<SideTADAO>
「あ〜も〜、面倒くせぇな〜…」
ハタチ少し前から覚えたタバコに慣れた手付きで火を付けながら、書類の空欄に書き込む。
美神さんに正社員待遇で再契約してもらってから、この手のモノもやらせてくれるようになったが、正直面倒だ。キョービ、自動作成できるソフトくらいはあるんだろうが、生憎と提出先は協会。お役所仕事ってのは何故かどこもアナログな書類を好む。
ゆえにこうして面倒でも手書きで一枚一枚書き込まないといけないわけで…
「……ふぅ〜……」
そんなグチと不満を煙に込めて、吐き出した。
<SideTAMAMO>
「……ふぅ〜……」
もういい加減板に付いてしまった事務仕事をしていたら、私の隣で朝から時々うなりつつ、何やら書類に書き込んでいた男がタバコを咥えていた。
自分が吸っている時は気にならないんだけど、そうでない時は気に入らないのよね。誰かが傍で吸ってるのって。
その事は普段から言ってるし、多分注意したら「わりぃわりぃ」とか言ってすぐ消してくれるんでしょうけど、それでもニオイは残るし、何となく気まずい。
「私にも、一本もらえる?」
…つまり、自分も吸っちゃえば問題無いのよね。
<SideTADAO>
「私にも、一本もらえる?」
ちょっと驚いた。コイツが吸うのは知ってたが、ガラナとかちょっと特殊な味のやつを、それもたまに吸ってるのを見かけるだけだったし、誰かに貰いタバコをしてるのは何となくコイツのイメージとは違う。
「…いいけど、マイルドセブンだぞ?俺の」
「いいわよ、別に」
「…そうか?ほれ」
……まぁ、よくよく考えるとコイツ未成年のような気もしたが、今更だし。そもそも人間じゃないし。何より最近…でもないけど時々ドキッとするほど色っぽいんだよな…ふとした表情とか、仕草とかさ…
「…ついでに火も、貰うわよ?」
ライターを取ろうとポケットに手を突っ込んだ隙に、タマモは顔をグッと近付けて、俺の咥えたタバコで火を付けた。
タバコ同士がくっ付き、一瞬タマモが俺の目を意味ありげな目をして覗き込む。
「!?お…」
「アリガト」
ちょっと動揺して何かを言おうとしたが、その前にタマモはスッと引いてしまった。
チクショウ。何だかしてやられた気分だ。
てか、そもそもお前、いつもは狐火使ってるだろーが。負け惜しみっぽいから口にはせんが。
…チクショウ。
<SideTAMAMO>
「…ついでに火も、貰うわよ?」
うん。私に無駄な喫煙させよーってんだから、この位のイタズラはいーわよね?
ごく自然に、ヨコシマに顔を寄せてタバコから直接火を貰う。これドラマか何かで見て、いっぺんやってみたかったのよねー。
タバコ同士をくっ付けて、吸いながら前を見れば、すぐ近くにコイツの顔があった。最近ちょっとは見られるようになって来たかな?そう思って試しに目の奥を覗き込んで、すぐにやめた。
こいつが昔のまま、まっすぐで解り易いヤツのままってアッサリ解ったからだ。
「!?お…」
「アリガト」
何となく気分が引いたんで、顔を離して仕事に戻る。置き去りにされた子供みたいなアイツの顔が、少し愉快。
フフ。もー少し育ってからでないと、私の相手は務まらないのよ?
でも、まぁ、変わって欲しくないような気もするけどね…