横島育成計画０８（ＧＳ）

ＧＳ免許を取得して以来、

タマモは月に何回か、仕事を受けていた。

冥子は、まだまだ未熟ということで、母親の元で修行中。
令子は令子で、まだ独立には早い、と、
神父のもとで経験を積んでいる。
エミは少し特殊なので事情は違うが、
やはりまだ、本格的に仕事を始めているわけではない。

まだ、すぐにひとりで仕事を受けたりはしないのが普通である。
タマモは、妖怪であることを理由に、
特例で、即仕事を取ることを許されていた。

ただ、事務所を構えたりはしていないので、
斡旋してくれる仲介屋と契約しているような状態だ。

月数回のその仕事に、
タマモは必ず、忠夫を連れて行くようにしている。

アシスタントとしてであったり、
前衛にさせて、戦闘の勘を養わせたり、
仕事を見せて、実例ある知識を植え付けたり。

あるいは、今回のように、最初から、忠夫の実戦訓練のために、
仕事を選んだりもする。

とある工場跡。

完全に壊して、新しくビルを建設する予定なのだが、

あまりに霊害が多く、作業の進捗が悪い。

どうも霊の通り道を、きれいに塞ぐ形で立っているため、
霊がたまり、住処となっているようだ。

それはもううじゃうじゃと、何十もの雑霊・悪霊が住んでいる。

そんな元工場の建物の中で、忠夫は、

「えい！　やあ！　とおー！」

今日も今日とて、元気だった。

雑霊を、次から次へと両断して、消していっているのだが、
いかんせん・・・格好悪い。

なにせ、

「喰らえ、ロッド・オブ・グローリー（仮）！」

右手に釣り竿、

「どや、アンブレラ・オブ・グローリーやで」

左手に雨傘の二刀流である。

すぐ近くの霊は左手の傘で、
ちょっと離れている奴は、右手の竿で、

叩き、打ち、斬り、突き、しばき、刺し、断つ。

本人は、至極真剣なのだが、
タマモもそれを知っているのだが、
それでも、ちょっと醒めた眼で、観察している。

まあ・・・どう見ても・・・間抜けだし・・・

忠夫の実戦訓練のために仕事を選んだ場合、
基本的に忠夫だけでやらせる。
余程のことがない限り、タマモは後ろで観戦だ。

まあ、アドバイスを求められたら、答えてやるし、
それ以外でも、口出しはするが。

体の捌きは文句ない。
効率の良い、体の動かし方をしている。
フットワークも最近向上してきた。

一点に、工場の中の一角に追い込んでいるところを見るに、
頭もちゃんと使っているようだ。

だが、少なくともＧＳには見えない。
誰が竿と傘で除霊をするのか？

「まあ、真剣だから良いけど・・・」

動きのすばやい霊は、

「やっ！」

霊糸を飛ばして捕まえ、引き寄せながら叩ききる。

避けきれない相手の攻撃は、

　バサッ

傘を広げて防ぐ。
効率も、見た目ほど悪くはなさそうだ。

「まあ、ソーサーなら、両手を攻撃に使いながらでも、
　ちゃんと防御できるんだけどね」

傘の場合、その方向へ左手を向けなければならない。
棒でつながっている分、機動性が悪い。

でも、両手を別々に使っているにもかかわらず、
こんがらがったり、混乱したり、どちらでさばくか迷ったりせず、
効率よく攻めている点は、称賛に値する。

確かに、すごい子だわ。
なんでもすぐにできる、という才能あふれた子ではないけれど、
努力と発想で補っているし、
実に器用でもある。

すごい子だわ。・・・間抜けだけど・・・

ただ、少し心配なのは、

横島は、霊波刀とソーサーを基本に戦っていたのに比べ、
忠夫は、釣り竿と雨傘。

なぜ、こんな違いができたのか？

なぜこんな、間抜けた戦闘スタイルになったのか？

はっきりした理由はわからないが、
横島と忠夫、二人はなにが違うのかと考えれば、
タマモに出会った時期である。

世界初！　傘で戦うゴースト・スイーパー！

とかが生まれたのは、もしかすると、
もしかすると、私のせいだったりするんだろうか？

「む～ん、ちまちまと戦いにくいなぁ。そうや」

ぐっと左手に霊力を込める。

大きく大きく大きく大きく大きく大きく大きく、

「槍みたいやろ」

左手は傘からパラソルに進化していた。

「突撃！」

パラソル・オブ・グローリーで一気に数体の霊を倒し、

そして、

「衝撃！」

　ブァアサッ！！

パラソルを開く。
その衝撃波、開いた爆風で十数体を吹き飛ばし消し飛ばす。

「へへん、広範囲殲滅攻撃や」

振り返って、ぶいＶ

しかし、それがよくなかった。

「忠夫、油断禁物！」

残りの霊が、一箇所に集まり、融合する。

霊が多いところではときどき起こる、複合化現象だ。

今回ほど多い場所で今まで複合していなかったことの方が、むしろ珍しい。

複合する数は、だいたい五体程度が普通なのだが、
今回は数十体の霊が融合する。
融合する数が多いほど、力は上がる。
つまり、かなりの難敵の誕生というわけだ。

　ビュッ

大きな姿に似合わぬ速さで、間を詰める。

大きな爪状の手が振り下ろされ、

「うわっ」

反射的に左手を挙げ、傘で防いだのは良いが、
サクッと、それは切り刻まれた。

「げっ」

複合体は半ば実体化までしており、力が強い。

が、それ以上に傘がもろかった。

具現化したモノの弱点だ。
つくりが複雑であるほど、もろい。
霊力がこもっていれば別だが、
今は使おうと意識していなかったため、
霊力が節約されていた。

例えるなら、その武器に意識が向いていないときは、
それはプラスチックのバットのような状態だ。
ただ、形があるだけ。
中はからっぽ、あるいはスカスカ。

使おうと意識を向けたときに、
自然と、霊力が注ぎ込まれて、いきわたり、
金属バットのように硬度があがったり、
木製バットのように重みを増したりするのだ。

不意の攻撃で守りを失い、
さらにもう一方の手で襲われる。

「くそっ」

敵は自分の左側。

傘は斬られた。
という意識が脳裏にある。
それ故に、咄嗟に傘を再び具現することはできない。

だから、

大きく、重く、そして鋭い爪の一撃を、

代わりに防いだのは、なんと、

　ぽよよ～ん

「・・・ドラえもんの手？」

霊、唖然。
忠夫、呆然。
タマモ、愕然。

いつか、なにかの拍子で、ぽん♪　
とできたこのパンチンググローブみたいな塊が、忠夫を救った。
止めるでも受け流すでもなく、
ぽよよんと跳ね返していた。

霊波刀が釣り竿、サイキック・ソーサーが傘なら、
これはもしかして、栄光の手の代わりかしら。
だとすれば、あまりにも、

「い、いけてない・・・」

自分が悪いんだろうかと、頭悩ますタマモに構わず、

忠夫は俄然、やる気。

ぐるぐると左腕を回し、

「あんぱーんち！！」

　ぷにゅ　ぽよよ～

突き出された拳は、やわらかく、
だが、弾力に富み、
霊は、まるでトランポリンで叩かれたように、吹き飛んで、

　ズドム

壁にめり込んだ。

大ダメージの複合霊。

一転して、優劣がひっくり返る。

だが、

だが、
だが、
だが、どうする？

釣り竿でひっぱたけば、それなりに痛いだろうが、
それほどの効果は望めない。

霊波弾も、トドメには遠い。

「カードで・・・」

「ちまちま斬るの？」

「文字籠めるのは・・・」

「修行にならないから禁止っていったでしょ？」

それに、文珠ほど威力がないカードでは決定打になるかどうか。

霊波ナイフで斬るには近づかなければならない。
今は動かず回復中とはいえど、
そこまで近づけば、あの爪で反撃される。

パンチと霊波弾を併せた攻撃もできるが、やっぱり近づく必要がある。

すばやければ問題ないかも知れないが、
壁にめり込んだ相手に、あの噴射で突っ込めば大事故必至。

この、ぽよよんパンチで爪ごと殴り潰しても良いが、
壁に埋まった相手だと、今度は自分が反動ではじき飛ぶ。

決め手に欠ける。

「さあ、どうやって、トドメを刺すの？」

「う・・・・・・、よ、弱った敵に攻撃するんは、武士道に背くんや！」

「誰が武士よ！」

ふぅー、と息を吐くタマモ。

視線を強くして、言葉を重ねる。

「あんたのうしろに、大事な人を守ってる、とイメージなさい。
　そいつを倒さないと、その人を失うのよ」

忠夫の顔が真剣になる。

「思い浮かべなさい。一番大事なひとを」

「タマモ姉を？」

「う゛・・・」

百合子さんか夏子ちゃんだと思ってた・・・
予想していなかった、実にまっすぐな言葉に、思わず赤面。

恥ずかしいことを、恥ずかしげもなく、こいつは・・・

「と、とにかく、そいつを倒さなきゃ、守りきれないのよ」

その言葉に、タマモを守るというイメージのもとに、
忠夫の集中力は増し、
霊圧がぐんぐんあがる。

濃密な霊気が立ちあがり、
霊力が渦を巻く。
目に力がこもり、そして高まった霊波は・・・

　ヒュゴッ

だが、一瞬遅く、
迷っている間に復活したのか、複合霊が突進してくる。

体全体を、大きな刃状に変質させ、
今度は、傘だろうがプヨちゃんだろうが、
そのまま両断する勢いで吶喊。

　やられる！

刹那、大きく見開いた忠夫の目に映ったのは、
己を守るタマモの背中。

「あんたの弱点がわかったわね。決め手に欠けるってこと・・・」

いつのまにか霊と忠夫の間に割って入り、

「招来・火乃厳神霊（ほのいかづち）！！」

両手から、赤く炎を纏った雷が、撃ち出された。

「その歳なら、たいしたものよ。
　だから焦らなくて良いわ」

肩を落とした忠夫に、できる限り優しく言う。

「だから、これからぼちぼち、頑張っていきましょ。
　どの能力をどう伸ばせばいいかとか、どう使えるかとか、
　頭使いながら、地道にやっていけばいいわ」

ね？　と抱きしめる。

「あんたなら大丈夫」

その後、敷地を囲むように対霊結界を張り、
霊脈をいじり、元工場をあとにした。

工場跡に落ちた水滴のあとは、何を意味するのか・・・

〔あとがき〕
一応、これまで学んだモノで、使えるモノを大体使ってみました。
が、敗北。初の挫折。
これが、どういう結果につながるのか。
もしかして、忠夫は逃げてしまうのか。

次回、家出少年忠夫をお送りします。

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