横島育成計画・本章０２（ＧＳ）

さながら墓石のようにビルが立ち並ぶオフィス街。

そんなオフィス・ビルのひとつに、
強力な悪霊がいた。

社長室を占拠しており、
近づくと、攻撃されるという。

他のＧＳが助手と共に、命を落としているという話だ。

「ギャラは五千万ぽっちか・・・」

「十分な金額だと思いますけど？」

「お金はいくらあっても困らないわよ」

その除霊にやってきたのが、
令子とタマモ、忠夫の三人。
そして、忠夫の頭の上の因幡と、
先日仲間になったおキヌちゃんだ。

三十二階、社長室のある階で、エレベーターから降りる。

「この気配は、株で失敗して全財産を失い、飛び降りて死んだ霊ね」

「要するに、社会の敗者ってことね」

　ガラガラガラ
　ズガガガガッ

「「うわっ」」

いきなり天井が崩れる。

「タマモが余計なこと言うからよ」

「令子が図星をついたせいよ」

「武器も御札もエレベーターの中ですよ」

ゴッと霊気がうずまき、悪霊が姿を現す。

「けけけけけっ」

「人格が崩壊しちゃってるわ」

「ってことは、自我がある奴ほど、危険じゃないんですよね？」

忠夫が聞くと、お決まりのやり取りがなされる。

「いえ、人格が消えたのなら・・・

「霊になって人格が消えた奴は弱いけど、壊れた奴は厄介なの」

「・・・タマモ。だからなんで、セリフを取るのよ」

「令子、最近、忠夫に構い過ぎ」

「あんたこそ、ずっと、構い過ぎよ！」

「わたしは姉だもん」

言い合う二人に、

「けーー！！」

悪霊が突っ込んでくる。

なかなか速い。

霊力を注ぎ込むことで伸ばした神通棍で、
令子が受け止め、
タマモが呼び出した扇で、叩き飛ばす。

「けっこう、強いわね」

「そうね」

「神通棍じゃ決め手にならないわ」

「それよりも速さが厄介よ」

「青龍鞭で捕まえよか？」

「霊糸も多分、切っちゃうわ」

「燃やしちゃっていい？」

タマモが聞く。

「とらえきれる？」

「広域炎上型にすればいいのよ」

扇に火気を籠めてあおげば、灼熱の炎が広域に広がる。

「もう、部屋ぼろぼろだし、被害は考えなくても良いでしょ？」

「崩れない保証できる？」

「・・・それは無理かも」

火が起これば、空気が膨張する。
熱と爆発で上の階が崩れ、その重みで下まで崩れるかも。

「おキヌちゃん、御札取ってこれる？」

「わたしはすり抜けられても御札の隙間があるかなあ？」

「やってみるしかないわね」

「いくらの御札よ」

「八千万」

「・・・・・・。高いわね」

強い霊を封印するには、
弱らせてから封印するか、
よっぽど強い御札を使うしかない。

「霊を引きつけて結界に逃げ込むか・・・」

「その間に、おキヌちゃんを待つ？」

いまいちパッとしない、作戦だ。
それに、御札がやっぱり勿体ない。

「純粋に攻撃力なら、忠夫が一番能力高いわ」

ただし、何発もの攻撃はできない。

実は、悪食が進化するために、
忠夫の中で、霊力喰いながら寝ているので、
スタミナが欠けている。

「結界に引きつけて、中なら喰らわす？」

総合的な能力ではタマモや令子に及ばないが、
純粋な攻撃力、つまり一撃の大きさは忠夫の方が上だ。
御札でなく、忠夫でケリを付けよう。

「まずは結界ね」

令子が床に結界の陣を描こうとするが、

「令子、時間がかかりすぎるわ」

タマモが髪の毛を八本抜く。
それに霊力を込め、八方に投げる。
床に刺さると、八角形の結界ができる。
さらに八本投げ、二重にする。

「これでも、さっき描こうとしてた奴よりは上等よ」

タマモの結界術。
自分の髪や、霊樹の枝、希少鉱石を結界材として、
お手軽に結界を使えるのだ。

令子としては、ちょっとおもしろくない。

「さすが、数千年の知恵ね」

「わたしはそんなに生きてないわよ！」

忠夫とおキヌを結界の中に残し、
令子とタマモが悪霊を、おびきよせる。

「ぐけけけけけけっ」

追ってくる霊が結構速く、
なんとか結界内に逃げ込む二人。

っていうか、気持ち悪くて相手してられるか！

忠夫が精神を集中させる。

刀を持っていないのに、居合いをするように右手を構え、
前腕部に霊力をためる。高圧縮した霊力を、ウォーターカッターのように。

「白虎爪！！」

圧縮された霊力の刃が、悪霊を両断せんと飛ぶ。が、

　スカッ

「あ、避けられた」

「「なんですって」」

「なんちって」

見え見えのモーションから放たれた刃を、
確かに悪霊はよけ、再び向かってきたが、

腕を振りながら放つその刃は、
弧を描いている。さながらブーメランのように。

結果、ヒュルヒュルヒュル、と回転しながら戻ってきて、

後ろから悪霊を両断した。

そして弱ったところを、

　ぱくり

因幡が食べた。

　くちゃくちゃ

しっかり噛めば、これで、蘇ることはない。

「ひっ」

因幡が霊を咀嚼する場面を見て、
隣でおキヌが怯えているが気にしないことにしよう。

「よくやったわ、忠夫」

「確かに、いい攻撃ではあるわね」

モーションが大きいため避けやすいという、
弱点を克服するための返しの太刀。
見事な霊力コントロールだ。もっとも、初太刀に比べ威力は少し落ちるが。
ブーメランのような飛行は、霊力が、
半ば物質化するほど高圧縮されているからこそ、可能なことだ。

「でもね」
「「紛らわしい真似すんじゃないわよ！！」」

「ビビったじゃないのよ！」
「脅かすんじゃないわよ！」

怒られた。

と、まあ、こんな感じに、霊を相手するのが、
仕事のほとんどなのだが、たまに変わった奴もいる。

例えば・・・

今日は、二組に分かれて仕事なのだが、

令子さんとおキヌちゃんは、
幽霊と一緒に銀行強盗するらしい。
こういう変なこともたまにはある。

実は令子の趣味ではないか、と忠夫は疑ったりもしているのだが。
真実は、ハッキングしていたおキヌしか知らぬだろう。

そして、オレはタマモ姉と、女子校での除霊。
相手は、

「ちち、しり、ふとももー！！」

と、女子校生たちを騒がす痴漢幽霊だ。

が、霊を見つける前から、因幡のせいでひどい目にあった。

「きゃー、かわいー」
「それって、ウサギなの、変わったウサギ」
「でも、かわいー」
「なんていう名前？」
「あなたのペットなの、そういえばあなたも可愛い顔してるわね」
「あら、ほんとう」
「男の子なんて、珍しー、ひさしぶりに見たわー」
「あっちで一緒に話ましょー」

とんでもないエネルギーで、女子校生の群れにもみくちゃにされた。
あちこち引っ張られ、くっつかれ、
自分の高校では、全然こんなことないのに、
なぜだろう？

しかし、何より困ったのは、
タマモ姉の怒っているというより、
どこか拗ねたような視線だ。

「（いつもの高校じゃ、みんなの弟みたいな扱いだけど、
　ここでは仕事中で、きりっと締まった顔してたせいね）」

女子校生の玩具になっている忠夫に、
複雑な視線を向けるのだった。
それとともに、

「あのバカウサギ、帰ったら覚えときなさい。
あいつが女子校生の注目を集めたのが悪いんだわ！」

そんなときに、悲鳴が上がった。

「きゃーーーー！！」

「ちかーん！」

「更衣室の方ね、急ぐわよ、忠夫！」

「おう」

本当は廊下を走ってはいけないのだが、
そうも言っていられないだろう。

「ちち、しり、ふとももー！！」

体操服の女子校生を追い回している霊が見える。
向かってくる女子校生の一団。

「助けてー」

忠夫に抱きつくように、
あるいは後ろに隠れるようにする女の子たち。

ひっじょーに、おもしろくない。

　ぷんすか

「そういや、あの校長、なんか隠してるっぽかったわよね」

実はこの霊、
校長が若い頃、もてあました煩悩を鎮めるために、
夜な夜な、井戸に向かって「ちちしりふともも」と叫び続け、
つもりつもった執念が霊的存在にまでなったのだった。

「ふっふっふ、あのイド（潜在意識）の怪物を、
　本人の中に戻した後、まとめてその根性、叩き直してやるわ」

その後、煩悩を戻され、
欲情して自分に飛びついてきた校長を、
ボコスカ、扇でしばきまわるタマモ姉の姿が見られた。

それを見ながら、

シャツが半ば破れ、
ところどころ鬱血の後が見える忠夫は、思う。

女は怖い、と。

〔あとがき〕
ヴィーナス除例事務所の仕事風景をお送りしました。

大きい件なら、みんなで一緒に仕事に行き、
大したことなければ、二組で。

優秀なＧＳが複数いないと、不可能なことですね。

まあ、特に何事もなく、淡々と進みました。

次回は男には容赦ない忠夫と、
逞しく育ちつつあるおキヌ。

そして、忠夫の苦労人生活をお届け予定♪

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