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「終末の夜(オリジナル)」カント (2004.11.18 12:38)
「だるい・・・」

眠りからの覚醒・・・
起きている時間の中でこれ以上に気怠い時間があるだろうか。
もしあったとしても、俺はまだ過ごしたことはない。

「のど、かわいた」

言葉にしたところでのどの渇きが癒されるわけでもない。
ただ、自然と口が動いていた。

「みず・・・」

そう、とりあえず、水だ。

確か、冷蔵庫にペットボトルがあったはずだ。
むくりと布団から起きあがり、幽鬼のような足取りで冷蔵庫を目指す。
ふらつきながら冷蔵庫の前にたどり着いた。
冷蔵庫の扉を開けると冷たい風が顔に当たる。
その感じに意識がより鮮明になる。
ペットボトルを手にとって俺は固まった。
なるほど、確かにペットボトルはある。

「何も入ってないってか・・・」

自分の言葉の中に多少の落胆を含めつつ、つぶやいた。
残念ながらのどの渇きは簡単に治まってくれそうにない。
冷蔵庫を開けて突っ立っていたためか、目はだいぶ覚めている。
深夜に出歩くのは物騒だが夜の散歩と洒落込むのもいいだろう。
俺は上着を着て、財布の中身を確認した。

「うん、漱石さんが4枚に諭吉さんが1枚あるな・・・。」

それと小銭が少々と。
万年金欠病にかかっている俺にしてはかなりある方だ。
というか大金だ。

「少し幸せを感じている自分がむなしい・・・。」

俺はぼやきながら扉を開けて夜の町に出た。



終末の夜



少し肌寒い晩夏の風がほおに当たる。
道は街灯の光と月明かりで思っていたよりも明るかった。
見慣れた道が、見慣れた町が、いつもとは違う雰囲気を醸し出す。
若干の恐怖を覚えて俺は身震いをした。
人は暗闇に恐怖するというが事実そうなのだろう。
俺は振り払うように首を振って歩き出した。

コンビニで清涼飲料水のペットボトルを2本買い、ついでに煙草も買った。
週刊誌を立ち読みして時間をつぶし、帰ることにした。
その帰り道に公園の脇を通りかかったときだった。
目の端に白い布のようなものが映った。

「なんだ・・・?今の・・・。」

確かに白いものが公園に入っていくのが見えた。

「幽霊だったりしてな。」

いつもなら気のせいで済ますのだが、
今日に限ってやけに気になってしまう。
俺は何かに惹かれるように公園の中に入っていった。



公園は月の光で満ちていた。
星は月の明かりに負け、良くは見えない。
街灯は壊れているのか、点いていなかった。

「おかしいな、やっぱり見間違いだったかな・・・。」

自分の声が夜の暗闇に響く。
ベンチに腰掛け、煙草を取り出し火をつける。
体には毒にしかならない煙を吸い込み、大きく吐きだした。
目の前に紫煙をくゆらす。

「何やってるんだ、俺・・・。」

煙草の火を消しながら、とりとめもなく考える。
ほんと、どうかしている。
今まで深夜に出歩くなんて、なかったのに。

「きっと月のせいだな・・・。」

見上げた空には満月になりかかった月が浮かんでいる。
突然、目の前の空間がギシッと音を立て、紫色に変色した。
同時にひどい圧迫感を感じる。

「な、なんだ?」

ベンチから飛び退いて周りに目を配った。
いままで感じたことのない危機感が体に走る。
自分の心音が気持ち悪いくらい大きく聞こえる。
呼吸をするのもつらい・・・。

「何が起きているんだ・・・?」

とにかくここに居るのはやばいって事だけは分かる。
なのに、体は極度の緊張で全くいうことを聞きやしない。
そのとき、また目の端に白いものが映った。
今度はふらつきながら公園の奥に消えていった。

俺を誘っているのだろうか。
圧迫感は感じるものの、動けないほどではない。

「とりあえずこの場から移動しよう。」

さっきから目の端に映る白いもの――――
この異常な事態はあれが関係あるのだろう。
好奇心も相まってか、自然と足は公園の奥に向かっていた。
そこには、白い服を着た黒髪の女の子が倒れていた。
なるほど、さっきから目の端に映っていた白いものは
この子の服だったらしい。
だがそうすると、この圧迫感や紫色の空間に説明がつかない。
とても目の前で倒れている女の子にはできるとは思えない。

「って違う。」

今はそんな推論をしている場合ではない。
なんで夜中の公園に女の子が一人で居るのかは分からないが、
この状況で倒れているのはやばい。
圧迫感は息苦しいぐらいに膨れあがっている。
女の子に駆け寄って声をかけた。

「おい、だいじょうぶか!?」

起きない、ってか爆睡してらっしゃる。
今度は体を揺すりながら声をかける。

「オーイ、起キロー。」

心なしか声が惚けた。
つーか、このお嬢様、こんなとこで寝るなんてかなりの大物だ。
少し、いたずら心がでてきた。

「襲うぞ、こら。」

「責任取ってくれるならいいですよ・・・?」

――――――――――――――――!?

「起きていたのか・・・?」

内心の動揺を隠しつつ、俺は聞いた。

「いいえ、襲うぞ、しか聞こえてませんよ?」

一番まずいとこじゃないデスカ。

「そうか、まぁ冗談だから気にするな。」

「冗談なんですか?残念・・・・・・。」

「いや、残念って・・・・・・。」

なんだか調子を崩されてばっかりだ。
そうじゃない、こんなことしてる場合じゃない!

「おい、逃げるぞ!」

「逃げる?なんでですか?」

彼女は気づいていないのだろうか、のほほんと微笑んでいる。
それこそ、今の状況が普通だと言わんばかりに横になったままだ。

「いいから!ほら、立って!」

そういって無理矢理彼女を立たせる。
彼女は少し驚いた表情を浮かべたが、おとなしく従った。
俺は無言で彼女の手を引き、公園の外に急いだ。

走る
        走る
                 走る

俺は子供のころの記憶に感謝した。
いつも日が暮れるまでここで遊んでいたので、
この公園は俺の庭みたいなものだ。
ここの繁みをくぐれば公園の外に出られる。
俺は繁みをくぐり抜けた。



そこは、今俺が手を引いている女の子が居た場所だった。
全身が総毛立った。
空には禍々しいまでに紫色の月が浮かんでいる。
圧迫感が空気を重くする。
俺はつらくなって膝をついた。

「なんで・・・ここにでるんだ・・・確かに公園の外に向かっていたのに・・・。」

道を間違えたのか?
・・・いや、それはない。
間違えるはずはない。
ああ、駄目だ。
考えがまとまらない。

「あなたはアレを知らないんですか?」

俺はふらつきながら立ち上がり、振り向いて逆に聞いた。

「?・・・何を言ってるんだ?」

彼女の言っていることが理解できない。

「そうですか、あなたは巻き込まれたみたいですね。」

「・・・どういう意味だ・・・。」

彼女の言いたいことが分からない、いや分かりたくない。

「少し待ってください、今この空間を創った本人さんが出てくると思いますので。」

「だからいったい、どういう意味だ!」

そう、本当は分かっている、俺は非現実的な世界に紛れ込んだのだ。

「あ、来ました。」

その言葉と同時に場が重苦しくなった。
俺の後ろから、なま暖かい空気が流れてくる。
肌にまとわりついてくる嫌な感じ。
振り向いてはいけない、振り向かなくてはいけない。
俺の中で、全く違う答えが同時に出てきた。

「離れていてください。」

彼女はそういうと、俺の後ろにある嫌な気配に近づこうとした。

「馬鹿、やめろって、殺されるぞ!」

「大丈夫です、私、こう見えても強いんですよ?
ただ今回はちょっとまずいかもしれませんね。
かなり力を蓄えているようです。
でも安心してください、
少なくともあなたが逃げる時間ぐらいは稼いで見せます。」

やめろ、と言おうとして俺は振り向いてしまった。
そこには何もないのに、何かが居た。
見ることはできないのに、居ることを認識できる。
矛盾した何かが居た。

それは空気のようでいて、鉄塊のような重さがある、紫色の暗闇だった。

「おい、なんだよ、アレ・・・。」

「さあ?私も良く分かりません。」

「いや、分からな」

いって?と、続けようとした言葉を彼女は遮った。

「分かりませんが、アレは現(うつつ)の世に在ってはいけないもの。」

彼女は歌を歌うように続けた。

「私は、それを元の無に戻すもの。
さあ早く逃げてください、あれは襲う対象を選り好みしませんよ?」

それが開始の合図だった。
紫色の暗闇は彼女を標的としたらしく、
それこそ化け物じみた速さで肉薄する。
圧倒的な力・・・
ただ生物を殺すためだけの力が彼女に向かって襲いかかる。

「甘すぎます、よ!」

彼女はなんと、右手を横に薙ぐだけでその力を跳ね返した。
いや違う、さらに強い力で無理矢理ねじ伏せたといった方が正しいか。
とにかく彼女の放った一撃はそのまま、紫色の暗闇に直撃した。
それと同時に嫌な気配は消え、辺りは普通の夜に戻った。

「あら?思ったより弱かったみたいですね、もう、大丈夫みたいです。」

彼女は警戒を解き、さっきまでの、のほほんとした雰囲気に戻った。
しかし俺は妙な胸騒ぎを覚えた。
確かにあの嫌な気配はなく、紫色の暗闇も霧散した。
だがあの圧迫感は消えちゃいない、むしろ急激に膨れあがっている!!

「――――――――!!」

言葉よりも先に体が動いていた。
俺は彼女を抱えて横に跳んだ。
彼女が今までいた場所が紫色の暗闇に包まれる。
紫色の暗闇が移動した後には、地面に大きな穴が穿たれていた。

「ありがとうございます、助けるつもりが助けられましたね。」

「・・・!・・・・!!」

俺は彼女の言葉には応えられなかった。
足に激痛が走ったからだ。
当たり前だ、女の子とはいえ人一人抱えて3メートルも跳べば、
足がいかれるのは自明の理、
ましてや普段から運動らしい運動をしない俺なら、なおさらだ。
うずくまって歯を食いしばり痛みを我慢する。
参った、これでは逃げられない。
それどころか彼女の足を引っ張ることになる。
だが向こうはそんな事情などお構いなしだ。
さっきと同じか、それ以上の力をぶつけてきた。
彼女もそれを迎え撃つように右手をふるうが、
先程のような威力はなかった。

「まずいですね・・・
このままだと私たち二人ともあれに取り込まれてしまいます。」

彼女は汗をかきながらはき出すように言った。
汗で額に黒髪がへばりついている。
顔には疲労の色が見え始めていた。

「なにか、弱点とか、ないのか・・・!」

足の痛みを我慢して、絞り出すように俺は叫んだ。

「だから、知りません、よ!そんなの、私が知りたい、ぐらいですっ・・・!」

彼女も辛いのだろう、声に余裕が無くなっている。

―――これで、終わりか―――

こころが絶望の色に染まってゆく。
だが本当に終わりなのか?
ここで俺は死ぬというのか?
なにか見落としているものがあるはずだ。
この状況を打破できる何かを・・・・・・!?
そこまで考えて、思い出した。
あの紫色の暗闇は嫌な気配はするが、初めに感じた圧迫感はない。
つまり――――――!!
俺は近くに落ちていた石を拾い、叫んだ。

「俺が今から石を投げるところに、
おもいっきり力をたたきつけるんだ!!」

「なんで、ですか!」

「死にたくなきゃ言うことを聞いてくれ!どちらにしたって、このままじゃジリ貧だ!」

「死んだら、恨みますからねっ・・・!」

「あぁ、大いに恨んでくれ!じゃあ、いくぞ!!」

俺は叫ぶと同時に石を投げた。
石は紫の暗闇からはずれ、まっすぐに木にぶつかる。

「やぁぁぁぁぁ!!」

彼女もありったけの力を出すように叫び、右手をふるう。
彼女の右手より生まれたすさまじい力の奔流は、俺が石をぶつけた木に直撃した。
辺りが閃光によって真昼のように明るくなる。
光がおさまると紫色の暗闇は影も形も無く、
あの力が直撃した木の場所には
半径2メートルほどのクレーターができていた。
そしてクレーターの底には、
ぼろぼろの黒い服を着た男性が立っているのが見えた。

「私の存在に気づくとは・・・少し侮っていましたよ。」

「おまえ、何者だ!」

黒い服の男は俺の言葉を無視して、一方的に告げた。

「還元者の娘よ、今回は身を引こう。
だが次はこうはいかない。良く覚えておくことだ。」

そう言い残すと闇にとけるように消えていった。

「くそっ・・・・・・何だってんだ・・・・・・!」

無視されたのには腹が立つが、聞き逃せないことを奴は言っていた。

「おい、あいつは君のこと知っているみたいだった。
なんで良く分からないなんて嘘を言ったんだ。」
 
「嘘は言ってません。
向こうは私のことを良く知っているみたいでしたが、
私はあの人のことは知りませんし、
自分が『還元者』とか言う人の娘と言うのも知りませんでした。」

「別に君が『還元者』の肉親という意味ではなく、
『還元者』という集団の一人という意味で
娘と呼んだかもしれないだろう?
君は若いし、そういう意味にとれなくもない。」

言っていることは屁理屈だが否定できる要素はない。

「そんな、若くて綺麗だなんて・・・・・・ポッ」

彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめてうつむいた。
なるほど、そうですか。
そう返しますか。

「つまり、答えたくないと。」

俺はジト目で彼女を睨んだ。
ここまで巻き込んどいて、何も説明をしないなんて釈然としない。
そのとき彼女は真顔に戻って、言った。

「すいません、私、本当に知らないんです。
『還元者』なんて初めて聞いたし、
あの男の人も初めて会ったんです。
だから、何も言えないんです、ごめんなさい。」

彼女はそういうとペコリと頭を下げた。
彼女の目を見る限り嘘を言っているようには見えない。
どうやら本当に厄介ごとに巻き込まれたようだ。
大きく息を吐いて空を仰ぎ見る。
月は紫色から元の色に戻り、冷たい光を放っている。
目線を彼女に戻して、聞いた。

「・・・あいつ、また来るって言っていたよな。」

「ええ、言っていましたね。」

「・・・今度は、勝てるのか?」

「分かりません、正直今生きているのが不思議に思えますね。」

「・・・どこか、行く当てはあるのか?」

「ありません、またアレの気配を探して無に返すことを続けるだけです。」

「・・・あいつが、来たらどうするんだ?」

「さぁ?その時にならなくちゃ分かりませんね。」

「えーと、それでだ、その、なんだ、俺で良ければ手伝うぞ、うん、ま、まぁ嫌ならいいけど。」

きっと今の俺の顔はトマトみたいに赤いだろう。
くそ、ホントどうかしてるよ、全く。

「なんで、手伝うんですか?死にそうな目にあったのに??」

「え、えっと、それはだな、俺みたいな一般人が巻き込まれないように、って言うか、うん、そ、そんなところだ。」

「でも〜、あなたも一般人ですよ〜?」

あ、こいつ、顔が笑ってる。
知っててからかってやがる。
くそ、何だって俺はこんな奴のこと・・・。
えーい、男は度胸だ。
俺は覚悟決めて話そうとした。
だがそれよりも早く、彼女が口を開いた。

「そうですねー、あなたには責任を取ってもらいましょうか。」

あいかわらず顔は笑ったまま。
さらにふふふと含み笑いまでしている。

「とりあえず、しばらく泊まるところと、
食事のお世話をしてもらいましょうか。」

彼女は、「うん、それがいい」と勝手に盛り上がっている。
ていうか責任って何だ?

「あー、すまない、責任って何のことだ?」

とたんに彼女はふくれっ面になり、ぼそりとつぶやいた。

「むね、さわりましたよね?」

「…えっ!?」

「むね、さわったじゃないですか!私をかばうときに!!」

「いや、あれは、その・・・。」

それは不可抗力だーー!!

「男が言い訳なんてみっともないですよ?私、そんな人嫌いです。」

つーんと、あさっての方を向く彼女。
駄目だ、俺は彼女にはどうあっても敵わないらしい。

「あー、もう、分かったよ、分かりましたよ!
精一杯お世話させていただきます!」

「分かればいいんですよ、分かれば。」

彼女は偉そうにうん、うんと頷いた。

「そういえば、」

まだ何かあるんですか・・・。

「あなたの名前を聞いていませんでしたね、私の名前は夕です。」

そういえば、そうだった。
とても名前なんか聞いている暇なんか無かったからな。

「どうしたんですか、名前、無いんですか?」

「あるよ、俺の名前は・・・・・・」

俺は夕に名前を教えながら思った。
この週末の夜は生涯最高の日と、最悪の日がいっぺんに来たのだと。


Fin?












はじめまして、カントといいます。
このサイトの空気には合わないかと思いましたが、投稿させて頂きました。
うまくもない文ですが、読んでいただいてありがとうございます。
ぶっちゃけ月姫に感化されすぎているので、パクリだと思ったら遠慮なくおっしゃってください。
二次小説も書いてみたいなと思っているのでよろしくお願いします。


△記事頭
  1. 面白いですし、これからも期待しています。
    内容は月姫と言うより月匣いやさ凍夜、あか、いやさ青い月って紫?
    夜なウィザードが来ますか?
    いやどれも好きですし、この小説も素敵だと思います。
    R1H3(2004.11.18 13:51)】
  2. 面白かったです。巻き込まれたお兄ちゃん。夕ちゃんに惚れましたか?(笑)何だかんだと"男"してて良いですね〜。
    これからの日々は、楽しく大変なものになるんでしょうね。・・夕ちゃんに振り回されるのが一番大変そうですが(爆)
    柳野雫(2004.11.19 05:19)】

▲記事頭


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