!警告!ダーク有り「蛇ノ妹4,5(GS)」桜華 (2004.11.09 00:08)
4.
雨が降る。
豪雨。
道の向こう側も見えないような雫の群れ。
その音を背景に、少女は一人、震えていた。
木造の廃屋。ささくれ立った壁はもろく、腐った床は所々に穴が開いている。ねずみが右往左往、クモの巣など数えるのもバカらしい。
この雨で倒壊しないのが不思議な、そんな、廃屋。
その隅で、少女は一人、震えている。
目を閉じて、震えながら、眠っていた。
「―――っ!」
覚醒。警戒心をあらわに、周囲を見まわす。
誰もいない。そのことにわずかながら安堵する。
再び、膝に顔をうずめ、震える。
怖い。恐ろしい。
なにが? 眠るのが。眠ったらあいつが目の前に来ているかもしれない。それが怖くて、だから眠れない。
少女は眠らないまま、眠らないまま、ただ、時が過ぎる。
震え、眠りに落ちかけ、無理やり起き、また震える。繰り返し。時が過ぎる。
アノ人に逢いたい。少女は想う。
自分の夢であるアノ人。夢の中、自分はアノ人になる。とても暖かく、とても冷たく、とても優しく、とても怖く、とても強く、とても弱い、アノ人。
逢いたい。だが、逢えない。
眠って初めて、アノ人に逢える。だから逢えない。眠れないから、アノ人には逢えない。
アノ人に逢えたら、もう、怖くないだろう。アノ人に逢えなければ、いつまでも怖いままだ。眠れない。だから、いつまでも怖いまま。
「―――――ふぃ」
嗚咽。声に出したらあいつがくるかもしれない。だから必死に自制する。
かたかた、かたかた、震えながら。
少女は、恐怖と睡魔にさいなまれる。
*
話は、前の晩にさかのぼる。
*
その晩は雨だった。
彼女は雨が好きだ。窓から雨を見上げ、歌を歌うのが好きだった。
その日も、彼女は雨を見上げていた。見上げながら、「あめあめふれふれ」と歌っていた。
がたりと、背後から物音が響き、少女の歌声は中断された。
少女が振り向いた先。入り口には、一人の男が立っていた。
薄汚れた服装。ごわごわな長髪。浮浪者だった。
「女の子?」
浮浪者は、その光景に眉をひそめて、呟いた。
少女は、初めて遭遇する他者に首をかしげた。
「君、どうしてこんなところにいるんだい? ご両親は?」
質問の意味がわからず、少女はまた、首をかしげた。
「……君は、いつからここにいるんだい?」
その質問には、少女は答えることができた。
「……ずっと」
「ずっと!? ずっとって、どのくらいだい!?」
「……ずっと」
「………捨て子ってことか?」
「すて、ご?」
言葉の意味がわからず、少女は三度、首をかしげた。
あどけない仕草に、浮浪者は哀れみの表情を浮かべる。
「ああ、いや。気にするな。
えっと……君のパパとママは、どうしたのかな?」
「パパ? ママ?」
「あ〜……自分の面倒を見てくれる人たち。君を守って、君にいろいろなことを教えてくれる人たちだよ。男がパパで、女がママ」
少女の頭に、一人の男性が浮かんだ。
「……待ってる」
「ん?」
「パパ、待ってる」
「いつから?」
「ずっと」
「……そっか」
捨てられたことを理解していないのか。そう思い、浮浪者は少女を哀れむ。
「……なに?」
「へ?」
初めて発した少女の問いに、間抜けな声を上げる浮浪者。
「ここに来た、なに?」
ここに来たのはなぜか。そう問うている。
「ああ。いや、外、雨だったからさ。雨宿りにね」
「……そう」
そして、無言。
少女は興味を失ったのか、再び雨を見上げた。
浮浪者は、少女をどう扱っていいか分からず、話し掛けなかった。
そして、無言の時が過ぎる。
やがて少女は睡魔を感じ、自分の寝床へと移動した。
身につけていたぼろ布に包まり、目を閉じる。
「おやすみ」
驚愕に、少女は目を開いた。
飛び起き、浮浪者を見る。
「ん? なに?」
「……なに?」
「なにが?」
「……おやすみ。て、なに?」
「ああ。寝るときの挨拶だよ。合言葉みたいなものさ」
言われ、少女は思い出した。
アノ人は、美神さんやおキヌちゃん、シロやタマモと別れるとき、そんなことを言っていた。
「…………」
再び、少女はぼろ布に包まる。
「……おや、すみ」
「ああ、おやすみ」
初めての、挨拶だった。
*
有野 弘(52)は、東京は新宿で生まれた。一人息子として、両親から過剰ともいえる愛を注がれて育つ。成人し、会社を設立して成功を収め、美人モデルと結婚、一子を儲ける。
順風満帆に見えた人生は、しかしバブルとともに崩壊。会社は潰れ、残ったのは多額の借金のみ。それでも元社長というちっぽけなプライドは捨てられず、態度は傲慢がちになり、人の元で働けず、首になるごとに世の中に背を向けだす。
そして今、有野 弘は浮浪者となり、雨に追われ廃ビルへ駆け込み、孤独に眠る少女を見つめている。
その手には、黒いビンが握られていた。
酒。飲まずにはいられない。
悪いのはこの世の中だ。酩酊した頭で、有野 弘は考える。
狂ってるのはこの世の中だ。間違っているのはこの世の中だ。俺が浮浪者なんかやってるのも、この世の中がおかしいからだ。会社が倒産したのも、女房に逃げられたのも、借金まみれの生活も、すぐに首になるのも、要は全部、この世界がいけないんだ。
そうに違いない。
この世界が正しいというのなら、こんな小さな女の子が、一人、夜のおんぼろビルに眠っているはずが無い。
ほれ見ろ、証明された。この世はクズだ。クソだ。狂ってる。狂いきってる。論理的に、俺が正しい。間違ってるのはおまえらだ、このクソッたれ。
アルコールに脳細胞を犯されながら、有野 弘は考える。
ちくしょう。あのクズどもめ。へーこらして金魚の糞みたく俺に従ってきたくせに、会社が潰れた途端逃げやがって。
ちくしょう。あの売女どもめ。うざいほどに付きまとってきたくせに、金がなけりゃ用無しかい。
ちくしょう。俺は社長だったんだぞ。えらかったんだ。今でもだ。その気になりゃなんでもできる。一瞬で大富豪だ。ただやらないだけだ。くだらねぇ。お前らと付き合う気にはならねぇ。狂った社会に奉仕する義理はねぇのさ。
そうだ、おれはすごいんだ。今でもだ。おれはすごかったし、おれはすごい。おれはすごいんだ。本来、こんなところに身をやつしてる人物じゃない。もっと手厚く保護されてしかるべき大人物だ。
だから、間違ってるのはこの世の中なんだ。証明された。Q.E.Dだ。
わけのわからない思考を繰り返し、酒をあおる。
傾けたビンからは、しかし、求めたものは得られなかった。
「……クソが!」
毒づき、ビンを放る。気力は沸かず、雨の中、ただひたすらに毒づいていた。
「―――ん……」
その行動は、少女の寝言により中断された。
浮浪者は、初めてその存在に気がついたように、少女のほうを見つめた。
雨が降っていた。少女は寝返りをうっていた。まとったぼろ布がはだけていた。その下は全裸だった。暑かった。男は女ひでりだった。その趣味は無いが、しかし男は雄だった。雨の音が激しくなった。男の呼吸も激しくなった。男は少女に近づいた。少女の胸に触れた。少女の唇を奪った。少女の股間に触れた。雨が降っていた。少女は目覚めた。少女はわけがわからなかった。本能的に抵抗した。暴れた。雨音がうるさかった。男は激昂した。少女を殴った。少女は大人しくなった。男は自分の雄を取り出した。窓枠から雨が降り注いだ。頬を腫らして少女は涙した。泣きながら首を振っていた。男は止まらない。雨がうるさい。雨が少女の髪を濡らした。男は自分を少女にあてがった。「いや」と少女は呟いた。男は自分に力をこめて、本能のままに、勢いよく――――
「いやぁぁぁぁあっぁぁぁぁー――――――――――――――!!!!!!」
そして―――白光。
*
白い光が降り注ぐ。
いい天気だ。晴れた空に、雨上がりの清浄な空気が美しい。鳥たちが小さく歌い、せみたちが朝も早よからがなりたてる。夏の朝。ラジオ体操に出かける子供たちの声。時折走る車の音。猫の鳴き声。犬の鳴き声。どこからか響く風鈴。
心地よき朝の中、最悪な目覚め。
「―――――殺してやる」
凄絶な笑みをもち、横島忠夫は呟いた。
*
雨が降る。
豪雨。
道の向こう側も見えないような雫の群れ。
その音を背景に、少女は一人、震えていた。
木造の廃屋。ささくれ立った壁はもろく、腐った床は所々に穴が開いている。ねずみが右往左往、クモの巣など数えるのもバカらしい。
この雨で倒壊しないのが不思議な、そんな、廃屋。
その隅で、少女は一人、震えている。
目を閉じて、震えながら、眠っていた。
「―――っ!」
覚醒。警戒心をあらわに、周囲を見まわす。
誰もいない。そのことにわずかながら安堵する。
再び、膝に顔をうずめ、震える。
怖い。恐ろしい。
なにが? 眠るのが。眠ったらあいつが目の前に来ているかもしれない。それが怖くて、だから眠れない。
少女は眠らないまま、眠らないまま、ただ、時が過ぎる。
震え、眠りに落ちかけ、無理やり起き、また震える。繰り返し。時が過ぎる。
アノ人に逢いたい。少女は想う。
自分の夢であるアノ人。夢の中、自分はアノ人になる。とても暖かく、とても冷たく、とても優しく、とても怖く、とても強く、とても弱い、アノ人。
逢いたい。だが、逢えない。
眠って初めて、アノ人に逢える。だから逢えない。眠れないから、アノ人には逢えない。
アノ人に逢えたら、もう、怖くないだろう。アノ人に逢えなければ、いつまでも怖いままだ。眠れない。だから、いつまでも怖いまま。
「―――――ふぃ」
嗚咽。声に出したらあいつがくるかもしれない。だから必死に自制する。
かたかた、かたかた、震えながら。
少女は、恐怖と睡魔にさいなまれる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
5.
埼玉県所沢市。黒井総合病院。
そこに、横島はいた。
「すいません。昨日、ここに運ばれた―――あ〜、男性、の病室はどこですか?」
受付で尋ねる。
質問の仕方に奇妙さを感じた看護婦は、しかし笑顔を絶やさず問うた。
「ご家族の方ですか?」
「いえ、違います。ちょっとした知り合いです」
「ご家族の方以外は面会謝絶となっております。申し訳ありませんが、お引き取りください」
笑顔で、看護婦は横島を拒絶した。
「そうすか。それじゃしょうがないっすね」
あっさりと引き下がる横島。きびすを返し、向かう先は玄関でなく、階段。
「あの、どちらへ?」
受付の看護婦は尋ねた。
「いや、別のやつの見舞いですよ。この前、足折った奴。5階の鈴原―――5階でしたよね?」
その言葉通り、5階には鈴原という患者が骨折で入院していたので、
「ええ、そうです。503号室ですよ」
疑問を持たず、看護婦は横島を通した。
「あの〜、すみません」
「はい、どうされました?」
仕事に忙殺され、看護婦はすぐに、見舞い客の一人のことなど忘れ去った。
「ちょろいな」
7階を歩きながら、横島は呟いた。
タネは簡単だ。文珠で看護婦の思考を『覗』いただけ。言葉に出さなくても、それで情報は読み取れる。鈴原の存在を知ったのもそれだ。
一つの病室の前で、横島は止まる。
身を『隠』しながら、中へ入った。
途端、憎悪が膨れ上がる。
意識不明のアイツが、そこにいた。
眠っている。全身に包帯を巻き、あちこちをギブスで固定されながら、アイツは静かに寝息を立てていた。
躊躇なく、横島は右手でソイツの顔面を掴んだ。下半分、口回りを指で締め上げる。
「―――『起』きろ」
文珠生成。ソイツは覚醒した。
ソイツの反応は驚愕だった。次いで恐怖。
その反応が、あのときの彼女と同じだったので―――それで、横島はさらに憎悪した。
「あの子はどうした?」
うめくソイツの記憶を『覗』く。
犯す寸前。白光。衝撃。吹き飛ばされる身体。朦朧とする意識。恐怖に満ちた少女。ぼろ布を握り締め、外へかける。混濁した視界。薄まる世界。駆けていく足音。水のはねる音。消える少女。力尽きる。視界は床一杯。気絶。
記憶の中で、自分が起きたあと、何が起こったのかを知った。
最悪の事態には、陥っていなかったらしい。わずかな安堵。安堵することに嫌悪。
ソイツがうめく。自己への嫌悪は、都合よく、相手への憎悪に置き換えられた。
殺そう。
明確な殺意の元、右手に文珠を生成。ソイツに無理やり飲ませる。
『死』なせる。そのつもりで文字を打ち込む。
殺せる。死なせる。そう確信した瞬間、しかし、横島の胸に去来したのは、満足でなく虚しさだった。
殺してどうする? 死なせてどうする? それで終わりか? それで終わらせるのか?
躊躇は激情をとどまらせる。わずかな戸惑いの中で、少女の泣き顔が頭をよぎった。
記憶を覗いて初めて知った、少女の顔。紫がかった長髪。大きな、かわいらしい瞳。それは限界以上に開いて、示した驚愕と恐怖。止めど無く流れる涙。止まない嗚咽。
「……ちがう」
そう、違う。自分は間違っていた。まず最初にすべきことは、これではなかった。
なにをしていたのだ、自分は。バカか、俺は。なによりもまず、行かねばならなかったのに。なにをおいてもまず、少女の元に駆けねばならなかったのに。
横島は、右手の力を弛めた。弛め、しかし離さない。
こいつを殺すのはやめだ。だが、償いはさせてやる。そう考える。
文珠に入れる文字を変えた。殺しはしない。『死』ではない。生かす。だが、ある意味それ以上に酷なこと。
「―――『忘』れろ」
横島は、呪った。
「『忘』れろ。俺のこと。あの子のこと。今日のこと。昨日のこと。
今のこと。今までのこと。これからのこと。
自分のこと。他人のこと。誰かのこと。
動けること。話せること。触れること。感じること。
生きていること。
すべて―――『忘』れろ」
呪詛が終わったとき。
ソイツの瞳から、生気が失せた。
文珠は発動した。力の流れを変える文珠。ソイツの生命力の流れを変えた。
ソイツは死んでいない。だが生きてもいない。ソイツの人生は幕を閉じ、やがて肉体も終わりを迎える。
傷が元で意識が戻らない。それ以外の解釈は、科学にはない。それでいい。
横島は、右手を離した。満足はしていない。虚しい。だが、けじめはつけた。始末はつけた。
次にすることは、最初にやるべきこと。順番を間違えた己を恥じる。彼女は今、どんな気持ちでいるのだろうか。
昨夜は寝ていない。少女の状態を、だから横島は知らない。
「――待ってて。すぐに、見つけるから」
呟き、横島は病室を後にした。
あとには、一人の男がベッドに眠っている。
全身に包帯を巻き、あちこちをギブスで固定された男。
変わらず、寝息を立てていた。
*
雨が降る。
豪雨。
道の向こう側も見えないような雫の群れ。
その音を背景に、少女は一人、震えていた。
木造の廃屋。ささくれ立った壁はもろく、腐った床は所々に穴が開いている。ねずみが右往左往、クモの巣など数えるのもバカらしい。
この雨で倒壊しないのが不思議な、そんな、廃屋。
その隅で、少女は一人、震えている。
目を閉じて、震えながら、眠っていた。
「―――っ!」
覚醒。警戒心をあらわに、周囲を見まわす。
誰もいない。そのことにわずかながら安堵する。
再び、膝に顔をうずめ、震える。
怖い。恐ろしい。
なにが? 眠るのが。眠ったらあいつが目の前に来ているかもしれない。それが怖くて、だから眠れない。
少女は眠らないまま、眠らないまま、ただ、時が過ぎる。
震え、眠りに落ちかけ、無理やり起き、また震える。繰り返し。時が過ぎる。
無限とも思える、時が。
少女は眠らない。否、眠れない。恐怖が彼女を起こしつづける。
睡魔と恐怖に襲われ、瞬間の眠りと覚醒を繰り返す。眠り、起き、眠り、起き、眠り、起き、眠り、起き―――
ギ
「―――――――!!」
物音は、階下から響いた。かつてない恐怖が、少女の身体を硬直させる。
ギ。ギ。ギ。
音は響き、階段を近づいてきた。
恐怖に、少女の身体は震え出した。歯が合わず、鳴る。全身に震え。見開かれた瞳は閉じることを知らない。
ギ。ギ。ギ。ギ。ギ。
荒くなる呼吸。来ないで。思考は、ただそれだけを唱える。
ギ。ギ。ギ。ギ。ギ。ギ。―――ギシリ
一際大きな音が、入り口で響いた。
「――――――――――!!!!!」
考えることすら、少女はもはやできなかった。
怖い。唯一できたとすれば、それを感じること。
怖い。恐い。こわい。コワイ。ただひたすらに、それを感じること。
永遠とも思える一瞬が過ぎた。
少女は一生分の恐怖を味わった。
現れたのは、恐怖ではなかった。
「―――やぁ」
見たことのない男だった。初めて見る男が、そこに立っていた。
蒼い服に身を包んだ、見知らぬ男。赤いバンダナに、濡れた髪が張りついている。
「蛇の目じゃないし、傘自体持ってきてないけど」
しかし少女は、それが誰だかわかった。なによりも誰よりも、望み、求めていたものだったから。
「―――お迎え、来たよ」
―――アノ人だ。
少女は駆けだし、男の胸へと殴りかかった。
「う。うう。ううううう!」
小さな両手で、少女は男を殴りつける。
「ふう! ふう、ふえ! う、うぐうううううううう!」
震える拳で、少女は男の胸を叩いた。
そんな少女を、男はやさしく抱きしめる。
「……ごめん」
「ふう! あああ、あ、あ。あううううう!」
「遅くなって、ごめん」
「あうううう! うあ! え! ういいいいいああああ!」
「恐がらせて、ごめん」
「ふえ! あぐ! ふぎ!」
「―――守れなくて、ごめん」
「うあああああああああああああああああああああああああああ!!!」
二度と失わない。喪失の悲しみに、そう誓ったのはいつだったか。
必ず守る。無力を嘆き、そう決めたのはいつだったか。
強くなる。流れる涙にそう叫んだのはいつだったか。
少女の叫びに、男は泣いた。
少女の慟哭に、男は己を呪った。
守れていない。弱いままだ。強くなど、欠片もなってはいない。
こんなに泣かせて。こんなに恐がらせて。こんなに。こんなに。
「―――ごめん。ほんとに、ごめん」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
二人は泣いた。いつまでも泣きつづけた。少女は男の胸の中で。男は少女を抱きながら。いつまでもいつまでも、泣きつづけた。
雨が降っていた、豪雨だった。すぐ隣も見えないくらいの雨だった。うるさいくらいに酷かった。強く強く打ち付けた。稲妻があった。雷が鳴った。どこかに落ちた。雨が降っていた。ひどい、ひどい雨だった。止むことなく降っていた。止むはずなく、降っていた。
心地よい、雨だった。
△記事頭 ・・・泣きなさい・・・・
・・・安心できる人の腕の中で・・・
・・・絶対的な安全が保障されている領域の中で・・・
・・・『恐怖』を涙で洗い流した後にきっと幸せが待っているから・・・
以上、柄にも無く詩的な表現で感想を述べてみました。
少女に手を出した輩?いましたか、そんな奴?(記憶から抹消されたいるらしい)
【放浪の道化師(2004.11.09 00:19)】
>少女は一生分の恐怖を味わった
そうです。もう怖いことなんてないんです。
だから、どっかのクソ野郎を引きずってきて目の前で苦しめて泣き叫ばしたりしたら、また怖がっちゃうじゃないですか。それで笑って喜ぶとでも?この子が嬉しいと感じて悲しみがなくなるか?・・・バカか。
でも、同じことが自分におきたら・・・目の前にいる傷つけられた大事な人放ったらかしでいってしまいそうな自分が一番情けない。だからあの子の泣き声を決して忘れません。
【九尾(2004.11.09 00:55)】
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