▽レス始▼レス末
「幸若(GS)」翔 (2004.11.01 00:29)

 その晩は、大地に星空が近い夜であった。

「敵襲! 敵襲ーっ!」
 塀の外が騒がしい。彼は主人の元に走りながらも、周り者を捕まえながら状況を捕捉する。彼の主人は、賢い者を好むのだ。
「何処の賊かっ!? 確認を急げ! いや、応戦用意が先だっ!」
 髷を結わず、短く切り揃えた髪を振り乱し、勝気そうな表情を引き締めながら叫ぶその姿は――一見、美少女にも見えるその姿は、美しく気高かった。

 塀の外からは無数の、そして禍禍しいまでの夥しい殺気が感じられる。これが必殺の決意を以て行われた敵襲である事に疑念の余地はない。ならば、今この時に大切な事は二つ。弓を引いた者の確認と、主君の安全の確保である。……この寺に詰めている人員は少ない。何時まで持ちこたえれるか、全てはそこに集約されそうだ。
 幾万もの大地を踏みしめる音に、地面が揺れている。そう思ったのは気のせいであってほしいと願う蘭丸であった。

「蘭! 蘭は居らぬのかっ!」
 部屋の奥から出てきた男が叫んだ。



――その少し前――

 雲が月を隠し、木々が人の影を隠す。
「殿」
 鎧兜に身を固めた武者が一言告げた。そして神妙な――沈痛とも恐怖ともとれる表情で黙り込んだ。
 他には何も告げる事なく、辺りは沈黙が支配した。しかし、そこを支配したのはただの沈黙ではなく、莫大な緊張をはらんだ沈黙。
 男は立ち上がり、静かに部下たちに告げた。
「行きます。敵は本能寺にあり……!」
 男の全てを賭けた戦いが始まろうとしていた。
 切れ長の瞳に、揺らぐ事のない決意が浮かび、覚悟を決めたのだ。
 男が告げた。

 ――この時、歴史が動いた。



「はっ。ただいま」
 主君の呼び出しに応え、廊下に控えた。勢いよく障子が開かれ、立派な髷を結った男が出てきた。小姓を見止めた男は視線を落とした。
「はっ、明智日向守光秀による謀反だ……にてございます」
 蘭は視線に応え、問われる前に答えた。塀の外に見える馬印がその言葉が事実であること示していた。
「……で、あるか」
 男は静かに考えたのも束の間。すぐに指示を飛ばす。
「儂の弓を持って参れ! と同時に女子供に坊主を逃がしてやれ」
 その言葉にいち早く反応したのは、誰でもない、逃げろと言われた女官であった。

「僭越ながら、殿! 私共も微力ながらも殿にお仕えする身。私共のみ逃げるという訳には参りませぬ」
 女官と雖も、武家の娘。そこには武家の娘に生まれた矜持が垣間見えた。城や砦――つまり防御側の施設から女子供が逃げ出すと言う事は負け戦、もしくはそうなる可能性がかなり高いという事を示しているのだから。

 男はまた静かに告げた。
「負けてやるつもり等、毛頭無い。が、十兵衛とて馬鹿ではあるまい」
 男はそこで一度言葉を切る。塀の方が何やら騒がしくなってきた寺の彼方此方から煙が燻り始めた。
「女子供はさっさと行くように。蘭、儂の弓を!」
 男は小姓から弓を受け取ると、堂々と歩き寺の縁側に進んだ。ただ、その歩みに何かしら普段との違いを感じたのは気のせいか、それともやはり何処か何時もと違っていたのだろうか。それはずっと側に仕えている蘭にも分からなかった。
 上弦の月が空に浮かび、辺りを弱々しく照らし出していた。


 縁側に着くと、彼方此処から火の手があがっていた。周りには弓を持ち応戦する者、瓶を持って消火に当たる者がいたが、やはり戦況は芳しくなかった。
「と、殿! 僭越ながらも早くお下がりくだされ! 此処はそう長くは持ちませぬ!」
 火矢が流星の如く降り注ぐ中で、配下の侍達は防衛せんと必死に戦っていた。
 縁側で獅子奮迅の働きで攻め立ててくる兵を薙ぎ倒していた侍が叫んだ。しかし、そんな叫びにも動じずに縁側に立った。
「者ども聞け! 儂が信長である! 武勲をたてたいものから掛かってこい!」
 男が、月夜に吼えた。



「おおーっ!」
 配下の者達が、主の言葉に応えた。どの者も顔が引き締まり、瞳には悲壮とも、勇敢ともとれるような決意がありありと映し出されていた。
 それもそのはず。
 彼らには、勝利という名の生と、敗北という名の死のどちらかしかないのだから。彼らの仕える主の殿は、裏切りは許さない。
 端正で眉目の整った顔立ちに、一抹の憂いを浮かべながら呟いた。

「……殿。貴方がいけないのです。貴方が……」
 男の呟やきは風に乗って何処かに飛んでいった。
「攻撃用意、全て整いました」
 何時の間にか、男の側に侍っていた武士が告げた。――覚悟はとっくに決まっている。
 ざわついているのは、周りの木々なのかはたまた男の心の奥底なのか。覚悟は決まっていたが、それの答えは出なかった。
「信長を討つのです! 討ち取った者は恩賞は思いのままぞっ!」



 弦が風を斬り、矢が疾る。

「どうしたっ!? 信長はまだ此処に生きておるぞ!」
 就寝のためだろうか。男は髪を結っておらず、長い黒髪が風に舞い、火矢の炎に映えていた。
 近づく敵兵を鉄拵えの弓で薙ぎ倒し、遠くの敵兵を矢で射抜く。まさに一騎当千の言葉にふさわしい武者ぶりであった。
 しかし、それも長くは続かなかった。



「信長を討てっ! 討てーっ!」
 馬上で声を枯らしながらも叫び続けていた男に、朗報が入った。信長らしき男が縁側にて陣頭指揮をとり戦っているというのである。影武者という可能性も捨てきれないが、ここに詰めている人員は多くなく警備は薄くなっている。よってその男というのは信長本人である可能性が高いといえた。だからこそ、今こうして攻める決断を下したのであるが。

 一番の懸念であった逃げられるという可能性が下がった事に、男は正直安堵した。今この場から信長を逃がしたら、自身に待ち受けるものは破滅である。柴田に丹羽、滝川に羽柴。信長の腹心である彼らを一気に相手としたら結果は火を見るより明らかである。
 そして、それ以上に恐ろしいのが逆上した信長を相手にせねばならないと事。詰まる所、男には後がないのだ。

 だからこそ、この報に安堵した。可能性が下がったから。自身の滅亡という可能性が。
「行けっ! 行くのだ! 何としても信長を打ち取れっ!」
 天下はすぐそこまで来ている、そのはずなのだから。



「どうしたどうしたっ! まだまだ此処で生きてますよ!」
 矢を番え引き絞り、すぐさま射る。
 矢が飛ぶ。しかし、狙った所とは見当違いの場所へ飛んでいった。
「っ!」
 信長の顔に、初めて焦りの表情が浮かんだ。周りを守護せし武士達が一人、また一人と生き絶えようとも一切動揺の欠片すら見せなかった男が、だ。
 人の身でありながらも、多少世を見据える事のできる眼を有していた故か。それとも直観的に捉えたのだろうか。

「…蘭」
 信長は静かに告げた。あたりを見渡せば、無数の敵兵の骸にまじって、部下達の遺骸が幾つも横たわっていた。
 弦が切れた事は、きっかけに過ぎなかった。
「四半時時間を稼げるか?」
 尋ねた男は奇しくも、はじめに信長に逃げるよう上申した男であった。その男は左の二の腕と右の太股を矢で射ぬかれていた。
「……はっ。命に代えましても四半時の時間、稼いでみせましょうぞ。……御心、お静かに」

 男の顔に浮かんだのは、悲しみや悔しさ、後悔とも自責の念ともとれる――全てをはらんだ表情であった。
「うむ。ありがとう」
 ただ、その一言のみを残し火矢の炎が廻り始めた御堂の奥へと消えていった。小姓の蘭丸のみを引き連れて。

「者ども! あと四半時、必ずや此処を死守する! 心せよっ!」
 その言葉は何処か遠く、茜色の空に吸い込まれて消えていった。


 当然ではあったが、中には女官たちの姿はすでになく人一人いなかった。誰もいない室内は暗く、冷たいものであった。そして、信長は思いめぐらした。
 “天下布武”の旗の下、旧来の悪習、しがらみ、古き秩序を壊し、真の天下統一に向けて進んできた。その道のは茨の道であり、無数の屍の道でもあった。

 刃向かう者には容赦はしなかった。その事に後悔はしていない。たとえ、天下統一を目の前に、志半ばにて想い断たれる事になったとしても。
 それは、今まで自分が他の討ち取った者にしてきた事と同じ事であり、たまたま今この時が自分の順番であるというだけの事。天下統一を目の前にして――と思わないでもないが、不思議とその事実をすんなりと受け入れている己自身もいた。

 蘭丸に刀を渡し、心を落ち着かせるために一呼吸。白装束に身を包み、扇子を手に御堂の中心に進み出る。敵の放った火矢の炎が回ってきており、梁が燃え、柱が燃え、床が燃えていた。あたかも日の下にいるかの如き明るさ。熱を持ち、後には何も残さない明かりの中で幸若を舞う。
 共に死すべき運命の者達の分もと。


「――人間五十年下天のうちに暮らぶれば――」
 扇子を広げ、ついと前に進み出る。目の前の炎の壁を蹴散らさんとばかりに。


「――夢幻の如くなり――」
 扇子で空を斬り、足で床を踏みしめ、最後の舞を舞う。


「――一度生を得て滅せぬ者のあるぺぎゃっ


















 辺りを何とも言い難い静寂が包みこんだ。


 着物の裾が舞いのせいで乱れ、踏んでしまったのだ。
「い、いったぁーい……っあぅ〜」
 無言のプレッシャーに耐えかねた信長が情けない声を発した。こけたままの格好で固まっているものの、時間がたつのと同時に小さくなっていく。

 ズンズンズン。

 優雅に歩いてきているのに、その足音はまるで床を踏み抜かんばかりに響く。そのぬしはおもっいっきり息を吸い込んだ後に、一気に言い放った。
「氷室さんっ!!」
「………あぅ〜ごめんなさいぃ」
 そこには肩を怒らせた光秀と小さくなって反省している信長という、ある意味下克上が成った光景があった。



 それから二時間後。



「全く。あれほど舞いのシーンは『見せ場だから練習しといて下さいね』って言っておいたのに」
 と今だにお冠な光秀と、
「まぁお前もそう言うなって。本番でミスしたわけじゃねーし、寧ろ練習って本番に向けて失敗する場だろ?」
 と場を取り持ちつつ、意外な事に正論を展開している蘭丸と、
「あぅ〜。ごめんなさぁ〜い」
 と、小さくなっている信長が某ファーストフード店で発見されたとか。








           唐突に終わる。









「……それはそうと、貴女、正論を言う事が出来たのですわね」
「どうゆう意味だっ!!!?」
「まぁーまぁー」


           本当に終わる。







 ちなみに、文化祭で公演された演劇において、新たに後輩から「お姉さまと呼ばせてください!」や「是非、私にロザリオをください!」など、詰め寄られた人物がいたのは、秘密である。
 尚、某元幽霊さんは、本番で練習と同じミスをやらかしてしまい、シリアスな劇が一気にコメディーと化したのは、必然であった。

 そして、この演劇を録画したビデオが某オカルトショップの店頭に並ぶのを、水際で阻止した某除霊事務所所長によれば、「ケジメは取らせたから大丈夫」や「(ピーー:プライバシー保護のため一部保護音を入れております)さん、不潔です!」などの証言が得ることができたが、一体何があったのかは、不明である。
 不明って言ったら不明である。

           本当に終われ。






「で、文化祭当日の方は?」
 ………………。


           本当に終わりですってば(泣)


 後書きという名の言い訳。
 まずは、夜話100万HITおめでとうございます〜(ドンドン♪パフパフー♪)

 さて、えっと、何も言わずに逃走すると嫌な予感がするので、言い訳を。
 まずは某氏へ。「本能寺」で「GS」ならOKっ言いましたからね。コレで負債返済だぁー<言い訳その一
 本当にもう続きません。<言い訳(?)その二
 さて、お約束(?)もした所で、逃げますw(ぉぃ



△記事頭
  1. 配役に問題があるような〜。信長と蘭丸は入れ替えたほうがいいって!絶対そっちのほうがあってるよ!
    だって蘭丸は美人なんだぞ!!!
    信長は美男子ってほどでもないはずだし、なんでおキヌちゃんがあっちなんだあ!!俺が信長だったら絶対おキヌ蘭丸を傍に置く!ていうかヤる!そんなに甘い男やないで俺はーー!!!
    九尾(2004.11.01 01:51)】
  2. ・・・・GS?
    サキ(2004.11.01 03:25)】
  3. ん〜たしかに最初これジパングかとも思ったけどGSですなぁ。
    信長といえば比叡山を焼き討ちした神社仏閣の天敵、その役を普段巫女姿のオキヌちゃんがやるとは(笑)
    ミスターS(2004.11.01 06:07)】
  4.  新たに>って何ですか!?という事は、今までそういう事があったと言う事なんですよね(笑)!?
    リーマン(2004.11.01 07:11)】
  5.  そう言えば劇場版では信長(に化けていた吸血鬼)と対決したんですよね。
     それでなくとも信長は戦国ものでは「神に背いても信念を貫く」歴史人物の定番(他には三国志の曹操など)にして伝奇歴史ものでは魔道の力のお得意様として有名な人物。(キリスト教布教についても実はその裏にある暗黒面の力を求めていたと言う話もあるとか)
     さらにはリメイク予定と言う大魔神が現代的センスでやるのなら間違い無く悪領主のイメージになりそうなキャラでもあるのですが、そう言う人物を題材にお芝居をすると言うのはさすがに反則ではないでしょうか?“退魔士育成学校”である六道女学院としては。

     おキヌちゃんの信長役…そう言う点では新解釈ですね。「はうう〜」なノリもSS世界では逆に新鮮です。
     せめてかおりと魔弓を入れ替えると言う点でどうでしょうか?(苦笑)
    ATK51(2004.11.01 22:38)】

▲記事頭


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