ここに、一つの男の戦いがあった。

　一方は、愛すべきものを救う為。

　もう一方は、自分の存在を変える為。

　強い意志と強い意志の葛藤。

　その末に勝ちとったものは……






「アシュタローーース！　貴様の野望も……これで終わりだっ！！」

　バンダナの男が叫ぶ。

　今までの激戦の名残とも言えるそのボロボロになった体だが、それには力が漲っていることが見ただけでわかる。

　左手には、まるでアンモニアの分子の構造をデフォルメにしたようなものを掌に収まる大きさに拡大した形状の白い塊。

　右手には、指の先にビー玉くらいの大きさの球体――中に砕と入っている――がつままれていた。

　そして、その二つが触れ合った瞬間。

　両方が弾けた。


「止めろーーーーーーーーッ！！！！」

　もう一方の男の絶叫。

　奇妙な服をまとい、角の生えた頭があり、人間離れした力を持った男。

　彼は、今は憎まれし魔に身を落とし、その辛さに耐えきれず天に謀判を行ったもの。

　そして、その謀判の要とも言えるものが破壊された。

　神・魔・人界を巻き込んだアシュタロスの反逆事件。

　それは、人間『横島忠夫』の手によって阻止されるはずだった。



　だが、そこにイレギュラーが潜んでいた。



「来いーーーッ！！！　お前は私の力の源だ！　誰よりも何よりもこの悲願を成し遂げたいハズだ！！　だったら私の元へ来い！　今こそ究極の魔体に！　華麗なる蝶々に生まれ変わるんだ！！」

　エネルギー結晶を砕かれて尚、魔神はしぶとかった。

　その絶叫と共に、砕かれたはずのアシュタロスのエネルギーの結晶の破片が……大部分を失ってだが彼の元へと集まってきた。


　その執念は、世界を殺す。




　魔神が身に纏っていた服は一瞬で裂け、残ったのはモッコリ黒パンツ（ブリーフ形）。

　中央上部には白い蝶々のマークが描かれていて愛くるしい。


　フフと微笑む魔神。

　ゆっくりとそのパンツの中に手を伸ばし、普通に考えればその中に絶対に入っていないだろう色取り取りの蝶々仮面を取り出し、それをかける。

「これで完成、アシュ！　タロス！！」

　デュワッ。

　凶悪な変態、ここに爆誕。

　やたら無駄な筋肉はテカテカと光り、尚且つ蝶々の仮面をつけ、壮健な体を惜しげも無く見せつけるようにポージング。

　しかも着ているのは、黒パンツ。

「クックック、エレガントなスーツが必要だな。　……だが残念な事にコスモプロセッサーが壊れてしまった、羽根だけで我慢するしかないか。　ニアデスハピネーーース！！」

　ニョビッと生える黒い蝶の羽根。

　よくよく見ると黒い粉のようなもので出来ている。

「更にオマケだ、サテライト・サーティ！！」

　ビョビョビッっと増える変態。

　モッコリ男が三十体。


　驚愕に開いた口がふさがらない横島。

　勿論、取り巻きの人も喉があけっぴろげだ。

「大・満・足！！　では、さらばだメフィスト達、はっはっはっはーーーー」

　その黒い羽根で空高く飛翔する変態マッスルズ。

　その姿はＵＦＯを見るよりも強烈で、凶悪。

　あっけにとられる横島と美神。

「サラバダー」

　空の彼方に消える世界の脅威。









　……こうして、世界は守られた。
















　　　　　　　　　終わり












　　　　　後書き

　テヘッ、ちょっと弾けちゃいました。

　これに副題をつけるならば『アシュ様、空を飛ぶの巻き』とかそんなんかと。

　本当はもうちょっと武装錬金ネタと絡ませるつもりだったんですが、そうすると終われないという欠点があったので没になってしまいました。

　きりがいい所できったら、今度はアシュ様何がしたいんだ、というテーマが残りました。

　似たような例といえば、熊太陽みたいなものです。

　……空が飛びたかったんじゃないですかね。

　ひょっとしたら、エネルギー結晶体を吸収した時にハジけちゃったのかもしれません。

　どっちにしろ、絶対にベスパもルシオラも救われねぇ、ですな。







　と、いうわけで、ここでひとつニアデスハッピーエンドのオマケでも。








　ヒャクメの能力を使い、空に消えたアシュタロスの行方を探すも、結局は見つからなかった。

　神魔も、事実上捜索は不可能であると、そのままこの事件は処理されることになった。

　……勿論、俺も文珠の力を頼りにがむしゃらに探した。

　ヤツはどうやら霊波のチャフか何かを空気中にばら撒き痕跡を完全に消してしまったようだったのだ。

　俺の血の滲みそうな努力も空しく、アシュタロスの影すら踏めなかった。



　だが、まるっきし収穫がないわけではなかった。


「……ついに復活するのね、ルシオラが」

　カオスの研究施設。

　様々なオカルトと科学テクノロジーの最先端を進む世界最高の場所。

　そこに俺達はいた。

「ええ、長かったですよ。　霊波片同士の癒着だけで、およそ２年でしたから」

　暗い部屋に、一つの大きなフラスコが置かれている。

　中に居るのは、女性の形をしたもの。

　ルシオラだった。

「体に入れて、それに馴染ませることやそもそもの魂の形成でもう４年も使いましたから。　もう待つことに関してはスペシャリストですよ、俺は」

　恋しいルシオラ、愛すべきルシオラ。

　ルシオラが死んだ。

　だが、再生に足る霊波片を集めることが出来たのだ。

「あと１時間で彼女は復活します」

　もう既に美神さんは部屋から出ていってしまっていた。

　ただ、この瞬間を現実であると認識する為に呟く。

「あと１時間でルシオラは復活します」

　真っ暗な部屋で不気味に反響する。



　コツリコツリと床を鳴らし、ひとまず部屋から出ていくことにする。

　神や魔から学んだオカルト技術はおおいに役に立った。

　魂再生プログラムを組んだのは俺、それを使うのも俺。

　今一度、彼女の前から姿を消し、別の部屋で装置をセットするのだ。

　自動ドアが開き、再び愛しい人の顔を見るためにふりかえる。



　ピシッ



　イヤないやないやーな音。

　フラスコについたイヤないやないやーな傷。


　パリンっ


　いともたやすく割れたフラスコ。

　息つくまもなく溢れ出る中身。


「あああああーーーーーー！！！！」

　肺の中の空気が全て排出され、声に変換される。

　勿論、その間にも崩壊の進行は止まらない。


　バンッ


　割れるというよりか、破裂すると言ったほうがしっくりくる音だ。

　どちらにしろ、代わりはないが。


「ふっかーーーーーつ♪」

　懐かしき声とともに、フラスコから飛び出る愛しき人。

「あらあらあら、ずいぶん逞しくなっちゃったのね、横島。　今は２５くらい？」

　何も考えず、まず抱いていた。

「……おかえり」

　返す言葉は、前々から考えていたこの言葉。

「い、いやーね。　死別してたわけじゃーないんだし……って、私死んでたんだっけ」

「……おかえり」

「……ただいま」


　胸を濡らす液体は、頬をつたる液体のように暖かかった。












　幸せな、幸せな……未来。





























「その服は止めろッ！　せめてドレスかなんかにしろよっ！！」

「はぁ！？　これのどこがおかしいのよ！！　今すぐにでもダンスパーティにかけつけられる素敵でエレガントなスーツじゃないのっ！！」


　ただ、ちょっと趣味が変わっちゃったのが不幸せ。










　　　更に後書き


　というわけで、るっしー、ふっかーつ♪　でした。

　まぁ、それはおいといて、武装錬金、面白いですよね。

　存続が危ういのでハラハラドキドキですが、今ジャンプで唯一ボクが読んでる漫画ですよ。

　カズキの熱血やら、とっきゅんのブチマケロマンチストやら、ブラボーのファッションセンスやら、蝶々仮面の憎いヤツやら、ヨン様やら、蝶サイコーな御人やら、パピヨンやら。

　打ち切りとかにはなってほしくないなー、って思ってます。

　というわけで、レッツ　リーディング　ブソウレンキン！　で、さようなら。