初めて投稿します。駄文ですが、よろしくお願いします。
----------------------
こばとせんせい 上
----------------------
花戸小鳩は短大2年になっていた。貧乏神として花戸家にとりついていた
貧ちゃんが横島のおかげで福の神になってからは、裕福とはとても言えな
いが生活に余裕もでき、念願の保育士の資格を取るべく短大進学もできた。
先日から近所の保育園で教育実習をしている。
「こばとせんせい!ジャングルジムへいこうよ!!」
「いこーよ!せんせい。」
「はい、ぜんいんであそびましょう」
小鳩の廻りでは子供たちが元気に走り回っている。教育実習で小鳩を指導
する立場の指導教員はこのクラスの担任では年配の温厚な女性だったが、
年のせいで子供と一緒に走り回るのは無理だ。遊び時間に自分たちと一緒
に元気に遊んでくれる小鳩を子供たちは気に入ったようで、すぐに子供た
ちと打ち解けた。
小鳩の呼びかけで、クラスみんなでジャングルジムに登っている。たとえ
5歳児でもクラス全員が登ると、まるでジャングルジムに子供が鈴なりに
なっているようだ。小鳩の指導教員の先生も目を細めて見ている。
あれ、2人だけ登っていないようだ。
「ひのめちゃんはのぼんないで!」
先にジャングルジムにしがみついていた女の子が2人に言う。
「そんなこと、いわんでいいだろ!」
2人のうち、男の子が言い返す。
「さあ、ひのめちゃん、いっしょにのぼろうよ」
男の子がもう一人の子を誘う。
「わたし のぼんない!」
ひのめと言われた女の子はプイと振り返ると砂場に向かって走っていって
しまった。
「ひのめちゃんがのぼんないんだったら、オレものぼんない」
男の子も砂場に向かって走って行ってしまった。
ジャングルジムのそばでポツンと残され呆然とそれを見ていた小鳩は、慌
ててジャングルジムの子供たちに呼びかける。
「ひのめちゃんもおともだちでしょ。いっしょにあそんだら、もっとたの
しいわよ〜」
ジムの子供たちに沈黙が広がる。暫くして一人の女の子が言った。
「だってママからは『ひのめちゃんとおともだちになるな』っていわれて
るもん! みんなもそーだよね」
「そーだよ」他の子も賛同する。
(親が子供にイジメをさせるなんて...)
これからこの子たちをどう指導したらいいのか、途方に暮れる小鳩だった。
小鳩のクラスの「問題児」は美神ひのめちゃんと剛田剛くん。この保育園
に実習で配属された日、園長先生から実習するクラスの名簿を見せられて
小鳩は大変驚いたものだった。
「これが花戸さんが担当するクラスの名簿です。実習は明日からですが、
今日の内に名前と顔は覚えておいて下さいね」園長先生が写真付きの名簿を
渡した。
「みんな可愛らしいですね。この剛田剛くんって、すごいわんぱくそうで
すね...。あ、美神ひのめ...って、美神さんの妹のひのめちゃんじ
ゃない!」
「あら、花戸さん、ひのめちゃんとは知り合いなの?」と園長先生。
「小鳩、良かったな。これで横島に会う機会が増えるで〜」
小鳩の隣に浮かんでいる貧ちゃんが冷やかす。園長先生には貧ちゃんが見
えないので、小鳩が真っ赤になっているのをちょっと不思議に思いながら
話を続ける。
「このひのめちゃんと剛くんについてはちょっと問題があります」
園長先生はため息をついた。
「4月に事件があってから、クラスから孤立しちゃって...」
園長先生の話を纏めると、一連の事件は以下のようになる。
出入りの植木屋さんが園庭に植木鋏を置いたまま昼食に出てしまった。昼
休みに保育園で1番の悪戯っ子である剛くんが植木鋏を見つけ、ふざけて
鋏をガチャガチャさせながらクラスの友達を追いかけた。ひのめちゃんは
運悪く転んでしまい、剛くんに追いつかれてしまった。剛くんも決して本
気で友達の服を切るつもりはなかったのが、間違って鋏の刃先がひのめち
ゃんの服を切ってしまった。
その服はひのめが慕っている横島さんが、ひのめの5才の誕生日に織姫さ
まに特注してプレゼントしたもので、ひのめちゃんにとって一番お気に入
りの服だった。当然のことながら彼女はカンカンに怒ったが、いつもと違
って彼女の発火能力を封ずる封印も服と一緒に破けてしまっていたため、
ひのめちゃんの怒りで発火能力が暴発してしまい、怒りの矛先である剛く
んを火だるまにしてしまったとのこと。事態を聞きつけ慌てて駆けつけた
横島さんやおキヌさんが剛くんを文珠やヒーリングで治療し、最後にひの
めちゃんと剛くんがお互いに「ごめんなさい」をして二人の間は事なきを
えたが、あとでこの話を子供から聞いたクラスの親達がひのめちゃんの異
能の力を怖がって子供にひのめちゃんとは遊ばないように命じていた。
「そんな状態なので、ひのめちゃんと遊ぶ子は少ないわ。それに剛くんは
すごく反省したみたいで、責任感じちゃっているみたいなの。先日も遊び
の仲間にひのめちゃんを入れないと言った子を殴ったりして。でも2人と
もいい子だわ。むしろ親の誤った先入観に従ってひのめちゃんと遊ばない
他の子の方が悪いわ。でもね...。」
園長先生はそれきり黙ってしまった。経営者としての立場もあり、親連中
にはあまり強く言えないのだろう。教育者の立場と板挟みになっているよ
うだ。
「なんとかみんな仲直りさせたいですね」
小鳩は小さく呟くのだった。
今日は小鳩が実習している保育園の小遠足である。クラス単位で通園用マ
イクロバスに乗って付近の公園等に行くだけだが、園庭が決して広くない
この保育園の園児にとっては広い場所で走り回れるので人気が高い。付添
は担任の保育士と通園バス運転手の老人、教育実習生の小鳩の3人である。
「きょうは、おしろまでいきます。さんのまるでおひるごはんをたべます。
みんなじゅんびいいですか?すいとうにおみずをいれたらバスにのってね」
小鳩が園児に呼びかける
「は〜い」みんな元気よく答え準備ができた子からバスに飛び乗っていく。
「・・・17、18。全員居ますね」人数を確認した運転手さんが小鳩に
告げる。最後にみんなのお弁当が入った段ボール箱を小鳩と担任がバスに
運び込みいざ出発となった。
「これからいくおしろは、いまから400ねんまえにつくられ・・・」
小鳩がバスガイドよろしく今日の行き先の案内をする。
すかさず口の悪い子が
「こばとせんせい〜、ぼくたちなんどもいったことあるから、みんなしっ
てるよ」と茶々を入れる。
(一度バスガイドさんもしてみたかったのに...)
子供に負けて悔しがる小鳩だったが、気を取り直して童謡を歌い出すと、
そこは幼い子供たち、みんなすぐに一緒に歌い出した。ふと見るとひのめ
ちゃんは剛くんと並んで座って、小鳩の歌に合わせ一緒に歌っている。
(可愛いっ! シロちゃんが嫉妬するほど横島さんが可愛がるわけだわ。
今までシロちゃんのこと大人げないと思ってたけど、シロちゃんの気持ち
解るわ。それにしてもこの子が美神さんの妹とは全く信じられないわ)
さりげなく酷いことを考える小鳩。隣の席の剛くんも元気よく歌っている。
二人とも小遠足を楽しんでいる。小鳩はさらに元気よく歌った。
「もう着いちゃいましたね」
保育園から御城までは10キロ程度しかないので、超安全運転のマイクロ
バスでも30分程で着いてしまった。この城は天守閣にある宝物殿・展望
台以外は無料で利用できる。三の丸はベンチが置かれた公園になっている。
敵の侵入に備え迷路のようになった通路は子供たちにとって最大の楽しみ
である。引率する側にとっても、この城はボランティアの老人が清掃や案
内のためにいつも巡回しており安心で、付近の保育園〜中学校がよく利用
していた。
「ではおひるのたいほうがなったらさんのまるにあつまってね。
さんのまるでおひるごはんにしますよ。では、かいさん!」
担任の保育士がこう言うや否や子供たちは何人かのグループで走りだして
各自行きたいところに飛んで行く。担任も子供たちに背中を押されるように
連れて行かれた。運転手さんはお城の案内ボランティアをしている友人に
会いに行くらしい。
「こばとせんせい、わたしたちといっしょにいこう」
小鳩は残った子供たちのうち4人に声をかけられた。剛くんもいる。
(あと残ったのは...ひのめちゃん!)
「ひのめちゃんもいっしょにいきましょうね」
「でもママがひのめちゃんはだめだっていってた...」
「ママには、な・い・しょ・よ!」
小鳩は押し切ることにした。ひのめに対し偏見を抱いているのは親連中だ
けで、肝心の子供たちはあまり偏見を持っていないことに気が付いたから
だ。子供たちが先に仲良くなっちゃえば親もあまり言わないだろうとの読
みもある。
「ひのめちゃん、みんな、あそぼうっていっているわよ」
こう言うとひのめはパッと明るい顔になり、小鳩たちに抱きついて来た。
余程うれしかったのだろう。
「おうたをうたいながらあるきましょう」
小鳩は子供たちの手を引いて城の坂道を少しづつ歩きだした。
そのころバスの運転手は城の観光案内所で友人と茶を飲んでいた。
「昨日の夜に宝物殿に泥棒が入ったってよ。なんでも「妖壷」を盗んだそ
うだ」案内ボランティアの友人が今朝仕入れたばかりのニュースを運転手に
話す。
「その「妖壷」ってのは、御札がいっぱい貼ってある変な壷じゃねえか?」
「よく知ってるな。300年前に城下を荒らした悪霊を道士さまが封印し
た壷だが、最近になってその壷が実は唐代の貴重な壷だと判って、ぼでぃ
こんのGSやらサングラスの中国人やらが5億程で買い取りたいと申し込
んでいたみてえだ。壷の悪霊を退治して普通の壷にすれば10億は下らな
いって以前に宝物殿の学芸員の先生が言ってたから、たぶん転売して儲け
るつもりだろうなぁ」
「10億とは想像もつかんな」
「で、泥棒だが、警備装置が鳴ってすぐに警察が警戒線を張ったもんで城
の外には持ち出せていないみたいだが、犯人も捕まっていねえんだ。多分
城内のどこかに隠したんじゃねえか。広すぎて警察も困っていて、今日の
昼からは清掃ボランティアも加え50人で探すんだと」
そんな状況とはつゆしらず子供たちを乗せて来てしまったが拙かったな、
と運転手は一瞬思ったが、城の宝物を盗むような窃盗犯だったら万一でも
子供たちに危害を加える心配もないだろうと考え、テーブルの上の菓子に
話題を変えた。
「さいきん、この御城モナカ、不味くなったんでねえか?」
「何言っとる!店主が5代目に代わってモダンな味付けになったって大評
判だぞ。お前の舌がロートルなだけじゃねえか?」
仲の良い老人の会話は延々と続くのだった。