病んだ心を持つ少年
其処は地獄だった、それ以外の形容の言葉が浮かばない場所。
周囲に血が溜まり、手足が転がり、断末魔の表情を浮かべた人間の頭が転がる場所を他になんと形容しろと言うのか。
血の臭いが充満し、血が池を作り、人であったものが周囲に転がる環境を。
その地獄で動きがある。
幾十の人間のなれの果てが転がる旧家の邸宅の中に上がる声。
地獄にはあまりに似つかわしくない声。
それは女の喘ぎ声、男の荒い息遣い、艶やかな水音、まさしく男女の性交渉の音。
喜びに満ちた女の声、そして肉が肉を打ち付ける音。
この屍山血河の中であまりに場違いであまりに相応しい。
血に塗れた二人の男女が交わっていた。
男は少年といえる年齢で、畳に仰向けになり足を開いた背が高く体は引き締まった美貌の少女を組み伏すように覆い被さっている。
少女はその顔を恍惚に歪め、その顔に付着した血が化粧となり狂気の美しさを引き出し、突き入れられる少年の肉棒が打ちつけられるたびに体を震わせ、嬌声を上げる。
対する少年は無表情にそれでも興奮はしているのか少女を蹂躙するように激しく突き入れる。
「和樹、和樹、もっともっと突いて、私を犯して、くふっ、ああはぁつ・・・・・・・あんっ、和樹、もっと・・・・・・・」
少女が声を上げる。
少女がわずかに体を起こし少年の背に腕を回し抱きしめ自分の豊満な乳房に押し付けるように抱きつき少年の唇を貪るように合わせる、自ら腰を振りながら。
その喜色に満ちた表情がこの場の雰囲気と相まって狂気じみてさえある。
そしてそんな狂気のなか徐々に少女は高まり更に艶やかな声をあげより乱れる、より自分を蹂躙する男の名を呼び男の寵愛を懇願する。
血の臭いのたちこめる場所で情事にふける二人。
ドレぐらいの長さをそこで費やしているのか。
既に少女の裸身には血の他に少年が吐き出したであろう精液がいたるところにぶちまけられ、その体を彩っている。
それが彼女を更に淫らに見せ、そしてその異常さを際立たせる。
そして幾許かが経ち少年がいっそう激しく腰を振るわすと少女が感極まった声を挙げ更にきつく少年を抱きしめる。
そして少年が退いた後には少女の股間には白濁した液が彼女の陰唇から零れだしていた、それが彼女の体に降りかけられた精液と相まって芸術のような厭らしさをかもし出す。
そして暫くの時を置いて。
その少女が淫らな表情で少年に笑いかける、それは慈母のように優しげで淫魔の用のとこを虜にする女の笑み。
そして男を必死で繋ぎ止めようとする少女の懇願が入り混じった表情。
あまりにこの凄惨な背景に似合わないそれで居て調和した狂気を併せ持つ表情。
葵学園。
全国の優秀な魔術師を集めそれを教育することを目的としたエリート校。
の筈なんだが、どうもここって本当にエリートなのって常々疑問に思う、どうでもいいことではあるが。
その中の一つの教室、別名葵学園刑務所などの不名誉な二つ名を頂いている二年B組の教室。
そこにぼんやりと言うか完全な無表情で自分の席に座り込んでいる少年、式森和樹。
只窓際の席から外を眺めているように見えるが、あまりの無表情のために本当に見ているのかどうかは定かではない。
昼休みだと言うのに、弁当も出さず、さりとて食堂に行くわけでもない、只ぼんやりと窓の外に視線を向けるだけ。
そんな無表情な少年に近づく人物、手に二つの包みを提げて和樹に近づいていく。
長身で、スタイル抜群、顔立ちも絶世の美女といっていいほどに整っている、腰まであるロングヘアーも艶があり黒い絹のように彼女を彩っており、今はいつものクールな表情であるが微妙に喜色に満ちている気がする。
和樹の前に立ち二つ持った包みのうち一つを自分の前にもう一つを和樹の前に置き、和樹に微笑みかけ口を開く。
「和樹、お昼食べましょう、ほらどうせ食べていないんでしょう」
少女、杜崎沙弓が声を掛けても無表情で反応の意思さえ示さない少年、式森和樹に向けて暖かな調子の声を掛ける。
その声は恋人のような響きを持つが、少年からはそんな感情が微塵も感じられない。
沙弓が弁当の包みを二人分解き、和木の前に箸を用意して「ほらっ」といって頬を叩いてやるまでそこに何が起こっているのかを察知でもしていなかったように無関心だった。
叩かれて少年は初めて沙弓の顔を見て、目の前に用意された弁当を眺め、箸を取り食事を始める。
緩慢な動作でゆっくり、そこに美味い不味いと言うような感情などなさそうに只機械的に口に運んでいる。
それは食事と言う人間の楽しみに関わる行為ではなく、栄養摂取と言う生存に必要な機械的作業を行うような情景を連想させる。
そんな和樹の様子を見て沙弓はわずかに悲しそうに顔をゆがめ自分の食事に取り掛かる、男子と女子が向かい合って食べているのにとても冷たい雰囲気の食事を。
それでも沙弓は自分の弁当の出来を和樹に尋ねたり、何気ない会話を交えようと努力しているように見える。
その言葉を発して、何の返答も無いことに一言口にするたびに悲しそうに顔を歪め、それでも時たま口を開く。
彼女が食事に入って何度目かの会話、会話といっても少女が一方的に話しかけるだけなのだが。
「美味しい?」
と少年に尋ねたとき、少年が。
「美味しい、ありがとう」
とだけ蚊の鳴くような声で少年が呟いた、相変わらずの無表情で、緩慢な動作で食事を続けながら、ポツリち零す様に。
それでも、少女にとっては嬉しかったのだろう、先程までの暗い様子を、暗いながら何とか明るく、話し掛けようと努力していた少女の表情に喜色が混じる。
些細な一言のはずなのに、それだけで癒されたような表情で少女は少年を見やる。
少年は既にいつもどおりの様子で緩慢に食事を続けているのみだったけど。
少女は、先程よりは嬉しそうにやはりまた時たま言葉を掛け続けながら食事を再開した。
この二人のいつもどおりの食事風景。
只少年が口を開いたと言うことを除けばいつも通りだった。
本当にこの少年は口を開かないのだから。
そして表情を変えない、まるで人形のように。
只、少年が、ほんのわずかに口を広げる相手、それが目の前の少女。
天才と呼ばれた少年が唯一、ほんのわずかでも心に親友することを赦す少女“沙弓”。
少年と言う“損傷物”を庇護し、渇望する少女“沙弓”、少年を何より愛して、狂えるほど愛する少女。
少年にそれが届いているのか、そもそも少年に愛と言う形の無いあやふやな感情が理解されているのかそれさえわからない少女は。
いっそう少年を求める、狂えるほどに。
少年を外敵より守り、雑音から遮り、自身の子宮にて守る幼子のように庇護する少女。
両者はともに狂っている、方向性こそ違えど二人は狂人、どこかのパーツが壊れた欠陥品。
この二人の下校時もともに行動する、やはり少女が話しかけ、少年は無表情に歩を進める、この二人がこの学校に入学してから続けられた毎日の風景。
そこに違和感は無い、違和感があるはずなのに、周囲が違和感と感じないほどにお決まりだったからだ。
校内でも有数の美女が何の取り柄も無い根暗と思われている人間に世話を焼き、少年はそれに何の反応も示さない。
入学当初は少年に向けて嫉妬やそれに類する感情が向けられたろう。
無口、無表情、そして体格もいいほうではない、良くて中肉中背顔立ちも端正な部類には入るだろうが平凡の域を出ない、くだらない人間の悪感情をむけられる条件としては揃いすぎていた。
だが確かにその手の感情が向けられ物理的や精神的な嫌がらせが無かったわけではなかったが少女によって物理的に黙らされた、それはもう苛烈に、少年の悪口を一口でも口にすれば。
そういう事態が続いた後この二人は基本的には孤立したが、この二人に何か言うものは居なくなった、この二人に付き合っているのは、この二人の事情を知るものか、そのような些細なこととして関心を払わず二人に興味を向ける変人ぐらいのものだ。
この違和感の象徴たる二人組みはその違和感さえが日常になるくらい二人で行動するのが常だった。
「和樹、今日は何がいい、和樹の好きな肉じゃが、それともお魚」
夕食の献立だろうか、少女が少年に尋ねるが、少年にはやはり返答しない、それでも微妙に顔を向けたのだから反応はしているようだが。
そんな、ある意味歪な会話を続けて帰路についていた。
ここで、この二人の通う学校は基本的に全寮制、つまりは男子寮、女子寮に別れて生活している。
基本的には異性は他の寮には入ることさえ手続きが要るほどで、基本的に名門校であるので男女間の問題にはうるさい校風を現在においても維持している学校だ。
それでもこの二人は同じ寮に入り込み、そして同じ寮で生活している。
沙弓が男子寮で生活しているのだ、これは特異なことだが、この少年の事情を鑑みれば学校側としては許可せざるを得ず、この二人は絶大な魔術師でもあった、放り出す損失とを天秤にかければやはり許可するしかなかった。
流石に同室は拙いといって少女の部屋は管理人(女性)の部屋の近くであり少年の部屋とは離れた位置にあるが、少女と少年が殆どともに居るのであまり意味が無い。
その寮、彩雲寮に帰宅した二人は玄関口でわかれそれぞれの自室に向かう。
それでも少女は着替えのために自室に戻り、少年は自室に向かう。
5分もすれば少女は少年の部屋に向かいやはり甲斐甲斐しく世話を焼くのだろうが、既に互いに知らぬことは無いとは言え少女としては少年に着替えを見せるのは羞恥の感情がはかぬはずが無いのだから致し方ない。
この5分がすぐさま少女に怒りを与える五分になるのだろうが。
少年は自室、二階の端に位置する自分の部屋に向けて歩を進めるが、その相変わらずの無表情に僅かに何らかの変化があった。
些細な変化で見つけるのが難しい変化ではあったがほんの僅か警戒と不快の色がその表情に宿る、自室の前に立ち止まり僅かに逡巡したが、いつも通りの無表情に立ち戻り、自室のドアを開け中に入る。
中にあった、少年の感じた違和感、それがドアを開けた目の前に居た、少女といえばいいのだろう、確かに美少女、愛らしい形の顔に華奢な体、生命力に満ちた瞳。
少年の何の感情も宿らず何の意思も垣間見せない死人の瞳に比べれば何と人間の目をしていることか。
その少女が、少年の前に座り、口を開く。
「お帰りなさいませ、和樹さん」
それはもう嬉しそうに、何の疑問もその表情には見て取れず、まるで当たり前のようにその言葉を吐き出している。
だが、少年はその少女を一瞥だにせず、自室に入り、上着を脱ぎ椅子にかけ、鞄を放り捨てる。
そのまま本棚に向かい、タイトルが英語で書かれた本を取り出すと壁を背にページを捲る、まるで少女の存在など知らないかのように。
完全に無視していた、自分の部屋に誰かが勝手に入ろうとそれを不快に思っていないかのように。
只黙々と目が文字を追う作業に集中している、目の前に居る少女がまるで置物であるかのように。
少女としては、困り果てるだろう、何らかのリアクションを期待していたほうとしては全くのノーリアクション。
だが、この少女、宮間夕菜はこの少年に気分を害した様子は無くわずかにこびるような調子で言葉を紡ぐ。
「和樹さん、私宮間夕菜といいます、今日から葵学園に転校してきました」
だが少年は意に介さない、聞こえているのかどうかも怪しい様子で目の前の本に意識の大半を割いているようだ。
だが少女は続ける、わずかにそんな少年の態度に戸惑った様子で。
「その、和樹さん、私今日からここに住むように言われて」
だがやはり少年は反応しないまるで雑音を聞き流すように目の前に誰も居ないように反応を返さない。
これには幾分少女も気分を害したのかもしれない。
口調がきつくなり始める。
「和樹さん、何で聞いてくれないんですか、顔をこっちに向けてください」
だが、意に介さない、更に少女が激昂する。
「和樹さん、私のこと覚えていないんですか、何で話してくれないんです、何で無視するんですか」
だが、反応しない、怒りに立ち上がり和樹を見下ろす少女にも少年は反応の意思を示さない。
そこにトントンと軽いリズムでドアがノックされ、住人の断りなしに開かれる。
そこに居るのは、三年生の襟章をつけた美女、学校の生徒ならば誰でも知っている有名人風椿玖里子。
不敵な笑顔を讃えて、大胆に他人のしかも男性の部屋に入り込むが少女の剣幕にわずかに逡巡するような表情をするも。
少年に向けて「あんたが式森和樹?」
と、問う、だが少年は本を読むことを止めようとはしない、本から僅かも視線を動かさず、新たな人物にも興味を抱かない。
そんな様子に玖里子は戸惑い、夕菜は新たな登場人物のために怒りを更に燃焼させる。
「玖里子さん、何でここに来るんですか!!」
詰問調に夕菜が玖里子にキツメの口調で問う、彼女にしてみれば玖里この目的など見え透いているがそれが彼女には受け入れがたい。
「夕菜ちゃんと一緒よ、あんただってそれが目的で来たんだから私に文句言う権利は無いと思うんだけど」
と、少女の怒りなど何処吹く風と受け流す。
「私は違います、私は和樹さんと結婚の約束をしています、同じにしないでください」
とそんな玖里子の態度にさらに不機嫌になるが、玖里子はそんなもの意に介さず、和樹に近寄り。
「ネェ、和樹、お姉さんといいことしま・・・・・・・・・・・・」
少年の肩に手を掛けて、少女が口を開くがその言葉が途中でとまる、肩に触れたのに反応したのか和樹が玖里子を持ち目その目はガランドウだった。
何も見ていないのだ、自分が触れた手も、羽虫が触れた程度としか思っていない目が自分を射抜いているのを感じた。
それはたまらなく不快だろう、自分と言う存在が完全に無視されて、その変異ある石ころと同じ価値としてしか見ていない目で見られたのだから。
瞬間息を呑んだ、深いから来る怒りよりも、こんな目をする人間に玖里子は覚えがあったから、だから恐怖した、なんでもない平凡な少年だったと言う存在から畏怖の対象となった。
「ちょっと、あんた、なんで・・・・・・・・・」
最後まで口にする前に。
いつの間にか部屋に入ってきた人間に引き剥がされた、この部屋にすぐ来ることを予定していた人物によって。
いまや私服姿となった沙弓が、怒りを目に湛えて凄い力だ和樹の肩に触れていた玖里子の体を引き剥がしたのだ。
大切なものに不用意に触れようとした悪ガキから大切なものと引き離すように。
乱暴に引き剥がされた玖里子は投げ捨てるように畳の上に放り出され、そんなことには意も介さず沙弓は、和樹に近づき。
「何があったの」
「お帰り、沙弓」
と少年が質問には答えず、迎える言葉を囀る。
これは最初の質問には答えを持たず、返答は珍しくこの煩わしい存在を話してくれた感謝の意味で声をだしたと言うところだろう。
少年が、迎えの言葉を出すのは珍しいのだから“お帰り”と言う類の他者を招く言葉ではなく受け入れる言葉は特に。
祖の言葉に僅かに沙弓の頬が歓喜に緩むが、自分達の共有空間に入り込んだ異物には敵意を向けるのを忘れない。
ここに入ると言うことだけで、少年はともかく少女は不快なのだから。
だから少女は、この部屋に居る二人の異物に敵意を向け毒を吐く。
後書き
saraでせす、他のサイトで連載しているのが総勢行き詰ったと言うかスランプに入りましたので気分転換のつもりで書いたものです。
今までギャグ、ハーレム作家のような感じでしたが、今度はダーク、バイオレンス、それにカオティックラブでしょうかねぇ、和樹×沙弓もので基本はこの二人です。
冒頭の殺人現場でのセックスはこの二人ですね、その辺はもし続いたら書くと言うことで。
一つだけ言うと、この小説では悪役はかなり悲惨ですし、夕菜は作者至上最高に悲惨になる予定です(予定ですけどね)。