横島育成計画・本章０４（ＧＳ）

あれから数日、

ピシッ　ぱかっ

「ぴ？」

ヴィーナス除霊事務所において、
無事、グレムリンの子が生まれた。

「飼っちゃダメなんですか？」

「ぴぃ」

忠夫がグレムリンの子を胸に抱いている。
グレムリンの方も、スリスリと忠夫に懐いている。

が、

「グレムリンは、まだ生態がちゃんとわかってないし、
　良かれと思ったことが、逆にその子のためにならなかったりするかもよ」

「わたしも、やめておく方が良いと思うわ」

令子とタマモに反対されている。

因幡はいつものように忠夫の頭に乗り、
長い耳でつんつんと、忠夫に抱かれている子分をつついている。

今のところ、喰う気はないらしい・・・たぶん。

「食べちゃわないんですか？」

「それだけは絶対ダメ！」

「おキヌちゃん・・・」

「さすがにそれは・・・」

グレムリンはなんだかよくわかっていないようで、
忠夫の腕の中で気持ちよさそうにしている。

「病気とかになっても、わたしたちじゃどうにもならないでしょ」

「うう・・・、じゃあ、どうすればいい？」

はて、そう言われれば、どうすればいいのだろう。
タマモは考える、
さすがに、捨て猫みたいに元の所へ捨ててきなさいとは言えないし。
元の所って宇宙だしね。
でも、わたしが事務所に住んでたときは、
こんなのいなかったし・・・
あの頃あの事務所にいた変なのといえば・・・・・・シロくらいだ。

最も、一番変だったのは、横島だったかも・・・

「心当たりがあるわ」

令子がどこかイヤそうな顔で言う。

「そういうのの専門家を、一応知ってるわ。イヤな女だけど。
そいつに預けたらいいんじゃない？」

「専門家？」
「イヤな女？」

おキヌとタマモが首をかしげる。

「すんごい金持ちでね、広い土地や島も持ってるのよ。国の内外にね。
　妖怪とかの生態にも詳しくて、
　その土地で、保護した奴を育ててたり、放し飼いにしてたりするのよ」

頬杖ついて、眉をひそめ、口をとがらした令子。
本当にその女性が嫌いっぽい。

「何をしてる人？」

「霊能医師よ。霊障による傷や病気の治療の専門家」

令子の説明によると、

小石川冴子（こいしかわさえこ）

霊能外科医　兼　霊薬調合師　兼　ＧＳ
ただし、それはもう法外な報酬を取る。
呪的アイテムや霊能関係の珍品の蒐集を趣味とし、
金のかわりに、そういったものでも仕事を引き受ける場合があるが、
自分が損をすることはまずなし。

ほかにも通常の医師免許や、獣医師免許、薬剤師などの資格も持ち、
科学者でもある多才な女性。

また怪しい実験や解剖、発明、改造、兵器開発も大好きで、
その名前と趣味から、ドクター・サイコと呼ばれている。

「・・・どのへんがイヤな奴なわけ？」

「ケチで金にうるさくて、がめついのよ！！
どんな状況でも、どう転んでも、必ず大きな利益を手にする金の亡者！」

「・・・・・・」
「同族嫌悪？」

「誰がよ！」

自覚がないのか！？

だが、まあ、結局他に打つ手なく、
その女性を呼ぶことになったのだ。

「ひさしぶりだな、令子」

「お久しぶりですわ、小石川先輩」

翌日、やってきたその人は、超然とした雰囲気を纏っていた。

背は高く、スタイルは令子以上。

長い黒髪のクール・ビューティ。
白衣を着流し、ポケットに手を入れ、
くわえた煙草を口の端でぷらぷらさせている。
左の口元に小さなホクロ。

「色っぽい姉ちゃんやな・・・」

「そうかね、少年。ありがとう」

「え、いや・・・」

「ふむ、令子。おまえ、年下好みだったか？」

「ちがっ、ちがうわよっ」

「ふむ」

冴子は悠然と椅子に腰を下ろし、

「狐に霊に、空飛ぶウサギ。変わった事務所だな。まあいい。
で、君はわたしを嫌っていたようだが、今日は何用かね？」

一目でタマモの正体すら見破った女医は、

にやり、と聞いた。

「ぴぃ」

「なるほど。グレムリンね。こいつの保護は難しいな」

話すのもイヤそうな令子にかわり、
タマモと忠夫が、相談する。

ことの次第を説明して、グレムリンの子を見せた。

「なにせ、機械という機械を壊される可能性もあるしな」

ぱたぱたと羽ばたく、グレムリンをなでながら、
難しい顔をする。

「こいつが自由に機械いじっても、大丈夫なエリアを用意するか、
　あるいは、世界中から預け先を見つけるか・・・ふむ。三十億」

「なっ！」
「「ぶふっ」」

ぎゃー、三十億・・・令子さん以上のがめつさ。
びっくりして思いっきり茶を吹いちゃったじゃねえか。

さすが、令子が同族嫌悪するだけはあるわ。
でも、たしかにグレムリンの保護なんて、とんでもなく大変よね。
他に、引き受けられる人もいないことを考えれば、妥当・・・なの？

「三十億・・・ですか？」

おキヌちゃんは、いまいち金額のでかさがわかっていない。

　どん

令子がテーブルの上に、置いたのは、

「願いを三つ叶えてくれる精霊の壺。本物よ」

あの不気味な壺だった。

「ほう・・・本当に本物なんだろうね？」

「わたしのＧＳとしての、プライドにかけて」

「ふむ。確か三百年ほど、行方知れずのアイテムだったな。
　だが、これでは足りんな。十億分、としておこうか」

「なっ、どう考えても二十億はいくでしょ！」

「・・・ならば、開けて確かめさせてもらうぞ？
　満足できる内容だろうな？」

「・・・・・・」

この壺は確かに本物だが、中の精霊はインチキみたいな存在だ。

「・・・そんなところだろうと思った。
　では、これを使用するときの、注意事項を五億で買おう」

「・・・・・・わかったわ」

これで十五億分である。

うわ、この人、令子と対等以上にやり合ってるわ。
とんでもないわね・・・。

「ねえ。令子、先輩って呼んでたけど・・・」

「わたしが小学高学年の時に、すでにＧＳの手ほどきをママから受けててね。
　それに、高校も一緒だったのよ。二年上」

師は戦略のエキスパートであり、
弟子は科学のプロフェッショナルか。

「強いの？」

「強いわ」

あの、美智恵の手ほどきを受けていたのなら、
図太くてもおかしくはないか・・・

「さて、令子。残りの半分は現金か？」

「む・・・」

払いたくない、と顔に書いてある。

「あの・・・」

「忠夫？」
「忠夫くん？」

「なにかね少年？」

「他に、なにか珍しそうなものでも良いんですか？」

「うむ、かまわんが？」

煙草をジュッと灰皿に押し付け、
興味深げな視線を向ける。

「なにかあるのかね？」

忠夫は、頭の上の因幡を膝に下ろし、
口の中に手を突っ込む。

ドラえもんがゴソゴソと、四次元ポケットを探るように、
因幡の口の中を探ったあと、数枚のカードを取り出した。

　ポン

「えっと、このナイフは、ヴァチカンのとある修道女が霊気を込めたもので、
　投げて、対象に刺さると爆発します」

そういって、装飾された高価そうなナイフをテーブルに置く。

「な、ちょっと・・・」

　ポン

「これは、ソロモンの七十二の悪魔の中の一体で、
　オリアスという悪魔の爪です」

角笛みたいな大きさで、鋭く禍々しいものの、
美しく光を弾く爪。

　ポン

「こいつは、土蜘蛛の糸で、
　霊力を込めたら十倍以上に伸びるけど切れにくくて、
　あと霊体とかにも触れられて、しかも粘着性が強いっす。
　でも強力なゴムみたいな性質もあって、
　呪縛ロープみたいにも多分使えます」

白く太い縄のような蜘蛛の糸を束ねてある。

えっと、それからー、とまた因幡の中を探る。
こいつは残しときたいし、
えっと、これはいまいちだし・・・

「あ、そうだ。これ、半魚人・・・じゃなかった、人魚の鱗」

　ポン

と、虹色に輝く小皿くらいの大きさのものを出す。

「それから、シスターにもらった、悪魔を封じられる小瓶を一個」

再び、ポン。

「えっと、これでいくらくらいになります？」

いろいろと机に並べられたものを、
おキヌは興味深そうに眺めているし、
令子も目を丸くして見入っている。
タマモも、知らないものが多くて、驚いている。が、

「ちょ、ちょっと待て、ちょっと待てよ、少年！」

「え？　これじゃ、ダメ？」

小首をかしげる姿は、

「ぐっ」

凶悪なまでに可愛いが、それは一応置いておく。

目を丸くして固まっていたドクター・サイコ。もとい冴子。
なんだか、随分と驚き、焦ったような感じだ。

落ち着いて、息を整える。ちょっと頬が赤い。

「少年。確かにこれらのものは珍しいし、スゴいが・・・」

「お金代わりにはなりません？」

「いや、そうでなくて・・・」

「あれ？　そんな家事しかできないような壺が十億なら、
　こんなんも、けっこう、高いかなと思ったんですけど」

「だから、それ以前にだな・・・」

「あ、心配しなくても、悪魔の爪とかも本物っすよ？　だから・・・」

「話を聞けぇー！！！」

　ぜえ　はあ

「す、すんません」

さすが忠夫。令子よりも格上の相手のペースさえをも崩す。

「確かにだな、かなりの金額にはなるものばかりだが、
　それ以前に、そのカードは何なのだ？」

「へ？」

確かに、アイテム蒐集愛好家なら、興味を持って当然であろう。
有機物だろうが、無機物だろうが、
問題なくカードになっていた。

しかも、それを今度は、現物に戻していたし。
こんなアイテム、聞いたことがない。

「えっと・・・秘密・・・だったんだけど」

「なぜ過去形？」

タマモ姉に、人前で使うなと言われていた能力だ。
共同経営する令子には説明してあるものの、
そのときに、令子にも人に知られない方が無難だと言われた。

が、つい、忘れていた。

あちゃー、とタマモも令子も額を押さえている。

「ふむ、少年。説明したまえ。
代わりといってはなんだが、右腕を治してやろう」

「え？」

「忠夫、あんた右腕どうかしたの？」

「え、いや特に・・・。ただ霊力を出すときにちょっと違和感が・・・」

除霊中の怪我ではなく、
原因は冥子の式神にあったりする。
サンチラと格闘したとき、
巻き付かれたところが、傷んでいるようだ。

「私の眼はね、霊波や霊力の流れを見極めるのだよ。
　体の中の霊脈さえも、例外ではない。
　君の右腕、霊力の流れが乱れているよ」

そういうと、冴子は手のひらからメスを生み出す。
霊力の凝縮による生成。

「えっと、切っちゃうんですか？」

解剖が趣味なのよ・・・
令子の言葉を思い出す。

「わたしのこのメスは、斬るものを意思に応じて選ぶ。すなわち！」

忠夫の右腕を手にとって、
ザクッとさす。
忠夫は思いっきり顔を引きつらせるが、
というか、半ば悲鳴をあげかけるが、

「あれ？　痛くない？」

「当然だな。君の肉体には傷ひとつ、つけていない。無論、霊体も」

肉体にも霊体にも触れず、霊脈だけを選んで触れる。
メスの先で、霊脈をつつき、自分の霊力を注ぎ込みながら、
乱れた霊脈を、矯正していく。

「ということだから、そう殺気立たないでくれたまえ、タマモくん？」

　ぴく

冴子が忠夫の腕を刺した瞬間、
タマモの霊気が一瞬、火気を帯びたのを、きっちり感じ取っていたようだ。

ばれちゃった、という顔をするタマモをおもしろそうに見やり、

「よし、これで問題なし」

忠夫の腕を治したあと、
彼のあごに指をあて、すっと顔を持ち上げる。

そして、自分の顔を近づけ、

ごくり、と唾を呑み込む忠夫に、そっと口を寄せ、ささやく。

「だから、あのカードについて教えてくれたまえ」

「は、はい」

色気の前に陥落した。

再び、うっすら鬼気を伴うタマモ。
抑えようとして、抑えきれないらしい。

が、

「なぜ、君までいらついている、令子？」

「なっ・・・気のせいよ！」

今度はタマモの気が、令子に向けられる。

「（ははは、どうしてくれんのよ）」

陥落しちゃった忠夫は、
つい返事もしちゃったし、腕も治してもらったので、
カードについて説明をする。

対象を霊力で包んで、カード化できること。
物質でも生き物でも、あるいは火や霊波砲といった無形物でもＯＫなこと。
強い相手だと、同意か屈服が必要であること。
カードから、ものに戻せること。
一日何枚でも生成可能であること。

そして、

「ふむ。君でなければ使えん、というのだね？」

「ええ」

文字を込められることは、さすがに伏せておいた。

「なるほどね。まだ、なにか隠している気もしないではないが・・・」

　ぎくり

とした忠夫を、おもしろそうに見やり、

「まあ、次の楽しみに取っておこう」

今度、教えてくれたまえよ、と耳に息を吹きかけながらささやき、
再び、つい、忠夫はうなずいてしまった。

タマモ姉の視線が痛い。

「では、一応このカード、使えなくても良いから、
記念に三枚ほどもらっておこう。
　それから悪魔の爪と、蜘蛛の糸、薬として使えそうな人魚の鱗。
　これらをもらうが、かまわないかね？」

「ええ、いいっすよ。でも、全部じゃなくて良いんですか？」

「ああ、構わんよ。なにしろ・・・」

目を合わせ、

「君と出会えたからね」

艶のある声に、忠夫の体温が上がり、
部屋の室温が下がるという奇妙な現象が起こる。絶対わざとだ。

「何かあったら、相談したまえ。君なら歓迎しよう。
　連絡先はここだ。では、令子。わたしは帰るぞ」

名刺を渡し、グレムリンの子を抱え、
さっと、立ちあがる。

傍若無人な感じはあるが、
周りを従わせるようなカリスマもある。
また、厄介そうな人物に好かれたものだ。

「あの・・・」

おそるおそる、忠夫が声を掛ける。
そして、冴子の、女帝のような雰囲気を粉砕する一言を放つ。

「なんだね、少年？」

「その子、解剖したり、しないっすよね？」

ぴしり

「・・・・・・・・・」

痛い沈黙。
冷たい視線が令子に向かう。

「何を吹き込んだ？」

「べ、別に・・・。えっと、まあ、事実をちょっと・・・」

「事実ぅ？　わたしをなんだと思っているのだ」

ドクター・サイコでしょ。
心中で、毒吐く令子。

「今、ドクター・サイコとか考えたろ？」

　ぎくっ

「あはは・・・そんなこと、あるわけないじゃないですか、はは・・・」

ふん、と鼻を鳴らし、
じっと忠夫の目をのぞき込む。

「別にわたしは妖怪たちを解剖したりしたことはないよ。
　興味があるのはその生態だけだ」

ほっ、と息を吐く忠夫に、にやり。

「それと、解剖対象として興味があるのは・・・」

言い残して、ドクター・サイコは帰っていった。

「人体だ」

忠夫、人外と危険な女性に好かれやすいのか？

受難と女難が続くかも？

〔あとがき〕
今回書いてみて、よくわかりました。
わたしって、原作の話をパロッて書くより、
原作のネタを利用して、流れは自分で創っちゃう方が向いてる気がする。

今回登場したオリキャラは、
忠夫が、保護したり、拾ったりした妖怪の預け先として、
また大怪我したときの専属医としてのキャラです。

あと、もうひとつ、役割があるのですが、それはまたそのうち。
ヒントはすでに転がっています。

小石川冴子設定裏話

名前に関しては、サイコに漢字を当てただけ。
彩子とかでも良かったんですが、もうちょっとクールな名前が良くて、冴子。
姓は江戸時代の小石川診療所から。

書いているうちに、
なぜかSchool Rumbleの絃子さんが浮かんできて、
容姿のイメージは、それをもとにしちゃいました。

とまあ、こんな感じ。

戦い方は二人ほど参考に。
片方は「ナルト」の日向一族。霊脈を見極め、己の霊力を流して破壊。
もうひとりはまだ秘密。
ってか、メスって時点で限られてるとは思いますが。

その他はとくに元ネタなし。ってか、すでにありすぎかな？

次回はモガちゃん人形と、＋α。の予定。
お楽しみに。

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