病んだ心を持つ少年
「殺してどうするのですか、面倒ですよ、沙弓姉様」
凛の介入で、と言うかその後の面倒を察して沙弓の殺しの空気は散ったのか、殺意を霧散させ気を散らす、攻撃の意思を薄れさせ、それが合図となって凛も剣を降ろす。
「もういいですが、少し慎重になってください」
凛が不満そうに言うが、それだけだ。
殺人を未然に防いだ人間の台詞ではないが。
既に沙弓の心中は悟ったのだろう、殺意の有無は既にないということを。
沙弓は既に夕菜に興味は無いとばかりに銀のナイフを戻し、背を見せて離れていく、そこに別段の警戒は無い、既に警戒に値しないことを悟っているのかもしれない。
そしてほんの僅かに沙弓の戦闘に、僅かに無表情を歪めた和樹に近寄る。
和樹とて全くの情動が無いわけではなく、限りなく無いだけだ、何より闘争の空気には反応する。
そんな和樹に優しげな先程の怒りなど微塵も見せず慈母のような表情を向ける沙弓。
凛は汚らわしそうに夕菜と玖里子を睨み、やはりその表情に浮かんでいるのは侮蔑と怒り、金や権勢の為に人を自分の親しい人間を貶められた怒り。
凛としては親しいと言うだけではないが。
無論沙弓も凛を親しいと呼びはすまいが。
彼女たちはそれ以上だから。
凛は強く夕菜を一睨みして。
鞘に収められた刀の先でおもむろに夕菜の水月、鳩尾を突いた、手加減無く容赦なく、怒りを篭めて。
恐怖で震える夕菜は反応することもできずに凛の攻撃を受け、一瞬顧問の表情を浮かべ意識を失った。
打撃により強制的に横隔膜を刺激され肺の中の空気を吐き出され意識を飛ばさせる、もしかしたら肋骨を痛めたかもしれない。
だが攻撃を加えた凛の表情はやはり侮蔑と怒りそして僅かな喜悦、そうこれは単なる報復、大切なものに手を出した馬鹿に身の程を教えてやるといった風情。
もしくわ害虫を踏み潰したと言うような感覚だろうか。
「式森に下衆が近づくことは私も赦さない、ましてそんな理由では」
彼女とて、殺すまでもないとは思っていたが赦すつもりなどない、殺せば彼女の姉と兄の立場が拙くなる。
それだけだ。
故に痛めつけるのは一向に構わない、それに多少の苦痛を与えないと気もすまないのかもしれない。
それを眺めていた玖里子は目の前に居る二人の少女が自分の考えの及ばない精神を有しているのを悟ったのかもしれない。
動かない体に恐怖が走ったが。
幸運にも凛の暴力は玖里子に振るわれることはなかったが。
玖里子としては理解しがたかった。
当初彼女は快く和樹に近づいたわけではない。
本来ならば拒否されるのが目的であったともいえる。
彼女とて家の、しかも気に食わない長姉の言いなりに夫を決められ子を宿すほど、家に献身的でもなければ自虐的でも悲観的でもない。
だから当初は、強引に迫り拒否される算段だった、宮間の人間が来ることも察知していたし、それでどうせ騒動になって有耶無耶になると踏んでいたのかもしれない。
だが、今は。
目の前に居る二人の少女が理解できなかった。
自分をまるで人形のように扱い、本気で人を殺そうとし、絶大な魔力を一薙ぎで振り払う、そして恐怖で震える女の子を刀で殴りつける少女たち。
彼女の常識を超えていた。
彼女は考えていなかったのかもしれない、自分にとっての屈辱的な言い付けは、その相手にとっては、それもその相手を狂愛する人間にどれほど怒りを買うか。
そして知らなすぎた目の前にいる三人の狂気を。
彼らはひとりとしてまともではない。
彼女の常識を逸している。
「なんなのよ」
だからそれだけを呟いた。
理解できない人間に対する呟きを。
そして夕菜はぐったりと体を横たわらせ、気絶した、沙弓の初撃による頬の出血をそのままに、
鋭い一撃だったとはいえ刃物には適さない銀による一撃、傷痕は残るだろう。
自業自得ではあるが。
本来の彼女の美貌にすればこれはかなりの損失だろう、沙弓にしてみれば生きていられるだけ幸運といったところかもしれないが。
そして背中で凛の放った攻撃の音を聞きつつ沙弓は慈母の表情で、和樹に近寄った沙弓は優しげに口を開く。
先程のから残る空気の中でそれが妙に浮いて聞こえまた場違いにも感じるが、紛れもなく感情の篭った声。
優しい声、穏やかな声。
「和樹、ごめんね、煩かったでしょう」
彼女にとっては先程の殺人未遂が煩いと呼べる事象だったのか、それとも和樹が今のことを雑音としてしか認識していないのを見越してか。
先程の殺意など払拭し優しげに語りかけ、その頬を撫でる。
和樹はされるがままにされ、わずかに心地良さそうに頬を緩め、沙弓の頬に手を添える、まるで互いに慈しみ合うように。
もう一方の和樹の手が沙弓の綺麗な髪を梳く、無表情でありながら微妙な親愛の空気が流れ、その手の感触に沙弓が恍惚とした顔を浮かべる。
それをまた沙弓が上気した顔で反応する。
それを見やる凛の瞳が微妙に曇る、彼女はこの三人で一番常人に近い理性を保持している、彼女としては狂ってしまいたかったのかもしれないが。
和樹が求めたのは沙弓だった、凛ではなく。
凛も和樹を求めた、只凛は狂えなかった、和樹の狂気まで、和樹の狂気を見て恍惚に笑む沙弓の狂気にまで至れなかった、故に凛は踏み込めなかった。
恐らく望めば沙弓も和樹も同じ狂気の内にいることを赦し。
三人で狂気を保つ。
ただそれだけ。
二人の空間が三人になり、二人で和樹に尽くすだけ。
凛は心からそれを望み。
一歩手前で躊躇っていた、本能が躊躇う和樹の狂気はそれ程。
狂気を望むものがその狂気に躊躇うほどに。
そして今の沙弓と和樹の行動は、闘争の空気の後に二人が行う儀式、身に澱んだ殺意を浄化する手段、殺しと言う不浄を脱ぎ捨てる行為。
高ぶった気を、淫欲に昇華し、互いで霧散させる行為。
沙弓が、和樹が頬に互いに手を添えて唇をあわす、軽く触れ合うように合わせるだけの接吻。
「はぁっ、和樹、和樹」
傍観者を無視して何度も啄むように唇を合わせる、ゆっくりと徐々に長く深く。
そして次第に舌を絡め沙弓のはく息が艶を帯びる、情欲の発露を帯びさせる。
といっても傍観者もそれほど二人の睦みあいを見ていたいわけではない、と言うか当事者以外が居ないところでやってもらいたいことだ。
この二人には言っても聞かないだろうが。
特に沙弓は、闘争の後だけでなく気が昂ぶったり、和樹を失うという不安感に駆られるとこのような粘膜接触を望む、時たま昼休みや授業後にさえ求めるのだから。
沙弓ははっきり言うと節操なしに和樹を求め、そして沙弓の淫欲に和樹は答える。
和樹は沙弓に依存し、沙弓は和樹の存在に精神を保つ。
狂った精神ではあろうが。
だが、このまま無視して交尾でもされたらたまったものではない。
特に凛が。
凛とて和樹に愛を超越した感情を抱いているのだから、只沙弓より幾分理性的で、後塵を拝しているだけだ。
「沙弓姉様、和樹兄様、おやめ下さい、そういうことは後で存分にしてください、私を混ぜてくれると嬉しいですが」
微妙に頬を赤らめながら嫌そうに凛がたしなめる、一部不穏なことを言ってはいる、後塵を拝しているとはいえ、和樹とは既に交わっているらしい。
その言葉に沙弓は絡めた舌を解き凛のほうに蕩けた顔を向けて淫靡に笑う。
それは邪魔をされた不快というよりは何かを期待する笑み。
とても淫靡な笑み。
沙弓は特定の恋愛に対する禁忌と言うのを持っていない、そんなちゃちな常識などとうに捨て去っている。
和樹の癒しとなる女性ならば体を交えようと構わないと考えている、自分の愛する男を共に愛するならばそれも和樹を理解し身を捧げる覚悟を持つならば。
沙弓はその女さえも愛する、和樹の狂気を支えるには自分の狂気では足りないとわかっているから。
沙弓は凛が直ぐにこちら側に来ることを察している。
凛は沙弓と和樹の双方に愛されるようになり、双方を愛するだろう、それが世間的な愛と言う定義とは外れようと。
表現するには愛もしくは狂える愛、もしくは連帯意識。
だが言葉を無視して再び舌を絡め互いの口を蹂躙する。
沙弓の手が和樹の服を脱がし和樹の手が沙弓の女を刺激する。
そこからは狂態の饗宴が始まった、未だ玖里子が動けないものの意識を保っていると言うのに。
凛が沙弓と唇をあわし、和樹と合わせる、三人で舌を絡ませ互いの体を愛撫する。
それはとても淫靡で背徳的。
舌を絡ませる間に沙弓と凛は半裸になり、沙弓は豊満な乳房をあらわにしそれを和樹に押し付け首筋に下を這わせる。
凛は下着を脱ぎ捨て、純白の臀部を露にして女陰を晒し、和樹の股間に顔を埋め、陰茎に舌を這わす
室内に淫らな水音が木霊し。
そして徐々に少女の声の質が変わる。
和樹は未だに無表情だが、その手は沙弓の乳房を揉み、乳首を摘み刺激し、舌で舐る。
もう一方の手で、凛の股間に指を這わせ、その亀裂に指を挿入し刺激する、その指の動きが変わるたびに甲高い声が響き彼女の悦びが鳴き、一層口の動きが激しくなる。
そして和樹が横になり、今度は沙弓がその豊満な乳で和樹の男を包み上下に刺激し、先端を舌で愛撫する、その先端から生じる液体をまるで美酒のように嬉々とした表情で舐め採りながら。
凛は和樹の顔の上に跨り、今にも達しそうな表情で女陰を舌と指で舐られている。
時折、体を震わせ歓喜の声をあげ最後には和樹の顔に座り込み陰唇を押し付け直接舌を挿入され、和樹のモノを口に含み背中から沙弓の手で乳房を愛撫され首筋に舌を這わされアナルを刺激され達する。
そして凛が絶頂に達し恍惚としている間に、沙弓が和樹のモノを女陰に挿入し享楽の表情を浮かべ始める、挿入されるだけでイってしまい、それでも自分から激しく腰を振り和樹を刺激する。
暫くするうちに和樹も達し、熱いスペルマが沙弓に注がれるが、それでは和樹は止まらない、無表情な顔の中でも、わずかな征服欲のようなものが垣間見え衰えない男根が貫き続ける。
それからは凛が復活し、沙弓の挿入部に舌を這わしたり。
互いに交互に貫かれたり、片方が貫かれているときは貫かれている女が残りの女の女陰を舌で奉仕するなどの饗宴が続く。
和樹の性が凛の膣に、沙弓の膣に、互いの顔に口に胸に放たれ互いにそれを嘗め合い、最後には二人のしたを絡ませるように和樹を舌で悦ばせ果てさせることで終わった。
あまりに淫靡でモラルに反した男女の交配。
避妊など考えず性を放ち。
もし子が為ればこの二人はその子を狂気の喜びの中愛でるだろう、世間体など考えず。
愛する男の子ならばそれが他者の子であれ愛するだろうから。
それを見せ付けられた玖里子はもう何がなんだかわからなくなっていた。
彼女は本来純粋で男女間のことには見た目や彼女の風聞から見れば初心な少女。
男女の交わりなど経験がなく、それを見たこともない、それを見せ付けられる衝撃は如何程のものか。
只、年齢相応の少女の好奇心として彼女の股間は湿り、興奮はしていたのだが。
それは致し方ない。
因みに夕菜は未だ気絶中、起きていれば寮が吹き飛んでいるであろうが。
で、情事も終わり、幾分落ち着いたときの少女の開口一番の台詞。
「いたの?」
玖里子に対する言葉である、どうやらマジに存在すら忘れ去っていたらしい。
興奮状態の沙弓は欲情状態から和樹に目を向けるのに集中し、凛は夕菜をぶちのめしたあと、この二人の行為で火がつきやはり無視。
現在二人共腰に辛うじてスカートを引っ掛け片足に下着、上着は凛が胸を全開で引っ掛けているだけで、体のあちこちに精液がこびりついているのだが。
因みに和樹はそんな様子の凛を横抱きにして髪を梳いて時折唇をあわしている。
凛は恍惚としているのだが和樹が無表情なのでどうも睦みあいには見えない。
沙弓はスカートだけの半裸で呆然としている玖里子を見据え続ける。
「人の情事の鑑賞は如何だったかしら風椿」
微妙にからかうように嘲る様に言う。
玖里子は未だ反応できていなかったが。
只呆然とし、それから何かわからないうちに気付いたら玖里子は寮をあとにしていたようだ。
因みに意識を取り戻さなかった夕菜は沙弓と凛によっ両足を持って引きずられ近くの生ゴミを捨てるところに放置されたと言う。
目が覚めたとき辺りに猫や烏がいたらしいが。
えさにでも見えたのだろうか。
後書き。
なんとなく中途半端な終わり方ですが。
今回は凛ちゃんの立場といったところですか。
次回は蒼崎橙子などの空の境界メンバーを出していきたいと思います。
また和樹の狂気の理解者はあと一名です、さて誰でしょうか。
凛の能力は。
勿論剣術と彼女自身が編み出した特殊歩法“縮地”と“立体跳躍”と言う高速戦闘タイプです。
“縮地”は一歩でとんでもない距離を高速で移動したり、またその運動エネルギーでの突進攻撃など、こちらは直線的な高速攻撃です。
“立体跳躍”は縮地の応用版、地を蹴り壁を蹴り、天井を蹴っての360度の立体攻撃、こちらは手数が命の室内限定技。
あと和樹の感情崩壊に関しては近い内に。
レス返しです
>D,様
凛ちゃんも同種です、沙弓ほど和樹に依存されていないのが彼女の悩みですし、和樹の領域に踏み込めないのも彼女の悩みです。
あと分類するならば同族ですね、でも夕菜も暫く付き合えば和樹がどんな人間かわかって諦める・・・・・わけないよなぁ。
>nacky様
B組は既に沙弓により調教済みなんですよね、和樹沙弓の二人には不干渉と言う、勿論酷い目にあったのは仲丸ですが、それはもう沙弓の人間サンドバックに成り果ててくれました。
凛ちゃんは協力者と言うよりは協賛者といったところでしょうか。
>九尾様
当たりです。
玖里子さんは後日ちゃんと扱う予定です、ここまで異常な現実を見せられて彼女の好奇心が動かないわけがないですから、只玖里子さんってかなり純情ですから今回で引いているかも。
夕菜は凛にさえ酷い目にあわされました。
>漆黒様
和樹の過去と言うより沙弓、凛の過去と括れるんですがかなり悲惨ですね。
只結うな背後余り出番がありません、玖里子さんは少々、千早は考えておりません。
>MAGIふぁ様
無邪気だから赦されるものでもありませんし、原作でも行き過ぎのところがありますから。
和樹に恋愛の自由なんてないかんじだし、10年以上前の約束を守る義理も普通ないですから。
あとご指摘ありがとう御座います、少しあの表現は拙かったですね。