今回は攫われた人形に関する事件だ。



小さな少女が依頼人で、
夜中、不気味な女のようなお化けの声に誘われて、
可愛がっていたモガちゃん人形とやらが、
ふらふらと行ってしまったという。


だが、当然そんな少女に、
依頼料の支払い能力はないのだが、


「引き受けないと、身の破滅と出たわ」


霊感に引っ掛かった令子が占ったところ、
引き受けた方が良い、という結果が出た。



「でも、スゴい霊感ですね」

「褒められても嬉かないわ。一文にもならないのよ」



ぶちぶちと、文句たれながら、
依頼人の少女、アヤちゃんの家にお邪魔し、
部屋を霊視したところ、窓に異界に通じる穴があいていた。

で、まあ、みんなで飛び込んでみたのであるが、



穴の向こうには、





「おや？　忠夫くんではないかい？」


ドクター・サイコもとい小石川冴子がいた。




「な、なんで小石川先輩が・・・」

「ん？　令子か」

忠夫しか目に入ってなかったらしい。



「人形に襲われた少女が怪我をしてな、その治療を引き受けたのだ。
　その後、その少女の部屋で、異界に通じる穴を見つけて、
　原因を除去すべく、来てみたというわけなのだ」

なぜか、忠夫を後ろから抱き寄せながら、説明する冴子。



「同じ様な事件が多発してるってわけ？」

「っていうか、ドクター、はなしなさいよ！」



霊感が騒ぐ令子は険しい顔をしているのに、
その横で忠夫の取り合いをする二人の女性。

「あんたたち・・・」

令子がなにか言おうとしたとき、



　ザワザワザワザワ



モガちゃん人形の群れが現れた。

「ほー、大軍だな」


可愛らしいはずの人形も、これだけいると気持ち悪い。

「魂を取って、人形にしてやるわ。おとなしくなさい」

「断る」

リーダー格っぽい人形の言葉に、にべもない即答。



「くっ、人間なんか滅ぼしてやる。人間で遊んでやるわ！」


　うぞぞぞぞ


何百体という人形軍団が襲いかかってくる。



「ちっ、数が多い」

令子は、神通棍を伸ばすが、


「火産葬送（かぐそうそう）！」

タマモがありったけの火気を扇に込め、
思いっきり振り仰ぐ。

　ゴオォォォォオオ！！

数十体が一気に炎上。



「なるほど。狐火を広域に拡散か。
　炎と風の相乗効果だな」

「さすがタマモ」

一対多数は、事務所メンバーではタマモが一番得意とする。

忠夫は、カードを一枚生成し、
しゅっと、人形たちの頭上に投げる。そしてタイミングよく遠隔発動。

『油』

　ゴッ！！！

降り注ぐ油が、タマモの炎の援護をする。




ちらっと、冴子に目を向けると、
同じく、忠夫にちらりと流し目。

なるほど、と呟いている。能力の概要に、気がついたのだろう。

まあ、今度、教えるって約束してしまったし。


　あの日、あのあと、デパートやらレストランやら、
　さんざタマモ姉に引っ張り回され、奢らされた。
　色気に負けてうなずいてしまったことにお冠だったようだ。
　しかもご丁寧に、朝起きたら隣に寝てたし。



「では、わたしも少し遊ぶかね」

腕を振る。
大量のメスが産みだされ、
刃の奔流となって、人形たちを切り刻む。

接近してくる者は、
指の間にはさんだ、四本のメスで切り裂き、
離れたところにいる者には、メスの雨を降らせる。

足が腕が、顔が飛ぶ。

「ふむ。血は出ないものの、人型のものをこれだけ刻むのは、
　なかなかに、愉快なものがあるね」

踊るようにして戦う。
その姿は華麗だが、
浮かんだ危険な笑みが、ドクター・サイコと呼ばれる由縁だろう。




忠夫も、カードを飛ばして人形たちを斬り、
あるいは傘で、叩き飛ばす。

令子も神通棍で、応戦する。

おキヌちゃんは応援要員だ。




「ひどいことをするのね、令子ちゃん」

だが急に、人形から令子への呼びかけ。

「わたしのことを？」

「あら、忘れたの？　よく一緒に遊んだでしょ？」

「ま、まさか、わたしの・・・モガちゃん人形！」

「そうよ。令子ちゃんの霊力が少しずつしみこんで魂を得たの」

「なくしたんだとばかり・・・」

「仲間もいっぱいできたし、これから人間を滅ぼそうと思ってたの。
　そして、人間で遊ぶのよ、素敵でしょう？」

「じょ、冗談じゃないわ！　そんなことされたら、わたしの立場が・・・」

あ、そういえば、ここにはうちの事務所のメンバー以外の人間が、
いたような気もしないではない・・・。





「なるほど」

背後からの声にビキリと固まる。

「そもそもの原因をつくった奴を突き止めて、
　金を出してもらおうと思っていたのだが・・・お前だったか、令子」

「げ・・・」

「除霊の手間賃と口止め料で五億な」

「ぐはっ」

大ダメージである。
収入なしで、支出だけ。







「やっぱ、アヤちゃんの親から、金取るしかないかしら？」

「きたない」
「あくどい」

タマモと忠夫の突っ込みは無視だ。無視しよう。



「アヤちゃん！？　アヤちゃんを知ってるの！？」

「え？　誰？」

不意にかかった声に、令子が反応する。

「わたしはアヤちゃんに頼まれて人形を取り戻しに来たのよ」




「「・・・・・・」」

「おたくら、思いっきり燃やそうとしてなかったか？」

「「ははは。そういえば、そのために来たんだった」」

よく似た姉弟である。タマモと忠夫。

「「ついノリで」」
「わたしが悪いんじゃないのよ、忘れてたのは作者だわ」
「そうそう。後先考えてない作者だし」

こいつら、そのうちひどい目に遭わせてやる。






「わたしはアヤちゃんの人形よ」

忠夫とタマモに突っ込む冴子、その三人と作者をよそに、
その後、令子はそのアヤちゃんの人形に力を借り、

「塵は塵に！！　灰は灰に！！　人形は人形に戻れ！」

リーダー格の人形から魂を吸引することに成功し、
なんとか、この一件を鎮めたのだ。

アヤちゃんに、モガちゃん人形を返すことも、
無事にできた。
まあ、ちょびっと、焦げてたけど。






「えっと、あの〜、先輩？」

「気持ちの悪い声を出すな」

「自分で一応ケリつけましたし、どうにかなりませんか？
口止め料とか、なんとか・・・」

「ならん」

「五億はないでしょ！？　まけるくらいしてくれても・・・」

「ダメだ」

「そ、そんなこと言わないで」

振りこんどけよと言い残し、さっさと帰ろうとする冴子を、
必死になって引き止め、減額交渉する令子。



「浅ましいわね」
「格好悪い」
「大変そうですね〜」

タマモも忠夫もおキヌにしても、他人事である。
ま、当然といえば、当然。





「ならば、何度か忠夫くんをレンタルしてくれるなら
　半額にしても良いが？」

「貸します貸します。貸しちゃいます」

「よし。交渉成立」





「って、待てコラーー！！　勝手に決めるなー！！」

「所長権限よ」

「却下だぁ！」

異議を申し立てているのは、
本人の忠夫でなく、当然ながらタマモの方だ。






「忠夫くんは、いやかね？
　うちはいろいろ珍しいアイテムや生き物がいるぞ？」

どこで、忠夫の生き物好きを知ったのか。

「え！？　じゃあ、行きます」

　がくり

「忠夫ー！！　あんたも、簡単にＯＫしてるんじゃないわよー！！」

「はっはっは、ではそういうことで」






結局、冴子のひとり勝ち。

どう転んでも、最大の利益を得る。という評価も、
あながち誇張ではなさそうだ。











「ということで、こんにちは。
美人霊能医師・ドクター冴子の一日助手、横島忠夫です」

場所は海。
太陽きらめくリゾート地。
頭には白ウサギ。

「誰と話しているのかね？」

「いえ、べつに。ＧＳキャラとしての、必修スキルです。
でも海で何をするんですか？」

「ん、まあ、夜な夜なホテルにやってくる化け物がいる、
ということらしいんだが、おそらくは半魚人だろうね」

令子の自分勝手と、冴子の契約で、
何度か無料でアシストとして派遣されることになった忠夫。

タマモ姉は、今日は事務所の仮眠室で不貞寝だ。




「まあ、さっさとその原因を見つけて、
　折角リゾート地に来たんだから、ゆっくり遊んでいこうじゃないか」

冴子はどこかうきうきしている。

水着の上に白衣を着て、
例によって煙草をプラプラさせながら、
浜辺を歩いている。




「おや・・・？」

その冴子が、なにやら見つけたようだ。
彼女の眼は、あらゆる霊力の流れを見きる。
なにか、おかしなものでも発見したのか。

つかつかと近づいていく先にいるのは、ひとりの女性。

「あれ？　どっかで見た顔やな・・・」

冴子は白衣のポケットに手をつっこみ、
そしてしゅるしゅると、引っぱり出したのは、土蜘蛛の糸だ。

「そんなもの、持ってきてたんですか？」

「いや、実はこの白衣も一応アイテムのようなものでね。
　わたしの実家にある倉庫の棚と、このポケットが、
　空間を繋げることができて。任意にアイテムを取り出せるのさ」

四次元ポケットみたいなものか？　ちょっと、違うか・・・



冴子は蜘蛛の糸に霊力を込め、
シュッと飛ばす。

前方の女性に絡まり、

「きゃっ」

引っ張り寄せる。



目を白黒させる女性に気軽に声を掛けてみる。

「やあ」

「に、にーはお・・・」

「にーはお？　あー、思い出した！　お前人魚だな！」

当時のことを思い出したのか、目を怒らせる忠夫と、
顔を引きつらせる人魚。
人魚の方は一体、何を思い出したのか。
タマモの雷撃か、
忠夫に釣り上げられたことか、
それともあの、エロ親父か・・・（横島育成計画０３参照）

「おやおや、忠夫くんの知り合いか。
　それならば、やめておこうか」

「やめるって、なにをです」

「いやなに、珍味でもごちそうしようかと思ったのだがね。
　人魚の肉は美味しく、栄養価も高いそうだ。精もつくよ？」

ひっ、と悲鳴を上げる人魚。
みっ、と賛成の声をあげる因幡。



でも、さすがに顔を知っている人魚を食べたくはない。

「遠慮しときます」

・・・・・・引き取ってもらったグレムリン、食べられてねえよなあ・・・？




ほっと、安堵する人魚。
みっと、残念そうな因幡。
不意に、かぷ。
人魚の腕に喰らいつく。

「痛い痛い痛い〜」

「コラ、やめんか因幡」

「ふむ。人魚のお嬢さん。
助けてあげるから、代わりに鱗を数枚いただけないかね」

「差し上げます〜。差し上げますから助けて〜」

鬼や、この人。
なんていう、がめつさ。





「ところで君、夜な夜な岸に上がってくる半魚人に心当たりはないか？」

ぎくり

因幡を引き離してもらい、ようやく人心地ついた途端、
体を強張らせる。
解放されるのは、まだ先っぽい。

このままじゃ、最後にはやっぱり、食べられるかも。



「えっと、わたしを捜しに来てるんだと思うから、
　わたしが帰れば大丈夫と思うの。だから、えっと、帰っていい？」

「ふむ。・・・・・・まあ、いいだろう」

「じゃあ、さよなら」

一目散に海へと逃げ込んでいった。
可哀想に。
もう二度と岸に上がってくることはないかも知れない。

子供たちは、白衣の人間とウサギは、人魚の天敵だと、
教えられるかも。





その後、二人と一匹で一日遊び回り、
なりゆきで、リゾート・ホテルに一泊して翌日帰宅。


タマモにこってり絞られたのは、言うまでもない。





「勝手に大人になっちゃったのね、この裏切り者ー！！」

「なにがなんだか、ようわからんけど、堪忍やー！！」








〔あとがき〕
もう一度、冴子さん登場。

念のために一言。
グレムリン・・・食べてませんよ？
自分のとこで保護している子は食べたりしません。
食用で飼っているならともかく。

冴子は、誰かが大怪我したときや、
また妖怪を拾ったときに、登場すると思います。
そういうときのキャラですから。
ちなみに、戦い方は「ＧｅｔＢａｃｋｅｒｓ」の赤屍蔵人参考。
当然、あそこまで強くないけど。

次回、ドクター・サイコではなく、ドクター・カオス登場！
なんと、彼に意外な宿敵が？
（もしかしたら、今日中に更新するかも）