「あら?どうしたの皆本君」
これから冬になろうという時期、嫌でも足取りが速くなるのが人の常。
声を掛けた柏木女史もご多分に漏れずで何かに取り付かれるが如く、
手足を早く動かしていたその時。
ロビーのソファーで黄昏ている皆本を見かけて。
「柏木さん・・いや、特に何でも・・・」
ちらりと自分の方を見たがはぁ、と机に目を背けてしまった。
「大丈夫?何か悩み事?」
手に持っていた小難しい書類を机に無造作に置いて顔を覗き込むようにした。
「その・・あいつらなんです」
「あいつらって、あのオチビさん達の事?」
「えぇ」
最初は黙っていようとも思ったが柏木女史の目がそれを許さない。
「最近三人とも、特に薫が妙にその・・あの」
言いよどむ皆本の態度で全てがわかったとにたりと笑った女史。
「妙にモーションをかけてくる。じゃないの」
ぐっ、っと皆本の喉がなった。
「そうなんです!あいつらが時々僕のアパートへ勝手に泊まるはご存知ですよね」
「えぇ」
「最初は三人で『お泊り会だー』なんて喜んでいたんですがね」
喜んでいたんですがね。
何時の頃から時々僕の寝室に来たり、添い寝してくれなんて言ったり、
いや、そのぐらいなら可愛いものですよ。
そう昨日なんですよ。
「みなもとー」
「ん?どした薫」
丁度寝る前に大学時代に買って来た本を読んでいた皆本。
ドアをみやると、思わず手から本が落ちた。
「な、なんて格好してるんだ?薫」
下着姿なのは、ある程度慣れている。
逆算この年齢ならまぁ、しょうがないかという感はあるのだが。
今日身につけているのは。
サイズはぴったりだ。だが形が頂けない。
黒をあしらったその下着はヒラヒラでよもすれば高級娼婦か、
新婚さんでもないと身に着けたがらない一品である。
「お前なぁ!なんて格好してるんだ!10年は・・いや15年は早い!!」
という格好。
怒られてしゅんとすればまだ可愛いものだが。
「なに興奮してるんだよ。みなもとー」
勝手に皆本の隣に座り込んで肘で軽くアピールする始末である。
「興奮てなぁ・・」
頭を掻いた皆本。
それに準じるように薫も腕を後ろに回して髪をうなじからアップさせた。
「うふぅん」
鼻から抜ける甘い息まで披露する。
皆本は落とした本を拾おうと思えば両足で挟む始末。
それで少し手が触れただけで。
「このすけべー」
「ンのマセガキ!とっとと寝ろ、風邪引くぞ」
ぽんと表紙で頭を叩く。
「じゃあそうするわぁー」
と言って皆本のベットに入り込んでしまった。
唖然とする以外の行動を取れなかった皆本の耳に響いた次の言葉は。
「なんていったと思います?柏木さん」
「うーん、『優しくしてね』とか」
「・・・・・・なんで判るんですか」
そう、昨日『優しくしてね』とのたまった薫に流石に参ったという。
「ませてるわねぇ、私でも10歳じゃそんなことは言わなかったわ」
何か遠くを見るように嬉々としている柏木女史。
「そんな喜ぶことじゃないですよ」
「そうよねぇ、万一好事家の前でそんなことをしたらねぇ」
柏木女史の発言に皆本も彼女自身も一瞬暗い影を落としたが。
「まぁ、あいつらがそんなマニアックな人間に負けるとは思いませんがね」
「そうでしょうけどねぇ。でも良かったわ皆本君はノーマルで」
「ははは」
乾いた笑いが出るが矢張りため息も思わず出てしまう。
「じゃあ、ちょっと薫ちゃんには気の毒だけどいい方法教えようか?」
「良い方法?」
皆本の目の前が少しだけ光に包まれたとでも書いておこうか。
「そうねぇ、こんどお泊りする時に皆本君漫画読んでおくのよ」
「・・・漫画ですか?」
どうしてこれが良い方法なのか、さっぱりである。
「その漫画なんだけど、今でも売ってるかな?私が学生の頃に流行った漫画なんだけど・・」
数年前に読んだ漫画ではあるが題名を思い出すのに少し手間取った柏木女史がいた。
「はぁ、そういう名前の少女漫画ですか、はぁ」
その日、仕事が終わった後本屋に寄れば数冊教えてもらった漫画があった。
「これ下さい」
というには少々抵抗の要る表紙であった事を付け加えておこう。
さてその日、矢張り何時ぞやの、否それ以上にセクシーな格好で現れた薫。
「みなもと〜。起きてる〜?」
「・・・・・ったく」
男である以上どうにも奇妙な感情はこの時代は悪なのである。
「あぁ、起きてるよ。久しぶりに漫画読んでいた所だ」
と言うが、実際は書類に目を通していたようだが。
時間も関係していたが内容を確認していない。
「漫画?皆本が珍しいな。どんなんだ?」
「これ」
と、指を指す。
基本的に堅物で漫画なぞ読まぬと思っていた薫には新鮮であったようだ。
「読んでいい?」
「あぁ」
いくら超能力者でもそこは子供、漫画読むにしても思わず声が漏れる。
ところが、段々と声が小さくなってきて。
「あう・・あぁ」
その内に黙りこくってしまったので、思わず様子を伺う皆本。
どういう訳か顔を真っ赤にしている薫。
そして終には漫画を放り投げて。
「み、みなもとのすけべ!」
ぱたぱたとスリッパを鳴らして自分に宛がわれた部屋に戻ってしまった。
唖然とするは皆本である。
「??一体どーして」
床に落ちた漫画を拾ってページを捲ると。
「おおぅ」
堅物の皆本でも顔を赤らめてしまうほどの痴態が書かれた漫画。
思わず一巻から手に取ると。
やや生々しい性教育にも使えるのでは思えるほどの内容。
思わず表に「18禁」のマークが無いか調べたくなる程であった。
「少女漫画にしちゃ、濃いよな。コレ」
いくら女の子の方が発育は早いとしてもこれはどうかな、との感想である。
で次の日。
「どう?効果有った?」
「えぇ、有りすぎかもしれませんけど」
と言うのも。
昨日のうちに薫、残りの二人に皆本があんな漫画を読んでいたとしゃべったのか。
朝一番、葵の声が。
「皆本はん・・むっつり助平やったんやな」
志穂も志穂で。
「・・・・えっち」
小声ながらしっかりとアピール。
筆頭の薫に至っては声をかけるのも恥ずかしいという所か。
「ちょっと嫌われたかもですが・・にしてもどーして」
「うふ。簡単よ。あの年頃はね。まーつまりエッチは『可愛いもの』なのよね」
「?」
男には判らぬとしても問題ではなかろう。
一つの説明としては。
男女の行為その物は詳しくない。断片的に耳に入る程度の年頃である。
その秘密性に憧れる、若しくは好奇心はある。
行為の先にある結果もおませちゃんであればある程度は知っていよう。
加え発育の早い子は成長が始まったとしておかしくない。
その結果が女の子の方が発育が早いという事実。
「うーん。そうね。恋には憧れるけど愛には早いって感じ?」
「・・・良く判りません」
「皆本君もニブいのねぇ」
呆れ顔の柏木女史に反論の言葉もない皆本である。
何はともあれ少しの間はセクシー攻撃を避けられるわよと一言上申して、
仕事に戻った。
皆本も三人娘の父親役だけが仕事でない。彼も又仕事に戻った。
「ま、あーゆー性格の皆本君だから三人が懐いてるし、局長も任せてるんでしょうね」
パソコンの前で柏木女史がぽつりと呟いた。
FIN
あとがき。
いえ、嫌いじゃないんです。でも実際の所はどーかな?と考えた(妄想)したら、
こんな感じになりました。
別に他意はありません。ではまた。