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!警告!ダーク有り
「ルナティック ウルフティック 八房編(GS)」zokuto (2004.11.09 00:58)



 狼。

 月に縛られし者。

 月に加護されし者。


 人狼。

 平和を好む種族。

 月の狂気を潜める種族。


 潜在的な力と負の感情を持った彼らにあるのは。

 破滅か、生存か。

 希望か、絶望か。








 ここに、一本の刀がある。

 名は八房。

 とある人狼族が誇る、無敵の刀である。

 その芸術的な切れ味もあるが、一振りすればたちまち八つの斬撃が繰り出される特殊な術が掛かっていることが、それを無敵たらしめる所以なのである。

 栄光に包まれ、長い間重要な刀として保管されてきたこの刀。





 実は、血塗られし過去を持っていたのだった。



















         ルナティック ウルフティック

                     八房編
















 昔、その村には一人の天才刀鍛治士がいた。

 良い鉄も、良い鍛冶場も無いというのに人間が作る一流の刀剣に退けを取らぬ逸物を次々に作りだし、他の人狼からは尊敬の眼差しで見られていた。

 日々平穏に暮して、村の中でも鍛冶の腕によって得たそれなりの地位に居た彼だが、やはり上に居るものは更に上を目指す性なのか、この世で最強の刀を作ってみようということを考えはじめたのだ。

 悩みに悩み、打ちに打ち、数々の刀を作りだすもその途方もない計画は一歩も進まぬまま。

 とある時、彼の最大の親友であるモノに相談をしてみた。

 親友は、当時の人狼族の中でも屈指の腕を持った侍で、剣術はおろか人格としてもその村で最も優れた人狼であった。


 彼ならば、鬼神のような強さを誇る彼ならば、最強の刀を作り出す方法を知っていると考え、思いきってそのことを聞いてみた。


「最強の刀とはどんなものなのだろうか?」

 その友人を夕飯に招き、彼の持つ杓に酒を注ぎながら鍛治士は言った。

「……ふむ、これはむずかしいことを尋ねることかな。 その答えは拙者よりお主の方が良く知っているだろうに」

 少し困ったような顔をし、そう答える侍。

 けれど、二度、三度、頷いた後、こう付け加えた。

「少し意味が違うかも知れぬが、当たり前のように一対一であろうと一対多数であろうと、多く斬撃を繰り出せるものが拙者の所望するものであろうか。 無論、切れ味は言うまでも無いがな」

 そしてチビチビと注がれた酒を飲む。

 機嫌良さそうな侍を尻目に、その言葉を聞き、じっと考え込む鍛冶士。

 誰が聞こうと少ない助言であったが、鍛治士のその天才的なセンスと卓越した数の経験から瞬時に方針を打ち出していた。

「ふむ、では作ってみようか。 これも一興かな」

 言葉では軽かったが、本当の重みは……果てしなかった。



 次の日から始まった鍛治士の血の吐くような日々。

 実際に血を吐き、一日中仕事場に篭り、二日に一回ほどしか食事をとらぬほど熱心に鉄を打った。

 寝ても覚めても刀のことを考え、理想の形を思い浮かべながらその思いを打ちつける。

 完成して、その欠点を見つけた瞬間、それを真っ二つに叩き割り、次の刀の作成を始める。

 そんな毎日が始まったのだった。


 人狼の村では、この鍛冶士が刀を作るため仕事場に篭るのは新しい形態の素晴らしい刀の誕生を意味しており、周りのものはみな胸躍らせて鍛治士が仕事場から出てくるかを待って居たのだ。

 だが、もう既に村のもので差し入れとして握り飯をもらったことのないものが一人も居なくなっても、刀は完成しなかった。

 月の満ち欠けも数十回を越えているが、まだまだ成功の兆しは見えない。

 次第に焦り出す鍛冶士。

 一日に鍛冶場から鳴る鉄を打つ音も次第に増え、それと同時に刀を叩き割られる音もそれに比例して多くなっていった。

 段々と人々からも忘れ去られ、今や差し入れをしてくれるものはほとんどごく一部。

 蓄えも減り、材料も次第に悪いものになっていくという悪循環。

 やがては、彼の支援者はたった一人になってしまった。

 親友である侍のみ。


「お前はなんで、俺のことを見捨てずに毎日毎日握り飯を持ってくるのだ?」

 とある日、ついに鍛冶士が聞いてみた。

 もうすでに人が自分から離れていくことに慣れきっていたのだ。

 とは言っても、天才肌の彼にはそれがごく普通のものではあったのだが。

 たった一人、成功する見込みのないものを待ちつづける。

 その行為が奇妙に見えたのだ。

 そこまで考えるほど、時は人格を削り取っていたのだった。

「理由が欲しいのか? その必要はあるまい、拙者がただそうしたいだけのこと」

 口少なげに言ったその言葉。

 元々寡黙な彼がここまで何かを言うことはあまりなく――数年前を別として――鍛冶士は非常に驚かされた。

 瞳の奥に宿る優しげで、しっかり燃える炎を彼は見た。

「ふぅむ。 理由は不用、今しがた何故だか解ったのでな。 済まぬが、握り飯は来月でもう必要なくなるでな、もう良い」

 数年ぶりに頬を必要以上に動かし、微笑みを称える鍛治士。

「待っていろ。 来月までには最強の刀をお前の手にゆだねよう。 私の命に賭けて」








 この誓いが、後々、彼を破滅を導いたのだった。



















 数週間後、六人の人狼が次々と惨殺される事件が起こった。

 その事件直後、最強の刀と賞された一振りで六つの斬撃を繰り出す『六つ牙』なる刀が誕生した。

 人狼の魂を吸い、その斬撃の数を増す『六つ牙』

 その数日後、刀鍛冶と侍の死体が発見され、そこにあったはずの『六つ牙』が消え、代わりに『八房』なる八つの斬撃を繰り出す刀が誕生した。





 八房は、六つ牙の準完全なる形。

 ただ、あと一つ人狼をきれば、それは『九つ尾』と呼ばれる天下無双の刀へと変貌する。










 余談ではあるが、この六つ牙にして八房、そして九つ尾は一度その身を折られるまで、実に四人の手に渡りその脅威を知らしめた。

 一人は製作者、もう一人は製作者の友、更に一人は人狼の栄光を取り戻そうとした愚かなアナクロニズム。


 そして、残る一人は……。














      終わり








    後書き

 どうも、音沙汰なかったzokutoです。

 無論、ちゃんとチャットには顔出していましたが。

 もうダメです、ダメダメです。

 一日に十分ほどしかSS書いてません。

 勿論、書かない日も多いです、っていうか書かない日の方が多いです。

 ネタつまりもありますが、ほとんど物理的に書く時間がないというかなんというか。

 次回はもう少しペース上げていきたいと思います。

 まぁ、次回はこのルナウルではなくほかのSSだと思いますが……。

 さて。



△記事頭
  1. 九つ尾・・・ですか。切り殺した『人狼』の数だけ斬撃が増えてますね。ほんっと・・・ダークです。想像するだけで怖かった。
    九尾(2004.11.09 02:01)】
  2.  目的と手段が入れ替わるパターンですねえ・・・・・・
     こういうパターンて、どこで選択を間違えるのでしょうかね?そして、何故、間違えるのでしょうかね?
    リーマン(2004.11.09 07:12)】
  3. ウルフティックって言葉は初めて聞いたな。
    aaa(2004.11.09 20:42)】

▲記事頭


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