(某サイトで調べてみた所、この投稿は肉じゃが派?というらしいです。
それが嫌な方は見ないことをお勧めします。
まあ、途中で路線変更するかもしれませんが・・・・)
バキィッ!!!
目の前の男の顔面を殴りつける・・・・全力で。
殴られた男は壁に沈み込むように倒れる。
忘れていた・・・・思うが侭に、力任せに自分の拳を振るうことがこれほど気分がいいものだったことを。
―――――ごめんなさい・・・私、好きな人がいるから・・・・
ドガッ!!!
違う男の衿を掴み引き付けるようにして腹に膝を叩き込む。
その場にしゃがみ込むように失神する男。
気付いていた・・・・自分の想いが彼女には届かないことに。
―――――それに播磨君は妹と・・八雲と付き合っているじゃない・・・
グゥェェ・・・
まだ立ち上がろうとする男の襟首を掴み壁に吊り上げる。
苦しげな呻き声を上げながら意識を手放す男。
知っていた・・・・自分の周囲にでたらめな噂が流れていることは。
―――――だから・・・・私より八雲を大事にしてあげてっ!!
ドサ・・・・
そのまま腕の力を緩め地面に落とす。
思い出した・・・・好き勝手に拳を振るった後は、いつも心が冷めていく・・・褪めていく。
―――――これからも友達でいよう!!播磨君!
路地裏の薄暗がりから出てきた男の背後には4人の同年代の男達が呻き声を上げながら倒れていた。
長めの髪をオールバックに流しカチューシャで止めて顔には黒いサングラス、さらに生やした髭が、その男の『恐持て』の雰囲気に一役買っていた。
学ランの上着を肩に引っ掛けて歩く男の名は播磨拳児。
アウトロー・・・所謂『不良』のレッテルを貼られている男だった。
――――つまらない
雑踏の中で足を止め、ため息に似たモノを吐きながら空を見上げてみる。
周囲の人は足を止めた播磨を避けるように歩く・・・ぶつかろうとする者はいない。
雑踏から外れるように空を見上げた播磨の瞳に映るのは透けるような青と白・・・
何の感慨も湧かないそれは、自分の見える世界が変わった事を図らずも己に認識させ、過去の想い人・・・塚本天満に振られたことを思い出させる材料であって。
心の痛みに慣れていない男には視線を戻し歩き出すことしか出来なくて。
気晴らしに単車で飛ばしてみても、喧嘩をしてみてもその見える世界が戻るはずもなく、ただ苛立ちだけが増していく。
思えば高校に進学したのもサングラスも髭も――――今の自分を形作る物が塚本天満から始まっている。
それらの意味がなくなったのならそれには何の価値もない。
塚本天満への想いというものが現在の・・・過去の生活にどれだけの割合を占めていたのか・・・
―――――捨てていくしかないんだろうなぁ・・・・
サングラスの下でどこか痛みと自嘲に混じった笑みを浮かべると、サングラスを外し放り投げた。
今までの自分とこれまでの生き方をそれに乗せるようにして。
―――――こいつも剃らなきゃな。
自分の髭を弄りながら口元を歪める。
よくぞここまで伸ばしたものだと苦笑気味に。
―――――高校は・・・とりあえず出ておくか。
わざわざやめるほどの事ではない・・・自分に言い聞かせるように。
それが虚勢であることを播磨自身認識していた。
『友達でいよう』・・・この言葉が縛り付けていたのかもしれない。
それを律儀に守ろうとするところが播磨を『悪』にかえない部分だったのかもしれない。
播磨拳児の高校三年の春だった。
「完全に・・・・遅刻だな。」
時計は10時を過ぎていた。