注意事項。
1・キャラが壊れているかもしれません。
2・山もオチも意味もないと思われます。
3・続きはが何時になるか全く分かりません。
4・何処かの誰かに文章が似ていても関係ありません。
5・関係ないったらないんです!
6・それでも、心当たりがある人は、そっと胸の奥にしまって置いてください。
7・二次創作らしく、元ネタに対するある程度の知識がないと、分から無い部分が多いです。事前学習として、ココや他のHPにある、同じネタの名作を読んでおく事をお勧めします。
8・この作品書いてて、本業手付かずですがご容赦ください(分かるヒトだけ分かるネタ)
以上、注意事項でした。
子供が生まれた。
「おぎゃあぁぁ、ほぎゃああぁぁぁ」
現代にあって、子供は通常、病院で産み落とされる。だがソコは病院ではない。それどころか、人里ですらなかった。
何処とも知れぬ山の奥、熟練の登山者すらも尻込みするほどの場所。
そんな深山幽谷に、真っ赤な鳥居と古びた社が存在していた。古びた社の一室には、床や壁、天井にまで、ビッシリとなんらかの記号や数式が書き込まれており、何らかの儀式に使われる祭壇染みた造りだ。
そんな祭壇の中央、赤子を産むという大仕事を終えた母親が、白い肌着を赤く染めながらも満足げに微笑む。
異様な場所にあって、ソレはまさしく聖母の笑み。
その笑み一つで、魔の祭壇が神殿に変わるようだ。
医者の姿はなく、周囲は数人の人影が立つのみ。
彼らは無言で生命の誕生に立ち会っていた。
「おんぎゃああ」
満月の夜。静謐な世界に産声が響く。
命が誕生する瞬間を、この世界は祝福していた。
しかし、ソレを祝福せぬものも、その場には存在した。
「失敗だ。魔力の強さは予定通りだが、回数が少なすぎる……たった八回では世界を滅ぼす事は出来ても、支配する事は出来まい」
冷たい声音で断じたのは、黒衣に身を包んだ男。
少なくとも、産まれたばかりの赤子を愛しげに抱きしめる母親と、その胸に抱かれた赤ん坊に告げる言葉ではない。
「失敗してしまった。何が悪かったのだろう」
つぶやく男は、実験の結果に納得できなかった科学者の様だった。
「どうでもいい、この子は、俺達の子だ!」
父親らしき男が、赤子と母親を抱きしめて、黒衣の男に叫ぶ。
「何を言っている。コレは『失敗作』だ。捨てておけ、次の準備があるのだぞ?」
「次など関係ない! この子が俺達の子供なんだ!」
黒衣の男は、感情の篭らぬ冷たい声で告げる。
赤子の両親は、絶対離さぬと強く子供を抱きしめた。
数秒の沈黙。
視線を外したのは、黒衣の男だった。
「勝手にするがいい。ソレはもう、我等には用の無い存在だ」
男の発言に両親は安堵したが、周囲にいた他の人影が抗議する。
「我々の計画はどうするのだ?」
「計画は継続する。この失敗は予想外だったが、コレを考察すれば計画の見直す点も出てこよう。手直しすれば再度の『儀式』までの時間が縮まるかもしれん」
抗う声にも動じず、ただ事実だけを述べる男。
「バカな! ココまで来るのに五千年掛かったのだぞ!?」
「そうだ。もう待てぬ! いっその事、その赤子を連れて帰れば良いのではないか?」
事実とはいえ、我慢のきかぬ人影は興奮気味に語りかけた。
その発言の何が気に入らなかったのか、黒衣の男は興奮した男達に無造作に手を振る。
ヒュッ バシューーーーーッ
魔法のように、男達の頭が空高く飛び。
置物が無くなった首は、盛大に血を噴出した。
「頭を冷やせ愚か者! 我等が望みを忘れたか!?」
初めて見せた怒りの感情のまま、自分が殺した人影へ罵声を浴びせる。
無駄な行為の筈が、そうはならなかった。
「悪かった。どうも興奮していたらしい」
地面に転がった首が、申し訳なさそうに謝罪したのだ。
頭を失った胴体が頼りない足取りで頭の近くまで歩き、頭を手にとって首の上に乗せる。
数回、調子を確かめるように首を引っ張り、外れないと分かると、一、二度頷いた。
「無理もあるまい。今度こそ成功するものだと確信していたからな」
騒動の輪の外に居た人影の発言に、黒衣は再び思案顔になる。
「不備は無かった。この為だけに、数千年にも渡って『魔』に近づいた人間の交配を、手伝ってきたのだから……」
「人間の選定に問題は無かったのか? 『魔』に近いとは言っても、所詮は人間だ。計画に必要な純度に足りなかったのでわ?」
「その話は579648回目だ。計算も7849635通りを試し、最適な道筋を辿った筈」
人影は、赤子とその両親を無視して、何故失敗だったのかと、検討を続ける。
「……待たせてしまったようで、申し訳ない。少々予定と違っていたので、取り乱してしまった」
長い時間が経過した後、代表として黒衣の男が父親に語りかけた。
「さて、キミ達と交わした契約は『産まれて来た赤子を差し出す事』……交わしたのは随分昔の、キミ達のご先祖相手だったがね……契約は契約だ。しかし、どうやらこちらの手違いで、欲しい赤子ではなかったらしい」
フォローのつもりだろうか、軟らかな表現だったが、先ほどまでの『失敗作』発言を思い出すと、意味がないのに気づかないのだろうか。
「こちらの手違いだ。代わりに魂を寄越せなどと言うつもりも無い」
「成否はともかく、契約は終了した。協力を感謝しよう」
「これよりは我等の事を忘れ、慎ましく人生を過ごされるがよい」
性別も判らぬ人影は、話し手を次々と変えながら、何の感情もなく、事実だけを淡々と告げる。
その言葉を聴き、両親は警戒を緩ませる。契約が無事に終了することが、子供の安全に繋がるとあれば、当然の反応だった。
「あー?……」
両親の腕で泣き止んだ赤子は、周りを囲む人影にも臆す事無く、愛らしい瞳を向けている。
そんな無邪気な瞳に刺激されたのか、人影から一人が進み出た。
仲間の驚きにも構わず、紫の衣を纏った人影は赤子の前で膝を着き、
「我等が王となる筈だった子よ。キミのこれからの運命に、幸あらんことを……」
まるで洗礼のように、人影は赤子を言祝ぐ。
シュウシュウと何かが焼けるような音が上がり、焦げ臭い香りが漂う。
「しまった、言い馴れないことを言った所為だな。舌が火傷してしまった」
苦笑を浮かべながら伸ばした舌には、ハッキリと十字の焼印が押されていた。
「ふん、我等の立場を忘れるからだ」
嘲るような仲間の言葉。ソレに振り返りながら、紫衣の影は口を開く。
「この子の人生は、我等が計画によって狂わされた。その侘び代わりだ」
そうして告げたのが事実だっただけに、他の人影も一斉に押し黙り、視線を赤子へ向ける。
暫しの沈黙を経て、黒衣の影が赤子に話しかけた。
「たしかに、では赤子よ……我が名と共に、加護を授けよう。……我が名は『 』だ」
口火を切った黒衣に続くように、人影たちは名乗りを上げる。
「改めて、我が名は『 』。死した後にも、忘れてくれるなよ」
六つの人影が続き、紫衣の男が最後に名乗りを終えた。
だが不思議な事に、影の言葉を聞く事が出来ても、名前までは赤子を抱く両親には聞き取れない。
名に秘められたあまりに高位な魔力が、任意のモノ以外に存在を隠すべく自然発生しているのだ。
この場で名を聞く栄光を賜ったのは、その意味すら知らぬ赤子のみ。
都合、七つの名前を聞いた赤子は、嬉しそうに自分達親子を囲う人影に微笑む。
「式森が当主よ、よければその赤子の名を聞かせてはくれまいか?」
真意の分からぬ問いかけに、父親は妻と子を抱く腕に更なる力を込めて、答える。
「……和樹。式森和樹と、名付けるつもりだ」
「和樹か、良い名だ」
黒衣の男は満足げに微笑み、仲間へと視線を巡らせた。
「さて、愛しくも煩わしい我等が住処へ戻ろうか」
「うむ。これ以上長居しては、契約者に迷惑がかかろうしな」
頷き合う人影を、満月の光が照らす。
地に伸びる影は、何対もの羽と、頭に角を持つ悪魔の姿。
誰が知ろう?
今宵、地上に七大魔王が揃っていたなどと。
誰がわかろう?
七大魔王、全員の名と加護を与えられた子供の存在を。
美しき満月が、束の間雲に覆われ、再び顔を出した時には、既に人影は消えていた。
残されたのは、一組の家族。
我が子を護れた両親は、その事を喜ぶよりも先に、あまりに数奇な運命を背負ってしまった自分達の息子を、一心に案じていた。
「この子は、和樹はこれからどうなるのかしら?」
「……分からない。ソレを選ぶのは、和樹自身なんだから……」
親の心も知らず、赤子は安らかな眠りにつく。
後に、『出来損ないの魔王』として世界を揺るがす魔法使いは、今は何も知らぬ無力な赤子として、眠りについていた。
僕の両親 式森和樹
僕のお父さんは、世界最高の魔術師です。
でも、僕がお父さんにそう言うと、ちょっと困った顔でこう言います。
「和樹、覚えておけ。俺の魔法回数はたしかに世界でも屈指のモノだ。だがな、魔法の回数なんか問題じゃないんだよ。魔法を使う時を間違わず、後悔の無い使い方が出来るなら、ヒトは誰でも、世界最高の魔術師になれるんだ」
「たった八回しか使えない僕でもなれるの?」
「なれる。オマエなら……俺なんか問題じゃないくらい、真実、絶対の魔法使い……『魔王』にだってなれるかもしれないぞ」
そういってくれるお父さんは、僕にとってやっぱり世界最高の魔術師です。
そして僕のお母さんは、世界最強の魔術師です。
だって、お父さんもお母さんが怒るとすぐ謝っちゃうから。普段は優しいけど、怒るととっても怖いお母さん。
「お母さんはきっと、世界最強の魔術師だね」
こう言うと、お母さんはちょっぴり怖い顔をして、僕に話しかける。
「そうねぇ、私の魔力は他のヒトよりちょっと強いけど……ねぇ、和樹ちゃん。強いってどういうこと? 最強ってどう決めるの?」
「……わかんない……お母さんは知ってるの?」
「私も知らないわ。でもね、思うの……自分の魔法で、大切なヒトを護れるのなら、ヒトは誰でも世界最強の魔術師なんだって」
「僕にも、大切なヒトを護れるかな?」
僕が聞くと、怖い顔を微笑みに変えて、僕を抱きしめてくれた。
「ええ、きっと。きっと和樹ちゃんは、望めば世界だって護れるわ……でも、無理はしないでね。あなたの魔力は強すぎるから、時には護るべきヒトも、自分さえも傷つけてしまうかもしれないわ」
抱いてる腕に力を込めて、お母さんは優しく語りかけた。
魔法回数と魔力。他のヒトより確実に恵まれた力を持っていても、決してソレを誇る事の無いこの両親を、僕は尊敬しています。
そして僕も、二人が産んだ事を誇れる人間になりたいと思います。
コレは、ある少年の小学校卒業文集の一部を抜粋したモノ。
少年は、文章に書いたとおり、両親の教えを護り続けた。
ある時、少年は少女に出会う。
少女は泣いていた。幾度も家を変え、違う土地に行かねばならぬ自分を嘆いていた。
「もう、お引越しはいや。……友達が欲しい」
幼い少年は、少女の涙を見て痛む心のまま、必死に慰める。
「願いを言って、キミの家族の事には何も出来ないけど、キミの望みが僕の魔法で叶えられる物なら、僕は魔法を使いたい」
少女は知らない。
少年がどれだけの決意でそう言ったのか、
人生で八回しか使えないソレを、使うと決意した事の意味を、
何も知らぬまま、少女は言う。
「じゃあ、雪を見せて! 私まだ一度も見た事無いの」
季節は初夏、天気は見事なまでの晴天、こんな最悪の条件で出来る筈が無い。どれだけの大魔術師でも同じ、もしソレが出来るなら……ソレは魔法とは呼ばれない……
神々の御技とされる『奇跡』の域だ。
幼くとも、魔法の回数と魔力がともに最高水準にある少女は、それを知りながら告げた。
普段は優しい少女も、度重なる引越しが心に与えた傷に、暗い感情を刺激されたのだろう。
だが、少年は「出来ない」と言わなかった。
そんな事でいいのか、と逆に嬉しそうに微笑みながら、両手を天に差し伸べる。
幼い体に似合った小さな両腕から、魔力が輝きとなって天へと放たれる。
驚くべきは、その輝き。
通常、魔術が行使される時、術者から放たれる魔力の輝きは、光の粒子として視界に入る。
粒子の粒が大きく、数が多いほど、魔力は大きいと言われていた。
少年の両腕から放たれる魔力は、粒子ではない。光が具現し、柱となって少年と天を繋ぐ。幼い体をまるまる包み込めるだけの太さと、網膜を焼くほどの激しい閃光を伴って。
数秒後、光の柱は少年が両腕を下ろすと同時に消滅した。
「す、すごい…………えっ!? コレが……雪?」
想像とはあまりに違う現実に、驚く事も出来ずにいた少女が、天より降って来た白い結晶を見て、喜びを露にする。
世界の法則すらも捻じ曲げた少年は、喜ぶ少女を見て微笑みを深めた。
「そうだよ。積もると周囲が真っ白になって、もっと綺麗なんだけど……そこまでしちゃうと、虫さんとか花さんが死んじゃうからね……」
これだけの『奇跡』を行って、更に余裕さえ見せて、少年は言う。
分かっているのだろうか?
自分がした魔術によって、日本中にあった魔力の計測装置が全滅した事を、
世界規模で魔術を監視している衛星を、一撃で破壊してしまった事を、
もしコントロールを誤れば、地球にもう一度氷河期を再現してしまっていた事も、
「ありがとう」
「どういたしまして。元気は出た?」
「うん!」
……分かっていないのだろう。
そして、もし少年が全てを知っていたとしても、それでも彼は魔法を使ったに違いない。
少女の為に魔法を使うと決めた瞬間から、彼は躊躇う事を捨てた。
たとえその結果世界が滅んだとしても、少女の顔に笑顔が戻るなら、彼は微笑む。
その笑みは、世界全てとたった一人の願いを天秤にかける『魔王』の笑み。
しかし同時に、その瞳には虫や花々を殺さずに済んだ事の安堵がある。七大悪魔が彼を『失敗』と呼んだのは、或いはその優しさこそが最大の原因だったかもしれない。
「ありがとう、魔法使いさん。お礼に大人になったらお嫁さんになってあげる」
先ほどまで泣いていた事が嘘のように、明るく話す少女。
「お嫁さんか、ソレも嬉しいけど……どうせなら友達になろう。キミと僕は、ココでお別れになるかもしれない、でも、キミが何処に居ても、どれだけの月日が経っても、僕とキミは友達だ。忘れないで、キミは一人じゃない」
少年は少女のコレからを案じていた。だから、揺るがない絆を与えてあげたかった。自分が両親から魔術師としての在り方を教えて貰っていたように、少女がこれから泣く事の無いように。
だから、少年は話しかけながら、手を差し出す。
少女は、その意味を間違いはしなかった。
「うん、何時までもお友達で居てね。そして、大人になったら、絶対また逢おうね」
「うん、約束だよ」
手を握り合い、見果てぬ明日へ約束を交わす二人。
未だ地に降り続ける白い結晶に彩られた、神聖な誓いの儀式。
コレが、式森和樹の最初の魔法である。
家に帰ってから包み隠さず全てを話した和樹を、両親は何も言わずに抱きしめた。
それから暫くして、彼は少女に出会う。
遊び場にしていた公園に、一人立ち尽くす少女は泣いていなかった。
ただ、手に持った木刀を握り締め、睨むようにキツイ視線を公園で遊ぶ子供達に向けている。
傍から見れば、剣道少女が遊び場を見物していただけにしか見えない。
それなのに何故だろう。少年には少女が傷だらけに見えた。
傷だらけなのに、誰にも助けを呼べずに独りで痛みを堪えているように。
「キミは遊ばないの?」
ソレが許せなくて、少年は声を掛けた。
「っ!?……わ、私は良いんだ! これから剣の修行もあるからな」
「ちょっとだけ一緒に遊ばない? きっと楽しいよ」
「だ、だから、私には用事が……ああもう! 少しだけだぞ」
最初、拒絶していた少女は、少年の誘いに悩み……最後には頷いた。
だが、時間の事など二人ともすぐに忘れ、幼い心のままに疲れるまで遊んでしまう。
公園が夕暮れに照らされる中、少女は焦った表情で、
「いけない、早く帰らなければ」
呟き、公園を出ようとした。しかし、公園の出口には何時の間にか、一人の青年が立っている。
「駿兄(しゅんにい)!?」
驚き、顔を青ざめさせた少女にゆっくり近づくと、青年は少女の頬を張り飛ばした。
バチィン!
激しい音と共に吹き飛んだ少女を、和樹は抱き起こす。少年には珍しく、怒りに満ちた瞳で青年を睨みつける。
「何をするんだ!」
「子供か……口を出さないでくれ、コレは僕と凛の問題だ」
和樹の怒声を何事も無かったように流し、青年は少女を見つめた。
「凛、何故修行をサボった?」
「それは僕が誘った所為で……」
「キミには聞いていない。答えろ、凛」
庇おうとする和樹を一顧だにせず、少女を見据える。諦めたように、怯えた声で少女は答えた。
「……ごめんなさい、駿兄……」
「……帰るぞ。今日の分は明日倍の修行で許してやる」
青年は背を向け、ソレに続いて少女も立ち上がり後を追う。
しかし、少女は数歩も進まぬ内に足を止めた。否、引き止められたのだ。原因は、少女の腕を掴む少年の手。
「待ってよ。この子とアナタがどんな関係かは知らないけど、このまま行かせる事は出来ない」
「言った筈だ、キミには関係ないと」
少年の必死さすら茶番と断じる青年。彼はわかっていない。自分が誰に何を言っているのか、理解すらしていないのだろう。
「ふざけるなっ!」
和樹は怒っていた。日頃から穏やかな性格の彼らしくもなく、本気で怒っていたのだ。
彼の怒りに呼応するかのように、木の葉が激しく揺れ動き、周囲の精霊が逃げ惑う。
魔法という形にはならずとも、少年の身に余る膨大な魔力が、乱れる感情のおかげでわずかに漏れ出したのだ。
「彼女は、遊んでいる時、楽しそうに言ってた……尊敬できる兄が居るって、剣の腕は達人で、凄く頼りになるお兄ちゃんが居るって……アナタの事でしょう!? そんなアナタが、なんでそんな酷いことしてるのさ!」
怒り、戸惑い、哀しみ、様々な感情が混ぜこぜになったまま、少年は叫ぶ。
彼の体から無意識に放たれた渦巻く魔力が、周囲の遊具を無差別に砕いていくのが見える。
「凛にとって必要な事だからだ」
突然の事態に、青年も困惑していた。
目の前の子供が原因だと、分かっていても信じられない。こんな事が起こせる魔術師など、百年を超えた知識にも居なかったのだから。
「間違ってる! 彼女に必要なのは、以前のアナタだ。頼りになって、一緒に遊んでくれる優しいお兄さんだ」
少年と青年の視線が空中で火花を飛ばす。暫くの間をおいて、青年は口を開いた。
「そうなのか、凛?」
急展開にフリーズ気味になっていた少女へ、問い掛ける。
「わ、私には……」
「凛は、彼と僕のどっちの言う事が正しいと思うんだ?」
重ねての問いかけに、少女は俯き、答えられない。
「じゃあ、こうしましょう……彼女がアナタと戦って勝てば、自由を認めてあげてください」
「ほぉ、面白いな」
俯く少女を助けようと、少年が提案する。その内容を聞いて、青年は笑みを浮かべた。自分の勝ちを確信した笑みだ。
「な、何を言ってるんだ!? 私が駿兄に勝てる訳無いじゃないか!」
逆に少女は、あまりに無茶な事を言った少年に詰め寄る。
彼女にとって、目の前の青年は高すぎる壁だった。自分が彼に勝てる場面など、万に一つも思い浮かばない。
だが詰め寄られた和樹は、全く動じることなく少女の手を取った。
その動きがあまりに自然だったので、少女は抵抗できない。
連日の剣の修行が元で、痛々しさが目立つ少女らしからぬ醜い掌を見られるのは、彼女が最も嫌う事だったのに。
「は、はなせっ!」
払いのけようとした行動は、少年の意外な逞しさに無意味にされた。押しても引いてもビクともせずに、和樹は少女の手を見つめる。
自分とは対照的に、細くしなやかな美しい指を見せ付けられた少女は、羞恥と怒りで顔を赤く染めた。
「何で嫌がるの? この手はとってもキレイだよ……努力したヒトの手だ。キミが凄く努力した事を、この手と、僕は知ってる……勝てるよ、絶対」
少年の言葉は少女に届き、凛は決意を込めて頷いた。
自分が師である駿兄に勝てるとは、今でも思えない。けれど、目の前の少年は、面識の無い自分の為に怒ってくれた。ならば彼の為に全力を出す事は無駄ではないだろう。
幼い少女にしてはストイックに過ぎる考えで、彼女は負ける戦いに身を晒す決意をしたのだ。
「……こんな事になったのは、全部僕の所為だ。だから、力を貸すよ」
少女の悲壮とも言える決意を知ったのだろう。少年は『魔法』を使う。
彼女の勝利と、これからの自由の為。ただそれだけの為に、残り七回しかない自分の魔法を使うと決めたのだ。
世界すら滅ぼす魔力の発動に、周囲に渦巻いていた魔力が何十倍にも大きくなり、形を成していく。
それまでの魔力をスズメの涙とするなら、コレは海を落としたような豪雨。
幼い少年の純粋で幼稚な願いを、力任せに叶えようとする『絶対の力』
常識など知らない。世界の法則なんか関係ない。傲慢な『魔王』の意志が奇跡を起こす。
少年を中心に、祈るように額に持ち上げた少女の両手に、魔法の光が溢れる。
夕焼けが赤く染める公園を、真昼のような白光が照らし出す。
青年と少女は、上げる声すらなく、何が起こるかを見つめるのみ。
「気休めかもしれない。でも、信じて……絶対勝てるって……」
コレが気休めだというなら、世にある魔法は全て迷信に堕ちるだろう。
少女には、少年が何をしたのか分からない。でも、胸にあった不安は今はなく。コレまで無いほどに澄んでいた。
「……相談は終わりかい? ならそろそろ始めよう」
内心の驚愕を押し隠し、青年は声を掛ける。結果が分かっていても、あの魔法を見せられ、不安がジワジワと湧き上がるのを感じていた。
「ああ、駿兄。いざ……勝負っ!」
師と向き合った少女から、常にあった迷いが消えている。元々あった天賦の才を迷いが曇らせ、育てば大鵬ともなろう鳥を、卵のまま押し込めていたのだとすれば、今この時、彼女は雛へとなったのだ。
弟子の変化を一目で理解し、青年は余裕を捨てる。同等の、否、自分より上の相手と戦う気で相対する。
「手加減はしないぞ、凛」
両者の得物は互いに木刀。しかし、帯びた剣気が真剣以上の迫力を見せていた。空いた距離は3メートル、二人の力量ならば無いも同然の距離。睨み、牽制し合う。
少女には初めから、何合も打ち合う気は無い。実力では到底敵わぬ自分に出来るのは、必殺の一刀を振り下ろすのみ。ただその為に力を溜め、機を測っていた。
小柄な体に収まらぬほどの力が、出口を求めて暴れるのを感じる。刀身にまで力が行き渡り、今までどれだけ頑張っても出来なかった術。剣鎧護法が自然に行使できた。
木刀が光り、木目の刀身が虹彩を帯びて輝いている。
「神城家八百年の歴史を、わずか十歳でか、羨ましい才能だな」
「こんな才能など、望んだ訳ではない!」
賛辞を送る青年の木刀にも、同じように護法が宿り、一喝した少女と再び対峙する。
ヒリヒリと空気が焼ける感覚を少年は味わい、滴る汗も気にせず活目する中、
「破ぁっ!」
気合と共に、少女が動いた。
少年の目には、一筋の光りとしか認識できぬ一刀。
師である青年も目を見張る一撃、しかし彼は普通の人間ではなく、人狼の血を持つ者だ。少女の剣を感覚で捉え、反応する。
受け流してから、返しの一刀を見舞うつもりで木刀を振るう直前。人狼の感覚が、剣士としての経験が、生きる者の本能が、全力で警告を上げた。
『死』が、圧倒的な死が迫るのを感じ取っているのだ。
もはや余計な事など何も考えられず、無意識に体を動かす。
振り下ろされる剣先から、必死に身を引き剥がした。寸前まで彼の体が在った場所を、少女の木刀が通り過ぎる。
ヒュィィィィィィィンン
刃が切り裂いたのは、『空』だ。何も無い筈の空間を、木刀は確かに切り裂いた。遮る物が有っても、その全てを断ち斬る天下無双の刃。ヒトの限界を超えた力に、世界の悲鳴が聞こえる。天と地に一筋の斬り後を作り、少女の斬撃は終わった。
「……………………えぇ?」
自分の予想をはるかに超えた結果に、少女は呆然と前を見る。
「いや、コレは参ったなぁ……僕の負けみたいだ」
今までの冷たい雰囲気を一変させ、温かみのある笑顔で青年は言う。
その手には、刀身を断ち切られた木刀があった。斬撃を避けた際、かわし切れなかったのだろう。短刀よりも短くなった木刀をブラブラ揺らしながら、少女に近づく。
「ふぅ、凛も強くなったなぁ……完敗だよ」
「こ、コレは私の力じゃない」
「それでもだ。あの一撃なら僕でも受けれるかどうかは五分だったろう。本当に強くなった……僕は本当に間違っていたんだな、ごめんよ、凛」
「言いたい事を言えなかった私にも責はある。すまない、駿兄」
謝り合う二人は、ようやく元通り、仲の良い兄妹のような関係に戻れたのだろう。
「キミにも悪い事をしてしまった」
「良いんです。彼女と仲直りしてくれれば、それで」
「それにしても、とんでもない魔力だな。さぞかし名の通った名家の出かな?」
「歴史だけは古いって聞いてます。でも僕は落ちこぼれですから」
「「はぁっ!?」」
有り得ない言葉に、少女と青年は同時に叫ぶ。
あまりの勢いに目を白黒させた少年に、二人は次々と問いかける。
「ば、バカな、その魔力で落ちこぼれなら、他の人間は魔術師なんて名乗れないよ?」
「そうだ! 大体私に掛けた魔法は何なんだ? どう使えばあんな事が出来る?」
問い掛けられながらも、少年は嬉しそうに微笑むだけ。
「良かった、本当に仲良くなったんだね……これで明日からも遊べるのかな?」
少年の問いに、明るかった少女の表情が曇る。言い辛そうに口を開く前に、青年が話しかけた。
「すまないが、凛と僕はココには所用で来ただけなんだ。明日には帰らないといけない」
「そうなんですか……」
俯いてしまった少年と少女。元気付けようとした青年より先に、和樹が顔を上げる。
「でも、僕達はもう友達だよね!……なら、今じゃなくても良い、何時か、また逢って遊ぼうよ」
「うん、うん。逢おう……絶対にまた逢おうな……」
少女の目から、耐え切れぬように滴がこぼれた。我慢し続けていた彼女が、想いのままに涙を流す。
赤い夕暮れの射す公園で、少女は泣いた。
見守るのは、兄代わりの青年と、初めての友達となった少年。
あとがき
お久しぶりです皆さん、(ピーーー)です。
最近、色々と興味のある作品等の文章化に挑戦中なのですが、一つ問題が(汗
ソレは、私の文章が全部同じに見える! という事です。
GS書いても、まぶらほ書いても、ナルト書いても………皆同じに見えるorz
名作など読んで参考にしたりもするんですが、どーしてもマンネリを脱せません。
ソレに気づいた所為で、色々書いてても、途中で筆が止まってしまうんです。
……愚痴になってしまいましたね、ごめんなさい。
努力だけはしているので、長い目で見て下さい(土下座
作品に関して、
先日、友人にまぶらほのTVと小説を借りました。その際に「コレの小説って書かんのか?」と聞かれたのが運の尽き。
私が小説書いてる事を知っている数少ない友人ですので、なんとか努力して仕上げてみました。
設定に関しては、その友人と二人で捏造しまくってます。
和樹くんはこの後、葵学園に入学する頃には……魔法回数がたったの一回になってます。
なんとなく想像ついたと思うのですが、「私に着いて来なさい!」なお嬢さんと出会って一回。
自分ではどうする事も出来ない体質に苦しむ少女に出会って一回。
小説よりはTVの方が良い目をみたなーという少女の為に一回。
謎の保険医の謎妹、謎めく女は魅力的?な彼女で一回。
ご主人様の為なら火の中水の中、ドイツ製の鋼鉄メイドさんに一回。
まぁ、続きを書いても止まるかも知れませんが(汗
皆さんにご好評を頂いた『六道家の執事』も、続編に一応着手しております。
遅筆ゆえに何時お見せできるか分かりませんが、待っていて下さると嬉しいです。