「少し強引ですね。倒そうとするのではなく、倒れる様に導くようにしなさい」
「分かりました」
師範の言葉にうなずき、もう一度自分よりだいぶ大きい人に向かって相手を自然に投げ飛ばす。
「そう、今のようにうまく崩して投げるようにしなさい」
「師範、横島ばかりにアドバイスしてないで、俺にも教えてくださいよ」
横島に投げられた男の子が文句を言った。
「ああ、わるいわるい。そうだな、力を使いすぎだ。もう少しやわらかく対応しないと、簡単に崩されるぞ」
しばらくして練習が終わった。
「あー、疲れた。今日はなんかハードだったな」
「そうやね。確かに今日はいつにも増してきつかったわ」
「しかし、銀ちゃんも夏子もよく合気道やる気になったな」
「どうしたよこっち、急に変なこと言い出して」
過去に戻ってから、一年が過ぎた。
横島が合気道の道場に通いだしたら、夏子と銀一も一緒に通うようになった。
過去(未来)で訓練をしていた横島だけでなく、二人とも持ち前の運動神経を発揮してこの一年でかなりの速度で成長している。
「いやさ、俺が合気道を学ぼうとしてるのに付き合って始めたんだろ。なんか悪いような気がしてさ」
「へんなこときにすんだな、よこっちは。俺らも楽しんでやってんだからそんなの気にすることないのに」
「そやで、それによこっちがいないと遊んでもおもろないし」
「ありがと」
ちょっとそっぽを向きながら、小さな声でそういった。
横島が過去に戻ってきてなんだかんだいっても、自分の本当の年から言っても子供としかいえない仲で、二人はずいぶん気持ちの面で助けられたことが多い。
以前は霊力はあんまり訓練しなくても大きかった、霊力も思った以上に上がらずにいるなかでずいぶん力になったと思う。
「何や、今なんか言ったんか」
「何も言ってないぞ」
「でもよこっちは何で合気道やろうと思ったん」
「そやな、俺も聞いてみたかったんや。それにこんなまじめなよこっちを見たのは初めてだしな」
「それはな、神のお告げにあったからや」
「んもう、その話になったらいつもゴマかすんやね、なんか後ろめたいことでもあるんか」
「そんなわけあるか。もうこんなところか、また明日な」
「おう、また明日な」
「ほな、また明日」
横島は霊力がなかなか上がらないと考えていたが、霊的成長期を迎えていないにしてはずいぶん霊力の量は多い。
霊力の量が大きくなるのは個人差が大きいため、赤ん坊のころからすでに大きな霊力を持っているなどの例外を除けばの話であるが。
とはいえ、迎えてはないにしてはの話であり、横島のあせりも成長期にトレーニングしたものからすれば当然かもしれない。
次の日、横島は毎朝、日課のランニングで少し遠くの公園まで行き型の練習をして一息ついたところ、思いがけぬ人に声をかけられた。
「ただくん、練習がんばってるわね」
「は、春香さん。何でここに、もしかしてずっと見てました」
「ふふ、ちょっと前からね。ここにきたのは、ラッシー(犬)の散歩よ。いつもとちょっと道を変えてみたの」
「声掛けてくれればよかったのに」
「ごめんね、邪魔しちゃいけないと思ったから。それに見とれちゃっていたから。今のは合気道の型なのかしら」
「いや、今のは八極拳の型です。といってもちゃんと習っているわけじゃなくて、本などで習ったものなんですけどね」
「そうなの。でもすごいわね。いつもここで練習してるの」
「ええ、まあ雨が降ったとき以外はたいていここで練習してます」
「そう、じゃあ今度から散歩のコース変えることにするわ」
笑顔でそういう春香さんに横島は少し顔を赤くした。
(あとがき)
コンセプトとして逆行ですが、横島はそれほどつよくなることはありません。最低限文殊を使わない限りは、基本的には一人で魔族に勝てるほど強くするつもりはありません。
九尾さん返信ありがとうございます。
ただやはり、大人になった横島がまったく悩みなくすごすのはどうかと思いましたのでこんな形になりました。
本当は、悩むエピソードをこの前に入れようかと思ったんですが、あまり反響もないようですし、時間を置くよりは早く出したほうがいいかなーと思い、載せてしまいました。