周囲を魔力が囲み、和樹の体を宙に浮かす。
荒れる大気に呼応するように、髪が波打つ。
「もう、許すことは出来ないね」
和樹の口から、静かな詠唱がもれ始める。
「集え 殻灼なる輝き
詠え 冷然なる煌き
大地を穿て──」
うつむいていた顔を上げる。
そこに映る輝きは、決意を固めた瞳のものである。
「【洸皇の流星】−カミヤ・メテリクス−」
直後、降り注ぐ流星は辺りを焦土に変える。
いかなる生き物も存在を許されない程の破壊力。
だがその中にあってしても、動く影は存在した。
「これほどの力を隠し持っていたのか…
個人が持つ力としては強大すぎる。
時のために、今ここで滅びてもらうぞ! 式森和樹!!」
先程まで放っていた魔法の数十倍の魔力を手のひらに圧縮する。
和樹と同様に魔力の渦がジークを取り囲む。
「流麗な積乱雲を連れ 彼の地を訪れよ
飛礫に舞い 猛る七式の陣風に迎合せん
遥昔の天空を駆れ──」
一拍おいた後に放たれるは極大呪文。
「【雷鳴に踊る虹龍】−レキレラリック・ゲイン−」
方向性を持った魔力の渦は、虹の龍となって和樹に向かう。
「やらせないわっ」
「ええ、やらせるわけにはいかないわね」
和樹の後方からは、二つの艶やかな声。
アララと玖里子が同時に詠唱に入る。
「それは暗礁を砕断する万神の涙」
「それは焔帝に従事する万神の光」
「沈め 彼方にて沈め」
「煌け 天壌より煌け」
「闇底を顕現して なおも沈め──」
「概念を超越して なおも煌け──」
重なった詠唱は歌のように澄んでいる。
しかし、そこに宿るのは計り知れない力。
「【瀾古哨洸穿】−エンシェント・アビュニティ−」
「【爛古滅爍燕】−エンシェント・ブラッシュコロナ−」
二つの魔法は双極の光を放ちながらジークの魔法と衝突した。
凄まじいまでの魔力の奔流はお互いを掻き消したところでやんだ。
「安心するには早すぎるぜ、お嬢さん方」
ジークの横には、いつの間にかナギが立っていた。
長い杖を振りかざし、魔力を集中させる。
「滅び故に無垢 無垢故に残酷
終わらない連環よ 停滞の時を授けよう
螺旋に囚われた 魂の灼熱を解放せよ
時よ 交じりて滅べ──」
侮られた二人はしかし、ナギの詠唱に遅れることなく次の魔法を紡いでいる。
「それは永久に回帰する万神の刃」
「それは脈動を止めぬ万神の彗星」
「刻め 太古より刻め」
「貫け 恒星をも貫け」
「悠久を超えて なおも刻め──」
「壊滅を連繰して なおも貫け──」
三者三様の詠唱はまったく同時に完遂した。
「【滅砕する焔款の檻】−ロギア・ブースト−」
「【欄古原砌仭】−エンシェント・ディザイン−」
「【蘭古絶蕀巓】−エンシェント・レヴィット−」
吹き荒れる嵐のような魔力。
かつてこの星が経験したことがないほどの破壊が渦巻く大気。
これを引き起こしているのが、たった数名の人類だということが星を震撼させる。
戦闘というよりも戦争といったほうがふさわしい戦いは、まだ終わらない。
「おまえは眠るべきだ、式森」
ジークは再び魔力を収集する。
「いい加減にしてくれ。
僕に、時をどうこうするつもりはない」
和樹も魔力を集めつつ答える。
「もはや、そういう問題ではない!
おまえの存在そのものが危険なんだ」
ジークを動かす信念は硬い。
「闇より出でよ 光より参れ
肆方を囲み 捌方にて爆散せん
両極の窮みを知れ──」
「【界彩する無限回廊】−アンチ・ヴァリジェギオン−」
放たれた魔法はまたしても和樹に向かう。
アララと玖里子は、いまだナギとの鬩ぎ合いを続けている。
「それこそ僕には関係ないね」
静かな口調のまま和樹は話す。
「さっきも言ったけど、僕はもう止まらないよ」
和樹を取り巻く魔力は、一度目の更に上をいっている。
「暗雲を総べて召喚されし 古よりの魂の僕
汝その貴き破砕の力をもって いざや貫かん
燐涅の下 灰燼に帰せ──」
「【瞬きの屠殺劇】−アデス・パラキシュリオン−」
放たれた和樹の魔法は、いともたやすくジークのそれを飲み込んだ。
更に加速する魔法の膨張は、すべてを飲み込もうとした。
戦いの地より大陸ひとつ分離れたところに二つの影があった。
「レ〜ン、そろそろじゃねーか?」
「そうね、クー。
始めましょう、守るための戦いを」
この地まで届く魔力の奔流。
七煌宝樹のひとつ、メザーランス一族最終血統としての最後の戦いはそれを止めるためのもの。
二人は幾度も話し合った末、この地でその時を待った。
そして今その時が来た。
彼の地の魔力の膨張は、今まさにこの地にまで届かんとするところまで来ている。
リアクトしてからクード=ヴァン=ジルエットは静かに目を閉じた。
(あがなう君の糸は かすかにて) 「あがなう君の糸は かすかにて」
(たゆたう吾の式神は 通ず) 「たゆたう吾の式神は 通ず」
(ゆめゆめ流るるは 君が調べ) 「ゆめゆめ流るるは 君が調べ」
(かくいめ聞き入るは あまたの命)「かくいめ聞き入るは あまたの命」
(いま その御心を伝えみし) 「いま その御心を伝えみし」
(いま かの御声を届けたもう)「いま かの御声を届けたもう」
(朧の夜 月かげに眠りはべらん)「朧の夜 月かげに眠りはべらん」
「(神々に捧げんとす いけにえの祝詞)」
「(【方舟の再来】−アポトーシス・ノヴァ−)」
世界が生まれて以降、幾度となく繰り返されてきた戦争。
その中でもあり得なかったほどの超規模の戦闘。
今、この星を二つの魔法が取り囲もうとしていた。
ども、はじめまして千夜我翔です。
ちなみにこの作品に続きはありません、というか考えられません。
設定とかめちゃくちゃなんで。
オリジナルの魔法と詠唱を披露したかっただけです。
とは言ってもありきたりっぽいってつっこみは勘弁してください。
これでも一生懸命考えたんですよ。
キャラはいろんなところから引っ張ってきましたよ。
詠唱が似合う人たちね。
全部分かりますか?
まぶらほ三人娘から玖里子さんだけ出て来たのはぶっちゃけ消去法です。
凛は剣で戦う人だし、キシャーは誰もが嫌ってるしで。
もし続き読みたいって奇特な方がいたら設定とか考えてくださいね〜。
最後に各詠唱の読み方を出てきた順にひらがなで置いときます。
つどえ かくしゃくなるかがやき
うたえ れいぜんなるきらめき
だいちをうがて
こうこうのりゅうせい
りゅうれいなせきらんうんをつれ かのちをおとずれよ
つぶてにまい たけるしちしきのじんぷうにげいごうせん
ようせきのてんくうをかれ
らいめいにおどるこうりゅう
それはあんしょうをさいだんするばんじんのなみだ
しずめ かなたにてしずめ
あんていをけんげんして なおもしずめ
らんこしょうこうせん
それはえんていにじゅうじするばんじんのひかり
かがやけ てんじょうよりかがやけ
がいねんをちょうえつして なおもかがやけ
らんこめっしゃくえん
ほろびゆえにむく むくゆえにざんこく
おわらないれんかんよ ていたいのときをさずけよう
らせんにとらわれた たましいのしゃくねつをかいほうせよ
ときよ まじりてほろべ
めっさいするえんかんのおり
それはとこしえにかいきするばんじんのやいば
きざめ たいこよりきざめ
ゆうきゅうをこえて なおもきざめ
らんこげんさいじん
それはみゃくどうをやめぬばんじんのすいせい
つらぬけ こうせいをもつらぬけ
かいめつをれんそうして なおもつらぬけ
らんこぜっきょくてん
やみよりいでよ ひかりよりまいれ
しほうをかこみ はっぽうにてばくさんせん
りょうきょくのきわみをしれ
かいさいするむげんかいろう
あんうんをすべてしょうかんされし いにしえよりのたましいのしもべ
なんじそのとうときはさいのちからをもって いざやつらぬかん
りんねのもと かいじんにきせ
またたきのとさつげき
あがなうきみのいとは かすかにて
たゆたうわれのしきじんは つうず
ゆめゆめながるるは きみがしらべ
かくいめききいるは あまたのみこと
いま そのみこころをつたえみし
いま かのおこえをとどけたもう
おぼろのよ つきかげにねむりはべらん
かみがみにささげんとす いけにえののりと
はこぶねのさいらい