▽レス始▼レス末
「出来損ないの『魔王』(まぶらほ)」(ピーーー) (2004.11.20 00:46)
注意事項。

 1・キャラが壊れているかもしれません。

 2・山もオチも意味もないと思われます。

 3・続きはが何時になるか全く分かりません。

 4・何処かの誰かに文章が似ていても関係ありません。

 5・関係ないったらないんです!

 6・それでも、心当たりがある人は、そっと胸の奥にしまって置いてください。

 7・二次創作らしく、元ネタに対するある程度の知識がないと、分から無い部分が多いです。事前学習として、ココや他のHPにある、同じネタの名作を読んでおく事をお勧めします。

 8・この作品書いてて、本業手付かずですがご容赦ください(分かるヒトだけ分かるネタ)

 以上、注意事項でした。









子供が生まれた。

「おぎゃあぁぁ、ほぎゃああぁぁぁ」

現代にあって、子供は通常、病院で産み落とされる。だがソコは病院ではない。それどころか、人里ですらなかった。

何処とも知れぬ山の奥、熟練の登山者すらも尻込みするほどの場所。

そんな深山幽谷に、真っ赤な鳥居と古びた社が存在していた。古びた社の一室には、床や壁、天井にまで、ビッシリとなんらかの記号や数式が書き込まれており、何らかの儀式に使われる祭壇染みた造りだ。

そんな祭壇の中央、赤子を産むという大仕事を終えた母親が、白い肌着を赤く染めながらも満足げに微笑む。

異様な場所にあって、ソレはまさしく聖母の笑み。

その笑み一つで、魔の祭壇が神殿に変わるようだ。

医者の姿はなく、周囲は数人の人影が立つのみ。

彼らは無言で生命の誕生に立ち会っていた。

「おんぎゃああ」

満月の夜。静謐な世界に産声が響く。

命が誕生する瞬間を、この世界は祝福していた。

しかし、ソレを祝福せぬものも、その場には存在した。

「失敗だ。魔力の強さは予定通りだが、回数が少なすぎる……たった八回では世界を滅ぼす事は出来ても、支配する事は出来まい」

冷たい声音で断じたのは、黒衣に身を包んだ男。

少なくとも、産まれたばかりの赤子を愛しげに抱きしめる母親と、その胸に抱かれた赤ん坊に告げる言葉ではない。

「失敗してしまった。何が悪かったのだろう」

つぶやく男は、実験の結果に納得できなかった科学者の様だった。

「どうでもいい、この子は、俺達の子だ!」

父親らしき男が、赤子と母親を抱きしめて、黒衣の男に叫ぶ。

「何を言っている。コレは『失敗作』だ。捨てておけ、次の準備があるのだぞ?」

「次など関係ない! この子が俺達の子供なんだ!」

黒衣の男は、感情の篭らぬ冷たい声で告げる。

赤子の両親は、絶対離さぬと強く子供を抱きしめた。

数秒の沈黙。

視線を外したのは、黒衣の男だった。

「勝手にするがいい。ソレはもう、我等には用の無い存在だ」

男の発言に両親は安堵したが、周囲にいた他の人影が抗議する。

「我々の計画はどうするのだ?」

「計画は継続する。この失敗は予想外だったが、コレを考察すれば計画の見直す点も出てこよう。手直しすれば再度の『儀式』までの時間が縮まるかもしれん」

抗う声にも動じず、ただ事実だけを述べる男。

「バカな! ココまで来るのに五千年掛かったのだぞ!?」

「そうだ。もう待てぬ! いっその事、その赤子を連れて帰れば良いのではないか?」

事実とはいえ、我慢のきかぬ人影は興奮気味に語りかけた。

その発言の何が気に入らなかったのか、黒衣の男は興奮した男達に無造作に手を振る。

ヒュッ     バシューーーーーッ

魔法のように、男達の頭が空高く飛び。

置物が無くなった首は、盛大に血を噴出した。

「頭を冷やせ愚か者! 我等が望みを忘れたか!?」

初めて見せた怒りの感情のまま、自分が殺した人影へ罵声を浴びせる。

無駄な行為の筈が、そうはならなかった。

「悪かった。どうも興奮していたらしい」

地面に転がった首が、申し訳なさそうに謝罪したのだ。

頭を失った胴体が頼りない足取りで頭の近くまで歩き、頭を手にとって首の上に乗せる。

数回、調子を確かめるように首を引っ張り、外れないと分かると、一、二度頷いた。

「無理もあるまい。今度こそ成功するものだと確信していたからな」

騒動の輪の外に居た人影の発言に、黒衣は再び思案顔になる。

「不備は無かった。この為だけに、数千年にも渡って『魔』に近づいた人間の交配を、手伝ってきたのだから……」

「人間の選定に問題は無かったのか? 『魔』に近いとは言っても、所詮は人間だ。計画に必要な純度に足りなかったのでわ?」

「その話は579648回目だ。計算も7849635通りを試し、最適な道筋を辿った筈」

人影は、赤子とその両親を無視して、何故失敗だったのかと、検討を続ける。

「……待たせてしまったようで、申し訳ない。少々予定と違っていたので、取り乱してしまった」

長い時間が経過した後、代表として黒衣の男が父親に語りかけた。

「さて、キミ達と交わした契約は『産まれて来た赤子を差し出す事』……交わしたのは随分昔の、キミ達のご先祖相手だったがね……契約は契約だ。しかし、どうやらこちらの手違いで、欲しい赤子ではなかったらしい」

フォローのつもりだろうか、軟らかな表現だったが、先ほどまでの『失敗作』発言を思い出すと、意味がないのに気づかないのだろうか。

「こちらの手違いだ。代わりに魂を寄越せなどと言うつもりも無い」

「成否はともかく、契約は終了した。協力を感謝しよう」

「これよりは我等の事を忘れ、慎ましく人生を過ごされるがよい」

性別も判らぬ人影は、話し手を次々と変えながら、何の感情もなく、事実だけを淡々と告げる。

その言葉を聴き、両親は警戒を緩ませる。契約が無事に終了することが、子供の安全に繋がるとあれば、当然の反応だった。

「あー?……」

両親の腕で泣き止んだ赤子は、周りを囲む人影にも臆す事無く、愛らしい瞳を向けている。

そんな無邪気な瞳に刺激されたのか、人影から一人が進み出た。

仲間の驚きにも構わず、紫の衣を纏った人影は赤子の前で膝を着き、

「我等が王となる筈だった子よ。キミのこれからの運命に、幸あらんことを……」

まるで洗礼のように、人影は赤子を言祝ぐ。

シュウシュウと何かが焼けるような音が上がり、焦げ臭い香りが漂う。

「しまった、言い馴れないことを言った所為だな。舌が火傷してしまった」

苦笑を浮かべながら伸ばした舌には、ハッキリと十字の焼印が押されていた。

「ふん、我等の立場を忘れるからだ」

嘲るような仲間の言葉。ソレに振り返りながら、紫衣の影は口を開く。

「この子の人生は、我等が計画によって狂わされた。その侘び代わりだ」

そうして告げたのが事実だっただけに、他の人影も一斉に押し黙り、視線を赤子へ向ける。

暫しの沈黙を経て、黒衣の影が赤子に話しかけた。

「たしかに、では赤子よ……我が名と共に、加護を授けよう。……我が名は『   』だ」

口火を切った黒衣に続くように、人影たちは名乗りを上げる。

「改めて、我が名は『     』。死した後にも、忘れてくれるなよ」

六つの人影が続き、紫衣の男が最後に名乗りを終えた。

だが不思議な事に、影の言葉を聞く事が出来ても、名前までは赤子を抱く両親には聞き取れない。

名に秘められたあまりに高位な魔力が、任意のモノ以外に存在を隠すべく自然発生しているのだ。

この場で名を聞く栄光を賜ったのは、その意味すら知らぬ赤子のみ。

都合、七つの名前を聞いた赤子は、嬉しそうに自分達親子を囲う人影に微笑む。

「式森が当主よ、よければその赤子の名を聞かせてはくれまいか?」

真意の分からぬ問いかけに、父親は妻と子を抱く腕に更なる力を込めて、答える。

「……和樹。式森和樹と、名付けるつもりだ」

「和樹か、良い名だ」

黒衣の男は満足げに微笑み、仲間へと視線を巡らせた。

「さて、愛しくも煩わしい我等が住処へ戻ろうか」

「うむ。これ以上長居しては、契約者に迷惑がかかろうしな」

頷き合う人影を、満月の光が照らす。

地に伸びる影は、何対もの羽と、頭に角を持つ悪魔の姿。

誰が知ろう?

今宵、地上に七大魔王が揃っていたなどと。

誰がわかろう?

七大魔王、全員の名と加護を与えられた子供の存在を。

美しき満月が、束の間雲に覆われ、再び顔を出した時には、既に人影は消えていた。

残されたのは、一組の家族。

我が子を護れた両親は、その事を喜ぶよりも先に、あまりに数奇な運命を背負ってしまった自分達の息子を、一心に案じていた。

「この子は、和樹はこれからどうなるのかしら?」

「……分からない。ソレを選ぶのは、和樹自身なんだから……」

親の心も知らず、赤子は安らかな眠りにつく。

後に、『出来損ないの魔王』として世界を揺るがす魔法使いは、今は何も知らぬ無力な赤子として、眠りについていた。


     僕の両親              式森和樹

僕のお父さんは、世界最高の魔術師です。

でも、僕がお父さんにそう言うと、ちょっと困った顔でこう言います。

「和樹、覚えておけ。俺の魔法回数はたしかに世界でも屈指のモノだ。だがな、魔法の回数なんか問題じゃないんだよ。魔法を使う時を間違わず、後悔の無い使い方が出来るなら、ヒトは誰でも、世界最高の魔術師になれるんだ」

「たった八回しか使えない僕でもなれるの?」

「なれる。オマエなら……俺なんか問題じゃないくらい、真実、絶対の魔法使い……『魔王』にだってなれるかもしれないぞ」

そういってくれるお父さんは、僕にとってやっぱり世界最高の魔術師です。

そして僕のお母さんは、世界最強の魔術師です。

だって、お父さんもお母さんが怒るとすぐ謝っちゃうから。普段は優しいけど、怒るととっても怖いお母さん。

「お母さんはきっと、世界最強の魔術師だね」

こう言うと、お母さんはちょっぴり怖い顔をして、僕に話しかける。

「そうねぇ、私の魔力は他のヒトよりちょっと強いけど……ねぇ、和樹ちゃん。強いってどういうこと? 最強ってどう決めるの?」

「……わかんない……お母さんは知ってるの?」

「私も知らないわ。でもね、思うの……自分の魔法で、大切なヒトを護れるのなら、ヒトは誰でも世界最強の魔術師なんだって」

「僕にも、大切なヒトを護れるかな?」

僕が聞くと、怖い顔を微笑みに変えて、僕を抱きしめてくれた。

「ええ、きっと。きっと和樹ちゃんは、望めば世界だって護れるわ……でも、無理はしないでね。あなたの魔力は強すぎるから、時には護るべきヒトも、自分さえも傷つけてしまうかもしれないわ」

抱いてる腕に力を込めて、お母さんは優しく語りかけた。

魔法回数と魔力。他のヒトより確実に恵まれた力を持っていても、決してソレを誇る事の無いこの両親を、僕は尊敬しています。

そして僕も、二人が産んだ事を誇れる人間になりたいと思います。



コレは、ある少年の小学校卒業文集の一部を抜粋したモノ。

少年は、文章に書いたとおり、両親の教えを護り続けた。

ある時、少年は少女に出会う。

少女は泣いていた。幾度も家を変え、違う土地に行かねばならぬ自分を嘆いていた。

「もう、お引越しはいや。……友達が欲しい」

幼い少年は、少女の涙を見て痛む心のまま、必死に慰める。

「願いを言って、キミの家族の事には何も出来ないけど、キミの望みが僕の魔法で叶えられる物なら、僕は魔法を使いたい」

少女は知らない。

少年がどれだけの決意でそう言ったのか、

人生で八回しか使えないソレを、使うと決意した事の意味を、

何も知らぬまま、少女は言う。

「じゃあ、雪を見せて! 私まだ一度も見た事無いの」

季節は初夏、天気は見事なまでの晴天、こんな最悪の条件で出来る筈が無い。どれだけの大魔術師でも同じ、もしソレが出来るなら……ソレは魔法とは呼ばれない……

神々の御技とされる『奇跡』の域だ。

幼くとも、魔法の回数と魔力がともに最高水準にある少女は、それを知りながら告げた。

普段は優しい少女も、度重なる引越しが心に与えた傷に、暗い感情を刺激されたのだろう。

だが、少年は「出来ない」と言わなかった。

そんな事でいいのか、と逆に嬉しそうに微笑みながら、両手を天に差し伸べる。

幼い体に似合った小さな両腕から、魔力が輝きとなって天へと放たれる。

驚くべきは、その輝き。

通常、魔術が行使される時、術者から放たれる魔力の輝きは、光の粒子として視界に入る。

粒子の粒が大きく、数が多いほど、魔力は大きいと言われていた。

少年の両腕から放たれる魔力は、粒子ではない。光が具現し、柱となって少年と天を繋ぐ。幼い体をまるまる包み込めるだけの太さと、網膜を焼くほどの激しい閃光を伴って。

数秒後、光の柱は少年が両腕を下ろすと同時に消滅した。

「す、すごい…………えっ!? コレが……雪?」

想像とはあまりに違う現実に、驚く事も出来ずにいた少女が、天より降って来た白い結晶を見て、喜びを露にする。

世界の法則すらも捻じ曲げた少年は、喜ぶ少女を見て微笑みを深めた。

「そうだよ。積もると周囲が真っ白になって、もっと綺麗なんだけど……そこまでしちゃうと、虫さんとか花さんが死んじゃうからね……」

これだけの『奇跡』を行って、更に余裕さえ見せて、少年は言う。

分かっているのだろうか?

自分がした魔術によって、日本中にあった魔力の計測装置が全滅した事を、

世界規模で魔術を監視している衛星を、一撃で破壊してしまった事を、

もしコントロールを誤れば、地球にもう一度氷河期を再現してしまっていた事も、

「ありがとう」

「どういたしまして。元気は出た?」

「うん!」

……分かっていないのだろう。

そして、もし少年が全てを知っていたとしても、それでも彼は魔法を使ったに違いない。

少女の為に魔法を使うと決めた瞬間から、彼は躊躇う事を捨てた。

たとえその結果世界が滅んだとしても、少女の顔に笑顔が戻るなら、彼は微笑む。

その笑みは、世界全てとたった一人の願いを天秤にかける『魔王』の笑み。

しかし同時に、その瞳には虫や花々を殺さずに済んだ事の安堵がある。七大悪魔が彼を『失敗』と呼んだのは、或いはその優しさこそが最大の原因だったかもしれない。

「ありがとう、魔法使いさん。お礼に大人になったらお嫁さんになってあげる」

先ほどまで泣いていた事が嘘のように、明るく話す少女。

「お嫁さんか、ソレも嬉しいけど……どうせなら友達になろう。キミと僕は、ココでお別れになるかもしれない、でも、キミが何処に居ても、どれだけの月日が経っても、僕とキミは友達だ。忘れないで、キミは一人じゃない」

少年は少女のコレからを案じていた。だから、揺るがない絆を与えてあげたかった。自分が両親から魔術師としての在り方を教えて貰っていたように、少女がこれから泣く事の無いように。

だから、少年は話しかけながら、手を差し出す。

少女は、その意味を間違いはしなかった。

「うん、何時までもお友達で居てね。そして、大人になったら、絶対また逢おうね」

「うん、約束だよ」

手を握り合い、見果てぬ明日へ約束を交わす二人。

未だ地に降り続ける白い結晶に彩られた、神聖な誓いの儀式。

コレが、式森和樹の最初の魔法である。

家に帰ってから包み隠さず全てを話した和樹を、両親は何も言わずに抱きしめた。





それから暫くして、彼は少女に出会う。

遊び場にしていた公園に、一人立ち尽くす少女は泣いていなかった。

ただ、手に持った木刀を握り締め、睨むようにキツイ視線を公園で遊ぶ子供達に向けている。

傍から見れば、剣道少女が遊び場を見物していただけにしか見えない。

それなのに何故だろう。少年には少女が傷だらけに見えた。

傷だらけなのに、誰にも助けを呼べずに独りで痛みを堪えているように。

「キミは遊ばないの?」

ソレが許せなくて、少年は声を掛けた。

「っ!?……わ、私は良いんだ! これから剣の修行もあるからな」

「ちょっとだけ一緒に遊ばない? きっと楽しいよ」

「だ、だから、私には用事が……ああもう! 少しだけだぞ」

最初、拒絶していた少女は、少年の誘いに悩み……最後には頷いた。

だが、時間の事など二人ともすぐに忘れ、幼い心のままに疲れるまで遊んでしまう。

公園が夕暮れに照らされる中、少女は焦った表情で、

「いけない、早く帰らなければ」

呟き、公園を出ようとした。しかし、公園の出口には何時の間にか、一人の青年が立っている。

「駿兄(しゅんにい)!?」

驚き、顔を青ざめさせた少女にゆっくり近づくと、青年は少女の頬を張り飛ばした。

バチィン!

激しい音と共に吹き飛んだ少女を、和樹は抱き起こす。少年には珍しく、怒りに満ちた瞳で青年を睨みつける。

「何をするんだ!」

「子供か……口を出さないでくれ、コレは僕と凛の問題だ」

和樹の怒声を何事も無かったように流し、青年は少女を見つめた。

「凛、何故修行をサボった?」

「それは僕が誘った所為で……」

「キミには聞いていない。答えろ、凛」

庇おうとする和樹を一顧だにせず、少女を見据える。諦めたように、怯えた声で少女は答えた。

「……ごめんなさい、駿兄……」

「……帰るぞ。今日の分は明日倍の修行で許してやる」

青年は背を向け、ソレに続いて少女も立ち上がり後を追う。

しかし、少女は数歩も進まぬ内に足を止めた。否、引き止められたのだ。原因は、少女の腕を掴む少年の手。

「待ってよ。この子とアナタがどんな関係かは知らないけど、このまま行かせる事は出来ない」

「言った筈だ、キミには関係ないと」

少年の必死さすら茶番と断じる青年。彼はわかっていない。自分が誰に何を言っているのか、理解すらしていないのだろう。

「ふざけるなっ!」

和樹は怒っていた。日頃から穏やかな性格の彼らしくもなく、本気で怒っていたのだ。

彼の怒りに呼応するかのように、木の葉が激しく揺れ動き、周囲の精霊が逃げ惑う。

魔法という形にはならずとも、少年の身に余る膨大な魔力が、乱れる感情のおかげでわずかに漏れ出したのだ。

「彼女は、遊んでいる時、楽しそうに言ってた……尊敬できる兄が居るって、剣の腕は達人で、凄く頼りになるお兄ちゃんが居るって……アナタの事でしょう!? そんなアナタが、なんでそんな酷いことしてるのさ!」

怒り、戸惑い、哀しみ、様々な感情が混ぜこぜになったまま、少年は叫ぶ。

彼の体から無意識に放たれた渦巻く魔力が、周囲の遊具を無差別に砕いていくのが見える。

「凛にとって必要な事だからだ」

突然の事態に、青年も困惑していた。

目の前の子供が原因だと、分かっていても信じられない。こんな事が起こせる魔術師など、百年を超えた知識にも居なかったのだから。

「間違ってる! 彼女に必要なのは、以前のアナタだ。頼りになって、一緒に遊んでくれる優しいお兄さんだ」

少年と青年の視線が空中で火花を飛ばす。暫くの間をおいて、青年は口を開いた。

「そうなのか、凛?」

急展開にフリーズ気味になっていた少女へ、問い掛ける。

「わ、私には……」

「凛は、彼と僕のどっちの言う事が正しいと思うんだ?」

重ねての問いかけに、少女は俯き、答えられない。

「じゃあ、こうしましょう……彼女がアナタと戦って勝てば、自由を認めてあげてください」

「ほぉ、面白いな」

俯く少女を助けようと、少年が提案する。その内容を聞いて、青年は笑みを浮かべた。自分の勝ちを確信した笑みだ。

「な、何を言ってるんだ!? 私が駿兄に勝てる訳無いじゃないか!」

逆に少女は、あまりに無茶な事を言った少年に詰め寄る。

彼女にとって、目の前の青年は高すぎる壁だった。自分が彼に勝てる場面など、万に一つも思い浮かばない。

だが詰め寄られた和樹は、全く動じることなく少女の手を取った。

その動きがあまりに自然だったので、少女は抵抗できない。

連日の剣の修行が元で、痛々しさが目立つ少女らしからぬ醜い掌を見られるのは、彼女が最も嫌う事だったのに。

「は、はなせっ!」

払いのけようとした行動は、少年の意外な逞しさに無意味にされた。押しても引いてもビクともせずに、和樹は少女の手を見つめる。

自分とは対照的に、細くしなやかな美しい指を見せ付けられた少女は、羞恥と怒りで顔を赤く染めた。

「何で嫌がるの? この手はとってもキレイだよ……努力したヒトの手だ。キミが凄く努力した事を、この手と、僕は知ってる……勝てるよ、絶対」

少年の言葉は少女に届き、凛は決意を込めて頷いた。

自分が師である駿兄に勝てるとは、今でも思えない。けれど、目の前の少年は、面識の無い自分の為に怒ってくれた。ならば彼の為に全力を出す事は無駄ではないだろう。

幼い少女にしてはストイックに過ぎる考えで、彼女は負ける戦いに身を晒す決意をしたのだ。

「……こんな事になったのは、全部僕の所為だ。だから、力を貸すよ」

少女の悲壮とも言える決意を知ったのだろう。少年は『魔法』を使う。

彼女の勝利と、これからの自由の為。ただそれだけの為に、残り七回しかない自分の魔法を使うと決めたのだ。

世界すら滅ぼす魔力の発動に、周囲に渦巻いていた魔力が何十倍にも大きくなり、形を成していく。

それまでの魔力をスズメの涙とするなら、コレは海を落としたような豪雨。

幼い少年の純粋で幼稚な願いを、力任せに叶えようとする『絶対の力』

常識など知らない。世界の法則なんか関係ない。傲慢な『魔王』の意志が奇跡を起こす。

少年を中心に、祈るように額に持ち上げた少女の両手に、魔法の光が溢れる。

夕焼けが赤く染める公園を、真昼のような白光が照らし出す。

青年と少女は、上げる声すらなく、何が起こるかを見つめるのみ。

「気休めかもしれない。でも、信じて……絶対勝てるって……」

コレが気休めだというなら、世にある魔法は全て迷信に堕ちるだろう。

少女には、少年が何をしたのか分からない。でも、胸にあった不安は今はなく。コレまで無いほどに澄んでいた。

「……相談は終わりかい? ならそろそろ始めよう」

内心の驚愕を押し隠し、青年は声を掛ける。結果が分かっていても、あの魔法を見せられ、不安がジワジワと湧き上がるのを感じていた。

「ああ、駿兄。いざ……勝負っ!」

師と向き合った少女から、常にあった迷いが消えている。元々あった天賦の才を迷いが曇らせ、育てば大鵬ともなろう鳥を、卵のまま押し込めていたのだとすれば、今この時、彼女は雛へとなったのだ。

弟子の変化を一目で理解し、青年は余裕を捨てる。同等の、否、自分より上の相手と戦う気で相対する。

「手加減はしないぞ、凛」

両者の得物は互いに木刀。しかし、帯びた剣気が真剣以上の迫力を見せていた。空いた距離は3メートル、二人の力量ならば無いも同然の距離。睨み、牽制し合う。

少女には初めから、何合も打ち合う気は無い。実力では到底敵わぬ自分に出来るのは、必殺の一刀を振り下ろすのみ。ただその為に力を溜め、機を測っていた。

小柄な体に収まらぬほどの力が、出口を求めて暴れるのを感じる。刀身にまで力が行き渡り、今までどれだけ頑張っても出来なかった術。剣鎧護法が自然に行使できた。

木刀が光り、木目の刀身が虹彩を帯びて輝いている。

「神城家八百年の歴史を、わずか十歳でか、羨ましい才能だな」

「こんな才能など、望んだ訳ではない!」

賛辞を送る青年の木刀にも、同じように護法が宿り、一喝した少女と再び対峙する。

ヒリヒリと空気が焼ける感覚を少年は味わい、滴る汗も気にせず活目する中、

「破ぁっ!」

気合と共に、少女が動いた。

少年の目には、一筋の光りとしか認識できぬ一刀。

師である青年も目を見張る一撃、しかし彼は普通の人間ではなく、人狼の血を持つ者だ。少女の剣を感覚で捉え、反応する。

受け流してから、返しの一刀を見舞うつもりで木刀を振るう直前。人狼の感覚が、剣士としての経験が、生きる者の本能が、全力で警告を上げた。

『死』が、圧倒的な死が迫るのを感じ取っているのだ。

もはや余計な事など何も考えられず、無意識に体を動かす。

振り下ろされる剣先から、必死に身を引き剥がした。寸前まで彼の体が在った場所を、少女の木刀が通り過ぎる。

ヒュィィィィィィィンン

刃が切り裂いたのは、『空』だ。何も無い筈の空間を、木刀は確かに切り裂いた。遮る物が有っても、その全てを断ち斬る天下無双の刃。ヒトの限界を超えた力に、世界の悲鳴が聞こえる。天と地に一筋の斬り後を作り、少女の斬撃は終わった。

「……………………えぇ?」

自分の予想をはるかに超えた結果に、少女は呆然と前を見る。

「いや、コレは参ったなぁ……僕の負けみたいだ」

今までの冷たい雰囲気を一変させ、温かみのある笑顔で青年は言う。

その手には、刀身を断ち切られた木刀があった。斬撃を避けた際、かわし切れなかったのだろう。短刀よりも短くなった木刀をブラブラ揺らしながら、少女に近づく。

「ふぅ、凛も強くなったなぁ……完敗だよ」

「こ、コレは私の力じゃない」

「それでもだ。あの一撃なら僕でも受けれるかどうかは五分だったろう。本当に強くなった……僕は本当に間違っていたんだな、ごめんよ、凛」

「言いたい事を言えなかった私にも責はある。すまない、駿兄」

謝り合う二人は、ようやく元通り、仲の良い兄妹のような関係に戻れたのだろう。

「キミにも悪い事をしてしまった」

「良いんです。彼女と仲直りしてくれれば、それで」

「それにしても、とんでもない魔力だな。さぞかし名の通った名家の出かな?」

「歴史だけは古いって聞いてます。でも僕は落ちこぼれですから」

「「はぁっ!?」」

有り得ない言葉に、少女と青年は同時に叫ぶ。

あまりの勢いに目を白黒させた少年に、二人は次々と問いかける。

「ば、バカな、その魔力で落ちこぼれなら、他の人間は魔術師なんて名乗れないよ?」

「そうだ! 大体私に掛けた魔法は何なんだ? どう使えばあんな事が出来る?」

問い掛けられながらも、少年は嬉しそうに微笑むだけ。

「良かった、本当に仲良くなったんだね……これで明日からも遊べるのかな?」

少年の問いに、明るかった少女の表情が曇る。言い辛そうに口を開く前に、青年が話しかけた。

「すまないが、凛と僕はココには所用で来ただけなんだ。明日には帰らないといけない」

「そうなんですか……」

俯いてしまった少年と少女。元気付けようとした青年より先に、和樹が顔を上げる。

「でも、僕達はもう友達だよね!……なら、今じゃなくても良い、何時か、また逢って遊ぼうよ」

「うん、うん。逢おう……絶対にまた逢おうな……」

少女の目から、耐え切れぬように滴がこぼれた。我慢し続けていた彼女が、想いのままに涙を流す。

赤い夕暮れの射す公園で、少女は泣いた。

見守るのは、兄代わりの青年と、初めての友達となった少年。











あとがき

 お久しぶりです皆さん、(ピーーー)です。

 最近、色々と興味のある作品等の文章化に挑戦中なのですが、一つ問題が(汗

 ソレは、私の文章が全部同じに見える! という事です。

 GS書いても、まぶらほ書いても、ナルト書いても………皆同じに見えるorz

 名作など読んで参考にしたりもするんですが、どーしてもマンネリを脱せません。

 ソレに気づいた所為で、色々書いてても、途中で筆が止まってしまうんです。

 ……愚痴になってしまいましたね、ごめんなさい。

 努力だけはしているので、長い目で見て下さい(土下座

 作品に関して、

 先日、友人にまぶらほのTVと小説を借りました。その際に「コレの小説って書かんのか?」と聞かれたのが運の尽き。

 私が小説書いてる事を知っている数少ない友人ですので、なんとか努力して仕上げてみました。

 設定に関しては、その友人と二人で捏造しまくってます。

 和樹くんはこの後、葵学園に入学する頃には……魔法回数がたったの一回になってます。

 なんとなく想像ついたと思うのですが、「私に着いて来なさい!」なお嬢さんと出会って一回。

 自分ではどうする事も出来ない体質に苦しむ少女に出会って一回。

 小説よりはTVの方が良い目をみたなーという少女の為に一回。

 謎の保険医の謎妹、謎めく女は魅力的?な彼女で一回。

 ご主人様の為なら火の中水の中、ドイツ製の鋼鉄メイドさんに一回。

 まぁ、続きを書いても止まるかも知れませんが(汗

 皆さんにご好評を頂いた『六道家の執事』も、続編に一応着手しております。

 遅筆ゆえに何時お見せできるか分かりませんが、待っていて下さると嬉しいです。







△記事頭
  1.  七大魔王の祝福を受けた和樹ですか・・・・凄いですねぇ・・・
     一回一回に一人の魔王の祝福がかかってて、7回+和樹の一回で8回だったりして・・・・・
     でも・・・・夕菜との結婚の約束が無くなってよかったかも・・・・・まぁ夕菜が記憶を改編してる恐れがあるけど・・・・

     最後に!夕菜・凜で二回、玖里子・舞穂・リーラ・ディステルで四回使用・・・・これで6回・・・・楓さんに一回、千早に一回を追加して魔法を使いきるとか?(−−;;;;;で、本編ではすでに灰を回収して和樹は魔王状態とか・・・・
    D,(2004.11.20 01:05)】
  2. 夕菜がちゃんと約束を覚えていてくれることを願うばかりです。凛はちゃんと覚えていそうですから。
    D,さまも言われてますが、確かに七大魔王+1って思いました。そして、使い切ったあとの復活はぜひお願いしたいです。全て誰かのために使ってるからその人との絆が生まれますし、一度死んで復活にすれば回数制限はずせそうな気がするんですよね。
    九尾(2004.11.20 01:17)】
  3. 純粋に、真っ直ぐに・・和樹君・・優しい子だよ・・。でもぽんぽん魔法使いすぎだよ・・(爆)まぁ仕方無いんでしょうけど。和樹君に救われた皆、和樹君の一生の味方になりそうですね。夕菜は・・ここではキシャーにはならない気がしますが・・どうなりますかね〜。
    文章は、本当に書けない時がありますからね〜・・。あまり無理はせずに、ゆっくりと頑張って下さい。
    柳野雫(2004.11.20 04:48)】
  4. 和樹は優しい子ですね。
    でも、気軽に魔法を使いまくってますね。
    このままなら、和樹は灰になるんでしょうか?
    夕菜はキシャーにならない事を願います。
    凛ちゃんはこの時の事を覚えてるんでしょうね。
    次は玖理子さんですか?
    紫苑(2004.11.20 07:46)】
  5. 久しぶりに見ました・・・こんなに優しい和樹君。
    頑張って下さい。気長に待ってます。
    イジー・ローズ(2004.11.20 11:35)】
  6. この和樹いいな〜。魔力だけの落ちこぼれでも誰よりも優しく、だから少女の願いと世界を天秤にかけ尚且つ少女の願いをとれる「魔王」
    皆さんは気軽に魔法を使いまくってると書いてますが私はこの和樹は確固たる想いと決意の元で魔法を使ってるように思います。
    彼が他の少女達とどのように出会い、そして魔法を使っていくのか楽しみにしています。
    通りすがり(2004.11.20 13:26)】
  7. 感想ありがとうございます。
    D,さん>ご心配の夕菜ですが、この記憶はとても大事なものなので改竄はしないでしょう。まぁ、嫉妬はするでしょうが^^;
    (というか、嫉妬をしない夕菜は偽者?)

    九尾さん>たしかに灰を回収した後は回数なくなるかもですが、同時にコントロールが出来なくなるんですよね(原作は)、この魔力が無制御になると、災害もすっごいことになりそうだw

    柳野雫さん>ポンポン使いますよー、本人は大事に大事に使ってるつもりでも、両親の教育の所為か出し惜しみはしません。文章ではご心配お掛けしました。マイペースに頑張ります^^

    紫苑さん>灰になるか?……ぶっちゃけなります。
    ただ、幽霊になる理由と、復活してからが原作とは違う状況になります。次はうまくいけば玖里子になる予定(予定は未定)w

    イジー・ローズさん>魔力は原作より凄いし、性格も真っ直ぐすぎるけど、原作準拠を狙うつもりですので優しさは失いません。あと、落ちこぼれも同じですw

    通りすがりさん>なんせ魔王ですからね。我侭極まりない!
    和樹くん、自分じゃ気づいてませんがとてつもなく頑固です。
    一度決めたら一直線!その所為で周りの人間が迷惑する事に……

    (ピーーー)(2004.11.21 02:39)】

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