病んだ心を持つ少年
第二話
自分の安息の地に入り込んだ異物である二人に険しい目を向けながら沙弓が口を開く。
「貴方達、誰、勝手に入ってきて出て行ってくれない目障りよ」
初対面の人間に向けて言う言葉ではないだろう、友好などと言う感情を廃して完全な敵意一色の言葉を吐き和樹の前に立つ沙弓。
まるで和樹を外敵から、それとも外からの干渉に触れるのを嫌悪するように。
そして紛れも無く、この二人は和樹を詰問し、和樹に触れた、十分に敵と言う範疇に入る行為をしている。
家宅不法侵入だけど。
だがそのような態度がこの二人には受け入れがたいし、ここまでの敵意がむけられるのがわからない。
それに彼女たちにも事情がある。
この二人の事情や欲望にとっては目の前の沙弓の敵意は鬱陶しくてしょうがないのだ。
風椿玖里子は個人の事情により、目の前の少年を欲し。
そしていきなり力任せに振り回されたことに怒りを湛えていたが、只この少女は幾分冷静ではあったが。
元々感情に振り回されるよりは理性で自己を支配するタイプの人間なのだろうから。
この場では賢明である、多分。
その沙弓の様子を観察し目に自分たちへの怒りがあることは察知していたのだから、自分達の来た目的すら見抜かれているかもと考えると強くは出られない。
彼女たちの事情と言うのは世間的に褒められたものではないだろうから、特に親しい間柄と思われる人間には。
で、本家本元の不法侵入者宮間夕菜、因みに自分が不法侵入していることの自覚は無い。
問題はこちら、その沙弓の怒りに気付かず、理性よりも感情と欲望を優先させる種類の人間。
宮間夕菜は個人の願望により少年を欲し、他者の事情を鑑みず、只欲望のまま目の前の少女に牙を剥く。
特に夕菜と呼ばれる少女にとって少年は自分の偶像の中で最も大切な存在と成り果てているのだから。
只、人間は十年もたてば変わる、優しい男の子が、眉一つ動かすことなく笑い合っている人間の首を掻っ切るような人間になることもある。
そこまで行かなくても、女を食い物にする外道に育っていることなど無きにしも非ず、自己の偶像の通りに成長してくれるなど所詮虚構に過ぎない。
彼女は考えているのだろうか。
少年が昔のように優しい少年ではなくなっている可能性を。
少年が自分を覚えていない可能性を。
そしてその自分の思い込みが自分の欲望がどれだけ他人を傷つける可能性を孕んでいるのかを。
恐らくは考えていない自分の中の偶像、虚構こそが全ての少女はそんなことを考えもしない。
「貴方こそ誰なんですか、何でここに居るんですか!!! 私は和樹さんとお話しているんです邪魔しないでください、それにいきなり何するですか、玖里子さんを突き飛ばすだなんて」
どこかのSSの自分の行動を振り返って貰いたい、君はそれ以上のことをやらかしている(作者の別の小説でもいいが)、それ以前に家宅不法侵入は十分に刑法に抵触しとる。
住人やその知人に危害を加えられて文句を言うことのほうが筋違いだろう。
何より先に犯罪やらかしたのは自分たちなのだから、玖里子も許可を取っていないと言う時点で同じ。
どうせ自分がやっていることは愛しい人の為となり、自己内で正当だと補完されているのだろうが。
そしてそこに立ちふさがる沙弓は自分にとっての理不尽な邪魔者といったところか。
迷惑なことだ。
「私は杜崎沙弓、不法侵入者を撃退して何が悪いのかしら、それに和樹が貴方と話をすることは何も無いわ、消えなさい」
声に感情も交えず、その目に怒りのみを湛えて沙弓が述べる、本当に目障りなのだろう。
まるで夕菜と玖里子を見る視線は邪魔者を見ると言うよりは煩わしい不要物を見る目、人間を見る目ではない。
器物に対して怒りをぶつけているような印象を受ける目だった。
存在することに対する怒りのようなものだろう。
彼女としてはこれから和樹のために食事を作り、世話をして、数少ない会話を交わす、夜になれば体を合わせ、互いの存在を確認し、自分の体を貪られる甘美な時間。
そんなどこか歪んでいるが二人の愛情の為の時間に踏み込んだ異物など。
しかも和樹に責めるような調子で話しかける女など。
敵、それが沙弓の認識のすべて。
因みに和樹は沙弓が現れて以後、本を閉じ沙弓の様子にだけ注視していた。
完全に二人の存在を無視しつつ。
まるで沙弓のみが彼の世界と言うように。
喧騒は続く。
沙弓のある意味筋の通った反論を受けても夕菜が納得することは無く、更に激昂する。
彼女にしてみれば見ず知らずの女が自分の愛しい人に親しいと言うだけで気に入らないのに、消えろなどといわれて感情が高ぶらないわけが無い。
時折なにやら叫んだりしているがどうもあまり的を得た意味を叫んでいるとは言いがたい。
隣に居る玖里子はそんな夕菜の様子に逆に冷静になったのか口を開く。
「杜崎沙弓だっけ、あんたさ自分が何でここに居るってのに答えてないわよ」
確かに答えていない、そこに気付くのが玖里子の目敏さだろうが、ここでは混乱を招く要素になるだろう。
もう十分に混乱しているだろうが。
一人の少女限定で。
沙弓はその問いに、怒りの視線を湛えたまま言い切る。
「私が何でここに居るのかってこと、私がここに居るのが当たり前だから、それを和樹が赦してくれるからよ、何か問題があるの、貴方たちは和樹の許可を得てここに居るのかしら、私がここに居てはいけない理由でもあるの」
二人の関係を言うと、只この二人は恋人ではない。
決して、恋人やそれに類する単語ではこの二人の関係は表現できない、沙弓自身もそうは思っていない、そんな甘い関係ではない。
この二人は相棒、肉体関係があろうと、沙弓が和樹を狂えるほど愛していようとこの二人には恋愛関係と言うのは似合わない。
一方が狂愛し一方は存在を赦し依存しているだけ、それにこの二人は愛と言う言葉の表現外にありうるだろうから。
この壊れた少年と、壊れた少年をめでる壊れた少女は寄り添うように生き、二人で一つの自己を保っている。
半身とも言える存在、これはちゃちな恋や愛ではなく自身の命すら他者と共有する相棒と言う表現こそが相応しい、この狂った二人には常人の愛などと言う定義などと言うわくでは収まらないだろうから。
例え沙弓が和樹の子を成したとしてもそれを愛の結晶と呼べるかどうかは疑わしい、信頼の証とでなら、といったところだろう。
だが、わからない彼女たち二人はわからない、目の前に居る人間が壊れ、狂っていることなどわからない、只変わった人間、乱暴な女、無口な少年としか映っていない。
この狂った関係を形成する何よりも繋がった二人の関係を知るすべは無いのだから。
そして沙弓の言は夕菜を怒らせる。
「どういうことですか、何で貴方が和樹さんと一緒に居るんですか、そんなの問題あります、それに貴方に私がここに居ることを指図される謂れはありません」
因みに幾ら問題があろうと夕菜がそれを指摘する権利は無い。
激昂し沙弓を睨みつけながら怒鳴るが、沙弓はいくらかマシそうな玖里子に目を向け、和樹は我関せずと沙弓に目を向ける、まるでそれ以外には関心を払わずに。
沙弓は激昂する夕菜を無視して、会話する価値が無いとみなして玖里子を見て口を開く。
但し先程から一切の感情を怒りに集中させて、それでいて口調は荒げない無感情な声のままだ。
冷徹なる激情の中の理性、沙弓は感情の操作に長けている。
怒りに染まっていてもそう易々とは感情に身を任せない、それでも言葉の端々が険悪になるのは致し方ないだろうが。
この二人に好意を示す理由など微塵も無いのだから。
沙弓にとってはすでに排除すべきものとして認定されているわけだし。
「今度は私が質問するわ、何で貴女達がここにきているの、ここは女人禁制の男子寮なのよ、私のように許可を取っているわけじゃあないでしょう、質問に答えて出て行きなさい、学校に連絡するわよ」
淡々と、それで居て悪意を込めている、男女関係に五月蝿い学校側に知られれば良くて訓告悪ければ停学、沙弓は事情が知られているので痛くも痒くもない。
玖里子とて、実家に理事が居るとしてもあからさまな優遇はされまい、規律の問題になるからだ、沙弓としてはさっさと出て行かなければ問題にするぞと脅しているようなものだ。
どうやら沙弓まだまだ理性は保っているようだ、やり方が陰湿ではあるが切れてはいない。
この台詞に夕菜が更に激昂するが、描写するのも面倒くさいので却下。
玖里子は嫌そうに顔を歪めて、口を開く、どうやら彼女にとっても拙いようだ。
「私らがここに来た理由ってこと?」
玖里子が自分を指で指しつつ、確認を取る。
「言いたくなければ、どうでもいいわさっさと帰ってくれたほうが助かるし、消えてくれると感謝ぐらいしてあげるわよ」
本心からそう思っているのだろう、事情などどうでもいいから消えてくれと。
消えてくれたら沙弓は、愛しい和樹の世話ができるのだから。
実際、消えるべきだった、わけなど話さず、目の前の二人の狂気を感じて諦めるべきだった。
この少女の琴線に触れるような言は吐かずに。
只単純に言葉を吐き出す、玖里子、自分たちがここに来た理由を。
自分たちが家にいわれてきたと言うこと、和樹を婿として迎えろと、それが和樹の血に眠る強大な遺伝子の為である事、それが自分の家の隆盛を更に上げるためであること。
そして和樹の子が強大な魔術師になることは確実なこと。
途中で夕菜がなにやら叫んでいたが彼女とて大筋では大差ない。
そこに和樹本人の意思など感じられず、只邸のいい種馬にしようとする意思しか見て取れない身勝手な言葉、そこに罪悪の感情が見て取れない様子。
ここまで話して。
途中玖里子は夕菜に確認を取ったりはしたが、話し終わったとき。
因みに確認の時も夕菜はどっちつかずの返答しかしていなかったが。
あまつさえ「私たちは愛し合っているはずなんですから、そんなこと問題じゃありません」とかのたまっていたが。
沙弓の目は、先程の怒りがほんの些細なものといえるぐらいに濁りきっていた。
感情が一つに集約すると良くも悪くも澄んで見えると思うが、今の彼女は怒り、憎しみ、怨嗟、様々な負の感情で彩られている。
故に濁っている、負に濁っている。
故に。
言葉が途切れるかどうかと言うと言うところで沙弓が玖里子の胸倉を掴み上げた。
腕一本で体格こそふた周りは違うが女性の腕力で吊り下げられる、唐突に。
相手の状態など考慮せず荒々しく。
玖里子は何とか振り解こうとするが、いかんせん腕力の桁が違う、体を揺するだけで徐々に首が絞まっていく。
だが沙弓はその様子に頓着しない。
その様子に夕菜もそれに反応して。
「何をしているんですか、離しなさい、玖里子さんの首が絞まっているじゃないですか、なんのつもりです」
沙弓の突然の強行に対して夕菜が反応し、沙弓に近寄り解こうとするが、吹き飛ばされる、沙弓のいきなり放った前蹴りが腹部を撃たれ、飛んだのだろう。
夕菜を見ることも無く唐突にまるで目の前に居る虫を踏みつけるような気軽さで蹴りつける。
まるで目障りな犬を蹴飛ばすように。
そして脇で腹を押さえて苦しむ夕菜に何の関心も示さず、激情に染まった沙弓が言葉を呪詛のような感情を込めて口を開く。
そう、それは怒りを言葉に具現させた本流、怒りの集大成。
怨嗟の調べ。
「和樹を婿に、何で、何で私の和樹を、あんた達みたいな女に渡す、あんた達みたいなのに穢される。
遺伝子、才能、子供、和樹は道具、私の和樹が道具、貴女達何を言っているか判ってる。
それを私が赦すと、そんなこと赦すと、和樹の何も知らないあんたが、和樹をまた傷つける、何も知らない癖に、和樹を穢す、あんた達何様なのよ、和樹は私の和樹なのよ、和樹は私のものよ!!!!」
それは狂える叫び、玖里子を宙吊りにして叫ぶ彼女の慟哭、和樹を犯す侵害する侮辱する全てを排除する叫び。
自分の半身を汚されることに抵抗する純なる叫び。
我が子を守ろうとする決意の慟哭。
感情に呼応して、その表情が憤怒に染まり、掴み上げている腕に力がこもり一層首を締め付ける。
そして和樹が口を開いたならば同様のことを言うだろう。
自分が沙弓のものであり、沙弓は自分のものだと、彼らは二人で一人なのだから二人で一つの自己を形成する欠落者。
二人は互いの侮辱を赦さない、和樹が動くと言うことは地獄ができると言うことだろうが。
当の和樹は。
その沙弓の激情に和樹がわずかの反応を見せていたが、その目にはやはり無表情無感情、只宙吊りにされている玖里子と壁の端で腹を押さえて蹲る夕菜を一瞥したのみ。
それ以後は沙弓に関心を戻したのみだ。
目の前の暴力現場もあまり彼の興味を誘うものではないようだ。
確かに勝敗の決した暴虐など面白いものではないだろうが。
沙弓が宙吊りにしたまま更に口を開く。
既に玖里子の足は緩慢にバタつかせ、なんとか両の腕で首の拘束を緩める程度。
窒息も近そうだ。
だがそんな苦しみの様子など意に介さない。
もしかしたらこのまま窒息死しても眉を顰める程度かもしれないが。
彼女から見れば、自分以上に和樹を侮辱した相手は万死に値するだろうから、死んだら死んだで喜悦の表情を浮かべるかもしれない。
「何で、どういう権利があって、和樹の遺伝子を、子供を、しかも勝手に婚姻を迫るの、あんた達そんなに偉いの、人の感情なんか無視して自分の思い通りいい身分ね。
それなら精子くらいなら上げるから、それで勝手に人工授精でもすればいいでしょ、それで子供は得られる、稀代の魔術師は手に入る、貴方たちにとってはそれで十分でしょう、この下郎」
侮蔑の言葉を吐く、人の権利を蹂躙するメス豚だと。
力のために子供を欲する畜生だと。
その言葉を沙弓に吐かせる、あまりに身勝手な物言いは彼女を怒らせた、それは憎悪と言う感情を超越する怨嗟。
そしてその言葉を聴いた玖里子は既に呼吸もままならない様子で。
「そんな・・・・・・つもりじゃ」
とかすれがすれの声で反論する。
もう幾許もすれば完全に首が閉まり、気管が塞がれるだろう。
そんな中で反論するも。
「じゃあどういつつもり、まさか種馬として迎えた人間を全身全霊で愛するとでも」
反論は一瞬で封じられる。
どだい出来るわけが無い、力のための婚姻でしかも今の和樹のような人格破綻者を愛するなど不可能だ。
結局何を言い募ろうと、子供ができればないがしろになるだろう。
だが良家の娘が私生児では稀代の魔術師といえど対面が悪かろう、人道云々以前にその手段は最後の手段だろうが。
玖里子とて望んできたわけが無いだろうが、それでもそれは沙弓の察することではない、それならば玖里子がそのような怒りを買う行動に出た風椿と言う家そのものの罰を受けると言うことだけだ。
だが、沙弓はその苦しむさまに興味を失ったのか。
既に顔面蒼白になった玖里子を一瞥して乱暴に放り投げ、壁にぶつかり玖里子は盛大に咳き込み、打ち付けられた痛みに体を振るわせる。
まるで人形を腹いせに壁に投げつけるように。
そんな様子に構わず、沙弓が口を開く、玖里子が苦しむさまなどなんでもないと言う風に。
彼女にとっては目障りな人形を投げつけただけなのかもしれないが。
そんな玖里子を蹴り付け、戸口のほうへ追いやる。
「さっさと出て行ってくれない、欲望に塗れた人間は居るだけ不快だわ、出て行かないんなら出て行ってもらうことになるけど」
その美貌を無表情にし、先程より更に険のある口調で告げる。
先程の行動から、出て行ってもらうと言う行動がどういう種類の行動か簡単に推測される。
物理的に排除されると言う意味など分かりやすすぎるくらいだ。
と言うかリアルに想像するのは怖すぎる。
が、腹部の鈍痛から立ち戻った夕菜が今度は噛み付く。
この子は本当に怖いもの知らずである。
「誰が出て行くんですか、和樹さんが貴女のものなわけないです、和樹さんとは子供の頃約束したんですから、私をお嫁さんにしてくれるって、大体貴方、和樹さんは何も言っていないのに暴力ばかり振るって、貴方にそんなこといわれる権利はありません」
沙弓を凄まじい眼光で睨みつけ、目の前に居るのが親の敵のように見据える。
「もう私に話すことはないわ、それに和樹は私のもの、そして私は和樹のもの、貴方はどうでもいいわこれ以上痛い目を見ないうちに消えなさい」
沙弓は相手にしない、まるでゴミのように見つめる目が夕菜の癇に障る。
「和樹さん、私です、夕菜です、覚えてないんですか、結婚の約束をしたじゃないですか、覚えていてくれてますよね、あんなにしっかり約束したんですから」
今度は愛しい相手に向けて言葉をかけるが、和樹はまるで聞こえないように、先程から激昂している沙弓を見るのみ視線さえ向けてはくれない。
これではせっかく自分と言う存在を示そうとした夕菜に立つ瀬が無い。
しかも自分が愛しいと相手も覚えていてくれているはずだと言う相手から完全に無視されている。
「和樹さん、何で無視するんですか、私です、夕菜です」
だが、反応しない、目もくれない。
和樹にとっては雑音に過ぎないから。
「うるさいわ、貴方、和樹にも相手にされていないようね」
沙弓がそんな様子を不愉快そうに口を開き、それが夕菜に突き刺さる。
だが、その言葉が引き金になる、この少女の少年に焦がれる思いが敵意に変わる。
自分の邪魔をする、自分が和樹に相手にされない現況として敵意の対象を定める、目の前に居る気に食わない女、杜崎沙弓。
夕菜の敵意が収束する。
彼女の思考の中では、既に自分が和樹に相手にされていないと言うのも沙弓のせいになっていることだろう。
実際のところは沙弓のお陰で和樹は必要最低限の社会性を保持しているのだが。
今現在和樹がこの学校に通学できていると言う点で彼女は沙弓に感謝すべきでさえあるのかもしれないのだが。
もし沙弓が居なければ彼女は和樹と何の接点も持てないであろうから。
「貴方も、和樹の精子を欲しがる獣でしょ、汚らわしいから消えなさい、和樹が穢れるわ」
沙弓の辛辣な言葉が続く。
毒を含んだ侮蔑の言葉。
だが今の夕菜にはそれが引き金になる、憎悪となった感情の引き金に。
自分のことを見てくれない少年に対する苛立ちが沙弓に対する憎悪へと切り替わる引き金に。
敵意が憎悪へ憎悪が攻撃性へ。
だが通用するだろうか、只の妄執と狂える愛この二者が。
「誰が獣ですか、和樹さんを変な風にしたのは貴方ですね、それに貴方は和樹さんとお話しする邪魔です、ザラマンダー」
唐突に怒りが爆発したのだろう、いきなり周囲の精霊を召喚し放つ攻撃性火焔魔術。
後先など考えず怒りのままに放つ幼子の我が侭のような攻撃、もしこの魔術が防御もできずに喰らうことになったらどうなるカなど考えては居まい。
だが、そんな攻撃を沙弓は何の魔術も展開せず、流れるような動作でスカートの中に手を差し込み引き抜いた。
その右手にあるのは銀のナイフ。
沙弓は迫り来る火炎に銀のナイフを振るう、なぎ払うように。
只普通、物理攻撃で魔術の攻撃は防げない、まず物理的な炎が切ることができないのと同じように。
だが沙弓のナイフはある意味物理的炎を超越する魔術の炎を断ち切った。
夕菜が驚愕の表情で次のウンディーネ、シルフなどの水や風の攻撃を放つが同様一振りで断ち切られる。
そして徐々に近づいてくる沙弓、シルフを断ち切ったところで凄まじい速度で突進する。
沙弓は自分に魔術を使った相手に容赦など持ち合わせていない、殺しなど慣れている、今さら一人二人殺したところでというのもあるし。
何より気に入らない。
和樹を侮辱し、過去を押し付けるこの女は気に食わない。
殺害動機には十分だ。
故に銀のナイフが夕菜に襲い掛かり一閃、反射的に夕菜が後退し頬を切り裂くに済んだが。
沙弓は軽く舌打ち、追撃に移る。
玖里子は未だ痛みで起き上がれず沙弓の凶行を眺めるのみ。
夕菜は暴虐を加えたのは自分にも拘らず本物の殺意を浴びせられ、頬を裂かれ硬直し回避は難しい。
本当の殺しなど経験の無い彼女は既に死が迫っていることにも気付かない。
沙弓は一度腕を折りたたんでジャブのようにナイフを突き出す、ナイフにとって唯一殺害に至る技法は突くこと。
薙ぐことでは致命傷には至り辛い。
故に殺意の乗った攻撃を容赦なく打ち出す。
だがその高速の攻撃は夕菜には届かなかった。
追撃に移る前に室内の様子を察知した人物、沙弓と和樹を知る人物、この騒動を予見し未然に防ごうとした人物。
沙弓と和樹の理解者。
神城凛。
彼女は愛用の刀を抜き放ち沙弓のナイフの軌道を逸らしたのだ、強引に夕菜と沙弓の間に割ってはいることによって。
凛は刀を下ろし沙弓を見て一言口にする。
「沙弓姉様、少し落ち着いてください、殺す気ですか?」
淡々とした声で、ほんの僅かに非難するような口調で凛が告げる。
だが沙弓はさも不愉快そうに。
「殺せなかったじゃないの、和樹を侮辱したのよ、何で止めるの」
それはもう残念そうに言ってのけた。
後書き。
凛ちゃん登場です、凛ちゃんはこっち側と言うことで、夕菜と玖里子は沙弓にかなりやられています。
沙弓は殆ど和樹第一主義というかそれすら超越した狂愛者です、凛の立場としては未定なのですが。
なおこのSSはかなり本編に準拠しません、色々な小説のキャラが出ますが基本的にはシリアス、ダーク、バイオレンスです。
沙弓の設定は。
ある名家の子供で凛ともども幼少から和樹と付き合いがある、和樹との関連は後日ですが。
得意武術は素手とナイフ。
後夕菜の魔術を切った能力は“空の境界”両儀式の直死の魔眼ですね、夕菜の精霊の死を見て精霊を殺したんで。
和樹の能力は秘密。
またこれ以後出てくるキャラの候補は。
空の境界より蒼崎橙子、もしかしたら両義式、黒桐幹也。
ぐるぐる渦巻き名探偵よりカタリ屋+榎本。
ファントム オブ インフェルノよりドライ。
EMEより巽蒼之丞、乾紅太郎、巽葵
他。
全員出るとは保障いたしません、現在有力とか絶対出すとか意気込んでいるのは蒼崎橙子とカタリ屋ぐらいのものでしょうか。
因みに沙弓の能力は書いた数日前に空の境界を読んで嵌ったと言うのが根拠です。
ではレス返しです。
>九尾様
現時点で結構悲惨です、和樹は無視するは沙弓には蹴りつけられるは、危うく殺しかけられる。
展開は予想通り
殺される前に誰かに止められると言うパターンですね。
なお今回沙弓和樹のコンビに物理的に匹敵するキャラはかなり少ないです。
>D、様
言い得て妙ですね、感想いただき作者が納得してしまいました。この二人ぶっ壊れていますし。
凛ちゃんはこの最後のところに出てくるので本格的には次回から。
血まみれになっているのも近いうちではないでしょうか。
>MAGIふぁ様
カミ―ユって何ですか(汗)
>ほんだら参世様
細かい設定は追々小出しと言うことで。
凛は扱いが違うのが今回で出ましたね、こっち側です、作者は凛至上主義です、酷い目にはあわせません。
沙弓の毒こんなもんでは少しぬるいですかね。
>ふじふじ様
どんどん恍惚になってください。今回エロはないんですけどね。
>nacky様
魔法回数制限は稀代のレベルです、沙弓ともども。
二人は痛い目にあっていますが、凛ちゃんは回避と言うことで、B組の連中の扱いを思案中。