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こばとせんせい 下
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小鳩とひのめ・剛くんら4人の計6人は、城内にある小さな祠の前にいた。
皆で祠に手を合わせたあと、廻りで元気に遊び出した。
「じゃあ、次はかくれんぼね」
「さいしょはグー。じゃんけん、ポン!」
小鳩は負けてしまい、かくれんぼのオニになったので、目を瞑って大声で
数えた。
「・・・きゅうじゅうきゅう、ひゃ〜く、じゃあさがすわよ!」
小鳩は一生懸命探すふりをしながら、子供たちの隠れたところに近付く。
まだ5歳では「頭隠して尻隠さず」というのも多い。
「たくみちゃん みっけ!」「ひのめちゃん みっけ!」
この二人は祠の裏に隠れて居たが、小さな笑い声が小鳩に聞こえてしまっ
た。祠のお稲荷さんも苦笑しているに違いない。
一人は何と城の大木を3mの高さまで登って隠れたつもりでいた。しかし
遠くから見れば一目瞭然。小鳩はどうやって登ったのか不思議に思いなが
らも笑いを堪えて木の廻りを何週かしたあと、突然上を向いて言った
「つよしくん みっけ!」
さっちゃんは机の高さ程の城内案内図の下に隠れて居たが、何処かから案
内図に小石が投げられコンと鳴ったので、外を見て驚いた。石垣に保育園
ナンバー2の悪戯っ子・たくくんの姿が見える。なんと石垣を登って今ま
さに銃眼から内に入ろうとしている。大砲も出せる程の銃眼なので子供だ
ったら何とか通れるのだろう。危なげなく銃眼から中に入ったが、すぐに
小さな壷を持って出て来た。隠れんぼをしているのを忘れ、さっちゃんは
たくくんに近付く。
「このつぼ なあに?」
「わかんないけど、おもしろそうだからもってきた。」
「なかにはなにがはいっているの?」
「わかんない」
「なんでじがかかれたかみがはってあるの?」
「わかんない」
何枚もの御札が貼ってあるが隙間からは本来壷が持っていた輝きが見える。
「かみがはってなければ たぶんきれーなつぼなのね。」
「わかんないけど、じゃまなかみをはがしてみようよ」
「そーね」
御札を剥がし始める2人。最後の1枚を剥がすと、壷から次々とオバケが
出て来た。
「おばけがはいってるなんて〜!
たくくん、いつもへんなのひろうんだから!」
小鳩は既に見つけた3人を連れて残る2人を探していた。遠くで声がした。
「たすけて〜、おかーさん」×2
見るとさっちゃんとたくくんが悪霊に追いかけられている。小鳩は貧ちゃ
んに「貧ちゃん!あの2人を助けて!」というと、3人を抱き抱えるように
じゃがむ。
貧ちゃんが悪霊を追いかける。貧ちゃんも一応は神さまなので普通の悪霊
より遥かに強い。貧ちゃんは悪霊に追いつくと、手にしたマラカスに霊力
を込めて悪霊に殴り掛かる。
「福の神・貧ちゃんが極楽に送ってあげるさかい、成仏せいや」
どこかで聞いたことがあるような科白だが、悪霊は一瞬にして消滅した。
呆然と悪霊が消えて行く様をみていた2人は、そばに小鳩たちが居るのを
見つけ抱きついた。小鳩は5人の子供たちを抱き締めながら、まだ立ち上
がれなかった。腰がぬけたようだ。貧ちゃんは小鳩たちに「退治したで〜」
と告げる。ひのめは貧ちゃんの後ろに大霊団が迫っているのをみつけた。
「まだいっぱいいる!」と叫ぶ。
貧ちゃんが振り向くと、先程の程度の悪霊が数百集まって迫って居るのが
見えた。次の瞬間、貧ちゃんは霊団に弾き飛ばされた。
福の神をも弾き飛ばした霊団は次に小鳩たちを見つけた。小鳩は祈る。
「神さま、子供たちだけでもお守りください」
霊団が小鳩たちを襲ったとき、ひのめの髪を留ていたゴムバンドの玉が突
然まばゆいばかりの光を放った。中に字がかかれている。「護」と読める。
この光を受け、近付いた霊は次々消滅していく。横島が作った「護」文珠
の光だ。
「ひのめちゃん、このかみどめってどうしたの?」
「に〜にがくれたんだよ♪ いつもこれをつかうように、って」
「横島さん、あなたはいつも...」
霊団の攻撃は続く。圧倒的な数で力で押してくる。文珠の光もいつまで保
つか判らない。
ふと、小鳩はひのめの発火能力のことを思い出した。剛くんを火だるまに
しちゃったのは封印の御札が破れたから。今回も破けば戦えるのではない
だろうか。
「ひのめちゃん、せんせいにおようふくをみせて」
ひのめはスモックを脱いた。小鳩がひのめの背中を触る。あった、厚めの
四角い紙がトレーナーに縫い付けてある。
「ひのめちゃん、トレーナーをぬいで。はやく!」
ひのめがトレーナーを渡すと、小鳩は強引に御札を剥がして破り捨てる。
その時、文珠の光が止まった。霊団が子供たちに近づく。剛くんがひのめ
たちの前に飛び出し水筒を振り回す。霊力がない子供が霊力の籠もってい
ない物を振り回しても霊団には大して効果はない。それでも剛くんはお姫
さまを守る騎士のように思いっきり水筒を振り回す。
ドン
ある霊が剛くんに体当たりして剛くんは倒れる。物理的な力で倒れたので
はない。殆ど霊力がない剛くんの霊魂に強力な霊が正面から当たった為に
霊魂が剛くんの身体から弾かれたのだ。このままでは剛くんは死んでしま
う。
小鳩は叫んだ。
「ひのめちゃん、みんなをたすけて!ひのめちゃんのちからで、おばけた
ちをやっつけて」
ひのめは大事な剛くんを倒されたことで怒っている。霊力も急激に上がっ
ている。ひのめは叫んだ
「おばけのばか〜!」
その瞬間、霊団が止まった。
ひのめの霊力が放出され、小鳩たちの廻りで攻撃の機会を狙っていた10を
越す霊が吹き飛ばされ、ひのめから吹き出した炎が霊団の先頭に向かって
飛んで行く。
ブファ
ひのめの炎が霊団の先頭部に命中する
だが、規模が大きいのか、前の部分がやられただけで、未だ小鳩たちの廻
りを飛んでいる。
「相手が大きすぎる...」
(お父さん、小鳩はそっちに行きますね。横島さん、好きでした。)
小鳩はひのめや剛くんら子供たちを地面に伏せさせ、覆いかぶさるように
自分も臥せる。
先頭をやられた霊団が小鳩たちに近付く。ひのめの炎を警戒してか体当た
りはせず、霊波砲のようなものを撃ってくる。
小鳩の右足にも当たる。
「痛っ」
苦痛を堪えながら子供たちのことだけを考える。小鳩の左肩にも当たる。
薄れ行く意識の中で、小鳩は助けがきたことを知った。
おキヌさんの笛の音が聞こえる。
横島さんの「栄光の手」の輝きが見える。
美神さんの神通棍の音が聞こえる。
・・・
小鳩は気を失った。
白い天井が見える? あれ、ここどこ?
小鳩は城の近くにある病院で目覚めた。足や肩がちょっと痛い。
(そっか、助かったんだ、わたし...みんなは?)
「剛くんは? ひのめちゃんは? さっちゃんは?
たくくんは?たくみちゃんは?」
小鳩が飛び起きたのを、ちょうどヒーリングしていたおキヌちゃんが止め
る。ナースコールのボタンを押しながら小鳩に話しかける。
「剛くんは横島さんが文珠で魂を身体に戻しましたから安心してください。
隣の病室で寝ています。ひのめちゃんたちも無事です。空いている病室で
お昼寝してますよ。担任の先生は他の子をつれて一旦園に戻られました」
「小鳩、もう安心やで〜。霊波砲の傷は横島が文珠で直してくれたし、
痛みもおキヌちゃんのヒーリングでじき無くなると思うわ」
おキヌと貧ちゃんの言葉を聞きながら小鳩はまた眠ってしまった。
隣の病室では、剛くんも目覚めた。ベッドの側の折り畳み椅子には横島が
いる。
「おばけどこ?ひのめちゃんやせんせいはぶじ?」
横島は剛くんの手を握って言った。
「おばけはぜ〜んぶお兄ちゃんたちでやっつけたよ。みんなもぶじだよ。
いまおうちにでんわしたから、もうすぐおかあさんもくるよ。だからあん
しんしてねてるんだぞ」
男の手なぞ決して握らない横島であるが、この小さなナイト君にはとても
優しい。ひのめの服を破いて火だるまになったのを文珠で治療したかと思
ったら、こんどはひのめを守ってくれた。この小さい手で。きっとひのめ
のことが好きなんだろうなぁ。
「おとこのこはすきなおんなのこをまもるためならなんだってできるんだ。
ぼうずもひのめちゃんをまもってくれて、ほんとうにありがとうな」
いつの間にか剛くんは寝てしまった。いい夢を見てほしいな。そう思う横
島だった。
横島が病室のドアを開けると、廊下に西条が立っていた。横島を手招きす
る。
「今頃来たか。遅せーな」
「すまんな、ところで霊団が出現した原因が分ったぞ」
「城の宝物殿にあった「妖壷」の封印を誰かが剥がしたんだろう?」
「なんで知っているんだ、おまえ」
「あの壷は美神さんが目をつけていたんだ。悪霊込で5億程度で購入して
も、除霊して普通の壷にすれば10億は固い。美神さんが城主に5億程で
オファーしていたから、そのうち嫌でもあの壷と対峙することになると思
って事務所で下調べしていたところに、霊団に弾き飛ばされた貧ちゃんが
文字どおり飛び込んで来たんだ。それで慌てて事務所全員で駆けつけたっ
てわけさ。」
「ところで令子ちゃんは?」
「結果的に無料で霊団を除霊した上に、壷の転売をあきらめざるを得なく
り、美神さんは大層御立腹でね。今そっちのボスのところに今回の出動と
除霊費用をふっかけに行っているはずだ」
「・・・・」
「でもひのめちゃんが無事で内心はほっとしていると思うよ。美神さんも
あれで結構妹思いだから。ところで泥棒の方はどうなった?あの壺はGS
がきちんと除霊しないとどうしようもないだろ。しかもあれだけ強力だと
到底普通のGSでは扱えないから、ビック5(5大除霊事務所)にあたれ
ばスグ見つかるんじゃないか?」
「それだったらエミさんの事務所に変な依頼があったらしく、今ピートが
行ってエミさんから詳しく聴取している。エミさんの話から推測すると、
前科20犯の大泥棒・石川銅鑼衛門かと思うが」
「『大泥棒』って言うけど、前科20犯じゃ殆ど毎回捕まっているんじゃ
ないか? 単なる刑務所マニアかよほどドジな奴だよ、そいつ!」
「さあなぁ」
廊下を走る音がする。さっきの電話で駆けつけた剛くんのお母さんだろう。
横島は近付いて話しかける。
「美神除霊事務所の横島です。剛くんは無事です。今は病室で寝ています。
ついていてあげてください。それと...、目が覚めたら剛くんを褒めて
あげて下さい。一生懸命ともだちを守った小さな騎士を」
結局小鳩は検査も含め2日間入院したが、退院の日には園長先生と子供た
ちが迎えに来てくれた。親達も自らの先入観で子供を縛る愚に気づいたの
か、先入観そのものの誤りに気づいたのか、今はひのめちゃんを嫌う者は
いない。園長先生もそれを大変喜んでいる。
「花戸さん、散々な教育実習になっちゃいましたけど、これにこりず、ウ
チの先生になりませんか。子供たちも待っていますしね。」と園長先生。
「こばとせんせいはいちばんやさしくて、ゆうかんなせんせいです。はや
くほんとうのせんせいになって、ほいくえんにかえってきてください」と
剛くんがお願いする。
「もちろんよ」
涙でよく見えないが、小鳩は自分の足で一歩一歩前へ歩きだした。
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ワイド版が出そろって本屋にど〜んと並んでいるのを見て
GS美神にハマってしまい、その後ネットで皆さんがSSを
創作されているのをたのしく拝読させていただいていました。
初めての投稿で稚拙な点も多々あると思いますがよろしく
お願いします