九峪の苦難、父親への道
発表なの、そして・・・・・
「ん、ああ客人か、九峪の妻、清瑞だ、よろしく」
「同じく妻か、私がこういうことを言うのも変な気がするが、よしなに」
天目、清瑞が珠洲の紹介に乗って自分の立場を述べる。
清瑞は慣れない自己紹介に僅かな恥じらいを混ぜて微笑み。
天目は自分が妻と言う言葉を喋ることに自嘲でもしたのか苦笑いをしてやわらかく微笑んでいた。
その言葉に悪意はなく只自分の認識している立場を述べたに過ぎない、そこに悪意の介在する余地はないし、先ずこの二人が入室直後にそのような感情を込める意味がない。
朗らかな笑み、何か満たされた人間が浮かべるそれを日魅子に向ける清瑞と天目。
特に現在天目は自己の人生で一番満たされている時期だろう、これから数ヵ月後に彼女にさらに幸福は訪れる、そのときが人生で最高の瞬間かもしれない。
子を成すということは女性にとって最高の苦痛を与える行為だが、無常の喜びも伴う行為だろう、其れが愛し愛され生まれてくる子なら尚の事。
それで、いかにも幸せ一杯ですと言う柔らかな笑みは以前の天目のキツさのようなものを見せず、柔らかい美貌となって彼女を一段と綺麗にしている。
今の天目は完全な美人と称していいだろう、理知的で優しそうで意志が強そうで、何より笑顔が綺麗な女性、笑みの綺麗な人間は美しいとされるが今の天目には其れが当て嵌まる。
そんな綺麗な人間が自分の思い人の妻だと名乗る(しかも最低でも5.6歳は年上の極上の美女が)。
あっさり日魅子は現実認識を崩壊させ、ポカンとした顔で主に天目の顔を眺めるのみだった、先程までの激昂も忘れて。
判りやすく言うと固まっただけなんだが。
因みにそのとき九峪は灰になって床に突っ伏していて、兎華乃につつかれていたりする、心の準備が無いまま連続して暴露されてこちらも心停止一歩手前。
暫くして、なかなか回復しない日魅子に珠洲が後頭部を引っ叩き、強制的に現世回帰するやいやな、因みに誰に叩かれたかは気にしなかったらしい。
未だ灰になっている九峪に鬼神の表情で迫りその襟首を掴み上げ、それはもう凄まじい勢いで九峪の首を上下させて、吼えた。
「どう言う事なのよ、九峪!!!!
大体妻、妻ってなによ、いつの間に結婚したの、私に黙って。それにあの小さい子が九峪の女、妻がいるのに女ってどういうことよ、ここにいる人達の関係はなんなのよ!!!!それに私のことはどうなったの!!!!!!!!」
それは凄まじい絶叫である、加えて九峪をもう前後に揺さぶるのではなく既に振り回している、九峪の身長180以上ある筈なのに本当に現代人の体力か日魅子。
力加減など完全にブッチして九峪の首を振り回す、しかも締め上げるように掴み上げているのでいい感じに首が絞まっているし。
その結果、九峪、苦しそうに足をバタつかせているがそれは無視して振り回し続ける。
つまりは九峪の足が浮いていると言うことなのだが、だから本当に現代人とは思えぬ力である、技名ネックハンギングツリー(?)。
九峪、早くも天に召されそうだが、これでも一児の親(予定)、妻と子供残しておいそれと死ぬわけにも行かないし、周りが死ぬことを赦さないだろうし。
彼は愛されているのだから、一部変な愛し方をしているのも居るが(亜衣とか衣緒とか)。
「九峪に何をするか狼藉者」
突然の暴挙に虚を突かれたのか反応が遅れたのだろうが、それでもすぐさま九峪と日魅子を引き剥がし、日魅子を突き飛ばして九峪と距離をとり。
九峪を抱えて敵意の目線で睨みつける女性。
九峪の正妻にて相棒、本来護衛の立場を持つ清瑞である。
なまじ今ここに来たばかりなので完全に今の様子で日魅子に苛烈な敵意を送っている。
彼女にとって九峪に危害を加えるもの=敵なのであるから。
咳き込む九峪の背中を撫で介抱しているが、日魅子から意識を外してはいないだろう。
「大丈夫か九峪、首は」
「大丈夫だ、だから殺気を抑えろ、日魅子が怯えてる」
百戦錬磨の武人である清瑞の殺気を現代人の日魅子が浴びればどうなるか、九峪は自分には向けられていないし慣れもあるからさほどでもないが、清瑞の殺気はかなりキツイ。
日魅子は突き飛ばされた瞬間に出掛かった文句が口の中に引き戻され、先程の勢いを失って今ではペタンと座り込んで怯え震えている有様だ。
耐えられるわけがないのだ、明確な殺しの空気も知らない現代人が殺し殺される戦場で生き抜いた猛者の殺気になど。
その眼光にさえあがなうことが出来る訳が無い。
意思が違う、経験が違う、感情が違う、身に潜む狂気が違う、全てが違いすぎる、対抗は無意味ではなく無価値にさえなる差があるのだから。
それこそ半泣きになって、手で清瑞から少しでも離れようとするような怯え方だ。
それに気づいた、九峪が清瑞に殺気を抑えるように諫める。
幾らなんでも痴話喧嘩で本物の殺気を放つ必要はあるまい。
これは天目にも向けているが、天目も突然の暴行に穏やかな顔を消し去りその身から僅かな殺気を昇らしている、僅かといってもその殺気の質は清瑞よりかなり濃い。
妊娠していても虎は虎ということだ、その零れる殺気ですら、日魅子の怯えを一段階上のものにしている。
因みに、珠洲、織部、伊万里、衣緒、志野も止めようとしたが何より清瑞が早かったそうな、こちらはある程度事情が判りかけているので殺気を出してはいないし。
兎華乃は相変わらず面白そうに見ているだけだし。
九峪が宥めて二人共殺気はしまったが、警戒の空気は色濃く残っている現状で、何とか日魅子は、その現在の怒りのお陰か生来の気の強さかで持ち直し。
若干先程よりも大人しめに九峪を忌々しそうに睨んでいた。
日魅子も清瑞と天目に睨まれていたけど。
其方には目をあわせようとしないのは本能だろうか、だがしかし九峪を見る目は修羅か羅刹の如しだ、嫉妬の怨念が篭っている。
その日魅子の目はかなりの割合で九峪の浮気と推定されることを責め立てている、既に行方不明の心配などこれっぽっちもないかもしれない、そんな瑣末ごとなど恋人の不貞の前には塵芥同然であるとばかりに。
それでも清瑞&天目の奥さんズに微妙に怯えつつ、相当怖かったらしい。
で、説明開始。
作者としてもなんと説明すれば迷うのだが、と言うかどう説明しても落ちが決まっている。
しかも珠洲やら清瑞やら天目があらかたばらした後、誤魔化しは不可能に近い、本当の事を言っても信じてもらえない可能性が高そうだが。
だって信じる、異世界に言って奥さん、恋人、妾大量に作って帰ってきましたって、作者ならカウンセラーか精神科医に行くことを薦め、三ヶ月ほど療養してきてもらいたいほどである。
しかも子供まで出来ました数ヵ月後には父親です、嫉妬深いと理解している一応元恋人に告げられるか。
それだけ九峪は、漢、勇者、鬼畜、人でなしではない(鬼畜は正しい、九峪はロリィな兎華乃にも散々いやらしいことをやってきたのであるから、正確にはやらされたが正しいが)。
結局はこれだけ前置きしておいて正直に吐いたんだが、天目の目の前で嘘をつくことが出来なかったと言うのもあるが、嘘がつける雰囲気ではなかった。
皆九峪を慕ってこの世界、故郷まで捨てて九峪を追ってきたのだし。
その思慕の感情を無碍に出来る男なら最初からこれほど好かれることもなかった。
それに天目昨日のことでかなり安定はしているのだが、軽く妊娠の為に情緒不安定であるし、打ち合わせ無しでいい加減なこともいえない、変な誤魔化しを聞いて心を乱させるわけにもいかない、これは嘘がつけない雰囲気の主要因となるだろう。
確かに嘘がつけなかった理由に天目の存在は九峪の中ではかなり大きかったのだが。
妊婦はこの世で最強の存在なのだから致し方ない、男にとって。
その結果、呆然としている姫島日魅子嬢がいましたとさ。
どうやらあまりのことに現実逃避に走ったのかもしれないし、脳の許容量を超えた事態に反応できないのかもしれない、それともあまりの怒りに気を失ったか。
どれにしろ現世回帰したときが恐ろしいが。
因みにその間、九峪は日魅子との関係、珠洲を筆頭に尋問され洗いざらい吐かされていました、質問の中には性交渉の有無とか粘膜的接触(接吻)の有無とか、かなり直接的な質問もかなりあったのだが、その辺を聞いてきた面子はご想像にお任せしよう。
吐いた後、何気に珠洲が勝ち誇った顔で日魅子を見たのだが、何を勝ち誇ったのだろうか、未だ九峪と肉体関係どころかキスもしたことが無いと言う九峪の自白による優越感の発露かもしれないが、珠洲は九峪にされたことが無いといえるぐらいかなり色々やっているから。
因みに、九洲でも珠洲の九峪の独占欲の発露は凄かったらしいが、その辺は小説の志野に対する態度を見ていれば判りそうなものかもしれない。
嫌われない為に、というか以前の態度で当初の珠洲本人は九峪に嫌われていたのではという不安がかなりあった為、助平な九峪に性的な奉仕を頑張ったと言う裏話があるのだが。
其れこそ描写できないぐらい色々と、この面子で一番凄いプレイを体験しているのは多分珠洲(面子内最年少者、それを甘んじて受ける九峪君、鬼畜、鬼畜)。
で、日魅子現世回帰。
どうやらいきなり暴れるほどの気力は戻ってきていないらしい、あまりの現実に打ちのめされたともいえる。
で、意識回復をして口を開いた最初の台詞が。
「九峪、私と一緒に病院行きましょう、そうね休養が必要よ。何処に逝っていたか知らないけど、九峪は疲れているの。大丈夫、私は見捨てたりしないから。私達恋人同士だし、幼馴染だから、お見舞いにも欠かさず行くから病院に行こう」
どうやら脳内で九峪=頭を患っている人で決着を着けたようだ、一番現実的な判断かもしれないが。
「日魅子、あのな」
一応抵抗を試みる九峪、と言うかその手の病院の必要性は無いのだから拒否するだろう、今のところ必要なのは天目を産婦人科にどうやって連れて行くかと言うところか。
戸籍などの問題もあるが先ず保険証が無い(その辺の細かいとこは無視しても構わないだろうが)。
それでも日魅子は首を振って優しげに、因みにその目は妙に労わりが混じっている、先程の嫉妬に狂った目は欠片も無い、キチガ○を優しく見る目といえば判りやすいか。
「九峪、よく聞いて、九峪は疲れているの、疲れているんだから休まないと。休んで、治療を受けたら元通りの九峪に戻るからそれまで病院にいよう。もしかしたら九峪はどこかで酷い目に合ったのかもしれないし検査も必要だから」
更に行方不明期間に何かあって混乱しているのではという仮説まで付け加えてくれる。
確かに酷い目にはあっただろうが、根本的に天魔鏡のせいだろうが。
もしかしたら九峪を精神病者に仕立て上げることで、現在のハーレム&九峪出来ちゃった婚もどき状態を否定したいのかもしれない。
そんな心理の防衛機制はともかくとして、本気の痛い人を見る目を知人にされるのは辛いものがある。
「だから日魅子、俺はマトモだって、それに本当に天目は俺の・・・・・」
この言葉が拙かった、心理的に逃避していた日魅子の琴線に触れ誤魔化していた心理を浮き彫りにする。
早く言えば嫉妬再燃。
正確には無意識に誤魔化して燻った状態だった嫉妬の炎にガソリンを流し込み、嫉妬爆発。
その目が再び羅刹に種類の眼光が宿る。
「俺の、何」
恐ろしく低く、ドスの効いた声、日魅子あんたヤクザも逃げ出すよその声は。
九峪を一瞬で凝固させるには十分過ぎる声。
それでも、珠洲と清瑞の嫉妬を受けた九洲時代の体験は九峪に何とか言葉を紡がせた。
この二人、嫉妬モードに入るとそれはそれは恐ろしいから。
「俺の子供を妊娠してる、だから俺の女房になるし俺も責任は取る、天目を愛しているし」
最後のほうはかなりキッパリと言い切った、九峪としてはこれで日魅子に嫌われようと軽蔑されようと、天目を優先させたのだ。
「それに俺は、その世間的には拙いんだろうがここに居る全員を愛している。これは否定できない。清瑞は俺の妻だし、他のみんなも俺を愛してくれている。だから・・・・・・・・・・・御免な、日魅子」
そして自分を愛してくれている存在を無碍に出来る男ではない、日魅子が九峪を愛していないとは九峪は考えてはいないだろうが、彼女達と日魅子となり、彼女達を否定するのは九峪には出来ないだろう。
それが目の前の幼馴染を傷つける結果になることを理解していても。
その後降りかかる身の不幸を理解していても。
最後に謝ったのは九峪なりの日魅子への罪悪感による謝罪だろう。
それで、日魅子が納得する・・・・・・・・・・・・・・・・・・訳が無かった。
「何が、御免なの、九峪雅彦」
フルネームで呼び捨てにしてくる日魅子、その背中に阿修羅が見える、気がする。
「あの、・・・・・・・・・そのな」
先程の毅然とした態度など微塵も無い九峪の狼狽振り、どうやら日魅子の怒気に完全に負けたらしい、情けないことに。
「ねぇ、アンタみたいな男の事なんて世間で言うか知ってる」
冷徹で、冷酷で、極寒の風雪を思わせる異端審問官のような声で、ゆっくりと九峪に近づいてくる。
そして九峪と至近の距離に近づいた日魅子に九峪は恐る恐る返答し。
「何だ・・・・・・・・・・・・・・・日魅子」
「浮気者って言うのよ」
ドゴンッ
返答は恐ろしい怒気を篭めた声と強烈なボディブローだった。
一瞬で九谷の意識がお空に行ってしまうほどの強烈なヤツが九峪の水月に突き刺さっている、ナイスパンチ日魅子、技名ソーラープレキサスブロー。
その後、九峪が目を覚ましたときには。
女達に「また今度話し合いましょう」と伝言をして立ち去っていたらしい。
因みに九峪に拳を振るった瞬間に晒された清瑞の殺気に逃げたとも言えるが。
後書き
お久し振りです(土下座)。
約三ヶ月振りです、第四話(なお、以前の話は華の残照にありますので)。
華の残照のほうが回復しないので、此方にこの作品も連載する所存です。
次回から各キャラに焦点を当てて書いていこうと思います、基本的にはギャグ、エロ、ラブの三要素で。
で、作者としては恒例に近いような気がするのですがリクエストを募集したいと思います。
誰を焦点に話を進めるかについてですが、早い話各キャラの誰を優先的に書くかです。
珠洲、清瑞、天目、織部、志乃、兎華乃、亜衣、衣緒、伊万里、日魅子。
これだけ女性キャラが多いと作者としても誰から書こうか悩みますので。
どうかお願いします。
では遅くなりましたがレス返しです。
>D,様
珠洲もこの話ではそれほど聞き分けのない性格にはなっていませんから、基本的には九峪に愛されていればいいんです彼女は。
九峪達の生活はその辺はこれからのお話という事で。
でもすねかじりは無理ですね、当面は何とかなるにしても。
>ユウイ様
応援有難うございます、珠洲以下の順位としては志乃、伊万里、兎華乃、亜衣、衣緒、織部の順でしょうかね、多分。
天目は幸せになるのは決定ですよー。
>まさのりん様
幾らなんでも一般人相手ででっかくはならないと、魔人数人がかりでもチビモードだったんですし。
>アーベン様
確かに少し亜衣が弱かったですね。
薄い存在感の方たちはこの後の各個人の話で目立てるように頑張ります。
因みに、日魅子男性経験が無いから判らなかっただけでは。
>読石様
今回何とかキシャらないで終わったと思うんですが。
天目の幸せボケ姿、確かに面白そう、珠洲も段々丸くなっていきますし、飽くまで正妻は清瑞ですが。
>アポフィス様
妊婦は存在だけで最強なのです。
天目の他にも妊娠する娘も考えてはいるんですけど、現在は候補は三人ほど。
九峪君は幸せな不幸を味わってもらいましょう。
>MAGIふぁ様
日魅子の立場はまだ少し曖昧ですが現在のところは九峪の状態を認めていないといったところです。
>朧霞様
珠洲を褒めてもらえるのが嬉しいですね。
珠洲はどんどん可愛くなってもらいます、珠洲をどう扱うかは完全には決まっていませんが可愛くなると言う方向性は決定です。