「そりゃちょーどよかったわ!」
美神に飛びかかろうとしたそのままの勢いで、がま口の中の超空間に吸い込まれる横島
本来ならここで試練があるはずなのだが、今回はちょっと違うところへ接続しちゃったようで
「な・・・宇宙の卵の異常!?」
慌てて一つの“卵”に近寄る一人の女性
その“卵”から
「う・・・はっ・・・あ!」
一人の少年が出てきた
意識はないが、苦しそうに浅い呼吸を繰り返してる
「っ、この子人間ね。魔界は人が生きていられるように出来てない、このまま放って置いたら死んじゃうわ!」
着ていた白衣をごそごそと探り始める女性
「ああっ、こんなことなら手持ちのアクセサリーの一つもつけてくるんだった。っ、なにか・・・・・・あった!」
取り出したのは“魔界適合薬・プロトタイプα”と書かれた瓶
「実験はまだ済んでないけど、ないよりはマシね」
口を大きく開けさせ、中の液体を流し込むと無理やり口をふさぐ
のどがごくり、と動くのを見て、ほっと息をつく
「よかった。未実験とは言え、あたしとドクターの作だから、効果は確かなはず。後は、副作用だけか」
少しずつ少年の顔から苦悶の色が消えていくのを見て、ほっと息をつく
「悪いけど記憶を覗いてどの世界からやってきたのか特定しなきゃ・・・・・・ん?」
手の平から紫の玉を出したところで、少年の様子がおかしいのに気づく
様子と言うよりは、何か違和感があるのだ
ふっと頭をよぎった思い付きのままに体を触る
「うっ、わ。やっちゃったわ・・・まさかこんな副作用があるとは。しかも、異世界観移動、魔界の深部への転移、薬以外にも理由が考えられる分厄介ね」
額に手を当てて、大きくため息をつく
「・・・・・・とりあえず、落ち着いて休める部屋に連れて行くのが先決ね。“軽”」
手の平の珠に文字をこめた後、気を失った少年のの体を軽々と担ぎあげ、女はその場を後にした
「はっ、ここは・・・・・・たしか俺は、そうだ!初夜!貧乏神のおかげで仮とは言え小鳩ちゃんと何より、あの、あの美神さんと夫婦になれて、はれて新婚初夜だったんだ!あれ?でもなんか変なのに吸い込まれたよーな」
目が覚めて真っ先に、初夜とか言う限り、たいした煩悩っぷりである
「貧乏神の試練でここに迷い込んでしまったのね、キミは」
色気がたっぷりとにじんだ声に、横島の美女レーダーが反応する
ばっと顔を上げると、そこには想像通り、いやそれ以上の美女がいた
アップで結い上げた髪からのぞくうなじは、さらりとした黒髪とあいまって、かぶりつきたいほどの白さを魅せる
瞳は右目が黒、左目が藤色のオッドアイ
全体的にメリハリのついた体を、真っ赤なドレスで包み込んでいる
まとう雰囲気は妖艶でいて、どこか無垢な印象も抱かせる
そこまで横島が見て取ったとき、女の朱い唇が動いた
「ごめんね、なんか副作用でちゃった☆てへ♪」
かなり不穏なコトを口走る
その内容の不穏さに、さしもの横島も煩悩を吹き飛ばす
「ふ、副作用ってナンスカ!うわっ!!!!????」
自分の体を見てみてびっくり、少し控えめだが胸が丸く?
むにむに
揉んでみる。柔らかい。ついでに恐る恐る下にも手を伸ばしてみる
「ないー!」
血涙を流して嘆く横島
「まあまあ、ちょっと女の子になっちゃったくらいで泣かない泣かない。良くあることよ」
「ない!絶対に滅多にない!」
半泣きで叫ぶ、多分横島だった少女
「うふふ、可愛いわねー。絶対男の前でそんなカオしちゃだめよ?男は九割がたケダモノなんだから。まあ、真面目な話、この薬使わなかったら貴方生きてなかったわよ?何せ魔界の中でも有数の“城”ですもの、ココ」
その単語に、ぴたりと動きが止まる
「ま、かい?」
「そ、それも魔神クラスの本拠地よ。これ、みなさい」
女が手元で何かを操作すると、目の前にモニターが開き、奇妙な物体がそこに移っていた
無数の巨大な卵
「コスモプロセッサ。ある魔神が造った、ありとあらゆる可能性をこの世界に現出させる機械。原理を言うとあの宇宙卵で他の平行世界につなぎ、それから任意の可能性を抽出、あの鍵盤で現実化させているってとこね。で、現実化とか、抽出の方の機械は完膚なきまでに壊したんだけど、厄介なのはこの“卵”でね」
はあ、とわざとらしく肩をすくめる
「どうも平行世界への通路になっているらしくて、下手に壊した場合の影響が分からなくてね。仕方なく、一つ一つ調べて閉鎖していたの。びっくりしたのよ、調査中の卵からあなたが飛び出してきたんだから。多分貧乏神の試練空間に直結していたらしいわね、あの卵は」
そんなとこに繋げてどうする気だったのかしらあの馬鹿親父、とつぶやく
「まあ、これがあなたがここに来た過程・・・・・・ってそこ寝ない!」
すぱーんとハリセンが翻る
「んなこというても俺にはさっぱりわからん!」
威張って言うことではない
「まあ、アレは出来の悪いど○でもド○の様なものだと思って頂戴。で、それが偶然貴方のいた空間へ繋がっちゃったと」
「それならなんとなく分かるが・・・・・・危険なネタを」
一応伏字にはしてある
「そんなこんなで、いきなり魔界でも力の強いとこにきちゃったから、死にかけだったのよあなた。たまたま近くにあったまだ臨床実験の済んでないお薬を試したの」
副作用がこれくらいで済むなんて、運がいいほうよ
「どこがじゃ!男じゃなくなるなんて、俺は死んだも同然やー!!この煩悩をこれからどうすればええんやー!」
泣き喚く横島
その嘆きを女は、ふっと鼻で笑った
「男じゃなくなったから、煩悩が発揮できない?はっ、笑わせてくれるわね!その程度で発揮できなくなる煩悩なら、どぶにでも投げ捨てなさい!いい?同性であることを利用した、さりげないスキンシップの名を借りたセクハラ!一緒に寝たり、あまつさえ女風呂で裸の付き合いも可能!それに、なにより」
握りこぶしのハイテンションモードを解除して、ふっと横島の耳に息を吹きかける
見てくれだけみれば、いたいけな女の子にイケナイことをしようとしている妖しい美女にも見える
「女同士でしか味わえないか・い・か・んってのもあるのよ?」
「アアッ、なんか凄くアブノーマルな道への誘惑が!?ひやっ」
「うーん、胸はちょっと小ぶりね。Aって程小さくはないか。ま、ぎりぎりでBね」
背後から横島の胸をつかむ・・・・・・どうやら大きさを確かめていたらしい
「冗談はともかく、これなら何とか誤魔化せそうねー。ちょっと待ってて」
そう言ってごそごそと鞄?を探す
「さっきあなたの様態が安定した後、取りに行ったの。眠ってる間に試してみたんだけど、どうも使えるのは一日三回、効果時間は十分ってとこね」
銀の鎖に、女の左目と同じ藤色の玉がついたブレスレット
「もしばれそうになったらこれ使って、一時的に男に戻って誤魔化しなさい。そうやってあなたが誤魔化してる間に、元に戻る方法はどうにか探してみるわ」
真摯な瞳で女はそう言い切った。ふざけて入るが、根は誠実な性格なのかもしれない
「え?俺、帰れるの?」
男に僅かとはいえ戻れることよりも、そっちに反応する横島
なんだかんだ言って不安だった様だ
「門はまだあるもの。行き来は可能よ。でも、あなたの場合、貧乏神の試練から来てるから、そっちクリアしてからじゃないと・・・・・・そうね」
また、ごそごそと鞄?らしき物体の内部を探る
出したのは鏡。コンパクトサイズだが、見た目がとても古い。日本史の教科書にでも出てきそうだ
「貧乏神の試練から抜け出たら、連絡して。念じれば通じるから。・・・・・・そこら辺の使用方法は、一応叩き込んだほうが良さそうね」
しばらくお待ちください
「・・・・・・なんて、デタラメ」
男に一時的に戻ったり、頭の中にいきなり声が聞こえてきたりした後の感想
「あなたも十分デタラメよ。保証するわ」
「俺が言ってるのは、男に戻った後に俺の大事なところをじっと見つめて「大丈夫vまだまだ成長途中なんだから」とか何とか、フォローなのかどうかすら怪しい一言を言ってくださった件に関してなのですが!?」
涙目である。傷ついてるらしい、男としての面目とかいろいろ
「それで傷つくほどやわな神経はしてないでしょう?でも、幸い身長が大して変わってなくてよかったわー。体つきは・・・・・・まあ、少し柔らかくなっちゃってるけど、人間には先入観があるから、早々ばれないでしょう。むしろ、警戒すべきはこれから会う人ね」
貞操は、しっかり守りなさいね
・・・・・・そこはかとなく不吉な忠告である
「で、この卵の中に入るんすか?」
「そうよー。がんばっていってらっしゃい。ぐずぐずしてると蹴り落とすわよ?」
「行かせていただきます!」
あわてて突進する。次に来たのは、ふわりとした感覚
空を漂っているような、周りの重力が0に限りなく近くなったような感覚
薄れていく意識の中で、あでやかな声が響く
「この名を覚えておきなさい!我が名はイシュタル!魔神を継ぐ者にして、魔神を滅せし者!」
その声は、威厳に満ち溢れ
まさしく魔神に相応しい、凛とした堂々たる宣言
なのに――
横島の耳には、その名乗りが悲鳴に聞こえた
これは、まだ何も知らない少年の物語
そして、全てを知る女性の物語
愛する父をその手で殺した女が、少年の物語をどんな風に変えるのか
「アタシが投じるは四石。四つの波紋がもたらす未来は、投げるあたしにも分からない。結末は観客の皆々様の手の中に」
Fin
初めまして、SKと申します
GS試験以後、文珠習得以前の逆行または平行世界ものを書こうとしたら、こんなのができちゃいました
女性化なんてするはずなかったんですが、“彼女”が介入するいい口実が見つからなくて、こげなことに
口調も変わらないし、特に話には・・・・・・一部影響するかも?
ちなみに、コスモプロセッサの設定は嘘っぱち・・・・・・げふんげふん、オリジナルです
えと、能力で分かったかもしれませんが、イシュタルさんは平行世界の――です
本当は、彼女の物語を書きたかったんですが、諸事情でこういう形に
しかし何故妖艶なお姉さま系になったんだろう。当初はもっと、きっぷのいい姐御系のはずだったのに
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