横島育成計画１０（ＧＳ）

奈良の山中を、ただひたすらに歩いている。

草を踏み分け、
木々をかきわけ、
ただただ、歩いていた。あてどなく・・・

横島忠夫十五才の夏。

「多分、こっちじゃないっすかね～」

と、のたまう修道女に連れられて、数時間。

「なんか、ここさっきも通らなかった？」

迷っていた。

「大丈夫っすよ。主のお導きがあるっすからね」

信じっる者は、すっくわれる～、と歌いながら、
前を歩くお姉さんは、
大きな十字架を背負っていた、文字通り。

なんか、暗喩的にも十字架いっぱい背負ってそうだが・・・

キリスト教の総本山、ヴァチカンでは、
なんでも悪魔を飼っているらしい。

危険であるため封じている、という背景もあるものの、
契約をすることで、
教会のために使役したりも、しているそうだ。

悪魔にもいろいろいて、契約の種類も色々ある。
そんな契約者のひとりが、
なんの仕事か知らないが、日本に来て、
契約した悪魔に隙を見て殺されたらしい。

契約の種類によっては、そういうこともある。
ってか多いらしい。

とにかく、その殺して逃げた悪魔を捕まえるのが今回の仕事だそうだ。

悪魔オリアス

偉大なる悪魔公爵であり、ソロモンの七十二悪魔のうちの一体。
占星術を得意とし、
また同時に戦闘にも特化した、
体はライオン、尾は巨大な蛇、という姿をしている。

そいつがターゲットだ。

「あれかな？」

「そうっすね」

木々をはさんで、向こう側の岩の上。
確かにその姿があった。

「作戦は？」

「とにかく弱らさないことには捕まらないっすからね、
　結界を仕込んだあと、ボカスカ撃って、追い込むっすよ」

綿密なようでいて、大雑把。

ちょっとひらけたところに、地雷式の結界を張り、
結界、忠夫、ジャンヌが、悪魔を中心に三角形をつくる位置に移動。
両後方から追い込むわけだ。

「はあ！」

忠夫が、霊波弾を続けざまに、
えい、えい、えい、えいと拳を突き出しながら撃つ。

だが、野球の硬球をぶつけている程度の威力しかない。

一方、ジャンヌは、十字架の下方を前に向けて構え、

　ド、ド、ド、ドドドドドドドドドドドドドドドドン！！

撃った。

「マシンガン？」

秒速何発かで飛んでいく弾は、悪魔に当たるとなぜか爆発する。

忠夫は右腕で空を殴るように霊波弾を放ちながら、
左手でカードを投げ、
そしてふと気づく。

カードを具現しながら、空を殴ってみたらどうだろう？

思いついたら即実行、ってことで、

　えい！

シュッとカードが、高速で射出され、

　グサッと悪魔オリアスの体に突き刺さる。

「ぐぎゃるるるるる！　コワッパが！」

しゃべった。
怒った真っ赤な目で睨まれる。

「げ」

が、ドカーン！

今度は肩に担ぐようにして、十字架の上方を向け、
ロケット弾を撃ち出すシスター。
風になびく修道服が、素敵に怖い。

「ぐるるるる」

自慢の肌に傷をつけた小僧と小娘は憎いが、
とりあえずここは逃げることにしたらしい。

悪魔は賢い。
人間の道具も、霊力も無尽蔵でないことを知っている。
真っ正面からでも、十分悪魔は強いが、ここは森。
気づかれないように、後ろへ回り込むことだってできるだろう。
その方が、傷は少なくてすむ。

だから、二人とは反対方向へと逃げ、
そして、

　シャキーン

結界に捕まった。

一定領域内に侵入すると発動する地雷型タイプの結界。
ちょうど、悪魔一体が入るぎりぎりの大きさ。
身動きもできない。

ただ、このままでは、捕まえも、封印もできない。

悪魔が、封印に同意するか、
あるいはもっと、弱らせなければならない。

「ふっふっふ、頭脳プレーの勝利っすね」

「っていうか、力技の気がするけどな」

言いつつ、結界に近づく二人。

もぞもぞと、修道服内部を探って、取り出したのは
数時間前に見た覚えのある十字架。キリスト付き。

「投影！」

そして、グサッ

「ぎゃぐるれれ」

悪魔が、体内を抉るような痛みに苦しむ。
その後も、何度も何度も突き刺すが、
オリアスは、憎しみを宿した目で、以前きつく睨んでくる。

「観念して、降参するっす。
　これ以上、主を傷つけたら、神罰くだるっすよ？」

「そりゃ、おまえじゃ」

瞬間、濃密な魔力が悪魔の体中から吹き出す。

「無駄っすよ？」

だが、

嵐のように荒れ狂い、
雷のように轟き、
津波のように暴れ、
濁流のようにうねり、
炎のように猛り、
そして、

　バチンッ！！

風船が破れるようにして、
一瞬膨らんだ結界が、破裂した。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ぐるるるるる」

「ぎゃ～～」
「きゃ～～」

回れ右して、一目散に逃げ出した。

「ど、ど、どうするんだ、どうするんだよ？」

「耳たぶでもつかんで落ち着くっす。結界張るっすよ」

「耳たぶ？　じゃなくて結界？　意味なかったじゃんか、
ていうか、どうやって入れるんだよ」

「君はバカっすか、少年？　私らが入るんすよ」

「ああ、防御結界か」

「隠形結界もっすよ」

二人の周りに、三角形を描くよう、コインを投げる。

「隠形結界、
『我、見るに能わず』『我、聞こえるに能わず』『我、感じるに能わず』」

さらに、三枚投げ、先の三角形とは逆に描き、六芒星をつくる。

「防御結界、『我、埋葬に能わず』」

要は、見るな、聞くな、感じるな、と、殺すな、ということだ。

そうして、ようやくほっと一息。

Ｐｕｒｕｒｕｒｕｒｕ

いきなり鳴り出した携帯電話の音に、
びくり、とする二人。

「「ははは・・・」」

顔を見合わせる。

「は～い、誰っすか？」

苦笑したあと、電話を取るジャンヌ。

「ええ、はあ、そうなんすぅ。・・・大丈夫っすよ。
今着々と追いつめてるとこっすから」

ちなみに主語と目的語は、
オリアスが、わたしたちを、である。

「ノー・プロブレムっすよ、そりゃぁもう。
　はいはい、わっかりました。超オッケーすよ。
　ほんじゃ、また、司教様」

「ブッ、げほ・・・。・・・なあ？」

ピッと、電話を切ったジャンヌに聞いてみる。

「なんすか？」

「司教様って、お偉いさんじゃないのか？」

「もちろんっすよ」

「・・・・・・。あんな口の利き方で大丈夫なのか？」

「主は平等っす。口の利き方で御加護は無くなんないっすよ」

「なるほど・・・」

さすが神様。心が広いらしい。

「で、どうするんだ？」

「ん～、作戦練り直しっすね。片方が囮とか？」

「げ、オレはやだぞ」

「わたしも嫌っすよ」

「ソノ、ヒツヨウ、アラズ」

「「んげ」」

気づけば、近くにオリアスがいた。

「なんで・・・結界あるのに・・・」

「ウラナイ、トクイ。ミヲ　カクスイミ、アラズ」

ゆっくりと迫ってくる。

「アクマノ、ミミ、ヒトト、チガウ」

隠形結界も全くの無意味だったらしい。

オリアスの尾である大蛇が、結界に食らいつき、

　バリンッ

破壊する。

しなる大蛇が、鞭のように二人を叩き、吹き飛ばす。

「ぐはっ」

「くっ、ぶったっすね？　司教様にも殴られたことないっすのに。
　主曰く、『右の頬をぶたれたら』、顔面にシャイニング・ウィザード！」

オリアスの鼻面に、怒れるシスターの跳び膝蹴りが炸裂する。

霊力を放出しながらの、苛烈な一撃に、よろめく。
目も眩んだようだが、
生憎オリアスの眼は、ライオンのものだけではなかった。

いまだ中空のシスターに、尾である蛇が襲いかかり、

　グイッ

だが忠夫が飛ばした、霊糸が絡み、喰らいつくのを妨げた。

「助かったっすよ」

しかし、着地したシスターに、
今度はライオンの口から霊波砲が放たれ、吹き飛ぶ。

「カード・ランチャー（仮）！」

連続して、カードを撃ち出す忠夫。
その牽制に、一気に攻め込もうとしたオリアスが動きを止める。

「ふっふっふ、やってくれたっすね」

血を流しながらも、起きあがったようだ。

「主曰く、『目には目を、歯には歯を』」

「いや、それ、キリスト教じゃねえし・・・」

霊力を込めたナイフを投擲。
突き刺さったそれは、

　ドッカーン！

なぜか激しく爆発する。

「逃げるっすよ、少年。追いかけてくるのを、逃げながら迎撃するっす」

まだ立ちのぼる土煙の中のオリアスに、もう一本ナイフを投げ、
忠夫の腕を取って、駆け出す。

「いまのナイフ、なんで爆発？」

「私の能力っすよ。物体に霊力込めると、爆弾にできるんっす。
硬けりゃ、硬いほど、いいっすね」

なんつう、物騒な能力じゃ。

さっきの銃弾も、そういうわけだったのだろう。

「ナイフだと、刺さってから、内側を抉るように爆発するんで、最適っすね」

ときたま、後ろから飛んでくる霊波砲を、
っつうか魔力砲をよけつつ、
行きがけに、木の幹とか、岩とかに霊力込めながら爆弾にして逃げる。

な～るほど。いい能力だ。

「それと、さっきの霊波砲、よく無事だったな」

「喰らう部分に霊力集めたンっすよ。
霊力の塊と、霊力の詰まった肉体とじゃ、後者の方が強いっすから」

覚えとく方が良いっすよ、少年。
といわれ、なるほどとうなずく。

木々の間をすり抜けているうちに、山道に出る。
人ひとり分の幅しかないが、

「まずいっすね。狭い木の間、走ってる方が追いつかれないんっすけど。
　でも早いのは、道っすね。どうしましょ」

考えている間にも、置きみやげ爆弾で稼いだ距離が狭まる。

「ってか、腹減った」

状況をまったく無視した一言に、シスターがあきれた顔をする。

だが実際、夜明け前に家を出て、
そろそろ夕刻だが、いままでなにも食べていない。

「パンとかおにぎりとか持ってねえ？」

「ないっすね」

「やっぱり？」

「主曰く、『パンがないなら、ケーキを食べればいいじゃないっすか』っすよ」

「神は、「じゃないっすか」とか言わねえよ。ってか、それ神違う。
　マリー・アントワネットだろ」

「おお博識」

言ってる間に、オリアスの姿が視認できるほど、迫ってきた。
いい加減、森の中を歩き疲れ、
歩きやすい道の方を逃げる。

が、向こうもこちらを視認したのか、
四本の脚で、猛然と駆けてくる。

道の両端の木を利用して、
竿から伸びる霊糸を絡め、網のようにして障害をつくる。

霊糸を切って、仕掛けても、強度が保てないので、
延々と伸ばしたまま、走っている。

一瞬、止まったり、つまずいたりするものの、
勢いそのまま、力ずくで破って、追ってくるオリアス。

「追いつかれそうだ」

ふと道ばたに、小さな小さな社。

「おお、こんなところに、ちょうど・・・これも神のお導きっすね」

安置されたそれに、シスター・ジャンヌが霊力を込めて、

「喰らえッ、お地蔵様ミサイル！！」

投げた。

　ゴウッ　ドカン！

だが、飛んでいくと途中で、爆弾と化したお地蔵様は迎撃される。

「あー、なんて罰当たりな！！」

「罰当たりはお前じゃ！」

とうとう、双方止まり、にらみ合う。

なにかのきっかけと共に、
再び時は動きだし、最終決戦が始まるだろう。

「ふっふっふ。心の臓を抉り抜いて、神の祭壇に捧げてやるっす」

「いや、お前、本当に聖職者か？」

忠夫は睨みながらも、
別のことを思い出していた。

悪魔が、オリアスが結界を破った場面だ。

収まりきらない魔力に、結界が風船のように破裂した。

すごい爆風だった。

己の右腕を見る。

霊力をためる。

霊力をためて、ためて、ためる。
体中の霊力を右腕、前腕部へ集中する。

手のひらから、他の皮膚から、腕の周りから漏れ出そうとするそれを、
周りから、霊力でコーティングすることで封じ込める。

ほんの吐息ほども逃さずに集め続けることで、
やがて許容量をオーバーする。
風船みたいに膨らんで、破裂する直前に、小さな出口を開けてやる。

指先だけ。

忠夫は居合いのように、腕を振った。

ウォーター・カッターをご存知だろうか。

それは高圧縮された水を射出する装置だ。
高密度の水は鋼さえを容易く切り裂く。
宝石の加工に使われるほどだ。

いまの忠夫の技は、まさにそれに近かった。

高圧縮された霊力。

ほんの一瞬しか放出できない。
出口があまりに小さいため、破裂しかけた一瞬、
出口の穴を開けた瞬間に放出されるだけで、
残りの霊力は同時に逆流し、体の他の部分に戻る。

だが、それで十分だった。

　ザシュッ

ボトリ、ゴロリと、オリアスの前左足が切り落とされる。

「ぐぎゃっ、がっ、がっ。コワッパが！」

追い打ちをかけるように、シスターが傷口へとナイフを投擲。
爆発させる。

機動性を失った獅子の代わりに、
大蛇がシスターに襲いかかる、

「神の鉄槌！」

が、かぶりつこうとする蛇の頭を、
大きな十字架をハンマーのように使って、ぶん殴る。

忠夫はもう一度、右腕を見る。

ぐっと力をため、一瞬で、前腕部大の高圧縮した霊波の弾頭をつくる。
腕の内部に。
さらに霊力のコーティングで周囲を固め、
出口、拳の部分に、弾頭を詰まらせ、穴を防ぐ。

筒に弾で栓をしたような状態だ。

そして、そこに、ありったけの霊力を一瞬で注ぎ、

手を向ける。
破裂。

　ドン！

速度最大、
威力最大、
貫通力最大のレールガンは・・・

誰の目にも止まることはなかった。
誰の目にも、映ることさえなかった。

ただ、瞬きしたとき、

一瞬目を閉じ、開いてみれば、

横たわった悪魔の体に、とてつもなく大きな穴があいていた。

ただそれだけのこと。

で、でも・・・腕痛え～

生来のタフネスさのおかげか、
はたまた、本人のしぶとさか、
意識はないものの、なんとか息をしている悪魔オリアスを、
シスター・ジャンヌは、特殊な小瓶に封じ込めた。

こうして、家出から始まる一連の冒険譚は幕を閉じる。

観客は一羽のカラスのみ・・・

〔あとがき〕
霊波レールガン。
これが横島の新技。
まあ、これも欠点はありますが、それはいずれ。
それに、それほど大きな問題でもありません。

ありきたりと思われるかも知れませんが、
それなりに、忠夫の特質を活かして考えたつもりです。
これもまた、凝縮が成せる技♪
それに、単純ゆえ強し。

にしても、この二人、なかなかの名コンビだと思いません？

次回、タマモとジャンヌが会ってしまうのか？
お楽しみに♪

記入例	表示サンプル
＜｜＄Ｂ｜＞太文字＜＞	太文字
＜｜＆Ｓ｜＞打消し線＜＞	打消し線
＜｜％Ｓ｜＞小文字＜＞	小文字
＜｜％Ｌ｜＞大文字＜＞	大文字

記入例

表示サンプル

＜｜＄Ｂ｜＞太文字＜＞

太文字

＜｜＆Ｓ｜＞打消し線＜＞

打消し線

＜｜％Ｓ｜＞小文字＜＞

小文字

＜｜％Ｌ｜＞大文字＜＞

大文字