その日は何時も通りの休日だった。
特務機関バベルの“ザ・チルドレン”担当官“皆本光一”宅には、前日より3人の少女…薫・葵・紫穂が押しかけ、お泊り…
夜遅くまでドタバタ騒ぎ…すっかり疲れ果てた4人は本日の仕事が休みである事幸いに、昼まで寝て過ごそうと決めベッド(勿論皆本と3人の部屋は別々だ)の上で寝こけていた。
…そんな時…
「皆本さーん、お届けモノでーす!」
大きくなりたい!
素気ない柄の包装紙に包まれた小さな箱…受け取った小包を手に、皆本は考え込んでいた。
差出人は、TVやネットでガンガン宣伝している最近話題の大手の通販会社…しかし、皆本はそんな所に何かを注文した覚えなど無い。
(詐欺?…いやもしかしたら危険物…そう、小包爆弾とかかもしれない…どうする?…)
皆本は特務エージェントの担当官…そして、その”チルドレン“の3人娘は、今彼の家に揃っているのだ…狙われる理由は充分にある。ココは慎重に…
「…紫穂に…透視(み)て貰うか…って?」
突如、皆本の手からぱっと荷物が『消失』した。
…が、彼は慌てない。こんな事が出来るのは、そしてやるのは彼の知る限りではたった一人しか居ないからだ。
「ヒトの荷物を覗くのは悪シュミやで?皆本はん」
「…なんだ、葵のだったのか…」
そう言って振向いた皆本の視線の先には、彼の予想通り…瞬間移動能力の持主である野上葵が立っていた。
起抜けなのだろう、パジャマ姿の彼女の腕には、先ほど皆本が手にしていた荷物が抱えられている…因みに薫と紫穂は今だご就寝中らしい。
「まぁた何かヘンなモノ買ったのか?無駄遣いは感心しないな。」
「ヘンなのちゃう…!えーモンや♪」
3人娘にとって、今や皆本の自宅は合宿所どころか、彼女等の第2の自宅であるといっても過言ではない…彼本人にとっては不本意極まりない事であるが。
3人娘は、家族の目のある自宅では注文しにくい品を…まだ早い化粧品とか、ちょっと高価なアクセサリーとか…通販する時、皆本の家宛に送って貰うのだ。
何度言ってもやめないので、最近では『…まぁこれくらいなら…』と諦め気味の皆本である…それでも“保護者”としてちゃんと一言言っておくのは忘れない。
…まぁ、薫が海外から『18歳未満は読んじゃいけない無修正の本』を取り寄せよーとした時は、流石にホンキになって叱ったが。
「…で、何を買ったんだ?」
「え…えと…そ、それはナイショや!」
言うや、何故か顔を赤らめる葵…ぱたぱたとスリッパを鳴らし皆本から逃げるように部屋へと駆け込む…が…
「おい、そこは…」
「皆本はんは入ってきたらあかんで?」
「…いや…そこはボクの部屋なんだけど…」
そう、葵の入った所は、先ほどまで彼女が寝ていた3人娘の為に用意した(…とゆーか“させられた”)部屋ではなく、皆本の寝室だった。
「え〜やん、ちっと貸してぇな♪」
「…ダメだ…って言うだけ無駄なんだろうな…」
「よくわかってるやん♪
後な、皆本はん、このコト薫と紫穂には絶ッッ対にナイショやで?」
「…え?あ、いや、薫は兎も角…紫穂には秘密に出来るかどうか…」
「ええから!紫穂達が起きてくる前に終らせるから…約束して?
ホンマにたのむわ…もし喋ったら…ウチ泣いちゃうで?」
「……はぁ〜解ったよ…絶対に僕から言ったりしないよ…約束する…それでいいな?」
「おおきに♪」
ぱたん…
締め出されてしまった…自分の部屋なのに…
中で何をしようとしているのかは全くの謎だが、薫達には秘密にしたい事なのだろう…だからこそ皆本の部屋を借り『ふたりにはナイショ』と、約束までさせたのだ…
桐壺局長程ではないにしろ、何だかんだ言って3人娘には甘い皆本…最後には何時もこんな感じで彼女等の“お願い”を聞いてしまう…勿論本当にダメな時はダメと言うけれど。
「…やれやれ…二度寝するつもりだったんだけどなぁ…」
皆本は、キッチンに向かい、遅めの朝食をとる事に決めたのだった。
…それより暫くして…
今皆本は、再び自分の寝室の扉の前に佇んでいる。
「…ったく…一体何やってるんだ?葵のヤツ…」
謎の小包を手に、葵が皆本を締め出し彼の寝室に篭ってから、1時間は経っただろうか…今だ何の音沙汰も無く、出てくる気配は微塵も無い。
流石に心配になって、来てみたのだが…
こんこん…
「……お〜い…葵〜?大丈夫か〜?」
「あ…み、皆本はん?…だ、ダメやで!絶対に入ってきたらアカ…うひゃッ!?」
「あ、葵?」
「な、なんでもない!なんでもないんや…ぁん…だから…きゃあっ!?」
「おい…ホントに大丈夫なのか?」
何かおかしい…だが、オンナのコが『入ってこないで』と言っているのだ…
しかし葵のその慌てた様な声と、台詞の合間に入る奇妙な熱っぽい吐息…『なんでもない』わけが無い。
どうするべきか迷う皆本…
「…葵…?」
「あ、あかん!入ってきたらあかんで!皆本はん…
ってあ痛ッ!?いだだだだッ!!?や、やああぁぁ!?」
「!!?あ、葵!!?」
突如聞こえた悲鳴に皆本は慌てた。
(やっぱり危険物だったのか!?
クソ!油断していた!!葵達が通販をしてるってのを見越して、その上で偽装してたのかもしれないのに…やっぱり無理にでも紫穂に確認させるべきだったんだ!葵…葵…無事でいてくれ!!)
皆本の脳裏には、その優秀な頭脳がシュミレーションし弾き出した“最悪の状況“が幾つも浮かび、焦燥感を募らせる。
甘かった…と自ら責めるが、今は後悔している時では無い。
緊急事態なのだ、一刻も早く葵の現状を確認しなければならない…
「あ、葵ッ!?大丈夫かッ!?…」
ばんっ…
皆本は蹴破らんばかりの勢いで勢い良く扉を開けた。幸いカギはかかかってなかった。
「あたた…き、きゃあぁッ!?み、み、皆本はんっ!?」
がばッ…
ベッドの上に少女は居た…下着姿で、自分のカラダを抱きかかえるようにして、へたり込んでいた葵は、突然の乱入者に、慌てた様にシーツで自らの体を隠した。
「無事か葵?大丈夫か!?」
「あ…だ、だ、大丈夫…ってぇ!な、なんで入ってきたん!?
入っちゃダメやって、アレほど言うたやん!!」
「お前の悲鳴が聞こえたからだ!…本当になんとも無いか?怪我は、どっか痛い所は?」
「…あ…だ、大丈…ぁ…ぁぅぅ…」
…顔を紅潮させ、目は涙で潤み、その口調もモゴモゴと歯切れが悪く何時もの様な覇気が無い…
何時もとだいぶ様子が違うが…だが葵は、どうやら怪我も無く無事の様だ。
ひとまず、皆本は安堵した。
しかし、本当に、一体何が…
…と…ふと、皆本の目に奇妙な物体が映った。
葵の傍ら転がるおかしな器具…彼の記憶には無い、それはどうやら先刻の宅配便の中身の様だ。
お椀か漏斗の様なモノがふたつ横に連なって、チューブやら何やらが伸びてる。
ベッドの下には器具が入ってたらしいパッケージ…
それに描かれているのは、どうやら器具の名称と使い方…
それを目にした瞬間…皆本は全てを理解した…
「な…な…な…ナニやってるんだお前は〜ッ!!」
刹那、部屋に響く皆本の怒鳴り声…
温厚な彼の、滅多に聞かない、ホンキの怒声に流石の葵も恐縮する…
「…あ〜お〜い〜?」
「あ、あのな…そのぉ…お、おっぱいをな…おっきくするために…」
彼のその剣幕にビビリつつ、もにゃもにゃと蚊の鳴く様な声で弁解する葵…
そう、その器具とは、所謂バストアップマッサージ機…女性のバストを大きくする為の器具だったのだ。
だが…
タダでさえデリケートな女性のカラダ…
ましてや、まだカラダが出来ていない10歳の少女がそんな物使うのはまだ早いに決まっている…だとゆーのに、葵はムリヤリに装着し使用した…痛い思いをするのは当然である。
きっと下着とシーツの下に隠された彼女の胸は、真っ赤に腫れあがり、痕が残っている事だろう。
「こ、こんな怪しげな機械つかって…はぁぁ〜…」
…皆本は自分の中で限界にまで張り詰めていた緊張感がぷっつりと切れるのを感じた…
葵が無事だった安堵感(何せ寸前まで幾通りもの“最悪の状況“を考えてたのだから)…そして、余りにクダらない事の真相に対する呆れとで、カラダからへなへなとチカラが抜けていく…。
「……心配させるなよ〜…」
「…ぁう…ご、ごめんなさ…ゴメ…う…うぅぅ〜」
「あ…な、泣くな、別に怒ってるわけじゃあないから、な?」
正確には怒る気力も沸かないのであるが…
ぼふん…葵と並ぶ様にしてベッドの縁に腰をかけ、泣出しそうになった彼女を宥める。
「……なんでこんなこと……」
「………」
「…や…言いたくないのなら無理に言わなくてもいいけど…」
「……薫のヤツな…いっちゃん最初に測った時より2cmもおーきゅーなっとんねん…」
「…は?」
「紫穂もな…1cmもふくらんどる…」
「…え、え〜と…」(汗
胸のコトを言ってるらしい…
葵は自分の控えめなバストにコンプレックスを持っていたのだ。
そういえば以前『だって無いじゃん…乳』とか、薫にからかわれてケンカしたことがあったっけ…と皆本は思い出した。
…なんとゆうか…皆本から見れば、3人はまだまだお子ちゃま…数値上は兎も角、見た目は大差ないぺったんこな…発育途上の幼児体系にしか見えないのだが。
しかし、葵本人にとってはとても深刻な問題なのだ。
「でもな…ウチは…ウチの胸は全然育ってへんねん…」
「そ…そうか…
(ぼ、僕にそーゆーコトを言われても…そーのは柏木さんあたりに相談してくれよぉ〜!!)」(汗)
ココロの中で絶叫する皆本である。
幼い女の子のカラダの悩みなど、医師でもカウンセラーでも無い彼にしてみれば、聞くだけでも恥しいモノで、どう対応したらよいのやら解らない…
しかし、羞恥にその顔を真っ赤に染め半べそかきながらも、折角葵が自らの悩みを打ち明けてくれたのだ…自他ともに認める、彼女等の“保護者”としては応えないわけには…
何と言ったらいいのか…言葉を捜しつつ、落ち込んだ葵を慰めるため声をかける。
「…いや…その…まだ早いだろ?そーゆーの気にするのは…」
「う〜…だってオトコのヒトは、胸がおッきぃ方がスキなんやろ?
…皆本はんも…その…お、大きい方がイイんやろ?」
「あのなぁ…」
「!!」(びくっ)
呆れたように言う皆本がすぅっと手を伸ばすと、…叩かれるとでも思ったのだろうか、葵が身を縮こまらせた、が…
ぽふん…わしゃわしゃ…
優しく、丁寧に…壊れ物を扱うかの如く慎重に、葵のアタマに手を載せ撫でる皆本。
その心地良さに、彼女はされるがままになってしまう。
「僕は…その…そーゆーのは気にしないよ。」
「…ホンマに?」
「本当に。」
「…胸ちっちゃくても…ウチのことキライにならない?」
「?…ならないよ。」
…何故『胸が小さい』というのが僕に嫌われる事に繋がるんだろう?…そう、疑問に思わないではなかったが、所謂『背伸びしたいお年頃』故の心理なのかな、と解釈し、自分を納得させる皆本…
少女が自分に寄せる可愛らしい想いなど、まるで理解出来ないようだ…鈍いオトコである。
「う〜…皆本は〜ん…」
がば…
皆本に抱き付き、本格的にぐすぐすと泣き始める葵…
皆本、可也恥しかったのだが…コレで葵の気が落ち着くのなら…と、彼女の背をさすりながら、暫くそうやって好きにさせておくことにした。
「……よしよし…」
「う〜、う〜」(泣)
ところで、この世の中には『お約束』なるモノが存在している。
当然、このお話だとてその例には洩れない…
そう、この『ふたりちょっといい雰囲気』のまま、話が終る筈も無く…
ぱたぱたぱた…
「お〜い皆本〜葵のヤツいないんだけどさぁ〜、ドコ行ったか知ら…なッ…!?」
「皆本さ…えぇッ!?」
「「あ…」」
びしぃっ…
目が覚めると、一緒に寝ていた筈の葵の姿が見えず…その行方を捜し皆本の部屋にまで来た二人の少女…薫と紫穂は、中の光景を眼にした瞬間、音を立てて固まった。
寝室のベッドの上…皆本と葵は抱き合っている(…よーに見える)…
しかも葵の方は下着姿、その上泣いていた様だ。
そして、ベッドの周りには怪しげな器具が転がっていて…
「み、み、皆本ッ!テメェ〜ッ!!」(大激怒)
「いやぁぁっ!!皆本さんフケツ〜ッ!!」(泣)
ま、この状況で『誤解するな』とゆー方が無理だろう…勿論皆本にも弁解する機会など与えられる筈も無い。
ついでに、葵の静止も、紫穂のチカラでの状況把握も間に合わず…
「ごはぅあぁっ!?」
どごぉっ…めぎぃッ!!
彼は、薫の手加減一切無しの全力の念動能力プレス攻撃で、寝室の壁に叩き付けられる事となったのであった。
合掌。
「…ぼ、僕が何をしたとゆうんだ……」(涙
「み、皆本はん…堪忍や…」
終?
…と思ったけど、おまけ、或は後日談。
結局、葵の説明と紫穂のチカラにより、何とか誤解は解くことが出来た。
そして後日、バベル本部にて…
ふにゅん♪
「きゃあッ!?」
廊下に響き渡る、女性の絶叫…
局長付きの秘書官にして、“チルドレン”のもう一人の保護者でもある 柏木 朧のものである。
彼女、今両胸をわしづかみにされるとゆートンでもないセクハラ攻撃を受けたのだ…しかし、今日の犯人はいつもの赤毛の少女(…言うまでも無く薫である)ではなかった。
「あ、あ、葵ちゃん!?
な、なんてコトするの?アナタまでそんな…薫ちゃんみたいなコトするなんて…」
「なぁ…朧はん…どーやったらそんなにおっぱいおっきくなるん?」
「…え?」
…どうやら葵は諦めてはいなかったらしい…
「何か胸をおっきくする秘密があるんやろ?…でなきゃそんなに膨らむわけ無いモンな。
なぁ…それ、ウチに教えてくれへん?」
勿論そんな物は無い。返答に困る朧である。
「あ…あの…」(汗)
「なぁ…おしえてぇな?なぁ、なぁ、なぁ〜」
「…(み、皆本さ〜ん?一体ナニがあったんですか〜!!?)」(大汗)
今度こそホントに終
後書きモドキ
…葵嬢ファンの方,すみませんでした。
第一話での薫嬢とのやり取り以来『葵=貧乳キャラ』とゆー図式が、自分の中で出来上がってたりしますw
……当初は、皆本さんと葵嬢の甘々なお話を書くつもりだったのですが…いつの間にかこんな話に…
ちとダラダラした上に、インパクトにかけますね…後、も少しえっちぃお話にしても良かったかなと、今更ながらに反省です。
オマケも蛇足でしたかね…
尚、バストアップの機械のネタは おがきちか さんとゆーひとのマンガから…これ…ルシオラ嬢にも小竜姫様にも使えるなぁ…とか思いつつ、今回は絶対可憐チルドレンで…今一番、自分の中ではアツいネタだった物で…
こんなのでも、ツッコミとかご指摘とか頂けると幸いです。