▽レス始▼レス末
「横島育成計画・幕間01〔起〕(GS)」ひかる (2004.11.13 22:10/2004.11.13 22:51)


「あーい、愛のこもったお手製のプリント配るですよー」

しゃべっているのは、教卓の前で、椅子の上に立っている担任だ。

「おしゃべりは止めないですけど、話は聞いてもらわないと困るですー。
 聞いてない子は、居残りで、先生のお手伝いしてもらうですー」

椅子を使わず教卓の前に立つと、見えるのは鼻から上だけ。
普通に大学を出ているはずだが、
身長も他の見た目も、小学生のような先生だ。
おそらく身長百三十センチ。
名は小萌という。

「赤点取ったら、お尻ペンペンですよー」

高校一年の授業である。
が、意外にこの先生の授業では皆成績が良い。
母性本能、父性本能の成せる技かも知れない。

「おーけーですかー?」



東京に越してきて数ヶ月。
いまだ、この先生にはちょっと慣れないかも知れない。

すでに聞く必要のない内容、理解済みなので、
ぼんやり外を見て、時間を潰す。

なかなか優秀なのだろうか?
タマモお姉様はなかなかの教育者のようだ。



東京に来て以来、霊能関係の仕事はしていない。

いままでは、仲介屋と契約して、仕事をもらっていたが、
場所が変われば、当然、その契約は終了だ。

引っ越して、すぐに仕事が見つかるわけでもなく、
また、新たに契約しても、
こっちでは知名度がないだろうから、依頼もすぐには来ないだろう。

実際、タマモに関していえば、こちらでも、
けっこう知名度があったりするのだが、忠夫はそんなこと知らない。



タマモ姉は、仕事を開始するために、
いろいろと情報を集めたり、準備をしたりしている。
今日もそのために、どこかで相談しているはずだ。
こっちに来て、わりとすぐに紹介された、タマモ姉の友人。

令子さんと。


傍若無人な女王様だが、なかなかに優しいところのある女性だった。

二人で事務所をつくって、共同経営するのだとか。

なら、仕事が来るのは、当分先だろう。

別に、好んで危険を望むわけではないけれど、
ちょっと、物足りない。

まあ、修行は毎日欠かさずしているのだが。




新たな住居は、大きなマンションの一戸。

フローリングの広いリビングに、
システムキッチン、
それぞれの寝室があり、
風呂も広い。
なんでも、一部改造しているとか、いないとか。

都会的なセンスの、立派な部屋だ。
そこにタマモ姉と二人暮らし。

親は二人とも仕事で海外に行ってしまった。
もっとも、新たな出会いを求め、逃げたオトンを、
オカンが追っていったという説もある。

我が親ながら、謎だ。



今頃は、因幡はソファで寝こけているだろうし、
狛犬二頭、右京と左門次は、玄関付近で番をしているはずだ。
霊的結界を張り、その守護者として同時に礎として、任じている。

帰ったら、散歩にでも連れて行こうか。
それともタマモ姉が異界化してしまった隣の部屋で、修行でもしようか。




ぼー、っとそんなことを考えていると、
後ろの席の男子生徒の声が聞こえ、現実に帰る。


「横島くんが、外で体育してる女子のブルマに夢中になってま〜す」


へっ、と頬杖をやめて、前を見たら、
小萌先生と目が合った。

なにかにショックを受けたような顔をしている。

クリスマスの夜、ふと目を覚ますと、
枕元にプレゼントを置こうとしている父親と目が合ったような、
そんな顔。

幼気な子供を裏切った気になってくる。

そう思った瞬間、子供の人権を守るべく、
クラス中から責める視線が、ぐさぐさぐさ、突き刺さった。

そんな感じ。

オレ、居残り決定?










タマモが家に向かっていると、
前の方を歩く忠夫を見つけた。

なんかお疲れ気味だ。

何があったか知らないけれど、学校では楽しくやってるようだ。

ふふふ。



さっきはクラス中から責められたりもしていたが、
実際のところ、彼の受けは、悪くない。



かなり良いと言ってもいい。


横島との性格の差違だろうか。






少し横島と、いまの忠夫を比較してみる。



横島は子供っぽいところが多々あったが、
その実、年齢のわりにかなり大人だった。
一人っ子でもあり、
高校生の時分からひとり暮らししていたためだろう。

自立していたのである。
その辺、横島のスゴいところだ。



一方、忠夫には自分がいる。
姉のような存在がいる。
そのせいか、少し横島より幼く、
無意識に甘え上手な感じの性格になっていた。

このあたりが、実はクラスメイトの母性本能を多少くすぐっていたりもする。
担任ほどではないが、
クラスみんなのやんちゃな弟、といった感じだ。





それから、目に見えて横島はスケベだった。

が、忠夫はそれほどでもない。

タマモの反応から、父親みたいな大人にならない方が良い、
そう思ったのかも知れないし、
タマモに嫌われたくない、という意識があったのかも知れない。
女性への接し方なんかも多少教育されている。

なにより、恥ずかしさ、という感情がちゃんと備わっているのだ。

が、それ以上に、横島ほど女性に興味がない。
多分、そばにタマモがいるせいだ。
憧れのような対象がそばにいるのに、軽薄なことはしないだろう。

まあ、道で美人を見かけると、
「お、あの姉ちゃん、きれい」
とか言ったりはするが、少なくとも飛びつきはしない。
ガツガツした感じはなく、どこか純朴さを感じさせる。



これだけなら良いのだが、
タマモの教育のせいか、ちょっと困った部分もあった。

タマモは、服とかアクセサリとか、容姿とか、
ことあるごとに忠夫に褒めさせていた。
女性を褒めるのが礼儀だと教えていた。
忠夫を使った自画自賛でもあり、
忠夫への刷り込みでもあったかも知れない。

おかげで、タマモの小さな変化に良く気づき、
自然と褒め言葉を口にするようになっていた。
率直に、素直に。時にタマモが赤面するくらい。



だが、まあ、なんというか、
ただし対象はタマモに限らなかった。


「きれいやね」
「その服似合ってるやん」
「そういうとこ、かわいいな」

打算なく、下心なく、いやらしさもなく、
真顔で、誰にでも言うようになった。
にっこり微笑むこともある。
無論、彼の素直な感想であり、他意はない。

育成計画の副作用である。

このままじゃ、たらしだわ・・・




ということで、マーキングしておこう。



「たーだお♪」

後ろから、抱きっ!



「うわ!」

「うふふ、気づかなかったな、未熟者め」

「抱きつかんといてってば」


いつの間にやら、背を追い越されている。

まだまだ、伸びるに違いない。



そういえば、こういうところも違うのだろう。

昔の横島は知らないが、
話に聞いただけの大戦前の横島と比べるなら、
今の忠夫の方がきりっとしているというのは、確かじゃなかろうか。

すでに闘いというものを知り、
命の危険も何度もあった。
なにより、
横島は始め、霊力の源が煩悩だったりしたが、
忠夫の霊力は、タマモを守る、という意志により生まれたのだ。

常にそんな雰囲気がにじみ出ている。

もしかしたら、クラスでも、もてるようになっちゃうのだろうか。

そろそろ、姉としてだけでなく、
もっと女として接してみたりしてみようか。



こんな思考を見る限り、
忠夫よりは、タマモの方が下心ありあり?





「令子さんとの話はどうなったんや?」

「ああ。うん、やっぱり一緒にやろうかってことで決まりそう」

わたしが人間でない、というのはどうしても、
気にする者も出てくるだろう。
なにかがあったときの保険としても、誰かとの共同の方が良いのだが、
それ以上に、


「わたしは令子をスゴいと思ってるし、
 令子もわたしを認めてくれてるしね。
 なにかと、二人の方が、都合が良いのよ」

「いつごろ?」

「う〜ん、まだ当分、先よ。
とりあえず、来週、事務所の物件を探しに行くわ」










申請とか許可とかなど、書類もいろいろ揃える必要があるし、
事務所の場所すらまだ未決定なのだ。

だが、それ以外はわりと話は進んでいる。

GS試験で優秀だったわたしたち二人が組んで
仕事を始めるということを、すでにいくつかのルートで宣伝している。

今日はそんな事務的な確認と、
けちな令子との金銭交渉が主だった。



「とりあえず、半分こってことで良いわよね?」

「そうね。あー、でも三分割した方が良いかな?」

「わたしとタマモと、それから?」

「事務所の維持費、備品代、何かあったときのための事務所用の貯金」

「なるほどね。4:4:2くらいかしら?」

だが、意外にも令子は半々で良いと言い出した。
どういう風の吹き回しだろう?

多少、疑ってみたりもしてみたが、



「ひゃんのひゅもりよ?」

「いや、あんた、本物の令子かなっと思って」

ほっぺたを引っ張っていた手を放す。

「失礼ね。あんたの力量なら妥当だと思ったのよ、頭も良いし」

それにしても、ねえ?

「二人なら、ひとりより高い仕事を引き受けられるでしょ?
 それより下のレベルなら、分担して数こなせるし。
 ひとりでやるよりは、確実に安全かつ儲かるわ」

確かに、令子とわたしのレベルでの相乗効果は大きい。

「バラで仕事をしたとき、こなした数が違う場合はどうする?」

「それでも、半々で良いんじゃない?」

二人とも、さぼったり、甘えたりする性格じゃないし。
平等の方が良いだろう。
二人で数を競う必要もないだろうし。




「あっ、でもあんたの場合、扶養家族がいるのね」

「いいわよ別に。それに、わたしは道具の消費って、あんまりないし」

「そっか。忠夫くんも仕事するんでしょ? その場合のお給料は?」

「そうねえ。アシストとして使ったら、拘束時間料と危険手当、出来高。
 それらをアシストとして使った方が払う。
 仕事の最中、忠夫に指南してくれたら、その分、引いても良いわ。
 もし、忠夫中心、あるいは一人で仕事する場合があれば、
 事務所の取り分とアシスト料、仲介料をさっ引いて、残りは忠夫」

「へえ。かなり点数制みたいな感じね」

「この方が、忠夫も働いている、稼いでるっていう実感があるでしょ」

「社会勉強の一環か。いいわよ」

なるほど。
新しい発見かも知れない。
美神は、いや、令子はかなり良い奴だ。

前みたいな保護者被保護者とか、扶養者とか、
そういう関係でなく、
対等な関係になってみると、違った面が見えてくる。

やっぱり、こいつも、
美神とは別の個人。令子なのね。

その後もいろいろと、細かな打ち合わせをした。
それにいろいろと、友人同士の他愛ない話もした。

楽しいかも知れない。








「と、まあこんな感じね」

「ふ〜ん、そっか」

夕飯の買い物をしながら、今日決まったことを知らせてやる。

「オレ、ちゃんと役に立つかな?」

「もちろんよ。まだ令子やわたしよりは下でも、
 GS全体の中で見るなら、かなりのものよ」

「なら良かった」

嬉しそうに微笑む。






沈みゆく夕日を追いかけるように歩く。
家をめざして、明日をめざして。





横島育成計画 
本章、始動まで、あと数ヶ月。








〔あとがき〕
ほんの数話の幕間の、ほんのちょろっとした、プロローグです。

引っ越しして、半年近く経っていると考えてください。

この幕間は、ごくごく、淡々と、
説明要素を多々含んで進みます。
東京ではどんな感じで生活するとか、
どういうふうに仕事を始めるとか、
どんな人間関係を築いているか、とか。

次話は、少しストーリー性があります。
ほんの少し、青年へと成長しつつある忠夫をお楽しみください。
ちょっと格好いいかも、と思って頂ければ、嬉しいです。


△記事頭
  1.  ほほう、やっばり育ちによって人格は変わりますな。当たり前だが。
     でも忠夫はともかく令子のほうは……対等の相手にはビジネス面ではドライなのかな。それともこつちの世界の令子は別の要因で違うのかな……アスタロトとか。いずれにしても新章突入をお待ちしてます。
    HAL(2004.11.13 22:26)】
  2. おおっ!! 幕間!! ありがたや〜〜

    カッコイイのは認めますw
    だけど、シスコン&甘え上手の青年っスよ?
    ちと大変な運命では・・・・・・w?

    あ、でもあのアパートじゃないとすると・・・・・・小鳩さんと出会えないのでは・・・・・・・・・まぁ、横っちなら運命を引っ張り込むか・・・・・・w
    片やマン(2004.11.13 22:26)】
  3. 今回は幕間でしたが[起]の文字を見たところ…続きが楽しみですね
    こっちの忠夫や令子はやはりあちらとは随分と性格が違いますね。ちゃんとその現象にいろいろ推測を混ぜるところがGOODです。
    忠夫が少年から青年へと成長しつつありますね、横島はむっつりスケベだけどムードメーカーだったのに対して忠夫はどこか大人な雰囲気を纏っているけどやんちゃな可愛いやつ、みたいな感じでしょうか
    自分の教育の副産物にちょっと困るタマモ、う〜ん姉の悩みが一つ増えましたね。
    >もっと女として接してみたりしてみようか
    徐々に下心が表に…爆発するのはいつになるのか楽しみだな〜
    煌龍(2004.11.13 22:36)】
  4. >別に、「好んで危険を好む」わけではないけれど
    好むが重なってるので、好んで危険を望むの方が良さそう。
    >高校生の「自分」からひとり暮らししていたためだろう
    時分

    あの先生ってちょっとやりすぎのような気も。
    自宅に異空間つくって修行ですか、タマモは横島の教育には余念がありませんね。
    性格的に、完全にタラシ入っちゃってますね。
    勉強も運動も優秀そうで、GSのバイトで収入も学生の枠超えてますし、ほんとに女性が寄って気まくりそうです。
    タマモもそこらへん大変そうですね。
    そう言えば、霊波刀使えないのなら、シロが横島を師とすることなさそうですね。
    横島の色々と規格外な能力を見た時の令子の反応が楽しみです。
    レイトニングサン(2004.11.13 22:42/2004.11.13 22:43)】
  5. 小萌さんがすげえインパクトっす。姉を守る気持ちで成長しましたけど、そろそろ小さな存在を守る気持ちを出してほしいとこです。今までは横島自身が小さかったから無茶は言わなかったですけどね。
    九尾(2004.11.13 22:50)】
  6. レイトニングサンさん、誤字報告どうもありがとです。
    レス返しは、もちっとあとで。
    ひかる(2004.11.13 22:53)】
  7.  横島が順調にタラシに育ってますねぇ・・・・・・
     これもタマモの教育の成果です!!!!
    D,(2004.11.13 23:00)】
  8. 根っこは同じですが、だいぶ性格が変わってしまいましたね。
    う〜ん、これならモテモテになりそうですな。
    ふと思ったんですが、これがもしシロが逆行して横島を育てたなら武士の様な男になりそうですね。三次創作として『シロ的横島育成計画』書いてみたい様な……。ああ、でも二つの連載が全然、終わっていないしこれはちょっと無理っぽいなあ。
    ろろた(2004.11.13 23:23)】
  9. 小萌は横島の恋人候補になるんですか?
    原作の横島と違いますが無意識で女性を落とす部分は変わってないですね。
    後、遂に横島と美神が出会いますか。
    それにより、美神は横島のことが好きになるのか!?
    紫苑(2004.11.13 23:26)】
  10. こ、小萌先生ってアンタ(汗)電撃の「とある魔術の禁書目録(インデックス)」の炉利先生ですかいッ!!なにげに本書の一シーンをだしていますね。(元ネタ表記加えたほうがいいですよ。)
    さて、前回よりさらにタラシになった忠夫君。次回も楽しみです。
    (眷属の連中もみたいです。)
    法師陰陽師(2004.11.14 00:45)】
  11. 小萌せんせーよりびりびり妹の方が好きです。
    2万人登場させてください。
    みー(2004.11.14 00:59)】
  12. 右京と左ときたから左京かと思ったら左門次ですか不意を疲れました。
    ttt(2004.11.14 01:28)】
  13. 〔レス返し〕
    >HALさんへ
    育ちと環境ですね。
    令子はそれだけタマモを信頼してるのかも。

    >片やマンさんへ
    周りが大変なのか、本人が大変なのか・・・

    >煌龍さんへ
    まあ、わたしなりの忠夫の分析です。
    ライバルの登場というのが一番可能性が高いのかも。

    >レイトニングサンさんへ
    やりすぎくらいじゃないと、オリキャラは記憶に残りにくいので。
    シロに関しては、少し面白い設定を考えてます。

    >九尾さんへ
    精神的成長に関しても、これからうまく書いていきたいものです。

    >D,さんへ
    天然たらし。厄介なキャラです。

    >ろろたさんへ
    シロにうまく、育てるということが出来るかどうかはわかりませんが、
    育てる人によって、大きく変わるのは間違いないでしょう。
    タマモを守る、という意志がありますが、
    シロならば、背中を守るとか共に戦うとか、そういう流れになりそう。

    >紫苑さんへ
    小萌先生は、学校が舞台になったときに、彩りを添えるためのキャラ。
    余り、大きく干渉させるつもりは、今のところなし。

    >法師陰陽師さんへ
    あの場面が、一番どういうキャラなのか把握しやすいと思ったので。

    >みーさんへ
    ミサキちゃんですか? わたしも好きですけどね。
    教師という立場のキャラが、理解者として欲しかったので。

    >tttさんへ
    右京と左門次は、完全になんとなく、で決めました。
    ひかる(2004.11.14 19:41)】

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