横島育成計画１４（ＧＳ）

「あんたの眷属化してるわね」

「へ？」

『眷属』広辞苑より
１　一族、神族、うから、やから
２　従者、家子、腹心のもの
３　仏、菩薩に付き従うもの　薬師如来の十二神将や千手観音の二十八部衆

転じて、ＧＳ用語では、

術者の霊力、魔力を糧とし、主に付き従うもの
ってな感じ？

例えば妖刀である悪食も、
相性がよすぎて、忠夫とあまりに深く結びついたことで、
眷属化しているようなものだ。

だが、タマモが言ったのは悪食のことではない。

「み？」

白ウサギ、因幡だ。

数ヶ月前、白鷺を食った影響か、

あるいはタマモが、
あまりに生意気だからという理由で、
支配下にしてやろうと式神化を試み、失敗したせいか・・・

だんだんと因幡は耳が伸び、さらに翼のようになっていた。

いまや、

「みゅ」

ぱたぱた。・・・空を飛ぶ。

この現象に忠夫は、

「おお、さすがオレのペット」

素直に喜んでいた。もっと驚け。

頭と体が一体化したように、
まんまるで、ほわほわ、もこもこ、ぷよぷよの生き物。

忠夫のカードを毎日のように喰らい、
さらに毎晩、その霊波を間近に浴びながら寝ていたのだ。

忠夫とほぼ同質の霊力。
完全に眷属である。

この事実に関して忠夫は、

「おお、えらいぞ」

「み♪」

ほめていた。

タマモとしては、なんとなく面白くない。
ウサギのくせして、なーんで勝手にわたしの忠夫の眷属なんかになッてんのよ。

でもまあ、なんか役立つかも知れないし、
忠夫の助けにはなるかも知れないから、良しとしよう、

ということで、除霊現場に連れて行った。

怪我したら怪我したで、ざまーみろ、と思うだけだし。

そこは、とある美術館で、
明日から、エジプト展が開かれるというのだが、

夜中、倉庫が騒がしかったりしたので、
開演の前に、掃除（スイープ）してくれ、ということだ。

責任者の説明を聞いて、
夜の博物館に足を踏み入れる。

ガラスケースの中の装飾品の数々。

立てられた棺桶とミイラ。

石版に描かれた絵や、布やパピルスに書かれた資料。

「なんか、夜やと不気味な雰囲気やな～」

確かに、眼の紋様や人物画・人物像が多いので、
ときどき、ギョッとしてしまう。

「なにかいるわ」

「え、どこ？」

霊的な感覚に関しては、
まだまだ、というか全然の忠夫。

かわりに、忠夫の頭にのっている因幡が耳である方向を指す。

「なんだ、なんだお前たちはー！」
「そうだ、そうだ、これは俺たちのもんだー！」
「出てけ、出てけー」

三体の悪霊。
すごくわかりやすい。

「ふう。サポートするから、任せるわ忠夫」

「え？　え？　ちょっと待ってや。
　俺たちのもんやって言うとるし、いきなりやっつけんでも・・・」

確かにそれは正しい。
なにより、何でもかんでも倒そうとするのではない、
そういう忠夫の態度が嬉しい。

でも、

「こいつら、どー見てもエジプト人じゃないし」

「ん？　そーいや、そーやな」

三体のよく似た霊は、日本人のようにも見える。

「これ、お前らのもんなんか？」

「そうだ、ワシらのもんだ。だから出てけ」
「オレらが見つけたんだ、出てけ」
「ボクらが、盗掘したんだ、出てけ！」

「・・・・・・」

「無茶苦茶、盗掘って言うとるやないか」

「盗掘しようとして、罠にでもかかったの？」

「矢が刺さったんだ。いい加減出てかないと、ひどい目に遭うぞ？」
「岩が落ちてきたんだ。さっさと出てかないなら、ひどいことするぞ？」
「穴に落ちちゃったんだ。とっとと出てかなきゃ、ひどいぞ？」

なんとも自分勝手かつ、
ドジで間抜けで生意気な連中だ。

「忠夫、どうするの？」

「殴る」

忠夫もやる気になったらしい。

「おら～」
「くぉら～」
「どりゃ～」

叫びながら飛びかかってくる。
その三兄弟っぽい悪霊。

忠夫の頭の上に居座るもこもこの生き物・因幡が、
おもむろに、
自分の口に手（前足）を入れて、
忠夫の栄光のカード（仮）を一枚取り出す。

悪霊に向け、

「みゅ」

　ぽん♪

一体がカードになる。
カードは忠夫しか使えないと思っていたが、
同質の霊力を持つ因幡も使えるようだ。

目つきの悪い霊の絵が、カードに浮かび、
それを、

　バリバリ

喰った。

「兄ちゃんが喰われたー」
「ウサギに喰われたー」

本当に兄弟だったようだ。

「忠夫、一枚」

それはともかく、今の現象は気になる。
これまで、御札代わりに、文字の籠もったカードを使ってきた。
それで、霊を封印したり、浄化したりできることは知っていたが、
今のカードには文字が浮かんでいなかったはずだ。

しかも、絵が浮かんでいた。
気になる。

ということで、タマモもカードを霊に向けてみる。

　ズザザッ

向けられた二体はびくっと、後ずさるが、
変化なし。

ほっとしたあと、
一転、にやりと笑う。

「バーカ！」
「バーカ、バーカ、ウサギ以下！」

　むか

ふん、わたしは大人よ、気にしないわ。
子供っぽい悪霊相手に、向きになってられないし。
しかし、握られた拳はぷるぷる震えているが？

「忠夫、あんた、これまで、どういう感じで封じてた？」

「んー？」

「カードに吸い込む感じ？」

「対象を包んでから、カードにしてしまう感じかな」

「文字浮かべずに、やってみて」

いまだに、やーい、やーいと囃し立てる霊にカードを向け、

　ぽん♪

カードになる霊。

「兄ちゃーん！　兄ちゃんの仇―！！」

残った一番ちっこいのが向かってくるが、

「忠夫、戻せる？」

「？」

「元の霊をイメージして」

カードを手に念じれば、

　ぽん♪

戻った。

「兄ちゃーん♪　兄ちゃんの恩人！」

間抜けだ。

少し、カードのこの能力というか、使い方がわかってきた。
ふむ、と考え込んでいると、

　ひゅごっ

音がした。
なにかと思えば、
因幡が、大きく息を吸い込んで、
さらに霊を吸い込んで、もしゃもしゃ喰っているところだった。

「・・・・・・」
「・・・因幡・・・」

雑食にもほどがあるわよ。

「ぎゃー！　兄ちゃーん！！」

「忠夫、装飾品もカードにできる？」

マネキンに付けられている、腕輪をさす。
カードを向けて、霊力で包み、

　ぽん♪

「・・・・・・」

物でも、できるらしい。
これはなかなか便利だ。
特に持ち運び。

ほんと、ときどきスゴい奴ね。

「そーいや、因幡。あんた、喰ったカード出してたわよね。
　ものを自由に出したり、入れたりできるの？」

無反応

「できるんか？」

「み」

むか

忠夫の問いには答えるらしい。
そう、喧嘩売ってるのね。
ウサギのくせに、一丁前に。

それともなにか、もしかして嫉妬だったり、
ライバル視されていたりするのだろうか、この白ウサギに。

「気に食わないけど、そのウサギもいろいろ役立つのは確かね。
　悪食も、人目につかず持ち運べるかも知れないし、
　カードにした物を、同じように運べるなら、例えば乗り物だって・・・」

そう、車をカード化して、因幡の中に置いておけるのだ。
これは使える。

カードと因幡の新しい能力に驚き、
考え込んでいて、すっかり忘れていたが、
というか無視していたが、

「兄ちゃんたちの仇ぃー！」

まだ、一匹残っていた。

ミイラに乗り移った末弟が襲ってくる。

「くっ、やばいわね。展示品だと燃やせないわ。
　忠夫、カードで吸い出せる？」

「はぁっ！」

タマモが言えば、すぐに反応する。
良いコンビネーションになってきた。
阿吽の呼吸だ。

ミイラのパンチを、左手で捌き、
右手でカードを創る。

『吸』

吸い出し、吸引したそれを、
すかさず、因幡が、喰う。

ばりばり

多分、噛み砕いた物は、出せないだろう。
なかなか、憎めないやつではあったが、現実はシビアだ。

「ミイラ、所々、壊れちゃってるわね」

「カードなら、あと一枚なら使えるで？」

「そうね、やっちゃって」

「『蘇』？」

「いや、それはやばいんじゃない？」

霊魂はもうないから、できないとは思うけど。
まあ、成功すれば、
ただのミイラより、よっぽど話題の見世物になるだろうが。

「『復』元する？」

「『復』活しちゃいそうね、イメージが失敗すれば」

元が人の死体とはいえ、すでに物体のようなものだから、

「『修』理、『修』復で良いんじゃない？」

アフター・サービスもこれで良いだろう。
これくらいの除霊なら、問題なくこなせるようになってきたわね。

「あら？　左手、少し怪我してるんじゃない？」

「あ、ほんとや」

ミイラの攻撃を受けたときだろう。
ヒーリングしてやろうと手を伸ばしたとき、

　パクッ

「因幡？」

生意気な白ウサギがくわえ、そして・・・・・・

治癒した。

口から出せば、怪我が消えている。

「あんた、ウサギのくせに多才ね。
『妖怪喰っちゃ寝』のくせして、ヒーリングまで。
わたしの傷も、ついでに治してよ」

と、腕を差し出せば、

　ガブ

「痛たーい！！」

「み」

「このくそウサギー！！」

その後、館内が荒れ、
悪霊に罪を押し付けちゃったのは秘密だ。

後日、大阪のあちこちで、
乗り物が忽然と消えるという事件が、何件か相次いだ。

バイク、ヘリ、小型船舶、水上艇・・・など

相互の関連性は判明せず、謎のまま迷宮入りしそうである。

まあ、もっとも、彼らとは何ら関係のない話である・・・はず・・・・・・多分・・・

〔あとがき〕
因幡とカードについてでした。

飛ぶ、喰う、癒す、
そして、四次元ポケット化。
立派な謎キャラへと成長しています。

忠夫が成長すると、因幡も成長するんですね、あら不思議。

カードに関しては、
まあドラゴンボールの、カプセル・コーポレーションの発明品を思い浮かべてください。
ブルマがバイクとかを収納していたあのカプセル。あんな感じ。
なんでもカード化できるわけでなく、
忠夫の霊力で、包めるサイズのもの、包めるレベルの者、です。

次回は悪食とドタバタやってもらいます。
お楽しみに♪

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