▽レス始▼レス末
「誰にも秘密(SEED)」KUROKU (2004.11.24 04:07/2004.11.24 04:11)


あしがなくたって

てがなくたって

めがみえなくたって


みみがきこえなくたって


にんげんなんだよ



わたしたちは




ワタシタチハ


シッパイサクデスカ?




マイカ・セイノは変わった少女だった。


何しろ初めて会ったときのポーズが

道に座り込んで街灯にしがみ付いている姿だったのだから。










初めてプラントから出て。

当時はまだ中立国に近かったA国のコロニーをブラブラしていて俺はその光景に出会った。


誰だって変な奴だと思うだろう。

人が道の片側で街灯をまるで生き別れて再び出会った兄弟のように抱きしめていたら。


「・・・・・電柱に抱きつくのが趣味か?」


思わずそう口走ってしまった。



その少女は傷ついたような顔をしたみたいだが、俺は気にせず歩き始めた。


こんな変な奴に構っていられない。


後に俺はこの時の言葉がどれだけ心無い物だったのか思い知ることになる。


以外にその機会は早く来た。


「・・・・・・・・・・?」

俺は道の坂になっている所を歩いていたのだが、その丁度真ん中の傾斜が緩くなっている辺りに何かが転がっているのを見た。


それはプラントでお目に掛かった事は無いが、本などで見たことがある。

それの使い道は―――――!!!


そして坂の下にいるのは


バッ!っと俺は振り返った


先程の少女はまだ街灯に抱きついている。


いや


抱きついているのではない。


ソレを足がかりに必死に立ち上がろうとしていたのだ。


だが力が入らないらしく、ズルズルとまた座り込んでしまう。


(俺はっ・・・・・!バカかっ!!)


俺はその少女の元に急いで走り戻った。


「・・・・・・・?」


何故戻ってきたのか少女には分からなかった様で、眼を少し見開いていた。


俺はそれに構わずに彼女を横抱きに(姫だっこともいう)した。

「え!?あああああの・・・」

彼女は何か言っていたが俺は構わずにそのまま坂の中腹まで戻り、そこにあった車椅子を足で立て直し。

彼女を座らせた。


「ありがとう・・・・・」


「あ・・・いや・・・別に・・・・」



思いの外素直に礼を言ってくる彼女に自分の方が戸惑ってしまう。

「落ちた時に何処か打たなかったか?」

「大丈夫」

「そうか・・・・」

どうにも先程の自分の言葉のせいか居心地が悪い。

ここは早々に立ち去った方が良いだろう。


「あの・・・・・」

「ん?」


「良かったら一緒にお茶しない?御礼に奢るくらいはさせて欲しいの」




本当に


変わった少女だった。





「私はマイカ・セイノ。あなたは?」


「・・・・イザーク・ジュール」

「OK。イザークね」


そのマイカと名乗る少女は結局俺を近くのテラスカフェまで連れてきた。

そして勝手にどんどん注文していく。

「ここ、図書館の帰りによく利用するの。今日は帰る途中だったんだけど・・・・」


「へぇ・・・・」

どうにも話しづらい


と、彼女はお冷を玩んでいた手を放すと俺に向かって頭を下げてきた。

「さっきは助けてくれて有難う。本当にもう誰も通りかからないし、ずっとこのままかと思っちゃったわ」


「いや、俺も酷い事を言ってしまったし、あそこまで困っている人間を助けるのは当然の事だ」


俺はナチュラルは嫌いだが、移動できなくなっている障害者を放って置くほど冷血非情な人間のつもりも無い。


だが、マイカは驚いた様子で眼を瞠っている。

「・・・あなた、コーディネーターよね?」

「だからどうした?」


「私、コーディネーターからそんな言葉聞けるとは思ってなかったわ」


「なんだと!?」


今のは流石に聞き捨てならない。

「あ!!ゴメンナサイ!悪気は無かったの。そういう意味じゃなくて、たた・・・・」


マイカや少し言葉を濁した。










「私ってドジでねぇ、今まで結構コーディネーターの人の前でも転んだ事あるんだけど助けてくれたのってイザークが初めてなの」

「何・・・・・・・?」

「ほら、コーディネーターって健常者ばかりじゃない?特にプラントの人達とか。だから私みたいな障害者が珍しいみたいでさ。今までじろじろ見られるとか、くすって笑われるとかそういうのばっかりだったのよ」



「何!?」


俺は激しい音を立ててテーブルから立ち上がる。

「どこのどいつだ!そんな恥知らずな事をしたのは!!」





「・・・・・何であなたが怒るの?」


マイカは何故俺が怒っているのかも理解できない様子だった。



「怒るのは当然だろう!!碌な力も無いくせに俺達を妬むナチュラル共なら兎も角として、
誇り高いコーディネーターがそのような事をするのは許されざる事だ!!第一困っている人間は助けるのが道理だろう!!」


「・・・・・そうなの?」


きょとんとした表情で俺を見上げてくるマイカを見て俺は怒りがこみ上げてきた。

彼女にではない


このような反応をするということは今まで彼女にとって、コーディネーターには無視されるというのが当然の事だったのだろう。

そのような考え方をこれまで彼女に与え続けた連中に腹が立った。





「とにかく、誤解しないで欲しい。コーディネーターはそんな者達ばかりではない。特に俺はそんな事は絶対にしないぞ!」

マイカはクスクスと笑いながら「うん、分かった」と頷いた。

そして、彼女は眩しそうに俺を見上げた。



「イザークはコーディネーターである事に誇りを持っているんだねぇ。」

「何?」

どういう意味だろうか

俺の怪訝な表情に気づいたのか彼女は

「羨ましいな。私は自分が自分だという自信は持っていても障害者である事に誇りはもてないもの」


ポツリ、ポツリと自分のことを話し始めてくれた。

「私ね。“失敗作”なんだって。」

「私の足の異常が発見されたのは生まれてからだったの。妊娠中は何の異常も見られなかったらしいわ」

「両親もずっと後悔してたんだよ。こんな足の悪い子供産むくらいならお金かけてコーディネートすればよかったって」

自分を失敗だったと言わんばかりの目で見る両親。

「両親は流石に面と向かっては言わないけどね、弟を猫かわいがりしている時点で丸分かり」

「弟はコーディネーターなの。多分、私を遺伝子操作しないで“失敗”したから弟に全期待を掛ける事にしたんじゃないかな」

五体満足で走り回り、両親に可愛がられている弟。

「あーもう!そんな顔しないで?私、自分が可哀想だなんて思った事無いから。」

俺は一体どんな顔をしていたんだろうか。

彼女は苦笑しつつ、運ばれてきたミルクティーのカップを口に運んだ。

「だって、確かにコーディネーターの人たちは羨ましいけどね、羨んでるだけじゃ何も始まらないし。私はポジティブ&シンキングに生きる事にしているんだから!」



「ヘレン・ケラーって知ってるでしょ?彼女って眼も耳も口も不自由だったんだって」

空に向かって手を伸ばして

「きっとさぁ、足が悪いだけの私なんかも想像を絶するような世界だったんだろうなぁって・・・」



「だから私いつか、ヘレンみたいに世界を見て周りたいの」

「その為に今世界の民俗学の勉強してるんだv」


そう言って彼女が鞄から取り出した本は


「む?その本なら俺も愛読しているぞ?」

「え!イザークも!?」

「ああ、俺の趣味は民俗学研究だからな。家に帰れば結構専門書やコレクションがあるぞ?」


「へぇ〜見てみたいな〜」

「そうか・・だが、OOOOの下巻がなくて物足りない本棚になってしまっているがな」


「え、その本って、プラントじゃ絶版になった本でしょ?私地球の本屋にネットでの伝があるから頼んであげよっか?」


「本当か!?是非頼む!!」



本当に


変わった少女だった。


何しろ自分がナチュラルと話していると言う事さえ忘れて話し込んでしまっていたのだから。


今までコーディネーターの友人とさえ、こんなに楽しく話した事は無かった。







「あ!もうこんな時間!早く帰らないと・・・・!」


「ちょっと待て」

そのまま伝票を取りレジに向かおうとしたマイカを俺は止めた。

「何?」


「お前、まさかまたあの坂を登るつもりじゃないだろうな?」

「え?だって帰り道はあそこしか・・・・・・」




「送ってやる・・・・・!いや送らせろ!」





キコキコ



「ゴメンね〜わざわざ押させちゃって」


「気にするな。またあんな状態になるかもしれないと思った方が俺の精神に悪い。」


「作用ですか」

俺の言い回しが可笑しかったのか、マイカはくすくすと笑っている。

だが、不思議と腹が立たない。

「それにしても・・・・・・」


俺はマイカの座る車椅子を見た。


車椅子の実物は初めて見たので余り詳しい事は分からないのだが。


「不良品じゃないのか?コレ」


見かけは確かに立派だが、明らかに車輪の付け具合が悪いし、椅子の部分も座り心地が悪そうだ。

これでは何度も転んでしまうのも頷けるかもしれない。

「新しいの買ったらどうだ」

「無理よ。」

「買え」

「無理だって」

「買え!」

「だから無理。親は私に無駄金つぎ込まないって決めてるみたいだし」

「なら俺が買ってやる!!」


「え・・・・・?」

「あ・・・・・・/////」


しまった


勢いに乗ってついとんでもない事を口走ってしまった。


彼女に車椅子を買ってやる。

それはとどのつまり・・・・・


「プレゼントしてくれるって、事?」


「//////」

真っ赤になってしまった俺に彼女は苦笑して。

「ありがと。でもそんな行きずりの私に気を使わなくったっていいよ」

「気を使っているわけじゃない」

「え・・・・?」


「お前は俺にとってナチュラルの友人第一号だ。だから俺は何か記念になる事を必要としている。だからお前に車椅子を贈りたいんだ。」


「ナチュラルの友人第一号かぁ・・・じゃあ私にとってもイザークはコーディネーターの友人第一号だね」




俺たちは坂の上で握手を交わした。



「いつかプラントに俺を訪ねて来い。その時にコレクションも見せてやろう」



「ありがと(笑)」




俺は坂を下りていく




「イザーク」


「ん?」


振り向いた先には


「ありがとう!!あなたと話できてよかったわv」



「っ!////////」


見惚れるような淡く綺麗な笑顔が・・・・・・



そして彼女はそのまま坂の向こう側に消えていった・・・・・・・




















それから半年が過ぎた。



「♪」


「どうしたのイザーク、最近妙にご機嫌ね?」


「は、母上!?いえ、そんな事はありません」



「いーえ、妖しいわよ?そういえばエルスマンの御子息から聞いたのだけれど何かの通販パンフレットを集めているらしいじゃないの。一体何を探しているの?」


「え、いやあのその・・・・・・・・」

あの馬鹿め、余計な事を。

車椅子を買おうとしている事がバレでもしたら母上に何と言われるか分かったものじゃない!!


「ふっふっふっふ、この母に隠し事は無理よイザーク。さあ、キリキリ吐きなさい!」








ぶつっ

『ここでニュースをお伝えします。今朝午後10時10分頃、プラントに入港しようとしていたA国の民間シャトルが突然の爆発により四散いたしました。警察では爆弾テロ事件と見ており現在調査中です。乗客名簿から、被害者はエリー・グローリィさん、ピーター・スチュアートさん、マイカ・セイノさん・・・・・・・・・』




「テロ騒ぎか・・・厄介な・・・・あ!イザーク何処へ行く!?」










見せたかった


見て欲しかった


知って欲しかった


俺の住む世界を













『こんにちはイザーク。元気にしてるかな?実は私、今度地球の養護施設に送られることになっちゃったんだ。両親も私の面倒見るのもう限界みたい。地球に行ったらもうイザークに会える機会も無くなると思うからその前にそっちに一度遊びに行くね。多分この手紙が着く頃にそっち行ってると思うよ?あ、そうそう!この前言ってた本、見つかったから宅配便で送っておくね。私が直接持って行ってもいいんだけどまたコケて無くしたら嫌だし。じゃあねv』







テロ事件の犯人は思いの外早く捕まった。


奴らの主張は


『我々は神聖なるプラントに踏みいろうとした愚かなナチュラルどもを排除しただけだ!!』



そこには


車椅子に乗った

儚い夢を持つ小さな少女に対する謝罪も弁解も存在しなかった。


恐らく奴らは軽い刑だけで釈放されるだろう。


かつてジョージ・グレンを暗殺した犯人が心神耗弱を理由に地球側に無罪とされたように。







俺の手にはあの後マイカの名前で送られてきた本がある。


それはあの日彼女が探してくれると言った本だった。



多分あいつは一生懸命探してくれたんだろう。






PCに映るメールと彼女に贈る筈だった車椅子をぼんやりと見つめながら思う。


なぁマイカ


お前、悔しくなかったか?


憎くなかったのか?


コーディネーターが存在するから“失敗作”だとせせら笑われ、


コーディネーターの弟に両親を取られ、


そして最後にコーディネーターに殺されて。


憎まなかったのか。


最後まで。


あの淡い笑顔で笑っていたんだろうか。








『いつかヘレンみたいに世界を回って色んな人と友達になりたいの』







『イザークはコーディネーターである事に誇りを持っているんだねぇ。』



そうだ。


俺はコーディネーターで

彼女から何もかも奪ったのと同列の存在で

でも

彼女は俺を認めてくれていた



『ナチュラルの友人第一号かぁ・・・じゃあ私にとってもイザークはコーディネーターの友達第一号だね』






そして



戦争が始まり



終った。



「おいイザーク!!」



後ろから友人が声をかけて来た。



「お前、軍役で貰った給料全部DPI(世界身体障害者自立保護団体)に寄付したんだって!?」


「ああ、まぁな」


「一体どういう心境の変化だよ?あそこで保護されてるのは全員ナチュラルだろ?」


「さぁな・・・・・・」


「イザーク・・・・・・・・?」




この想いが何なのか分からない・・・・


だけど



あの出会いは


誰にも秘密


この感情は



誰にも秘密







あとがき
どうも、KUROKUです。はじめまして

コーディの別の視点からの弊害って感じで書きました
「コーディネートって遺伝子治療の発展系よね?なら先天性障害者は殆どいない筈!」
という独断と偏見の元に思いついた作品です。
あとイザークが別人ですいません

誰にしようかな〜と思ったんですが、色々考えていくうちに「イザークしかこの役はできない!」と思ったもので。

後ザフトって給料出てるのかしら・・・・・・・?





△記事頭
  1. KUROKUさんよかったです。
    イザークファンとして涙しながら読ましてもらいました。
    最後はなしたのはディアッカですか?
    555(2004.11.24 06:49)】
  2. 意外や意外。
    いいお話でした。
    イザークはやや捻くれているものの、
    よい意味でプライドの高い人間であると再認識しました。
    ふじふじ(2004.11.24 10:06)】
  3. ・・・こ、それでこそイザーク・ジュール。
    アンチな人々から少女殺しと汚名を受けても彼はこういう男否漢だと信じていました。
    33(2004.11.24 11:00)】
  4. ジェリド逝きがね。
    スペシャルじゃ首ちょんぱのオマケ付きだしなあ。
    それが何時の間にやら強化人間キラーに。
    カットマン(2004.11.24 12:14)】
  5.  始めまして。
     運命は見ていませんが、この話はなかなかです。
     「より完成された人間」を目指したはずのコーディネーター。しかし、それゆえに“失ったもの”“見えなくなったもの”もある。
    「誇り高いコーディネーターはそんな事はしない!」…本当はそうできてこそ“本当の意味で”ナチュラルを越えられるはずなのに。
     イザークの咆哮はそれに対する怒りの声だったと言うのはわかります。(“真の主役”の嘲笑も同じ所から来ているのでしょうか)

     運命の彼がどんな結末を迎えるかはわかりませんが、せめてこの物語の彼に少しでも近づけるといいのですが…。
    ATK51(2004.11.24 21:21)】
  6. イザークらしいと思いますよ?特に、SEED終盤〜最終回あたりの彼ならば、ぴったりこんな感じではと思います。
    偽バルタン(2004.11.25 03:40)】

▲記事頭


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