光の差し込む教室に 私と君の二人きり
こんな素敵な青春に 微笑む君を見る私
待ち望んでた筈なのに 溢れる涙は何だろう?
待ち望んでた筈なのに 苦しい胸は何故だろう?
ドアが開く音と共に、横島君が教室の中に入ってくる。
教室の窓際に腰掛けている私に気付くと、満面の笑みを浮かべて、右手に持っていた答案用紙を見せてくる。ちょっと見にくいけれど、かなり良い点であるのは彼の顔からも分かる。そして私の顔からも自然に笑みがこぼれる。
「やったね!これで一緒に3年生になれるね」
彼が見せてくれたのは、進級のための追試の答案。それの点数が良かったと言うのは、当然進級できるということ。
「ああ、愛子のおかげだよ。サンキューな」
「どういたしまして」
そう素直にお礼を言われてしまうと、こっちが照れてしまう。顔が赤くなったのは自覚できたが、それに気付く彼ではないだろうし、平静を装って返事をしておけば、変に思うこともないだろう。
「いや、マジで感謝してるんだって。ホントありがとう」
これはちょっと予定外。彼には私が彼のお礼を社交辞令程度にしかとっていないように感じたのだろう。まじめな顔してまたお礼を言ってくる。全く、何処まで鈍感に出来ているのだろう?
「いいのよ。友達同士で勉強を教えるのも『青春』でしょ?」
「そ、そうか?」
最近、私が『青春』って言葉を使えば、みんなが勝手に納得してくれるようになった。都合が良いって言えば良いのだけれど、みんな私のことなんだと思っているのかしら?人間でないことも確かだけどね。
「そうなの!だから一緒に3年生になれることを一緒に喜びましょう」
「そうだな。これも『青春』・・・だな?」
「うん!」
そして二人で笑いながら、もうしばらく勉強したくないとか、春休み何処か行こうかとか、3年でまた同じクラスになれると良いねとか、いろいろ話をした。きっと今まで私が生きてきた中で、最高の時間だったと思う。でもそんな時間も永遠には続かない。
「さてと、バイト復帰の連絡いれないとな」
そう言って横島君はポケットから携帯電話を取り出した。最近、家から電話をなくして携帯電話にしたらしい。そのほうがいろいろ都合が良いって美神さんに言われたんだって、新しい携帯を自慢しながら、そんなことを話していたと思う。せっかくの携帯だから、家以外で使いたいのは分かるけれど、私の前で他の女に掛けるっていうのはちょっとね。
(・・・妖気って電波を邪魔できないのかな?)
ちょっと本気で思ってみたり。とりあえずこの教室を彼が気が付かないように妖気で包んでみる。
「もしもし?美神さんっスか?横島っス」
繋がったらしい・・・チェッ
さっきまで最高に気分が良かったのに、すべて冷めてしまったような気がする。しかも横島君は横島君で、もの凄く嬉しそうに話しているし。
(喧嘩でもして、さっさと終わってくれないかな)
でも、私はこう思ったことをすぐに後悔することになる。
「え?ちょ、ちょっと待ってください!どうゆうことっスか?」
本当に険悪な雰囲気にってしまったから。いつものふざけてるやり取りじゃないのは、彼の様子を見ればすぐ分かる。悪いかなって思いつつ、会話に聞き耳を立てる。
「何でクビなんスか?」
どうやらクビにさせられたらしい。でもピート君やタイガー君の話を聞く限りだと、彼以上の才能を持った人間なんて滅多にいない。そう言っていたはずだ。確かに話を詳しく聞くと、GSというものの知識が殆どない私でも、その才能が稀有なものであることが分かる。にもかかわらず、彼をクビにする。どういうことなのだろう?
隣では相変わらず横島君が必死に何かを言っている。たまに意味の分からない専門用語が出てくるけれど、辞めたくないって必死に訴えているのは分かる。まるで親に見捨てられまいとする子供のように。
「美神さん!?美神さん!!」
最後は一方的に切られてしまったのだろう。彼の声は空しく教室に響いた。
それからしばらく、私たちは動くことも声を出すことも出来なかった。
夕日の眩しい教室に 私と君の二人きり
傾き始めた青春に 佇む君を見る私
声を掛けたい筈なのに 何を言えばいいんだろう?
声を掛けたい筈なのに 私は何を言えるだろう?
「なぁ、俺って霊能力以外に才能ってあるのかな?」
沈黙を先に破ったのは横島君だった。いきなりされた質問にあたふたして答えられないでいる私に、彼はとても優しく微笑んで。
「少し俺の昔話に付き合わないか?」
「え?あ?うん」
急に話題を変えてきた。何のことか頭はついていかないけれど、体は条件反射のように頷く。そして私が頷いたのを確認すると、彼は窓の外の夕日に目を向けて語り始めた。
「あれは・・・そうだな、俺の『青春』の一ページってやつさ」
それは種族を超えた恋の物語。
終末の世界で激しく惹かれあった、男と女の恋物語。
美しい程残酷で、優しくも無慈悲な終わりを迎えた愛の物語。
(この人はその優しさ故にこの先どれだけ傷を背負っていくのだろう?)
何も力になれなかった。いや傷ついた心に気付くことすら出来なかった。
でも話してくれた。少なくとも彼は私を信頼してくれている。心の中を曝け出してくれる。
なら私もそれに応えないと。例えその結末が、私の望むものでないとしても。
「・・・だから俺は俺らしくしないとって思ったんだ。まぁ、こんなこと考える時点で俺らしくないのかもしれないけどな」
そう言ってハハハッと微笑む彼の顔は、過去の悲しみに囚われない、強い意志を持っていたように感じた。
でも・・・
「だけどあそこにいる限りは、そんなことも考えず俺らしく在れるって思ってたのに・・・!」
そう言って涙を浮かべる彼は、とてもガラス細工のように美しく繊細で、でもとても脆そうで。私も涙を流してしまいそうだった。
その涙を隠すように、机の上に腰掛けていた彼の後ろに周り、彼に背を向けそこに腰掛ける。背中に寄りかかると、彼のぬくもりを背中に感じられた。コツンと私の頭と彼の頭がぶつかる。
「ねぇ横島君・・・」
「ん?なんだ?」
「私ね、君の事好き・・・よ」
「・・・・・・」
顔が熱くなるのを感じる。だって生涯初めての告白だもの。
「きっとその人と同じ理由。君がいたから私はここにいるし、君がいるから青春することもできた」
だから私にも分かる。君には君らしくいて欲しいって。何よりも君には笑顔でいて欲しいって。
だから私に出来ることをしよう。私だけにしか出来ないことを。
「だからその恩を返したい」
「いや、恩って・・・」
「君が望めば、望むままの永遠を君にあげる。君が君らしくいることの出来る空間を私が創ってあげる」
「ッッ!!」
彼の言葉を遮った私の言葉に、息を呑むのがわかる。
でも、それだけだった。迷うことなく、返事はすぐに返ってきた。
「ありがとう。でも、遠慮しておくよ」
「何故?」
「あいつが知ってる俺らしさは、逃げることじゃないからな」
「そっか・・・」
初恋は実らないもの・・・よく言ったものよね。こうなることは判ってた。だって心の中で少し安心ている自分がいるのがわかるもの。
でも悲しいことには違いなくて。
(背中越しの告白でよかった)
泣いているところを見られなくてすむから。
「・・・ゴメン」
「謝らないでッ!!」
「ゴメ・・・あっ、いや・・・」
そうゆう奴なのよね。私も彼も。
「ふふ・・・行くんでしょ?」
「あ、ああ」
「ぶつかって、傷ついて、でもまた立ち上がって・・・その繰り返しが青春なのよ、きっと」
「そう・・・かもな」
寄りかかっていた背中を離して
「よし!行ってこい横島!」
「おう!」
遠くに離れていく彼の気配。
もう溢れる涙を止めようとは思わない。
一晩中泣き明かそう。
そしたら私もまた立ち上がれるから・・・
闇に染まった教室に 私と君の二人きり
別れという名の青春に 背中合せの私達
この教室を去る君に ありがとうって伝えよう
この教室を去る君に 頑張ってって届けよう
あとがき
・・・書いてしまいました。
先日投稿させてもらった『See You Again』の過去編です。時期的には原作終了後、2年生3学期の試験休みといった所です。
分かりにくいところもあると思うので、突っ込みやご意見、ご感想お待ちしています。