダメェェェェェェェェェ――――――――!!!」

「なっ!?」

舞穂が飛び込んできた。その敏捷さは小動物の身軽さに匹敵する速さだ。
太刀筋を変えられない。

「くそっ!!!」

左手が意識と無関係に動き、剣を振るう右腕を衝撃と共に貫く。
ボキィィィ―――
鈍器が砕けたような音をたて骨が壊れる。
舞穂もろとも龍を切り裂く刃が寸前で軌道が逸れ、紙一重で外れ石畳に深々と突き刺さった。
右手首の骨が複雑骨折以上に酷い状態で砕けている。瞬間、剣速を落とす為に纏っていた神気のフィールドを右腕の部分のみ消した結果だ。

「っ――――――――――――――――――――」

激痛が痛覚の許容力を超えそうだ。それでも剣を手離さないのは剣士としてのサガだろう。
神気と魔力で壊れた右腕を覆うと超高速でリジエネレ−ションが始まる。
リミット・ブレイク【限界超越】により増大した回復力を持ってしても再生されるのが速すぎる。
圧倒的な回復の原因は、和樹が握っている剣からキュア(上級回復呪文)に匹敵する力が流れてくる。

「だから・・・・・・何の真似だ。舞穂・・・・?」

顔面を蒼白にした舞穂に詰め寄る。ビクッと舞穂は強張るが今の和樹にしては最上級の優しさで対応している。
これが赤の他人なら問答無用で斬っていた。数年後に知り合う自称「式森の親友」を名のる馬面の男でも構わず斬っていた。むしろ嬉々として面倒事がなくなると斬っただろう。

「ごめん・・・な・・・・・さい。ごめんなさい和樹君・・・・・・でも・・・やっぱり、いけないよ−。それに、今の和樹君。自分の事を『オレ』って呼んでいる。変だよ−!
和樹君いつも『ボク』って言ってるのに・・・・・・・・」

オレ・・・・?舞穂の言葉に始めて自分の呼称が変わっているのに気がついた。
いつから呼び出した?そうだ・・・・・あの時だ。開門する言霊を口にした際からボクがオレに変わった。
頭痛がする。熱病に侵されたような頭が急激に冷めていく。

オレ?・・・・・ボク・・・・?いや、オレはボクで・・・・・・ボクはオレで・・・・・

混乱する。開門を接続する回路のスイッチが何度も入っては消される。

「自分ヲ見失ウナ!主ヨ」

剣からカミナリの数倍以上の電流が流れ和樹にショックを与える。身体の芯から痺れる電撃で不安定だったスイッチが完全に切り替わった。

「そうだ・・・・・・ボ・・・・・クは・・・僕だ!」

開いていた第7の門『サハスラ−ラ』が閉じ、身体から溢れる氣が収まっていく、和樹を見ていた舞穂の表情に歓喜の色が宿った。

「何時もの和樹君だ――!!!」

身体、全身から喜びの色を出しながらガバッと抱きついてくる。

「・・・・・ごめん、舞穂ちゃん。心配かけたみたいだね」

「ううん。別にいいよ−」

「ウム、自分ヲ取リ戻シタカ主ヨ。コレデヨウヤク話ガ出来ルナ」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

二人の会話に割り込んでくる声がする。この赤い異次元に居る人間は和樹と舞穂だけだ。
押し黙って声の元を見る。剣に埋め込まれた宝珠が僅かながら振動している。

「主ヨ礼ヲ言ウ。アノママデハ、コノ身ハ永久ノ時ノ中デ朽チルシカナカッタ」

沈黙を友にした二人が黙ったままでいると、剣は喋り続けた。

「余ノ名ハ封神剣。<魔王剣シュバルツカイザ->ニ対ナル剣ニシテ、<魔導都市ノア>ノ鍵ニシテ核(コア)。ソシテ余ノ主。式森和樹ノ敵ヲ噛ミ砕ク最強ノ牙」

「・・・・・・・・・自己紹介はいいんだけど、一つ訪ねたい。舞穂ちゃんに精神干渉したのはオマエか?」

和樹が質問すると封神剣と名乗った剣は「そうだ」と応えた。

「自然石を試し割りした事は在るけど、剣は初めてだな」

其れだけ呟くと、剣を石畳に置き。腹の部分に拳を添えた。

「主ヨ。何ヲスル気ダ?」

「パキ−ンって割れるのかな?人の魔力を散々吸ったのは大目にみてもいいが、舞穂ちゃんに手を出したのは間違いだったね」

爽やかな笑顔を浮かべる。人の心を無条件で温かくする親愛の笑みが、今回に限り薄ら寒いモノを感じさせた。

「待ッテ!主ヨ。ソレハ、スマナカッタ。ダガ、余トシテモ後ガ無カッタノダ」

「ねえ。僕は加害者の人権。いや・・・・・・剣権?そんなモノは認めていないだ。特に精神に干渉するのはいけない。干渉された側にとっては永遠のトラウマとして残る後遺症になったかもしれないしね。あっ!謝罪はいいよ。謝るよりも死んでくれれば其れでいいから。この場合は壊れると言った方が正しいかな」

幸い舞穂に精神障害が及んでいる様に見えないが、一歩間違えば廃人に成っていたかもしれない。
どれだけの理由が在ろうと被害者にしてみれば、どんな言い訳も戯言にしか過ぎない。
和樹は、この赤い異次元に来る前から決めていた事がある。
【ボクが側に居る時に舞穂に危害を加えようとした、その事がどれだけ愚かな事か魂の底まで刻み込んでやる。】
それを実現するだけだ。

「やめた方がいいですのマスタ−。封神剣は神龍王ナ−ガの輝刃(牙)を素材にアトランティスが誇った十賢者が持てる全ての魔導技術と命を注ぎ込んで造られた剣です。その硬度はアダマンタインを凌ぎますの」

拳を振り下ろそうとした和樹に、やんわりとした感じの声が止めにはいった。
和樹は今のセリフの中に聞き逃せない物質の名前に反応して、ピタっと腕を宙で停止させた。



『アダマンタイン』
オリハルコンやミスルリに並ぶ価値があり、失われた技術で生み出されたと言われる偽物質(フェイク・マタ−)
それは物質ではないが一定の体積をもち、外部から加えられるあらゆる力に抵抗する。理論上、破壊することも変形させることも不可能だとされている。
過去、極大呪文をアダマンタインの盾で完全に防いだと言う伝説があるくらいだ。
アダマンタイン以上の硬さは手に負えないと別の案をだす。



「折るのは無理でも異空間に永久漂流はどうかな?」

「それも無理だと思いますの。マスタ−と封神剣は完全にソウル・リンクで繋がれています。例え神の秘儀で創り出された虚数空間でもマスタ−が召喚すれば、いかなる封印空間からでも呼び掛けに応じ召喚されますの」

「魂の絆(ソウル・リンク)か、咄嗟の事とは言えマズッたな。でも、あの時は魔法でリンクを作らなければ僕は今頃、死んでたしな・・・・・・・」

必要な処置だったとはいえ、魔法を使ったのは痛かった。

「舞穂ちゃんは物知りだな。一体誰にそんな事を教わったの?紅尉先生?」

感心した。少々、口調が違ったのも気にしない。
和樹は背後に居る舞穂と話しているものと思っていた。

「ううん。喋ってるのは舞穂じゃないよ。龍さんだよ」

「へっ?」

振り返ると致命傷だった筈の龍が身を起こしている。全身に受けた傷が驚異的な速さで塞がり治っていく。
吹き飛ばした右腕などは、すでに肘まで再生され、今も傷口から肉と神経線維を別の生物のようにのたうたせて回復している。
いくらなんでも速すぎる。自分の人外なる回復力を棚にあげて理不尽だと思った。














1ミリの誤差もなく填められたパネルの上を、音も立てずに歩く姿はヨ−ロッパで活躍する一流モデルを連想させる。
青いリボンで先を纏められた透きとおる紅茶色のロングヘア−。
厚手の神官服の上からでも分かるメリハリの利いたスタイル。一言で語れば美人だ。
唯の美人ではない。外面だけでなく、内面からも山奥に流れる清流のような心地よい美しさが醸し出している。
美人は足を止めると、考えを纏め自分に言い聞かせるように口を開いた。

「此処が、そうなんでしょうか?」

呟いた疑問に答える者はおらず、神官長クタニエは辺りを見渡して、目的の地かどうか確かめるように視線を注いだ。

「ありました」

皇仕えし宣託の間から此処に辿り着くまで数時間以上、歩き続けてきたにも係わらず。疲労を見せない足取りで奥に進む。

「古文書に示された内容と同じですね」

神官長のみに閲観できる書物の記憶を思い返した。
部屋の奥には円形の台座を底辺に、輪の直径の異なる金属リングが平行に十数本、水晶柱に支えられて球形の骨組みを造り上げている。
その上下を挟み込むのは万力のような形状の大型魔導器で、太い動力伝達ケ−ブルが数本、そこから壁を突き抜けている。
それは跳躍器(テレポ−タ)であった。
現在の魔導技術では製造不可能。古代遺跡で壊れている状態で見つかった以外、世界各国の魔導技術者が実用化できないものかと日夜研究している『失われた技術』で造られた希少な魔導装置である。
此処にある跳躍器は使える状態で生きていた。
テレポ−トの魔法を使える術者は多くはないが確かに居る。だが、魔法障壁や結界に弱く。少しでも空間に歪みがあれば座標固定をできなくなり使用不可能になる。
跳躍器は、Sクラス魔法使いでも不可能である、歪みがある状態でも出現地点を完全に位制御できる。

「後はレバ−を引けば発動する筈・・・・・・」

クタニエは古文書に書き残された操作手順を忠実に再現した。
ガコンとレバ−が下がると跳躍機が静かな音と共に動き出した。後は事前に入力された座標まで飛ぶだけだ。

「慶一郎様・・・・最後に貴方に会えて私は幸せです」

光の粒子が舞うなか、クタニエは慶一郎に抱いてもらった身体を両手で包むように押さえた。













「マスタ−!落ちついて下さい。ワタシは正気ですの」

すかさず剣を取って斬りかかろうとする和樹に制止の声を投げかける。和樹は剣を振り上げたものの、初めて聞く龍の声に呆気を取られて動きを止めた。

「正気?いや・・・・・・・まぁ・・・・確かに・・・・・・」

言葉を濁すように小声で呟く。龍の瞳は本来の色であろう、曇りのない、美しい金色の瞳。
澄んだ深い湖に吸い込まれそうな印象を受ける。先程まで本当に命の遣り取りをしていた相手かと疑わずにはいられない程、龍は落ちついている。

「貴方に危害を加えたのは謝罪します。僕の話を聞いてもらえますか」

話が通じるのが分かると和樹はできるだけ丁寧に対応したが、返答は驚くべきものだった。

「カレルハーティル」

「えっ?」

「ワタシの名前ですの。マスタ−にはカレハと呼んでほしいですの」」

何故に?真剣に悩む。人間、想像外の行動を取られると思考がスットプするが和樹も類に洩れず固まった。

「あ・・・あの、カレルハーティルさん?」

「カレハです!マスタ−」

咎めるような口調で言われる。毒気を抜かれ、闘いの緊張感を無くした和樹に逆らうのは無理だった。

「カレハ・・・・・・・」

「はい!マスタ−♥」

心底、嬉しそうに応えた。

「ところで、カレハ。マスタ−って僕の事?」

「もちろんです。マスタ−が持っている封神剣がなにより証ですの」

「これがぁ〜?」

手に持った剣を胡散臭そうに見る。剣としては今までの中で最高の得物だが第一印象が悪すぎる。遂さっきまで、どうやって処分するか本気で考えていた。

「オオ!娘ヨ。1万2千年ブリノ再会。父ハ嬉シクテ感動ノ涙デ目ヲ開ケラレン」

「嫌ですわ。御父様ったら。魂が龍珠に封じられて身体がないのに涙を流すのは無理ですの」

「言葉ノ比喩ダ気ニスルデナイ。娘ヨ主ハ気ニイッタカ?幼龍マデ、ソノ力ヲ落トシタハ言エ、神龍王ナーガ、タル余ノ娘ヲ破ッタ人間ハ主ガ始メテダ」

「凄かったですの御父様。あんなに激しくされたのは始めてですの。それにワタシ・・・・マスタ−に傷物にされてしまいましたの」

人間だったら頬を染めていただろう。A・Sを上回る巨体で身をもじらせると可愛いいと呼ぶより、ひたすら恐い。

「ソウカ、傷物ニサレタカ。ナラバ主ニハ責任ヲ取ッテ貰ワナケレバイケナイナ」

「まあまあ御父様、ワタシとマスタ−の仲を認めてくださるのですか?ワタシを口説いてきたダ−クドラゴンのティアマトやサンダ−ドラゴンのトライエッジ。それにメルトドラゴンみたいに突如、消息不明になる事はないのですね」

「カレハ。オマエハ1万3678歳ニナル。余カラ見レバ、マダマダ子供ダガ。娘ハイズレ親ノ許カラ離レ嫁グ定メ。主ナラ、キット幸セニシテクレル」

「ち、ちょっと待て!まて〜い!」

和樹が声を荒げに叫んだ。

「あ!マスタ−」

「主ヨ、ドウシタ?」

「どうしたもこうしたもあるかっ!2人(?)で一体何の話してるだよっ」

「主ヨ!主ハ、カレハノ事ヲ、ドウ思ッテイル?」

「どうもこうも!つっこみ所が多すぎて何から話せばいいのか分からないのは確かだ!
1番目は幼龍だと?あの強さはSクラス上位魔獣。灼熱のハイドラゴン・ウ゛リドラ以上だったぞ?
2番目は封神剣!オマエだ!本当に神龍王なのか?なんで剣に封じられている!?
3番目は僕がカレハを傷物にした?バ−サ−クしている龍に手加減できるか!
そもそも此処に無理やり招いたのはオマエだろう!責任も糞もあるか!」





肺の中の酸素を一気に吐き出す勢いで捲くし立てた。
暴れだしそうな和樹を宥め。神龍王ナ−ガの魂が封じられている封神剣と神龍族。それも王族である姫龍カレルハーティルは和樹の質問に応えはじめた。




「ワタシは本来エンシェント・ドラゴンクラスの力を持っていましたの、1万2000前の大戦で御父様は眷属竜すべてを引き連れ、同盟を組んでいたアトランティス帝国と一緒に『・・・・・・・』相手に戦ったですの。熾烈を極めた戦いの中、御父様は敵方の首領と一騎打ちして致命傷を負わせたものの、御父様の龍珠は砕けてしまったですの」

それからが、大変だった。眷属竜の大半は人間如きの為に王が戦死したのを憤慨した。
元々はアトランティスの一部の錬金術士が禁忌を犯し招いた戦だ。
王が誓約を結んだアトランティス神帝に肩入れしたからこそ眷属竜達も従った。
王がいなければ戦う理由が見出せず、戦いを放棄しようとした。
敵の大将は深手を負って動けないが、いまだ敵の戦力はアトランティス側を上回っている。
アトランティスは眷属竜を引き続き戦わせる方法に、非道な手段を使った。

「・・・・・・で、神龍王の魂を封じる為に剣を造りだし。エンシェント・ドラゴンで娘であるカレハの龍珠をコアにして封じたと・・・・・・龍珠を移す為には幼龍にまで力を落とす必要があり、その為に竜語魔法を使い。龍珠を移す反動で死なないように己の身を石化しなければいけなかったと言う訳か?」

「そうですの。幼龍までクラスがダウンした所為で、今のワタシには竜語魔法は使えません。それに記録にもプロテクトが掛かってワタシ達がナニと戦ったか分かりませんの」

「なんなんだよ!なんなんだよそれは!?」

和樹は怒りにまかせて吼える。
卑怯・卑劣を否定する気はないが、どんな事にも暗黙のル−ルがある。それは生物が最低限まもらなければいけない本能に属する枷だ。暗黙のル−ルを破ったモノ、其れ即ち外道である。
外道は嫌いだ。虫唾が走る。
科学の発達を促す崇高な義務と言って、子供を生きたまま切り刻む科学者。
魔術の進歩の為にと魂を穢す魔術師。
国を護るには仕方が無いと心にも無い虚言で戦争を起こし、私腹を肥やす政治家。

今の話を聞くだけでも、人間が龍族を利用しただけに感じる。何故カレハが従ったのかも分からない。
エンシェント・ドラゴンだった頃のカレハなら人間が束になっても敵わない力を持っていた筈だ。

和樹が此処まで怒るのには訳がある。














和樹と舞穂が飛天神社に下宿して数週間たったある日、一人の男がやってきた。
某大国の自称・正義のエ−ジェントを名乗る男は「異能力者である栗丘舞穂の存在は危険だ。よって我が国が管理する」と高圧的な言い方で引渡しを要求してきた。
話を聞いている舞穂以上に危険な存在の少年は、影森の情報操作によって外部には情報が一切洩れていない。例え分かったとしても式森がどのような存在かを知れば、下手な干渉をしようとは思わない。干渉してくるのは最後まで調べ切れなかった中途半端に力を持っている連中だ。
覚悟を持たず式森に干渉したモノ達が辿る末路は2つ。

将来性があれば取り込まれ。
無ければ、完全に潰される。

近い未来、和樹の事を中途半端に調べ近づく女性達の家が無事に済んだのは、和樹が一族強硬派の意見を押さえているからである。

黒一色ス−ツ姿の男の話しを無論、断った。
寝惚けているのか「君の意思は関係ない、怪我をしたくなければ大人しく渡すんだ」と見下した態度をとり、ス−ツのポケットから銃を取り出し和樹に突きつけた。
寝惚けている頭を覚ます為に、飛天神社の石段が見える境内から『ヒトコプタ−』で飛んでもらった。
風を切る爽やかさで別の世界で目覚めるだろう。
十数秒間、上昇したが地球の引力には勝てず、回転しながら落ちていった。
「空力抵抗が問題かな?」思ったより飛んでいかなかったヒトコプタ−に不満を持ったが、この問題は兄弟子と呼べる男と旅を続けるなか、試行錯誤を繰り返す。
いずれ魔法も氣も使わずに、成層圏までヒトコプタ−を飛ばしてギネスに載るが目下の目標だ。

それから数日間、ヒトコプタ−の材料が押し寄せてきたが例外なく飛んでもらった。
力押しは無理と判断したのか自称・正義のエ−ジェント達は和樹の目を盗んで舞穂を誘拐した。
それは自称・正義のエ−ジェント達が犯した最大の過ちであった。
誘拐先を紅尉晴明のツテで調べてもらい。
舞穂が来てから食事事情が著しく改善された鬼塚家の家主と、舞穂が「雷蔵おじいちゃん」と無邪気に慕う姫川流柔術師範を伴って、直ぐに誘拐犯達が潜んでいるアジトへ向かった。










「ここか?鉄斎。舞穂を攫ったバカ共が居る場所は?」

バックから、手製の爆弾を取り出しながら姫川雷蔵は、鞘から刀を抜いた鬼塚鉄斎に話かけた。

「紅尉の情報だ。間違いはあるまい」

月の無い夜にも係わらず、微光を刀身から漂わせる妖刀ムラサメ・ブレ−ドを利き手に持つ鉄斎が応える。
斬魔刀『綾』は鬼塚美咲が仕事の為に、家を離れた時に持っていたので、式森蒼雲が和樹に剣術を教えている授業料代わりと手渡した破魔の妖刀。
使い手が未熟なら命を奪い取ると伝えられる、六尺一寸の刀を鉄斎は凄さまじい精神力で完全に支配下においている。

「ゆくぞ、和樹」

「はい・・・・・・」

山奥に隠されるようにある建物の様子を、木々の陰から窺っている和樹に鉄斎は指示を出した。
感情をどこか殺した声で師匠に了解の返答をする。
忍者が着るような黒装束姿。背中にはシルスウス鋼製の小太刀を抜きやすいように背負っている。
静かに立ち上がり動き出す和樹だが、傍から見ても怒っていた。
継承の儀の日。玖里子を助けに行った時が、周囲を根こそぎ燃やす炎の怒りなら、今は総てを凍結させる冷たい怒りを鉄斎と雷蔵に見せている。

「まずは、舞穂だ。バカ共の始末はその後だぜ」

「わかっておる。ヌシこそ目的を忘れるな」

「ケッ!テメ−が言うかぁ?鉄斎?」

普段よりピリピリした空気を出している鬼神と修羅が睨みあう。

「師匠!」

和樹が咎めるように、キツイ口調で二人の間に入る。普段なら二人が争う時は、巻き込まれないよう遠く離れているのが嘘のようだ。

「お願いします。今はやめてください鉄斎師匠!雷蔵師匠!」

土下座をしろと命じられたら直ぐにでもしそうな勢いで頼み込む。こうしている間にも舞穂の身に何をされているか分かったもんじゃない。
紅尉の情報でも誘拐犯の連中が人道主義とは無縁の存在と言っている。

「分かったから、離れろ和樹。鉄斎!テメ−とのケリは後日だ」

周囲が思っている以上に、舞穂を可愛がっている雷蔵が気配を消して建物の方へ向い走り出した。
遅れはとらぬと鉄斎と和樹も気配を消し、後に続く。
舞穂が誘拐犯の手にある以上、力押しは危険と判断し、夜の闇を味方につけて3人は建物に忍び込んだ。





一時間後、麻酔薬で眠らされた舞穂を見つけ出した。幸い実験に使われる薬物を投与される前で、無傷の舞穂に安堵するが、運悪く巡回していた二人の警備員に発見された。
警備員は和樹達が部外者と分かるや否や、警告もせずにマシンガンのトリガ−を引き発砲してきた、よほど後ろめたい事があるのだろう。

「未熟」

鉄斎は警備員の射線を正確に見切り、横に飛ぶと懐に手にいれた左手を振り上げた。

「ぐぇ・・・・・」

喉の気管が塞がれたような声を最後に二人の警備員が倒れ2、3回痙攣するが、そのまま2度と動かなくなる。

「今ので気付かれたぜ」

発砲音を聞きつけた警備員達の足音が、夜の静寂に支配された廊下を侵し迫ってくる。
雷蔵は抑えていた気迫を開放し、獰猛な笑みを浮かべた。舞穂の安全を優先される為にと此処にくるまで大人しくしていたが、舞穂を確保したのなら話は別だ。

「和樹、其処から行け」

警備員の喉を貫いた棒手裏剣を抜いて、血拭いしている鉄斎が舞穂を左肩に担いだ和樹に奥の部屋から逃げろと言った。
一流傭兵でもないかきり銃を持った人間程度に遅れをとる和樹ではない。銃を撃つ気配も殺せない連中なら躱すのも容易い。撃つ直前に射線から離れればいいのだから。

「わかりました。後を、お願いします」

素直に従った。和樹一人なら師匠達と供に残ったが舞穂を担いでいる以上、荒事は避けたかった。

「来たぞ、鉄斎」

入るなり、マシンガンを撃ってきた警備員の一人を掴むと受身のとれない鋭い投げ技で、床に叩きつけた。
首がありえない方向に捻じ曲がり絶命する。
雷蔵は流れる動きで次々と警備員を投げていく。一対多々で投げ技は不利だと言われるが、あまりにも速く投げ、隙なく動く雷蔵に警備員達は翻弄される。

「うむ。たまには斬らんとカンが鈍るのでな」

舞穂を攫った時点で、誘拐犯達の未来に五体満足という選択権は無くなっていた。





辺りを警戒しながら和樹は出口を求め走る。通路の角から話声が聞こえてくる。

「おい、聞いたか?どうやら侵入者がサンプルM−23を奪って逃げたらしいぞ」

「魔法を無効化できる異能者だろ?あれは、貴重なサンプルだぞ。まだ放射性物質の投与もしていない。あの異能力は電子顕微鏡で隅々まで生態解剖しなければいけないだろう」

「そうだな、何としてもサンプルは回収してもらわないと実験が遅れるからな」

「おまえ、そう言って3日前にA−40に新薬を投与して使い物にならなくしたろう」

「いいんだよ。俺達は人類の発展に貢献してるんだぜ。化物が何匹死のうと構うものか」

得意気に胸をそらす、罪悪感など一片も感じていない笑いを始めると。隣の男もつられて笑いだした

「それもそうだな。ぎゃはははははははは・・・・・・・・・ん?」

白衣を着た男が、通路を曲がると舞穂を担いだ和樹を見て、笑い声を止めた。

「それはM−23じゃないか!?おまえがサンプルを盗んだ侵入者か?そのサンプルは・・・・・」

子供と思い油断している男は、油で滑らかになったような口がペラペラとチャックを開いた。
少しでもカンのいい人間や、武道を嗜んだ事があるのなら恥も外面も捨てて一目散に逃げ出す殺気が、少年の内側で抑えきれない位に脹らんでいる事も知らずに。
押し黙っている和樹に好き勝手に言う男の喋りは、和樹の腕が霞んだ瞬間、永遠に中断された。

「ひぃえぇええええええええええ――――」

シュ−
鯉口から微かに聞こえる音と共に肉と骨を一閃した。頭が無造作に落ちた。
首が無くなった同僚を見て、腰を抜かして男が恐怖の金声で叫ぶ。
肩の上が寂しくなった身体が男に倒れると、思い出したように鮮血が噴き出し男を赤色に染めていく。

「サンプルとは、この子の事か?」

「ぐえ!」

叫ぶ男の腹を手加減して蹴り飛ばし、黙らせると和樹は質問した。ゲエゲエと吐瀉物を吐く男は、胃の中の物を総てなくすと恐怖の色が映る目で和樹を見た。

「た、たすけてくれ!俺は上から命令されただけなんだ!」

「答えろ、ボクが聞きたいのは彼方の命ごいじゃない」

和樹は男の右手を踏みつけた。指の何本かが潰れ使い物にならなくなる。男は自分より二回りは年下の子供に素直に従った。
刀を眼前に突きつかれ、腹や指の痛みによる働きもあったが、子供から発せられる開放した殺気が何より恐ろしかった。
男は泣き叫ぶ子供に麻酔を使わずメスを通す作業には慣れていたが、自分自身の痛みには耐えられなかった。
なにより男の心臓を鷲掴みするような殺気は、飢えた猛獣と同じ檻にいれられたより激しい重圧を男に与えていた。

「そ、そうだ。サンプルM−23だ。お、俺達は偉大な国家と人類の為にソイツを調べ解析しなければいけないんだ!分かるか!?オマエのやった事は人類に対する重大な反逆だぞ!」

見当違いの自己弁護で自分は罪がない、正しいのだと言い張る。

「言いたい事は其れだけか?」

死刑決定を悟らせる言葉に、男は悲鳴をあげた。

「な・・・・・・・・・言ったじゃないか。命だけはたすけてくれ!し、死にたくない!」

「舞穂ちゃんが同じ事を言ったら、オマエは助けたか?・・・・・・・しないだろう」

「お、俺は唯、命令に従っただけだ!俺は悪くない。それにソイツ等は人間じゃない化物だ!何匹死のうと関係ないだろ!」

「黙れ!」

不快感で心がいっぱいになる。男の声をこれ以上、耳にするのは我慢ならなかった。
小太刀が霞む速さで振るわれる、身勝手な話しか出来ない男の口をギロチンより鋭い一撃で永遠に黙らせた。
血振りをして小太刀を鞘に納める。壁に赤いシミが点々と描かれた。
胸がムカムカする。一族の人間に魔法回数を理由に虐げられた時以上の不快な気分が重くのしかかる。

「おい、こっちから叫び声がしたぞ!」

白衣の男の悲鳴に気付いた者達が近づいてくる気配がする。
身を隠す障害物が無い廊下は不利になる、手前に頑丈な扉で守られた部屋が見える。
建物の連中にとって貴重なモノが置かれているのだろう。銃の発砲を抑えられるかもしれない。
そこまでいかなくても今よりも優位な場所だろう。和樹は扉のノブの回りを鍵ごと小太刀で斬った。
ガコンと金属製扉の一部分が滑らかに落ちた。重量感がある扉に手をあて、力を込めて開くと部屋の中に入った。
ノブが無くなったドアのプレ−トには『生理学試験室』の文字が刻まれていた。





うす暗い部屋の中に複数の気配が感じる。辺りに用心して進む。利き手は小太刀をいつでも抜刀できるよう添えている。
ゴボリ、と。何かが水中で蠢く音。

「なっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

音源を見た和樹は口を半開き、驚をつかれた人間が洩らす声をだした。
大抵の事は驚かない和樹が動かなくなった。
目に映るのは、電子音が静かに鳴る機械と、ポコポコと気泡を挙げる液体に浸かされた子供、男、女、亜種族、魔獣達であった。

無数に陳列するガラスケ−ス。比較的、原型を留めているモノもあれば、下半身の代わりに奇怪な動物を生やしている女性。腕の代わりに肘から蛇が動いている男性。
内臓を総て曝け出され、幾つものチュ−ブが繋がれている子供。
脳と脊髄だけが摘出されてクラゲのように、培養液であろう液体の中でプカプカと浮ぶ亜種族。
舞穂と同じように攫われてきた人達が無惨な姿になって、悪夢を具現化したような世界を部屋の中に広げていた。

「こ、これが・・・・・・・・・人のやる事か・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

舞穂が眠っていてよかった。こんな光景は絶対に見せられない。
妖魔が起こした事件を解決する為、気が滅入るような現場を何度も見てきたが、此処まで
邪悪で極悪非道は始めてだ。
2,3歩。無意識に後ろに遠ざかる。
ガチャ。
背中にレバ−が当たり、作動していた機械が止まると一つの点灯が消える
同時に脳波を乱す特殊な音波も消える。
和樹が止めた機械は、PSI(超能力研究所)に設置されているジャミング装置の同列機だった。

((殺して・・・・・・お願い・・・・・くるしいの・・・・・・もう・・・・殺して・・・・・))

機械が止まったガラスケ−スに入っている、エルフ族の少女がテレパシ−で訴えてきた。
美しい少女だったろう顔の半分は、無様な機械と融合され手足の先からは透明な管が無数に繋がって無理やり生命を繋ぎとめている。

「・・・・・・・何故・・・・・・此処までやれる?」

人間が持つ一番、悪辣な闇を見せられ、是まで築いてきた価値観が崩壊しそうだ。

((・・・・・・殺して・・・・・もう・・・・許して・・・・・・・・・・))


和樹が持つ温かな魂の波動に引かれて、少女は懇願してくる。この人なら自分達を苦しみから解放してくれると信じているかのように・・・・・・・・・・

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――!!!」

狂ったように叫ぶ。
エルフの少女が、どんな実験を受け。どのような目に遭ってきたかテレパシ−でダイレクトに伝わってきた。
精神防御技『火武訃』で防ぐこともできたが、凍えた身体でようやく見つけた温かい光に縋るような感情も同時に流れてくる。
和樹に少女の悲痛の想いが篭った念を突き飛ばすのは無理だった。

両の目から涙が溢れ出る。身体は痛くないが、心は砕けそうに痛い。
エルフの少女がこの建物に拉致されてきた時の脅え、不安、恐怖、絶望。を自分が体感したかのように感じ。

「くぅぅぅ・・・・・・」

頬を伝う涙を拭おうとせず、和樹はエルフの少女を見つめる。
少女は拉致されてきてから、始めて感じる。春の日に浴びるポカポカとした太陽の光のような和樹の魂の波動につられ重く閉じていた目蓋を開く、初夏の森を連想させる緑色の瞳に和樹が映る。
故郷の森。生まれ育った森の奥に聳える御神木の雰囲気と、和樹が纏う空気がとても似ている。
少女は微笑んだ。親愛たる旧知の友に再会したように・・・・・・・・
和樹の心が揺れる。
どれほど残酷な体験を受けたにも係わらず。邪気の無い、心に残る綺麗な笑みをはにかみしながら見せた。それだけ充分だった。
このコも助けると強く思った。
同情かもしれない。だが一歩遅ければ舞穂も、この少女と同じ道を誘拐犯の手によって歩まされた。
そう感じる心を無視してエルフの少女を見捨てられる程、和樹は達観していないし成りたくもない。

「ボクは和樹・・・・・・・・・・・・・・・・式森・・・・・和樹。君の名前は?」

((あたしは、ウィンダミアの森の・・・・・・・・))

「いたぞ!やれ!」

少女のテレパシ−は最後まで伝えきれなかった。
突如、部屋に乱入してきた敵意と悪意の塊の集団が、サンプルを盗んだ盗人を抹殺するべく銃を乱射してきた。
和樹は咄嗟に物影へ姿を隠した。条件反射に近い行動であった。
和樹を狙った凶弾の幾つかは虚空を切った。焦げ臭い火薬の匂いが鼻をつく。

「M−23が確保できれば、他の被験体はどうなろうとかまわん!何としても奪い返せ」

ここの連中はよほど舞穂が重要らしい。世界に類のないイレイザ−能力。
解析して魔導技術に応用できれば、魔法使いに対するアドバンテ−ジは絶対的になる。
だが異能力は、魔法的な技能と呼ぶよりもむしろ個人特有のギフトと表現するしかない。
常人では生涯をかけても得ることのできない能力だからこそ異能とよばれる由縁だ。
科学的に解析されるものは異能とは呼ばない。
だが、科学者を名乗る奴等の大半はその事実を認めない。100の実験で証明できなければ101番目の実験方法を考え出し、対象が壊れるまで実験を繰り返す。
其処には己の知的欲求を満たす為なら、他人の権利や生命など羽より軽いと考える狂科学者が存在する。

舞穂を無事助け出し後も、なんらかの対処を取らなければ同じ事の二の舞を味わうかもしれない。
此処の責任者と思われる初老の男が、怒鳴り散らしながらマシンガンを絶え間なく発砲してくる警備員に命令した。

和樹は演算機を盾に隙を窺った。警備員は入り口に固まり、7人が死角を補う陣形をとっている。間合いは約15メ−トル。龍撃拳を撃つにしろ突撃するにしろ、弾丸が雨のように飛び交い、飛び出すタイミングを中々つかめない。
舞穂を安全な場所に置き、補食系の猛獣が獲物を狙い、何時でも襲いかかれるような低く構えるに似た姿勢を取る。これで最速の動きができる。
マシンガンの弾薬が切れた時が狙い目だ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

赤い色が視界に入った。見慣れた色、自分の中にも流れている色。
種族が違っても血の色は同じなんだと無意識に思った。ガラスケ−スの液体を一色に染め弾痕の痕から床に流れ落ちている。
赤の根源がなんなのか理解するまでの時間は僅か数秒。
出会って3分も経っていない。縁も所縁もない他人。苦しみからの解放に死を願い。運命か偶然か和樹にテレパシ−で己の身に降り掛かった業を伝え、微笑みを見せたエルフ族の少女。

赤の根源を理解したと同時に、灼熱の炎が堪忍袋の緒を焼き切った。
和樹の両眼に、怒気の電光が一閃した。喉から鼓膜を破るような怒声が波紋のように広がる。
警備員達は刹那だが動きを怒声によって止められた。
瞬きするにも足りないコンマの時間だが、和樹には充分すぎる隙を見せた。
思考を支配するのは一つの感情

『許さない』

一瞬で間合いを詰め、トリガ−を引かれる前に心臓を的確に刺し相手が絶命させる。
横で棒立ちになっている男を、中段蹴りで吹き飛ばし、後ろに居た2人の男を巻添えにして床と望まない抱擁をさせた。
我に返った一人がマシンガンの銃身を和樹に定めるが

「やめろ!同士撃ちになるぞ!」

と比較的、冷静な判断力を持った警備員に罵声を叩きつけられる。普通なら正しい判断なのだが、正しいからと言って報われる訳ではない。
咎めた男の視界が二つにずれる。和樹の斬撃が頭蓋を縦に断ち切り、男を屍へと変えた。
小太刀の切れ味だけでは実現できぬ、驚異的な一撃であった。生き物の頭蓋骨は存外に硬く、また刃を滑らせやすい。一刀に両断するためには、斬れる一点を寸分違わず狙う正確さと太刀行きの速さ、そして並外れた膂力が必要とされる。
我を忘れる程の怒りの為、粗悪な動きになるはずのだが、普段より洗錬された剣技で次々と小太刀の刃を血に染めていく。

円卓の騎士『剣皇』が創始者とされる比類なき剣術。幼い頃から今日にいたるまで何万回、何百万回と剣を振り、身体の芯まで染めあげ蓄積された力は、怒りで我を忘れようと身体が忘れない。
後年、親友となる虎革のバンダナを巻いたケンカ番長に

「あれは、天災や南雲のアホ以上の危険物や」

言わしめる実力の片鱗を現時点で備えていた。








血の匂いで咽かえりそうな中、親とはぐれた子犬のように茫然としている。
返り血で汚れた顔を拭おうともせず、もと人であった塊が冷たくなる程の時間が経とうとしているにも係わらず和樹は立ち尽くしていた。

「ハッ!」

気合の籠もった剣撃が背後から降り注ぐ、何も考えていない真白な頭は対応できないが、身体が自己防衛本能に従い、迎撃の為に小太刀を跳ね上げた。

カキン!

金属と金属がぶつかり合う衝突音と共に小太刀が弾かれる。

力負けした!?

腕ごと外側に持っていかれた小太刀に逆らわず、弾かれた方向に身体ごと飛んだ。
姿勢を一瞬で整え直し、水平に横一文字斬りを払うが、刀を斜め角度に構え、嶺に左手を当て強固の盾にされた刀の刃に小太刀は受け流され空を切った。

まずい!

致命的な隙に和樹はたじろぐ。相手の刀が自分の頭上に振り下ろされるが、身体は剣を振り切った体勢で避けるのは無理だ。

「渇ァッ!!!」

脳天に痺れる打撃を受け、おもわず後退する。
芯まで届く痛みに目から星がでた。・・・・・・打撃?斬撃ではなく打撃だと!?
刃を内側に向け、嶺打ちで頭を叩いた初老の男の姿にようやく気が付いた。

「鉄斎・・・・・・師匠?」

「たわけが!飛天の剣士ともあろう者が何をしておる」

建物から逃げ出せと言ったにも係わらず、呆けていた弟子に痛恨の一撃を与え、目を覚まさせた鉄斎は和樹を睨みつけた。

「・・・・師匠・・・・ボクは、ボクは助けられなかった・・・・・」

和樹の言葉に舞穂が命を落としたのかと不吉な考えが浮ぶが、少し離れた機械の横に無傷の舞穂が見える。
辺りを見回せば血と肉が床を装飾し、異形と変えられた様々な生物がガラスケ−スの中で生きながら地獄の苦しみで踠いている。
魔窟と呼んでも差し支えない光景に、眉間をしかめる。
だが和樹が呆けていた訳も察しがついた。

「人は・・・・・なんで、こんな事ができるんでしょうか?」

力なく呟く。回答を求めた訳ではないが聞かずにはいられなかった。

「外道に堕ちたからだ」

「外道?」

「そうだ、人を殺すのは人のままでもできるが、人をこのように扱うのは外道の所業。和樹よ!目に焼きつけておけ!そしてオマエは道を踏み外すな」

和樹の性格を形成する重要なピースの欠片になる一言だった。
人間として守るべきギリギリの境界線を破らずに生きていく最後の楔ともなる事件であったろう。名前を最後まで知ることができなかったエルフの少女との一時の出会いは・・・・

「このままでは、あまりにも哀れ。わしが終わらせてやろう」

和樹が舞穂を担ぎ戻ってくると、鉄斎は剣気を極限まで高めていた。

「和樹、よく見ておれ。これから放つは飛天流剣術秘伝の天壌無窮技

武術の段階は大抵、『初伝(切紙)』『中伝(目録)』『奥伝(皆伝)』『秘伝(允可)』と4段階ある。
和樹は現在、飛天流剣術奥伝まで段階を進め。9つある奥伝奥義の内5つまで会得している。
飛天の剣士は奥伝の段階まで進み、奥義の一つでも会得できれば免許皆伝。3つ以上で師範代になれる資格を得る。
どの奥義、一つとっても会得するには、才あるものが血の尿を流すほど厳しい修行を10年続けて会得できるかどうか分からないくらい難易度が高い。
飛天流剣術を中伝まで修めた者は、他流派の当代を上回る実力を持っていると言われるのは誇張であっても誤称ではない。










「まだ、こんなとこに居やがったんか」

姫川雷蔵が軽くなったバックを左手に持ち、和樹達が居る元生理学試験室の扉から顔を出した。

「紅尉の読み通り、ありやがったんで仕掛けてきたぜ」

「そうか」

鉄斎が相槌をうつ。
この建物は市販の地図には載っていない。電力線や地下ケ−ブルも通っておらず自家発電機が必ずあると紅尉は予想した。
雷蔵は発電機に使われる固形燃料の倉庫に、手持ちの爆弾を30分後に爆発するよう仕掛けてきて脱出する途中であった。

「なに鳩が豆鉄砲くらったような顔してるんだ和樹?」

舞穂を、お姫様抱っこしている和樹は雷蔵が来たのも気が付かず、瓦礫どころか塵ひとつなくなり外の風景が見える元部屋があった場所を正視して身動きひとつしない。
和樹の頭をコツク雷蔵に鉄斎が話しかけた。

「確か和樹はヌシの道場では中伝だったな」

勝ち誇った顔で雷蔵に言う鉄斎にカチンとくる。

「何が言いてぇんだ鉄斎」

「和樹は奥伝まで修行が進んでおる」

「それがどうした」

「賭けを忘れた訳ではあるまい」

度々と勝負をする人間凶器の二人だが、互いの実力が拮抗し、千日手になり勝負がつかない。そんな時、成り行きで姫川流柔術の門下生にもなった和樹に白羽の矢が刺さった。
当たったではなく刺さったのだ。それは不幸の一番星の光でライトアップされたように・・・
賭けの内容はいたって簡単。先にどちらの流派を極めるかが賭け事の内容になった。
飛天流と同等の猛威を誇る姫川流の秘伝まで辿りつく門下生は中々といない。

「残る奥義は4つ。会得すれば次は秘伝にはいる」

飛天の歴史の中でも秘伝にまで到達できた者は数える程度しかいない。

「鉄斎・・・・・テメ−」

雷蔵が歯軋りする。長年の付き合いで性格が分かっている。普段は口数も少なく、物静かで落ち着いているように見えるが、中身はかなり凶暴、そしてワガママ。
奥伝と中伝の差は大きい。
鉄斎がこの場で言ったのは、勝負は尽きかけたとでも言いたいのだろう。

「和樹!」

「雷蔵師匠?」

耳元で怒声を叩きつけられ、雷蔵の姿に始めて気付く。

「手加減してやる。体で覚えろ」

「なにをです?」

舞穂を鉄斎に預けると、雷蔵は和樹の胸に掌を置いた。

「姫川流柔術・口伝絶命技・・・・・・」

「ちょ、ちょっと待って下さ・・・・・・・・・・・・」

天壌無窮技で驚いていた和樹は、状況が飲み込めなかったが『絶命技』の言葉に反応し、逃げ出そうとした。・・・・・が遅かった。
密着した零距離から信じられない衝撃を受け空に飛ばされた。

ドォ・・・・・ゴオォォォォォォォ―――――――――――

空に5本の牙痕が刻まれる。
空気が圧縮され鋭利な刃以上の切れ味で大気を断絶した。
圧倒的な威力で空気中の水分が凝結し、飛行機雲のような一直線の雲が大地から天へ逆に駆け抜けた。

いかなる流派にも門外不出の秘義がある。大半は秘太刀と称する敵に知られていないが故に必殺となりうる技だが、雷蔵のそれは違う。技の内容を知っていようといまいと、絶対に防げない真の必殺技だった。

「ひどいぃぃぃぃぃぃぃぃすぅぅぅぅ師ぃ匠ぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・・・・」

エコ−する絶叫が遠ざかっていく。
見取り稽古ならず、体感稽古。喰らって覚えろと秘義をあびせた。

「むう・・・・・業は衰えておらんな」

鉄斎がうなりに近い声で呟いた。
柔術は投げ技が基本であることは間違いないが、拳技もあれば蹴技もある総合格闘術に近いものがある、特に相手の身体を掴んだら投げる前に点である打撃でダメ−ジを与え、面である投げ技をダメ−ジが抜け切れない状態で叩きつける。
雷蔵が見せた口伝絶命技は、近接戦闘においては際たる技だ。柔術家あいてに掴まれず勝つのは非常に困難なのだから。 

「ふん・・・・・・・これで互角だ」

なにが互角なんですか!と和樹がいれば叫んだだろう。
鉄斎がしぶい顔で和樹が吹き飛ばされた方向を見る。
心配はしていない。技を受ける瞬間、自ら後ろに飛んで威力を減少させている。
手加減されているとはいえ、恐るべきセンスと反射神経だ。





「ここはぁ・・・・・・・?」

「舞穂!気が付いたか!?」

雷蔵が嬉しそうに舞穂の様子を窺う。
舞穂が目を擦りながら起き上がった。睡眠薬が切れ口伝絶命技の衝撃音で強制された夢の世界から戻ってきた。

「にゃ?雷蔵おじいちゃんに鉄斎おじいちゃん?」

すぐ傍にいる二人を見て、寝惚けている声で名前を呼んだ。

「痛い所はねぇか?気持ち悪くはねぇか?」

舞穂を知らない、姫川流の門下生が見れば目を疑うような行動を見せる。

「どこも悪くないよ−」

舞穂は、にぱっと愛らしい笑顔を向けた。

「なんで、舞穂はこんな所にいるの?それに和樹君は?」

知らない場所。それも数分前まで木々で覆われた山は5本の牙で抉られ無惨な姿をさらけている。
回りの建物も廃墟寸前にまで痛み傷ついていた。

「和樹なら夜空を散歩しておる」

鉄斎が舞穂の頭を撫でながら、和樹がいない訳を教えた。事実である。散歩とはかけ離れているが・・・・・・
先程までの張り詰めた空気は舞穂が起きたと同時に霧散した。人間凶器の二人は舞穂の前では何故か傍若無人を見せなかった。

「花火は好きか舞穂?」

「うん!好きだよ」

「此処で、もう直ぐでっけぇ花火が上がる。危ねえから向こうにいこうか」

「うん!」

元気よく応える。此処がどこなのか未だわからないが和樹の次に好きな二人が一緒に居るので安心している。
3人は、1kは離れた丘の上から豪快に爆発する花火を鑑賞した。舞穂が「キラキラ光らない」と不平を漏らすが、「アレは特別製なんだぜ」と雷蔵に言われ、そんな物なのかなと思った。





「なんで生きてるんだろ・・・・・・ボク・・・・?」

棺桶に何度も入りかけるが、片足は必ず現世を踏み。戻ってくる男。式森和樹はダメ−ジを受けすぎて動けない体で寝そべり、夜空に輝く星を見上げていた。
和樹が外道に強く拒否感を持つようになったのは、心が強く揺れている時に口伝絶命技を受け、刷り込みに近いモノを持ったからとも言える。










おまけ

「そうか・・・・・分かった」

男が受話器の電源をOFFにすると、お茶と茶菓子を持って式森茜が居間に入ってきた。

「どうされたのですか?あなた」

何時もと違う夫の表情に、何事かと尋ねた。

「ん?ああ・・・・・和樹からだ・・・・・」

式森蒼雲が恋女房を通りこして、未だ現役バッカプルの相手である茜と茶を啜りながら電話の内容について話あった。

「和ちゃんが私達にお願い事をしてくるなんて何年振りかしら」

「そうだな」

「それにしても、舞穂ちゃんに手をだしてくるのは、オイタがすぎますわね」

「誕生してから200年も経っていないからな、暴走もしやすいのさ」

あの国の国民はフロンティアスピリッツに溢れた移民の子孫と思える熱意と夢を持っているが、上にいけば行くほどフロンティアスピリッツとは遠く離れた権力欲と保身の塊みたいな奴らがのさばっている。
これがヨ−ロッパや中東の国の機関なら舞穂が式森家の庇護下にあると判明しだい手を引いただろうが、あの国は石油ほしさのジャイアニズムで戦争を吹っかける、厚顔無恥たるツラの厚さを持っている。
他国の国民だろうと関係なく『正義の為』とでもいって動くアルファベット3文字の機関が今回の黒幕とも分かっている。

「あほ共が、後悔という言葉の意味を教えてやる」

尖ったシッポが見えそうな蒼雲に、茜は2杯目のお茶を手渡した。




一週間後、公には存在を認めらていない秘密山脈の奥にある。善良な自国民が顔をしかめそうな秘密行為を繰り返す秘密組織の秘密基地が謎の局地限定大地震を受け、有権者の税金から作られたのにも係わらず、公表されていない地下シェルタ−が崩壊した。
秘密の癖にやたら正義を連呼する連中は、秘密の内に秘密のベ−ルに包まれたまま化石の材料になった。










あとがき

はじめまして。
駄文書きの太刀です。以前、夜の残照さまに投稿していましたが、途中で18禁になる話を書きたいので、移させてもらいました。









△記事頭
  1.  和樹の過去は波乱万丈ですねぇ・・・・・龍までも使い魔にするとは・・・・・
     てか・・・舞穂を拉致した組織は打ち上げハナビですか・・・・よかったです!!!
    D,(2004.12.16 23:44)】
  2. ・・・お久しぶりです。
    和樹の化け物ぶりもなんですが、お爺さんズの化け物ぶりもスバラシイ!!
    後過去の作品を投稿して欲しいです、見れないので・・・。
    33(2004.12.17 00:24)】
  3. 待ってました!はじめまして、太刀さん。
    毎回楽しみにさせていただいてます。
    しばらく更新がなかったんで、少し心配してました。再開おめでとうございます。
    今まで、和樹の戦力って神威の拳が主力でしたけど、マイソードを
    手に入れてスタイル変更かな?・・・でもたしか飛天流って封印中だったような・・・怒られるかな?
    龍の使い魔登場ですね、もちろんちっちゃくなるんですよね。
    慶一郎、何気にクタニエに手を出しているし、葉流華や飛鈴にばれたら大変だ!でもばれないかな(笑)
    次話を楽しみにしています。
    HIRO(2004.12.17 01:01)】
  4. 待ってました!はじめまして、太刀さん。
    毎回楽しみにさせていただいてます。
    しばらく更新がなかったんで、少し心配してました。再開おめでとうございます。
    今まで、和樹の戦力って神威の拳が主力でしたけど、マイソードを
    手に入れてスタイル変更かな?・・・でもたしか飛天流って封印中だったような・・・怒られるかな?
    龍の使い魔登場ですね、もちろんちっちゃくなるんですよね。
    慶一郎、何気にクタニエに手を出しているし、葉流華や飛鈴にばれたら大変だ!でもばれないかな(笑)
    次話を楽しみにしています。
    HIRO(2004.12.17 01:03)】
  5. え〜っと、……途中で回想編に入ってそのまま22話は終了ということなんでしょうか? っていうか回想編、長っ!!
    あくまで私見ですが、過去編は外伝みたいな感じにして、本編ではさらっと触れる程度にしておいたほうが、話の流れが変にならなくていいと思います。
    もはや刷り込みに近い嫌悪感の対象となってしまった剣&龍の扱いはどうなってしまうのか? 本編の続きがとても楽しみです。
    カッァー(2004.12.17 17:26)】
  6. 毎回楽しみにさせていただいておりました。再開おめでとうございます。アポフィス改めアポストロフィーエスといいます。
    和樹はますます人外のモノの知り合いが増えましたね。このまま二人?の主となるのか?
    そして、和樹を使った二人の師匠の戦いの勝者がどちらになったのかが気になります。
    次回も頑張って下さい。楽しみにしています。
    アポストロフィーエス(2004.12.17 17:28)】

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