栄光Ver.2がライフルを三点バーストで撃った。
敵ACは容易にそれをかわす。
純白のボディに頭部だけが紅く染められたその機体は、その細身ともあいまって美術品のような美しさを醸し出していた。
敵が射撃をかわした隙に、ポチは自機を遮蔽物の陰に隠れさせる。
彼は装備選択を肩武装のミサイルに切り替え、機体の向きを敵機が存在するとおぼしき方向へ向けた。
そしてポチは自機のFCSが与える広めのサイト範囲を生かし、敵機をロックオンしたまま機体を横移動させ遮蔽から飛び出る。
「くらえっ!」
『ぬっ!?甘いでござるっ』
栄光Ver.2の右肩に装備されたミサイルポッドから、FCSのロック可能限界数である4発のミサイルが連続発射される。
だが凄まじい高機動性を誇る敵機は、OBすら使うことなくひらひらと全てのミサイルをかわした。
外れたミサイルは、ある物は地面、ある物は建造物へと激突する。
『え〜、防衛対象の被害が増大しているのね〜』
「わかってらぁっ!!ちっくしょぉ〜」
ペスの指摘というか突っ込みに、ポチは泣きが入った。
報酬の特別減算ならばまだ良い。
あまりに被害が拡大しては任務失敗になってしまうのだ。
彼は敵ACの肩に搭載されている装備を苦々しい思いで見つめる。
「くっそ…ミサイルポッドかと思ったら補助ブースターじゃねぇかよっ!あんな高級品使いやがってぇ〜」
その機体に装備されている補助ブースターは、AC両肩のハードポイントを埋めてしまうが、そのかわりに尋常ではない機動性を与える。
しかもその値段たるや、ポチの栄光Ver.2の肩装備…右肩のミサイルポッド、左肩のレーダー両方合わせた価格の二倍以上だ。
付け加えて言えば、ポチが使っているレーダーは彼がレイヴンになった時にレイヴンズ・アークが支給してくれた中古パーツで、軽量さ以外にはなんら利点が無い安物だったりする。
ポチの心にめらめらと怒りの炎が燃え上がった。
「お・の・れええええぇぇぇ〜〜〜!カトンボめっ!叩き落してくれるわっ!」
『…貧乏人の嫉妬は見苦しいのね〜』
「だーらっしゃぁぃっ!!」
ポチはライフルを乱射し、弾幕を張る。
さすがに敵機はその全てをかわしきる事はできず、被弾した。
だがそれでもその被弾率は最小限に抑えられている。
ポチが選択しているバーストライフルは、一発一発のダメージはさほどではなく数を当ててナンボという武器なのだ。
ぽつぽつ当たった程度では、相手が軽量級と言えどさほど意味は無い。
『おのれチクチクとっ!さっさと沈むが良いでござる!』
突如敵ACは空中で左腕を大きく振った。
左腕の先端から、赤みがかった光の円盤が射出されて栄光Ver.2へと迫る。
円盤状の光の弾丸…ブレード光波と呼ばれる攻撃は見事ポチの機体のド真ん中に命中した。
「のわあああぁぁぁっ!?」
『でやっ!でやっ!でやっ!でやあああぁぁぁっ!!』
「のわっ!のわっ!のわっ!のわあああぁぁぁっ!?」
敵機は着地すると更に光波を連打する。
ポチは必死でそれを回避するが、それでも半数は避けきれずに直撃を食らった。
このブレード光波という攻撃は、ACの左腕に装備されることが多いレーザーブレードの剣技の一つである。
この技を使うには、極めて精密なジェネレータ、ブースター、ブレードの出力制御が要求される。
それ故、かつてはこの技を使えるのは今では伝説となってしまっている特殊な改造パイロット…『強化人間』だけであった。
だが現在はブレードの制御システムや構造自体が進歩し、この敵ACのようにお気軽お気楽に特にどうと言う事も無く光波を発する事ができる特殊ブレードも存在している。
それにまた通常のレーザーブレードであってもパイロットの腕次第で、コツは必要なものの光波を撃つ事も可能になっているのだ。
ちなみに敵機が装備しているのは両腕の機構それ自体にブレードを組み込んだキサラギ社の新製品である。
当然高級品だ。
値段も高い。
ポチは悔し涙を流した。
「くそっ!この世は金が全てなのかっ!?俺みたいなビンボー人はどうあがいてもブルジョアには勝てんとゆーのかっ!?」
『でもこの相手、腕もたしかなのね〜。FCSでロックオンができないブレード光波をビシバシ当ててきてるのね〜』
「おまえはどっちの味方じゃーーー!」
『…トドメでござるっ!』
ペスの突っ込みに泣き喚くポチをよそに、敵はOBを起動して超高速で突っ込んでくる。
このままズタボロの栄光Ver.2を両手のブレードで直になます斬りにするつもりだ。
ポチは叫んだ。
「わーーー!もーあかーーーん!!」
『南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏、あーめん…なのね〜』
『うおおおおおぉぉぉぉっ!!』
ばすん。
突如敵のACが止まった。
ポチの目の前で、敵機はその両の腕をぶんぶんと振り回すだけ振り回している。
だがその両腕の先からは、光の刃はぜんぜん欠片も生み出されはしない。
「…?」
『な!?い、いったいナニがっ!?びーびーびーナニがおこったんでござるかっ!?』
「………」
開きっぱなしの敵ACの外部スピーカーから、パイロットの声に混じってかすかに聞きなれたブザー音が聞こえる。
ポチはこの音をよく知っていた。
ACというものは、基本的にジェネレータから発生したエネルギーをコンデンサに貯め、そのコンデンサのチャージを使って戦闘機動を行う。
そしてそのチャージ分を完全に使いきってしまうと、再びチャージが完了するまでは一切ブースターやエネルギー兵器を使えなくなってしまうのである。
『ブレードが出ないでござるっ!びーびーびー何でっ!何で出ないんでござるっ!』
『何考えてんのよこのバカ犬!びーびーびー』
『狼でござるっ!びーびーびー拙者のレイヴン名はホワイトウルフでござるっ!』
『アンタなんか犬で充分よっ!びーびーびーチャージ使い切るなって何度口酸っぱくして言ったと思ってんのよっ!びーびーびー予備電池使いなさい、電池ぃっ!』
どうやらうっかり外部への音声出力を開きっぱなしにしたまま、オペレータと怒鳴りあっている模様である。
ポチは徐に動きの止まった敵機の右腕付根にライフルを押し当てると、引き金を引いた。
『うわああああぁぁぁっ!?ひ、卑怯なっ!』
「戦場に卑怯もクソもあるかっ!!」
『あああああぁぁぁっ!?』
ポチはさらに相手の左腕付根も同様に打ち抜く。
軽量級の悲しさ、敵ACの両腕はそれだけでだらりと垂れ下がって動かなくなった。
相手は泡を食って機体を急速後退させる。
軽量故の軽快さはあるもののその動きは、ブースターを使用できない以上先ほどまでとは比べるべくも無い。
ポチは栄光Ver.2の左手を振るう。
さらに彼はその一瞬を見計らい、ブースターを空噴かしさせた。
栄光Ver.2の左手に装備されたレーザーブレードが異常発光する。
ポチのブレード刀身&ブレード光波の二重攻撃が敵ACを直撃した。
『…う、ううっ…くそっ。トドメを刺すでござる…』
「ふん、言われんでも…」
『くっ…父上…申し訳ありません…』
ACにレーザーブレードを振りかぶらせたポチだったが、相手の口から漏れた言葉に思わず躊躇する。
ポチはこういう甘い所があった。
彼はけっして優しいというわけでは無い。
だが彼は戦闘中であるならばともかく、平静な状況で『人殺し』になる覚悟は出来ていないのだ。
(…そっか。そーなんだよな。俺が撃墜したMTやヘリとかにもパイロットって乗ってるんだよなぁ…。なんか麻痺しちまってたなぁ…。こいつの親も、そういう奴の一人だったんだろうなぁ)
『許してくだされ父上…。仇も討てず大事な形見の機体まで…』
『…レイヴン。…どーするのね〜?』
ポチはためらった。
彼は大きく溜息をついて項垂れる。
そして相手のACから声が響いた。
『…父上っ!許してくだされっ!拙者は仇を討てずここで果てまするっ!父上を殺した犬飼ポチの手でっ!』
「待でやゴルァ!!!犬飼って誰じゃいっ!!!」
ポチ操るAC『栄光Ver.2』は、操縦者の絶叫と共にホワイトウルフ駆るAC『雪狼』を蹴り倒した。
本日のレイヴン情報:
レイヴン名:ホワイトウルフ(♀)
本名:犬塚シロ
AC名:雪狼:788400C
頭部:CR−H73E:49500C
コア:CR−C840/UL:131000C
腕部:SYURA:128000C
脚部:CR−LH99XS:100400C
ブースター:B02−VULTURE(出力100%):75500C
ジェネレータ:CR−G78(出力100%):25500C
ラジエーター:R01−HAZEL(冷却100%):27000C
FCS:MF01−MUREX:29000C
インサイド:無し:0C
エクステンション:JIREN:115000C
右肩武装:WB31B−PEGASUS:107500C
左肩武装:同上:0C
右手武装:無し:0C
左手武装:無し:0C
右手格納:無し:0C
左手格納:無し:0C
機体解説:ホワイトウルフの父、ホワイトファングの遺品。
本来の装備は以下の通り。
腕部:CR−A94FL:87700C
右手武装:CR−WH69H:21800C
左手武装:WL−MOONLIGHT:55200C
もともとこの機体は、全体が真っ白く塗装されていた。
しかしある男にホワイトファングは殺され、WL−MOONLIGHTも奪われてしまう。
犯人はホワイトファングの親友だった犬飼ポチである。
ホワイトウルフは父が遺した金をはたいて腕部を武器腕SYURAに換装し、機体頭部を赤く塗り替えた。
備考:父親の仇討ちに燃える新人レイヴン。
父の機体を受け継いだので、そちらの面ではアークのお世話になっていない。
攻撃や回避など、操縦の腕前はかなり確か…なのだが、ちょっとばかりおバカ。
戦いでは頭に血が上り、コンデンサのエネルギー残量を忘れて暴走することも多い。
そのためしょっちゅう機体がエネルギーチャージ状態になり、立ち往生する。
そんな時はもうパニック。
エクステンションのJIREN(予備バッテリー)を使う事もすぽ〜んと頭から抜け落ちる。
そうなると只の標的。
エネルギー管理、熱管理のキビシィ『雪狼』は、ちょっと彼女には早すぎたかもしれない。
(あとがき)
えー、今回もまた何も考えずダラダラと書きなぐりました。
ちなみにAC−NEXUSなんで強化人間じゃなくてもブレード光波撃てます。
ところで、今回そこはかとなくこっそりと誰かさんが出てます。
名前出てませんが(笑)
というわけで、レス返しです〜。
>九尾さん
蜂なヒトじゃありませんでした(笑)
ちなみにPOCHIの方もゆっくりと進んでます。
投稿サイトさんの方がちょっち現在復旧作業中なんで、それに乗じて執筆速度を落としてるのは国家的機密です(笑)
>D,さん
えー、舞台がNEXUSなんでナインボールもネストも無いですゴメンなさい。
でもジノーヴィー役はいます。
…やっぱあの守銭道まっしぐらさんにするべきだろーなぁ…あ、いや魔人ガーAの方がいいかな。
ちなみに横っちは一応ブレードも使います。
ブレードばっかじゃないですけどね。
>都司さん
やっぱりわかりますよね、大当たりです。
ちなみに『9』ちゃんは出ないと思いますというか何も考えてませんので(笑)
というか考えて書いてませんこの作品(笑)
>ENDさん
ランカートップは誰にしようか迷ってます。
いちおう何も考えずにダラダラ続く予定です。
GSキャラ…ブレード使いと見せて、右手で銃を撃ちまくる西洋合理主義者とか(笑)
>極楽鳥さん
霊能関係は出ないでしょうね〜。
成長するのは横島君そのものより機体の方だったりして。
…ボクはガチタン使いなんですが、さすがに横島君にはガチタン似合わないですよねぇ…。
でも、ペスのオペレートは気が抜けるかぁ…(苦笑)
>朧霞さん
ボクはブレードいまだに使いこなせません。
というかNEXUSはブレード難しいらしいですね。
ちなみにオペさんがああいう事やってくれたら生き残れませんよねぇ(笑)
>しょっかーさん
やっぱり横島、騙されますよねぇ(笑)
どんな風に騙そうかなあ(爆)
>?さん
はい、大当たりです。
というか、ソレしかないでしょう(笑)